○漆原半蔵
豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○シル・フローヴァ
豊穣の女主人で働いている店員
○リュー・リオン
豊穣の女主人で働いている店員
元冒険者
○ミア・グランド
豊穣の女主人のおかみ
○ベル・クラネル
駆け出しの冒険者
アイズに惚れている
○アイズ・ヴァレンシュタイン
ロキファミリアの団員
○レフィーヤ・ウィリディス
ロキファミリアの団員
○ティオナ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○ティオネ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
「う、漆原さん!き、昨日はご迷惑をおかけしました。本当にすいませんでした!」
漆原は困惑していた。昨日突然お店から逃げたベルが目を合わした途端、漆原に対して頭を下げているからだ。
「なんでもわざわざ僕のことを気にして探しにきてくださったとシルさんから聞きました!」
「いや、全然僕は君のことなんて気にしてなかったけど?」
漆原がそうベルに冷たく返すと頭がお盆のようなもので叩かれる。漆原が振り返るとそこにはお盆を持ったエルフ、リューがいた。
「ちょっと、何するのさ?」
「漆原さん……あなたはいつも思っていることを口に出しすぎだ。そんなことではいつか仲間を失ってしまう」
その時、漆原が見たリューの目は寂しくまるで本当に仲間を失ったことがあるような人間の目をしていた。そんな目を見た漆原は素直に「気をつけまーす」と返す。
「クラネルさん、漆原さんが本当に」
「いえ!僕は全然、気にしてませんから。それじゃあ僕はもう行きますね!」
ベルはリューの謝罪を遮るように話した後、お店から出ていく。漆原は謝罪を遮られたリューを見ながらフッと鼻で笑うと持っていたモップで床を拭き始める。そんな様子を見てリューはまたもやお盆で先ほどより倍近くの力で叩くのであった。
★★★
怪物祭、ギルドが主催しておりガネーシャファミリアが全面協力で行われる年に一度の祭りである。主にダンジョンから連れ出した怪物を調教師が調教する見世物が行われる。そんなお祭りに漆原はシルに無理やり連れて来させられていた。
「ねぇ、シル。やっぱり帰っていい?」
「せっかくの休みなんですから、たまには外に出ましょうよ。」
「そうだよ!せっかくの休みだからこそ、家で休みたかったんだよ!」
「そう言ってこの前の休みの時も約束してたのに部屋から出なかったじゃないですか!」
2人が言い争いをしていると、後ろからドスドスという人間とは思えないほどの大きな足音が聞こえる。漆原とシルが振り返るとそこには身長が3メートルぐらいはあるんじゃないかと思われるオークがこちらをジッと見つめている。
「え?」
「あ、オークだ」
シルはあまりの驚きに声が出ずに固まっている一方、漆原は魔王城にもこんなのいたなぁというなんとも反対的な反応である。オークは持っていた棍棒をゆっくりと上に掲げ思い切り振り下ろしたその瞬間、棍棒は1人の冒険者に受け止められる。そしてその冒険者はオークを持っていた剣で真っ二つへと斬り殺す。美しい金髪、まるで人形のような顔立ち。この冒険者はアイズ・ヴァレンシュタインであった。それを見たシルはゆっくりと床に座り込む。
「び、ビックリしましね、半蔵さん。」
「あ、パンツ見えた」
「は、半蔵さん!?そういうのは見ても言わないんですよ!?」
「そんなことより、早く逃げようよ。モンスターがたくさんいるみたいだし」
「そ、それなんですが半蔵さん。あ、あの、えっと」
何か煮え切らないシルの言葉に漆原は?マークを頭に浮かべる。しかしすぐに理由がわかると漆原はニヤニヤしながら
