クレストが兎と出会うのはまちがっているだろうか   作:立花・無道

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ベルの秘密を初めて知る相手との出会いです。


兎と単眼の鍛冶師

あれはいつも通り、手前がダンジョンの深層にて武器の試し切りを行っていた時だった。

 

主神様よ。そんな「相変わらずね...」といった呆れた顔をするな。

手前とて、あの時は少し苛立っていたのだ...多めに見てくれ。

まぁ話を戻すとな。そこで出会ったわけだ。

あの男、ベル・クラネルとな..

 

 

 

 

 

「むぅ?やはり切れ味をこれ以上あげると、刀身の耐久力が心もとないか。」

 

中層のモンスターを数体切り倒して、根本から折れた剣を見て、手前は「はぁ..」と溜め息を吐く。

そんな事は関係ないとばかりに、モンスターが再びダンジョンより産み出された。

さらにいくつか装備している試作品の武器を1つ再装備し、それらモンスターを切り裂いて、ダンジョンの壁にもついでにと傷を残す。

 

ダンジョンの修復中はモンスターが生まれないというのは、冒険者やダンジョン探索をする者の常識だ。いくら、手前がレベル5の鍜治師(スミス)といっても、試した武器の良し悪しを考えてるときにモンスターが溢れだすのは、流石にウンザリするのだ。

 

「やはり素材を厳選する必要があるか...あの酒樽はまったく、何が「今回の遠征は失敗して素材が取れんかった...すまんが次の遠征まで待ってくれんか?」だ!」

 

新しい素材で、新しい武器を打つのを楽しみにしていた手前を、すっかり気落ちさせたドワーフの言葉を思い出しその場で苛立ちを隠さずに叫んだ。

その声はダンジョン内に反響して、周囲に広がっていったがそんな事はどうでもいいとばかりに、中層を通り過ぎさらに下層へと手前は進んだ。

 

 

その時だ...外套の下に、黄金の鎧を装着した男が、氷壁を前に佇んでいるのをこの目に焼きつけたのは。

まるで、冬がその場所にだけ訪れたような感覚がして、気づけば息は白んでいた。

その異常さに緊張して、臨戦体勢にはいってしまったのは、仕方あるまい。

 

()()()()()()よ。誰かは知らんが、そう殺気を出しているとモンスターか暗殺者と間違われるぞ...」

 

急な声かけに自身の身体から冷や汗が出て、思わず息をのんだ。

そこで、初めて黄金の男がこちらに振り返り、近づいてきたのに気付いて...その姿に手前は()()()()

 

黄金の鎧とそれを着こなす男は、空中にあった氷片の光もあいまって、幻想的かつ実用的な武具の美しさを両立させていたのだ。

それを理解した瞬間、手前は自分の腹の底が燃えるように滾ったのを感じ取った。

怒りでも悔しさでもない、()()()()()に火が着いたのだ。

 

 

 

そこで、その男に想いのすべてをぶつけたが、最後には逃げられてしまった。

だが、諦めたつもりはない!あの男に必ずあの鎧を拝借しなければな。

主神様よ、気の毒..とはどういう意味だ?

 

おーい主神様!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『豊穣の女主人亭』にてリヴェリアと情報を交換し合い、その後は神ロキに絡まれる前に去れと助言をもらい、さらには良い宿の場所を教えてもらった。何でも昔馴染みの経営する宿らしい。

リヴェリアには感謝と神ロキへの謝罪を伝えて、僕は酒場を出た。僕がいると面倒なことになるらしく、大人しく彼女に従ったというわけだ。。

 

 

 

 

 

それから数日がたち、ある程度ダンジョンについての情報を仕入れた僕は、現在はダンジョンの内部にいた。

現在の階層は25階層、冒険者たちが下層と呼ぶ領域だ。

ここまで来たのには理由がある。僕の目的は『巨蒼の滝(グレート・フォール)』を()()()()()ことである。

 

 

 

 

 

 

 

27階層まで続く大瀑布である『巨蒼の滝(グレート・フォール)』は、一般人が調べることのできる情報の中でも巨大な滝であり、修行を行うにはもってこいの場所であった。

黄金聖衣をクレスト先生から授かった後も小宇宙と冷気の修行は続けたが、あくまでそれはオラリオ外での話だ。

外では大規模な冷気の使用が難しい。

人を巻き込む可能性や生態系を壊す可能性がある以上、クレスト先生が口にしていた、湖や河川、火口を凍らせる修行は諦め、細かな冷気の修行を行っていた。

 

だが、このオラリオのダンジョン下層であれば話は別である。ここは基本的にモンスターしかおらず、邪魔になっても冒険者はそれなりの実力者でなければこの階層には()()()()

ならば、滝が凍っているという異常事態も自己責任で何とかするだろう。

 

「よし、ここならば良いか..」

 

僕は25階層の中間あたりで足を止めた。ちょうど滝の真ん中が見える場所である。

ここで、この雄大な滝を凍り付かせると考えるだけで、内心ワクワクしている。

 

「フッ..クレスト先生に常にクールでいろと教えられたというのに、まだまだ未熟だ!」

 

僕の心に共鳴するように黄金聖衣が聖衣箱から光とともに現れ、身体へと装着される。

そして僕は、両手を頭上で合わせて握りこんだ。

 

放つのは先生に教わった水瓶座(アクエリアス)最大の拳

その名は...

