ホワイトデー、過ぎてしまった。
ホワイトデー、それはバレンタインにてチョコを貰った男性が女性にキャンディやマシュマロ、クッキーなどをお返しをしたり、場合よってはカップルができることもあれば悲しい現実が叩きつけられる日でもある。そんな日に漆原半蔵はボーッとしながらも床をモップで拭いていた。そんな様子を見たリューは話しかける。
「漆原さん、少しいいですか?」
「別にいいけど」
「今日はホワイトデーですが、バレンタインデーで何人の女性からチョコを貰いましたか?」
場合によっては反感をかってしまう質問だが戸惑いながらも漆原は指で数える。数えるとは言っても名前も知らない犬人とシル、そしてレフィーヤの3人だけのため手は片手で済んだ。
「……えっと、確か3人だよ」
「もちろんだと思いますが、ちゃんとお返しを買っていますか?」
「え、なんで?」
お返しをすることに疑問を感じて、ふてぶてしい態度で答える漆原にリューは軽蔑な目線を送る。そのリューの眼力によって漆原は温度が2、3度、低く感じる。
「そ、そんな睨まないでよ」
「買い物に行きましょうか?」
「は?なんで?」
「お返しを買うためです、まさかとは思いますがシルからチョコを貰っておいてお返しをしないつもりですか?」
「リューはシルのあの手作りチョコを食べてないからそんなこと言えるんだよ!チョコを食べて初めて木炭を食べてる気分なったんだけど!?」
バレンタインでシルから貰ったチョコを食べた漆原はすぐさまオレンジジュースで流し込んだのだ。それほど苦く、硬かったのである。そんな漆原とリューの言い争いが続きそうになったが意外な人物によって中断することになる。
「ごめんくださーい!」
「あれ、ベルじゃん。どうしたの?」
「クラネルさん、おはようございます」
「あ、漆原さん、リューさん。おはようございます」
来客してきたのはリュー曰く、シルの将来の伴侶の予定でもあるベル・クラネルであった。漆原はシルの伴侶という件に関して将来、いつか食中毒にならないかで少しだけ心配している。そんな心配されてるとも知らないベルは2つの包まれた箱を持っていた。
「あの、シルさんはいますか?」
「ああ、シルならベルの後ろにいるよ」
「え!?」
漆原の答えにベルは後ろへと振り向くとそこにはベルの肩を叩こうとしていたシルの姿があった。ベルを驚かして反応を楽しもうとしていたのだろう。だがそんなイタズラは漆原によって失敗する。シルは口を膨らませて漆原に対して怒る。
「もう、なんでバラすんですか!?せっかく驚かそうとしてたのに!」
「いや、別に聞かれたから」
「まったく、それでベルさんどうしたんですか?」
「それでは、漆原さん、私たちは行きましょう」
「ま、待ってください!」
リューはシルとベルを2人にするために漆原を連れて、この場を去ろうとするがベルによって止められる。ベルは持っていた包まれた箱をシルとリューに渡す。シルは喜び、リューはいつもより少しだけ表情が柔らかくなる。
「シルさん、リューさん、これバレンタインのお返しです!」
「わぁ!嬉しいです、ベルさん」
「クラネルさん、ありがとうございます……しかしシルへのお返しは指輪でも良かったのですが」
「もう!リューったら何言ってるの!?」
「あれ?僕、リューから貰ってないけど?」
ベルは突然の指輪という単語に驚いて、赤面する。
そしてリューは何かを思い出したように漆原を見た後、ベルの方を向き質問する。
「ベルさん、バレンタインでチョコを貰ったのに返さない男性をどう思いますか?」
「えっと、それはもちろん、返してあげた方がいいと思います」
「貴重な意見、ありがとうございます」
リューはまたもやジーッと漆原を見つめる。漆原は気まずそうに目をそらす。ベルは「それじゃあ、僕は行きますね」と言い残すと豊饒の女主人から出て行く。漆原はため息をつきながら黙り込む。そんな様子を見てリューは今ならと思ったのか再度、質問する。
「……漆原さん、買い物行きましょうか?」
「………わかったよ!行けばいいんだろ!?」
「それでは行きましょう」
お店の外へと向かっていくリューに漆原はダルそうにしながらもついて行く。そんな2人の様子を見てシルは嬉しそうに笑った。
「2人とも仲良くなって良かった〜」
「そうかニャ?どうせリューのお節介なだけだニャ」
★★★
漆原はお店にあるキャンディやマシュマロ、クッキーなどを見つめながら、ここに連れてきたリューに尋ねる。
「それで?お返しってどうすればいいのさ?」
「キャンディやクッキー、マシュマロといった菓子系統のものを渡すのが一般的らしいです」
