クレストが兎と出会うのはまちがっているだろうか   作:立花・無道

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お久しぶりです。
今回は少し短めですが、楽しんでいただければ幸いです。


協力要請

「やぁ、久しぶりだね...ベル・クラネル。」

「ひっさしぶりやなー!ベールたん!」

「フィン・ディムナ?それに、神ロキか...神ヘファイストスと椿に用か?」

 

僕は現在、拠点を借宿からヘファイストス・ファミリアへと移し、主に椿の世話になっていた。ダンジョンでの赤髪の調教師との戦闘から2週間。ホームの周辺を清掃していた僕は、フィンと神ロキに声をかけられた。

 

「ああ、遠征の件で込み入った話があってね。それに君に伝えておきたい話もあるんだ。」

 

 

 

 

 

フィンの言葉にベルは事件のあと、18階層でフィンと邂逅した時のことを思い出す。

 

 

 

「ベル・クラネルか?どうしてここに?」

「とりあえず、アイズを助けてくれて感謝するよ。それで、君は何者なのかな?」

 

18階層にて食人花を倒しきったあとベルに、最初に話しかけてきたのはリヴェリアと少年だった。

 

「フィン、彼は...」

「わかってるよリヴェリア。彼は敵ではない。だが、だからこそ彼が何者であるのかをはっきりさせておきたい。」

 

そう言ってフィンは真っ直ぐにベルを見る。その視線にベルは、フィンが見た目通りの年齢でないことと、多くの死線を潜り抜けてきた猛者であることを理解した。

そんな視線をまっすぐに見つめて、口を開く。

 

「私は人を探している。少なくとも、今は君達の敵ではないよ。勇者(ブレイバー)

「今は...か。わかった、ひとまず君の言葉を信じよう。」

「感謝する。」

「リヴェリア!アイズ!僕らはティオナ、ティオネ、レフィーヤと合流したら、一旦地上に戻る。詳しい話はその後にしよう。」

 

ベルの言葉に、フィンはリヴェリアとアイズに仲間との合流支持を出す。その指示に従いつつ、3人はベルに軽い会釈をしてその場から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らとのそんなやり取りを終え、僕と椿は合流し地上に戻った。この事件はまだ始まったばかりだという確信を抱きながら...

 

「お~い!ベルたん?」

 

ロキの呼びかけにベルはハッとしながらも、すぐに自分の現状を思い出し返答を返した。

 

「すまない、少し考え事をしていた。話については了解した。

神ヘファイストスを呼んでこよう...少しだけここで待っていてくれ。」

「その必要はないわ。」

 

ベルが声のしたほうに振り向くと、ホームの正面入り口の前にヘファイストスが腕組みをして立っていた。

 

「神ヘファイストス...フィン殿と神ロキが貴女と椿に用があるらしい。私にも話があるらしくてな、同席しても構わないだろうか?」

「ええ、わかったわ。それとベル・クラネル...神ヘファイストスって言うのやめなさい。ヘファイストスで十分よ。」

 

ヘファイストスは呆れたような目で、ベルを見てくるが、それにベルは困った顔をする。ベル個人としてはヘファイストス・ファミリアの団員でもなく、上級冒険者である椿の名義を借りていたり、部屋を提供してもらっているだけの居候だ。敬称をつけることは当然であると、彼は考えている。

 

「何よその敬称をつけるのは当然って表情は?貴方、椿は敬称じゃないでしょうが...」

「彼女に敬称をつけるのは少しばかり抵抗ができた。ただ、貴女のことは尊敬しているのでな。善処はしようと思う。」

「そう、ならいいわ。ごめんなさいロキ...待たせたわね。」

 

ヘファイストスはベルから視線を移し、ロキとフィンの方を向く。

 

「いや、別にええんやけど...なんか随分親し気やな?」

「実は、この子が椿の仕事を手伝ってくれててね。あの子は武器を打つのにだけ専念してるわ。」

「あれで、仮にも団長だというのだから、驚きだ。」

 

ベルの言葉に、ロキとフィンは苦笑いを浮かべながらも、そこにわずかな同意をにじませていた。

 

「とりあえず話は中に入ってにしましょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椿の仕事場に近づくにつれて槌の音が大きくなるのを全員が感じていた。

カーン、カーンと途切れながらも小気味よく響くその音はきれいで澄んだ鐘の音をほうふつとさせるものだ。

しばらく進むと、椅子に座り槌を振るう椿の姿が見えた。

その瞬間、ヘファイストスとベルは、フィンとロキの前にそれぞれ右手と左手をかざす。

 

「待って...」

 

ヘファイストスのその言葉から、数分の時間が過ぎると椿は槌を振るうのをやめ、手作業を行い始める。

その動作は手慣れており、熟練の職人の風格を醸し出している。

さらにしばらくして、その動作を終えた椿は、袴とサラシというラフすぎる格好でベルたちの方を振り向いた。

 

「おー主神様!それにベルがきたということは...飯の時間か?」

「違うわよ...ロキたちが来てるわ。遠征についての話し合いよ。」

「おお!そうだったな!」

 

楽観的な椿の態度に、ヘファイストスは呆れながらも説明をする。

すると、こんどはロキが両手の指を怪しく動かし始めた。

 

「やぁ、久しぶりだね。椿」

「相変わらずの、でか...パイやな!ぐへへ~」

「おお!フィンか!それにお主も相変わらずだな、ロキ!」

 

椿はロキの下ネタを無視しつつ、椿の足はテーブルの方へと向かっていく。

 