「まさかシル、今ので腰抜けちゃったの?」
「うぅ〜。じ、実は……」
「…はぁ、仕方ないね」
漆原はため息をつきながら指を鳴らすとシルの身体が宙に浮く。シルは驚くが漆原はそのままシルを運ぶ。途中で地震がした気がするが関係ないと思い、漆原は気にせずに進む。
★★★
「あ、あの半蔵さん!」
「何?」
「あ、あれ」
漆原はシルが指をさした方向へと身体を向けるとそこには2人のアマゾネスと1人のエルフがモンスターと戦っている様子であった。そのモンスターは沢山の触手が地面から生えており、頭部にはまるで花のような花びらが何枚もついている。中央には牙の並んだ巨大な口が存在しており、大量の粘液が口から地面に滴らせている。生々しいほど気色の悪い口腔の奥には、陽光を反射させる魔石の光。その見た目を一言で言うならば食人花のモンスターだろう。
「あー、あれ完全に苦戦してるね。」
「漆原さん。助けに行ったらどうですか?」
「は?僕が?なんで?」
「だって漆原さんって相当、お強いですよね?」
「………そうだとしても僕があの3人を助ける理由がないよ。」
「いえ、理由はありますよ。」
「…その理由って?」
「あの3人はロキファミリアであり、私たちが働いている豊穣の女主人の常連さんです。あの3人がいなくなることで3人も常連さんがいなくなってしまうんです!だったら助けるしかないですよね?」
「……でもシルは大丈夫なの?腰抜けてるんでしょ」
「いいから、その魔法?を解いてください!」
「わかったよ」
漆原は先ほどまで魔力でシルを浮かせていたがその魔力を止める。するとシルはゆっくりと地面に立つ。するとすぐさまシルは胸を張って大丈夫ですと言わんばかりに漆原に向かってポーズをとる、しかし漆原は気づく。シルの足が少しだけ震えていることに。
「さぁっ早く行ってきてください!」
「……わかったよ。じゃあ隠れといてよ」
漆原は食人花へと走っていく。凄まじい速さで。
★★★
食人花の攻撃の衝撃がレフィーヤの腹部を貫き、レフィーヤは吹き飛ばされ地面へと倒れこんでいた。食人花の何本もの触手が周囲の地面よりどんどんと突き出して、レフィーヤへのもとへ這いずり寄っていく。
(い、嫌だ。し、死にたくないよ。)
食人花が涙を流すレフィーヤの身体を無情にも完全に抑えてゆっくりと口へと運んでいか、喰おうとした瞬間、
「よっと」
『アアアアアアアアアアアアアアッ!?』
食人花は突然、現れた漆原によってこの場に似合わない掛け声とともに蹴り飛ばされる。蹴り飛ばされた食人花は壁に衝突し、ぐにゃりと折れ曲りながらその場に倒れこむ。そして宙に放り出されたレフィーヤをお姫様抱っこの要領で支える。そしてレフィーヤを漆原はゆっくりと地面に寝かせる。するとその様子を見ていたアイズは漆原の元へと駆け寄ってくる。
「えっと、」
「早くそのエルフ回復させてあげたら?」
そう漆原がアイズに言った瞬間、またもや微細ながら地面が揺れる。その揺れはすぐに大きな揺れと変わった。アマゾネスの悲鳴が上がる中、漆原はあることを考えていた。
(さてと、どうしようかな。そもそも僕は空中で飛びながら戦うんだけど……この場で悪魔の姿に戻るのはさすがにやばいよね。バレたら面倒だし)
そう、漆原は悪魔の姿に戻れるだけの魔力は十分あるのだが残念ながらここには他の目撃者がいる時点で、その考えは切り捨てられる。もし漆原が悪魔とバレてしまったらそれはそれはめんどくさいことになるのである。しかもここにいるメンツはロキファミリア。オラリオでもトップクラスに入るファミリアだ。そのファミリアに目をつけられるのは漆原にとって避けたいことであるからだ。