「ふ〜ん。でも確か、1つ1つに意味があった気がするけど?」
このホワイトデーのお返しによく使われているマシュマロ、クッキー、キャンディにはそれぞれ意味がある。
マシュマロはあなたが嫌いです。
クッキーは友達でいてください。
キャンディはあなたが好きです。
などといった意味があることはもちろんだが漆原もリューも知らない。そう知らないのだ。もしこれで漆原がレフィーヤにどれかをお返しした場合……
◯◯◯
【クッキーの場合】
「お、お返しありがとうございます。う、嬉しいです。開けてもいいですか?」
「別にいいよ」
「これは……クッキーですね。ありがとうございます!(意味は確か『友達』でしたよね?ならまだ可能性はありますよね?)」
可能性を感じ取ったレフィーヤは豊饒の女主人に今までより、常連になる。1番、平和な可能性である。
【マシュマロの場合】
「お、お返しありがとうございます。う、嬉しいです!開けてもいいですか?」
「いいよ」
「マシュマロですね。…………えっと、確かお返しのマシュマロの意味って……そんなぁ!?」
勘違いをしたレフィーヤは黄昏の館に引き篭もり、なんやかんやあってニートになった。まるで、日本にいた頃の漆原のようになったのだ。1番、悲しい可能性である。
【キャンディ】
「お、お返しありがとうございます。う、嬉しいです!開けてもいいですか?」
「いいよ」
「え!?キャ、キャンディ!?ってことは!?」
「急にどうしたのさ?」
「だ、大丈夫です!私はもう受け入れるつもりです!こ、これからよろしくお願いしましゅ!?」
勘違いしたレフィーヤはこれまで以上に積極的になり、なんやかんやあって漆原とレフィーヤは結婚することになった。そして周囲を驚かすことになる。レフィーヤが子供を授かると、漆原は真面目な男になる。1番、見てみたい可能性ではあるが、たが真面目な漆原はあまり見たくない。
◯◯◯
「……漆原さん、結婚するなら事前に伝えなさい」
「は?急に何?」
「いえ、なんでもありません」
「まぁ、いいけどさ………これでいいか」
急に意味のわからないことを言うリューに漆原はため息をつきながらも同じ銘柄のものを3つ取る。すると横で何かを見つめているリューに疑問を抱きながら質問する。
「リューも何か買うの?」
「えぇ、ちょっと」
二人は会計を済ますとお店から出る。するとリューは先ほど買ったクッキーを
漆原に渡す。漆原の頭には?マークが浮かぶ。
「何これ?」
「このお返しは来年のホワイトデーに2つ、返してください」
漆原はバレンタインでリューからチョコを貰っていない。つまりこれは遅れたバレンタインということだ。それに来年のホワイトデーで2つ返せということは、次のバレンタインではチョコを渡してくれるという意味だった。
戸惑っている漆原を無視してリューは「早くお返しに行きなさい」と言うと去っていった。
★★★
レフィーヤ・ウィリディスは豊饒の女主人の前をウロウロしていた。ちょっと様子を覗き込んで見ていると思えば、すぐに引き返す。なぜそんなことになっているかというと、今日はホワイトデーであり、もし漆原からバレンタインのお返しを渡されたときの心の準備をしていたのだ。
「だ、大丈夫……私なら大丈夫です。もしお返しされなくてもだ、大丈夫……そもそも直接、渡せなかったですし」
レフィーヤはバレンタインにチョコを渡そうと豊饒の女主人に乗り込むまで良かったのだが残念ながら直接は渡せなかったのだ。正確に言えば、レフィーヤが豊饒の女主人にチョコを忘れてしまったのだ。チョコには『漆原へ』と書かれたメッセージが挟まれており、そのチョコを漆原が見つけて、どうせ自分のだからいっかというような考えで食べたのである。後日、その話を聞いたレフィーヤはメンタルが削れた。
「あれ、レフィーヤ?店に入らないの?」
「へ?」
後ろから誰かの声が聞こえる。その声はレフィーヤが愛してやまない一流ニートの漆原であった。レフィーヤは慌てるが、漆原は「そうだ」と呟くと持っていた袋からホワイトチョコレートの箱を取り出して、レフィーヤに渡す。
「あ、あのこれ」
「バレンタインのお返しだけど?もしかしていらなかった?」
「い、いえ!?そ、そんなことありません!う、嬉しいです!」
「それじゃあ、店に入る?」
「は、はい」
この後、ミア母さんが気を使ってくれてレフィーヤと漆原は一緒に食事を楽しんだ。ちなみに名前も知らない犬人とシルには後日、お返ししたのであった。
漆原くんが最初はお返ししようと考えてなかったのでリューさんに頑張ってもらいました。
お読みいただきありがとうございました。