「ここなら片付いているからな。本題に入ろうではないか!」

「片づけたのは私だろう?」

「ええい!細かいことを言うな堅物め!」

 

椿は自身の言葉に茶々を入れてくるベルに反論しつつ、椅子に掛けてあった布をケープのように羽織る。

 

「なんや?椿、雰囲気変えたんか、いつもならサラシ一枚で部屋ン中うろついてたやんか。」

「ん?ああ、実はなこの男がうるさくてな。」

 

親指でベルを指す椿に、ベルは深くため息をこぼす。

 

「当然だ。アマゾネスのように身体をさらすことを誇りにしているならともかく、例えホームであっても女が袴とサラシだけでうろつくな。はしたない...」

「はぁ...手前は鍛冶師だから関係ないと言ったんだが、この通りでな。なんとか、この格好ならば許しをもらえたのだ。」

 

そういって椿は無地のケープを広げて肩をすくめる。

椿自身は呆れたような様子だったが、それを見るヘファイストスはクスリと笑みをこぼしていた。

 

「世間話はこれくらいにして、本題に入りましょう。」

「そうだね。」

 

本題として挙げられたのは、49階層よりも下の遠征についての話だった。

ロキ・ファミリアが求めたのはヘファイストス・ファミリアの鍛冶師たちを遠征に同行させること。その報酬は、深層のドロップアイテムだった。

あらかじめ決められた内容の確認は、そう時間がかからなかった。

 

「じゃあ、他に確認したいことはあるかしら。」

「そうだね。じゃあ最後に1つだけ...ベル・クラネル、君に遠征への同行を頼みたい。」

 

話をただ聞いているだけだったベルはフィンのその言葉に、はっきりと驚いた。

椿やヘファイストスも同様だったようで、わずかに目を見開いている。

フィンはまっすぐにベルを見つめ、周りもまたベルの答えを待っていた。

しばしの静寂が終わり、ベルはフィンに対して言葉を紡ぐ。

 

「私は冒険者でもなければ、恩恵すら受けていない。それでも力を貸せと口にするか?『ロキ・ファミリア団長 フィン・ディムナ』」

「ああ、冒険者でもなく、眷属でもなく、僕は『ベル・クラネル』。君の力を貸してほしい。」

「それはなぜだ?」

「決まっているさ。僕の野望とファミリアのためにだ。」

 

フィンのギラついた視線を見つめるベルは、しばらくして顔を背け溜め息を吐いた。そして、フィンへと向き直る。

 

「貴方は目的と目標のために手段を選ばない人間であることはよくわかったよ。私も気になることがある条件付きで良ければ力を貸そう。」

「感謝するよ。」

 

ベルの答えに微笑んだフィンと安心したようなロキ。どこか面白くなさそうな顔をした椿、そんな椿を見て微笑むヘファイストス。

この時、ロキ・ファミリアとヘファイストス・ファミリアの団長、主神を証人とし、逸般人ベル・クラネルのダンジョン下層への進出が決まる。

 

彼らの運命はこの時よりうねりと共に大きく動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




IFストーリー 『白巫女と水瓶座』

「くっ、こんなところで動けなくなるとは!」

自らの足に触れ、感覚を確かめる。すると、鈍い痛みがはしる。

「っ!」

そのまま絶望感と共に、ダンジョンの天井を見上げた。18階層の時間は夜、周りに誰もおらずポーションの入ったバッグもイレギュラーによって崖下に落としてしまった。
治療を頼もうにも、自分の悪名はリヴィラにも轟いていることだろう。
誰も頼れない自分に嫌気がさしていると「足をくじいたのか?」、唐突に声が聞こえた。

「やはり足をくじいていたか。」
「な、なんだお前は!」

上から降りてきたのは黄金の鎧を纏った青年だった。

「なに、女性が空を見て黄昏ていたので気になってな。」
「た、黄昏てなどいない!!」

相手の物言いに気恥ずかしくなって、強気で言い返し、すぐに後悔した。
どうして自分はこんなにも醜いのだろう。偶然であっても、助けてくれようとしている相手にかける言葉ではない。

「少し痛むぞ。」
「っ!?」

足を掴まれて、まず驚いた。
女性に急に触れたことでも、足を急にあげるような姿勢になったからではない。

その男に触れられて、何も不快感を抱いていない自分にたいして...

「ふっ!」
「な!なにを!」

足を固定された後、さらにおんぶまでされる。なのに、身体はそれを受け入れる。そんなおかしな状況なのに、どこか安心感すら感じていた。

「すまんな。あいにくポーションは持っていない。連れがいるから持っているか聞いてみよう。」
「すまない...」
「気にするな。困っている相手を助けるのは当然だ。」
「その、感謝する。わ、私はフィルヴィス・シャリア...という者だ...」

名を名乗る瞬間、恐怖する。
忌まわしい名を呼ばれることは慣れと諦めがあった。だが、なんとなく彼にその名を呼ばれることを心が嫌がっていた。

「そうか。良い名だな。」
「えっ?」

彼の言葉に1つの疑問が生じる。

「お前、もしかして私を...知らないのか?」
「なんだ?有名人だったのか?すまないが、聞いたことはない。」
「そうか。」

安心していた。
責められることがない。彼は私を知らないから、彼に忌まわしい名を呼ばれることもない。そう思うと胸が軽くなったような気がした。
そしてふと、聞いていなかったことへの疑問を知らずに口にしていた。

「名...」
「んっ?」
「お前の名前は?」
「そういえば、まだ名乗っていなかったな。私はベル・クラネル。ただの旅人だ。」






これが私『死妖精』と黄金の水瓶座の出会いだった。

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