 

A・E(オーロラ・エクスキューション)!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

技を放ち終え、僕は余韻が残るなかで構えをといた。

目の前には、流れる水の音が消え、()()()()()()が巨大な氷壁と変わって存在していた。

 

「...まだまだだな。」

 

未熟...といった思いが頭に浮かぶ、以前に比べて技の完成度は上がっている。だが、それ以上に、先生の技には遠く及ばない。

クレスト先生ならば絶対零度の凍気を持って、決して砕けることのない氷壁を作り出すだろう。

自分の凍気はわずかに、先生の凍気に届いていない。

 

その証拠とばかりに、氷壁の上からヒビの入るような音が聞こえてきた。おそらく、水源を凍らせることができなかったのだろう。

さらには氷壁からはがれた氷片が、雪のように上から降り始めている。

 

「やはり、まだまだ未熟というわけだな。」

 

その直後に、後ろからわずかな殺気が漏れ届いたのを感じ取った。

その殺気と気配に僕は素早く拳を握り、いつでも小宇宙を燃やせるように精神を研ぎ澄ます。

そうして言葉を紡いだ。

 

 

「そこにいる者よ。誰かは知らんが、そう殺気を出しているとモンスターか暗殺者と間違われるぞ...」

 

そのまま後ろを向くと、そこには片目を眼帯で隠し、着物を纏った褐色で黒髪の女性が呆けていた。

こちらが近づいているにも関わらず、表情に変化はない。

よく見ると、上半身は胸にサラシを巻き、薄い着物を羽織るだけというあまりにラフな格好に、僕は目のやり場に困った。

おそらくはアマゾネスであろう呆けた女性に、僕は聖衣からマントを外して女性に羽織らせる。

そこで女性も初めて、ハッとして後ろに一歩退いた。

 

「すまない、こんな氷片が舞う中ではその恰好では寒いと思ったのだが、余計な気遣いだっただろうか?」

「....いや、気遣いには感謝する。手前こそ挨拶もなしに襲撃者まがいのことをしてしまい申し訳ない。」

「大丈夫だ、気にしていない。」

「そういってもらえると助かる。手前の名は椿・コルブランドという...単刀直入に聞くがお前は何者だ?その武具に、少なくともこの滝の状態はお前が関係していると思うのだが...」

「武具に関しては答えられないが、私はベル・クラネル...この滝は私が凍らせた。」

 

僕がそう言うと、数秒の間に何かを女性は考える仕草をしてこちらに向き直る。

 

「そうか...ベルとやら私は椿で構わん。とりあえずだ.....」

「どうかしたか?」

 

僕のその問いに女性は朗らかに笑いながら、近づいてきた。

それに少しの恐怖を感じて一歩退くと、女性は脈絡もなくただ一言を口にした。

 

「その鎧を手前に見せろ。」

「断る!」

 

「脱がされる!!」と危険を感じ、即座に逃げようと踏み出すが相手もまた実力者のようで、加減した動きに苦も無くついてきた。

 

「まあそう焦るな。ただ手前はその武具に興味があるだけだ。一通り見たら、ちゃんと返す。」

「私は断ったのだがな、それに私が言うのもなんだが滝を凍りつかせたことには興味はないのか?」

「ない!手前が興味があるのはお前と、その武具だからな。」

 

迷いなく言い切る姿は、人懐っこい笑みも相まって女性...椿の人柄をよく表しているようだが、さすがにこの黄金聖衣を貸すのはまずいと、僕は小宇宙を燃やしながらそこから逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

その後、完全に撒いたはずの彼女に何度かダンジョン内で捕捉され、しまいには黄金聖衣を脱いだ状態でも捕捉されるようになってしまった。

 

 

こうして僕のダンジョン初日は、アマゾネスの恐怖を知るための日となる。

その後、一週間ほどが経つとダンジョン外でも捕捉されるようになり、撒くのを諦めた僕は彼女とその主神に聖衣を見せるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『裏話』

「ハァハァ...まったくあの男め。手前から何度も逃げ切るとは、一体全体..何..者.だ?」

逃げられてしまったベルを追いかける椿はそんなことを呟きながら、羽織っていたマントに触れ「そういえば...」とその存在を思い出す。

「フム..身体を気遣ってくれた男など、父親くらいだったな。」

大人びた少年だったと彼の顔を思い出しながら、椿はそんなことを口にしていた。

「まあ今日はこれくらいにしておくか、この布の借りもある。」

そう言った椿はどことなく嬉しそうな顔で帰路につく、しっかりと黄金聖衣の一部であったマントを羽織りながら...
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