そんなことを漆原が考えているとアイズを取り囲むように、4匹の黄緑色の体が地面から突き出した。閉じていた蕾を一斉に開花させる。アイズは食人花を斬りかかろうとすると、アイズの使っていたレイピアが粉砕した。
「なっ!?」
「ちょっ!?」
「えー、脆すぎ」
4匹いっしょに襲いかかってきた食人花にアイズはその場で、跳躍して回避する。漆原は自分の元へ攻撃してくる触手が素手ではたき落としながらアイズに聞く。
「大丈夫ー?武器壊れちゃったけど?」
しかし、返事は返ってこない。今のアイズの頭の中にはレフィーヤのことやこのモンスターのこと、借り物の武器を壊してしまったことだ。アイズはこのモンスターが魔法に反応することに気づき自分の魔法を解こうとする。しかしアイズの視界に移ったのは屋台の影で隠れながら獣人の子供が恐怖に震えながら座り込んでいる姿だった。アイズが右手の方向に逃げれば、屋台が潰されてあの子供まで巻き込んでしまう。アイズはすぐに自分の魔法である風の気流を全身に纏う。既にない、左手の退路に、アイズは突っ込む。そして、食人花に捕まってしまった。
★★★
レフィーヤは諦めそうになっていた。あと少し待てば、武装しているガネーシャファミリアがアイズ達を救ってくれると、そう考え、目を瞑る。するとレフィーヤにとって先ほどの命の恩人がレフィーヤに毒づく。
「そうだよ、寝てて。」
「……え?」
「君がいたって足手纏いだからね。どうせ役に立たないんだから。逃げ出せば?」
漆原がレフィーヤにそう言ったとき、レフィーヤは先ほどまで瞑っていた目を勢いよく双眸を、見開いた。そして立ち上がる。
「私はっ、私はレフィーヤ・ウィリディス!ウィーシェの森のエルフ!」
レフィーヤはまるで自分と漆原に言い聞かせるように声を上げる。この光景にはいつも眠そうにだるそうにしている漆原も目を見開いている。
「神ロキと契りを交わした、このオラリオで最も強く、誇り高い、偉大な眷属の一員!逃げ出すわけにはいかない!」
レフィーヤはふらつきながらも一歩を踏み出し、すぐに走り出す。窮地に陥っている仲間の元へとまた戦場へと舞い戻る。
(わかってる。あの人が言っていたように私じゃあアイズさんたちの足手纏いにしかなれないことなんて!だけど追いつきたい!アイズさん、ティオナさん、ティオネさん、ガレスさん、ベートさん、リヴェリア様、団長………そしてさっき私を助けてくれたあの人、みんなに追いつくんだ!)
レフィーヤは走って食人花との距離を埋めた。十分に近づき自身の魔法な射程範囲に目標を捉える。レフィーヤは詠唱を開始する。
「【ウィーシェの名のもとに願う】」
「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ】」
「【繋ぐ絆、楽園の契り。円環を廻し舞い踊れ】」
「【至れわ妖精の輪。どうか力を貸して与えてほしい】」
「【エルフ・リング】」
レフィーヤの足元にあった山吹色の魔法円が、翡翠色に変化した。今、レフィーヤが使っている魔法は召喚魔法。この魔法はエルフの魔法に限り、詠唱と効果を完全に把握していれば己の技として使うことができるレア魔法であった。しかしデメリットも存在する。それは2つ分の詠唱時間と精神力を使ってしまうことだ。この魔法を使えることでレフィーヤに神々が授けた2つ名は【千の妖精】。
「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を、巻け】」
「【閉ざさせる光、凍てつく大地】」
食人花のモンスターはすべてレフィーヤに標的を変え、殺到する。
「はいはいっと!」
「大人しくしてろっ!」
「ッッ!」
「ちょっとだけ、静かに待ってろよ」
『!?』
しかしそんな食人花は止められる。凄まじい速さで追いついたティオネ、ティオナ、アイズ、そして漆原がモンスターの前に立ちふさがり、殴り蹴り弾いてその突撃を防ぐ。
「【吹雪け、三度の厳冬ーー我が名はアールヴ】」
ここまでの詠唱をした瞬間、レフィーヤの横に一本の触手が地面から突き出し、レフィーヤを襲う。そのとき、レフィーヤの頭に浮かんだのはまたさっきみたいに突き飛ばされるというトラウマ。しかしその触手は漆原が放った熱線によって消滅する。漆原は笑いながら
「僕がここまでお膳立てしたんだよ?後は何とかしてよ、レフィーヤ・ウィリディス。」
その言葉を漆原が言ったとき、レフィーヤの覚悟が決まる。レフィーヤは最後の詠唱を1文字も間違えずに言う。
「【ウィン・フィンブルヴェトル】‼︎」
魔法が食人花に放たれた。食人花のモンスターは4体の氷の像と化す。氷の像となったモンスターはアマゾネス姉妹によって破壊される。
「レフィーヤ、ありがとー!ほんとに助かったー!」
「ティ、ティオナさん!?」
ティオナはレフィーヤに抱きつく。レフィーヤは満更でもないように頬を緩める。戦闘が終わり安堵したアイズは素直な言葉をレフィーヤに送る。
「ありがとう、レフィーヤ」
「アイズさん……」
「リヴェリアみたいだったよ。……すごかった。」
レフィーヤはアイズからの感謝の言葉に照れる。しかしすぐにあることを思い出す。それは漆原のことだ。名前も知らない命の恩人にせめてお礼の言葉を送ろうと思い、漆原の姿を探す。だが漆原はもう隠れていたシルを連れて豊穣の女主人へと帰っている途中であり、もうここにはいない。
★★★
怪物祭の翌日
「おーい、半蔵。あんたに客だよ。」
「え?僕に?」
「あぁ、ロキファミリアのレフィーヤ・ウィリディスって子だよ」
「あー、確かそんな名前のエルフ、昨日会った気がする。」
「さっさと行ってきな」
「はーい」
漆原は店内の隅のテーブルの椅子に座っているレフィーヤの元へと歩いていく。レフィーヤはこちらに気づくと立ち上がり頭を下げる。
「で?用って何?ウィリディス」
「昨日は助けていただきありがとうございました。漆原さん。私のことはレフィーヤで構いません。」
「そう?わかった、レフィーヤ。助けたことだけど別にあれぐらい気にしなくてもいいよ。あれはシルに言われたから助けただけだから」
「いえ、それでも助けていただいたのは本当のことですから」
「ふーん」
「……あと……………」
「あと?」
レフィーヤは決心を決めたような顔で漆原に宣言する。
「確かに私は足手纏いです!でも私は追いつきます!いつか必ず漆原さんにも追いついてみせます!絶対に!」
レフィーヤの宣言を聞いた漆原は面白いものを見つけたように笑いながら
「頑張れば?まぁ、一応応援しとくよ」
「あ、ありがとうございます。そ、それじゃあ最後に………」
まだあるのかと漆原は内心思いながらレフィーヤを待つ。レフィーヤは顔を真っ赤にしながら
「す、好きな食べ物はな、なんですか!?」
「え?」
漆原はレフィーヤの予想外すぎる質問に思わず、驚いてしまう。
「い、いいから答えてください!」
「か、唐揚げとか?」
「わ、わかりました。あ、ありがとうございました!それでは失礼します!」
レフィーヤは質問の答えを聞いた後でも顔を真っ赤にさせながらその場から走ってお店を出て行き、逃げていく。取り残された漆原はレフィーヤが出ていった出口をただ見つめて、ある言葉を呟く。
「………どういうこと?」
この漆原の問いを答える者はこの場には誰もいない。
お読みいただきありがとうございました。
ニート×真面目ってなんか対照的でいいと思いませんか?
やっと大体の1巻の内容終わりましたが、ほとんど店にいる漆原を原作にどう絡ませるかが本当に苦悩しています。