【創造と破壊】の力で暴れまくる〜リメイク版すげ替え進行中〜 作:しのしのおしるこ
ナミ、リーシャ回です。
一万字と長いですが、どうかお付き合いください。
「…こ……は…柔らかい……グゥ………」
「ナツメの寝顔って初めて見たかも……イケるわねーーーじゃ無くてっ!! アンタ何寝てんのよ!!!!」
「ーーーグヘッ!! ………いってぇ……ん、………あ? ナミ!? ここ何処だ!?って俺の部屋かよ。悪りぃ寝てたみたいだわ」
「何の返事も無いから勝手に入っちゃったわよ。あーもぉ!この私が控えてるってのによく寝れたわよね?信じらんない」
「そういう事は自分で言うなよ……」
ソファーにもたれ懸かりいつの間にやら意識を手放していたナツメ。その前に仁王立ちするのは海賊団・ウロボロスが誇るーーー凄腕航海士のナミ。
「ー"可憐で美しい"ーが抜けてるわよ。ほら、起きた起きた」
「平然と心の声読むの辞めろっての。うわっ、分かった!わーったから」
「取り敢えず座ってろよ」とナミを座らせ席を立つとキッチンへ向かうナツメ。
船長室に限らず、この船にはメインの厨房の他にも各私室に簡単な調理設備が揃っている。
これはナミの要望によるもので、日々、一味のメンバーは己の女子力を磨いているのだ。
船長室に関してはオマケで付けられたものだが。
ナツメは簡単なホットカクテルを作ると、それをナミに手渡し対面へと腰掛けた。
「ん……あ、美味しいし温かい。これ…ベルメールさんのミカンの香りがする」
「ああ。お前好きだろ? 甲板に植えてあるミカンをちょっと拝借してな。リキュールにしたんだ」
「そ、そう。勝手に使ったのはいただけないけど、まぁいいわ。ありがと」
「ロビンが言ってたんだけどな、柑橘系の香りは心を落ち着かせるらしいぞ。今のお前にはピッタリだな、ははっーーグエッーー何すんだよ!!」
「うっさいわねぇ…アンタはいっつも一言多いのよ」
「ったくーーーかかと落としはねぇだろが」
「……………………」
「あんだよ、今度はダンマリかぁ? 」
そこから数分間の沈黙。先程までの威勢は影を潜め、両手で包み込むように持つホットグラスは時折彼女の口元へ運ばれる。そして彼女の双眸はジッとナツメを捉えたまま離さない。あまり見つめられるのに慣れてない為、時折視線を逸らすも事態は進展を見せず……
《らしくない》
何とも可愛らしいではないか。ものの例えで"黙ってれば可愛いのに"何て表現が有るが、こうも当て嵌まる人物は中々居ない…と言うか違和感が凄い。
一味のツッコミ役? 兼ムードメーカーの彼女。金に目が無く、それ絡みだと時折無茶をしたり、無茶苦茶な事を言うこともある。だが仲間思いで情に厚く、好きな事には全力で取り組む性格だ。アーロンの支配から解放されてからは、より一層生きる事を楽しんでるようだった。
何かと表情、感情の変化に忙しい印象があるが、ナミがこんな表情を見せるのは珍しい。
思い当たる節はーーー先程のロビン、ハンコック。
「……はぁ、お前もかよ……あのなぁ、心配してくれんのは嬉しいが、考えてもみろ。俺が死ぬってよ、本気で想像出来るか? 」
「あぁーもう! こんなの私らしく無いってのに! 分かってるわよ、ナツメが強いってことくらい……でも、あんなの見せられて黙ってられるわけ無いでしょ!?」
「お、おい。ナミ?」
「私は航海士なの! 戦うなんて出来ないし、アンタを傷付けるような敵の前に立ったって瞬殺されちゃうのが関の山だもん! 正直、アラバスタでの2年間を後悔しだしてる……何で戦う力を身に付けなかったのかって。私だって助けて貰ってばっかりじゃ……戦えるようになりたいの……」
ナツメは「無い」と言い張るが、あの光景はきっといつか訪れる。その時に、ただ黙って見てることしか出来ない自分が許せない。と、ナミは大粒の涙を流す。
此処まで感情を表に出すのはアーロンに絶望を突きつけられた時以来だ。
「ウチのクルーが過保護過ぎて辛い……」
「………うっ……うぇえっ……ぐすっ…………………は、はぁ?」
「あのな、ナミ。人間ってのは向き不向きがあるんだよ。ウロボロスに関しちゃ戦闘要員は充分に足りてる。航海士ってのはーーお前の様な一流になると尚更だがーー変わりなんか居ない。クククッ……ナミがウチに入るまでの航海は散々だったんだぜ?それこそ何度死にかけたか」
「……そうなの? ナツメの能力で何とでもなりそうじゃない……」
「そんな訳あるか! 俺は戦闘以外"からっきし"だからな、海に対する知識も技術も持ってねぇ。食料だって島に着かなきゃ手に入らん。ぶっちゃけお前が居ないと、この一味はマトモに冒険なんか出来ねぇよ。餓死不可避だ!ハハハッ」
「あんたねぇ……ふふっ。そうね!私が居ないとあんた達何も出来ないんだから!感謝しなさいよね!?」
「すーぐ調子乗るーーーまぁそれでこそナミだ。 お、おお俺が…ああああぃした女がヤワじゃ困るんだよ」
「………ふーん、へぇ〜何?なんて言ったの? 今。もう一回言って?」
「は、はぁ!? チッ、何も言ってねぇよ。お、おいこっち来るなって!」
成る程ね〜、ロビンが言ってた通り女に耐性が無いってのは本当みたいね。ナイスよロビン、コイツにマウント取れるなんて滅多に無いんだから!! こうなったら行けるとこまで行ってやるわ。
ナミ自身、男性に慣れてないのは棚に上げ、此処ぞとばかりに擦り寄る姿は、宛ら女豹の様である。
「お、おおお前、さっきまで泣いてただろうが!ちょ!胸!当たってるから!! 俺に凶器を向けるな!!」
「演技に決まってんでしょ。フフッ、私の"行き倒れ"を散々馬鹿にしといて見抜けなかったの? アンタもまだまだね……」
「……い、いかん………このままじゃ理性ががが」
全身を這うように密着させ絡ませるナミ。若干ヤケクソ気味ではあるが、此処まで来れば羞恥心など遥か彼方に吹き飛ばしたのか、唇を重ねる二人。ビビが見れば卒倒しそうな光景である。
ーーーーーー
「ふう、確かに面白いもん見れたわ。満足満足!」
「お、お前なぁ。んなもん何処で覚えたんだ」
「フィーリングよフィーリング! あんた以外にこんなことする訳ないでしょ?あ、あたしだって恥ずかしかったんだから……」
「本当かよ」
「ったりまえでしょ!!」
「いってぇ!ったく………最後はリーシャだったな……遅くなっちまったし寝てたら無理に起こさなくて良いからな」
「はいはい、多分起きてるわよ。それじゃあね〜〜、約束!忘れないでよね!!ーーーー世界最強何でしょ? 船長♪」
「……ああ。約束だ」
なんだかんだナミもそれなりに時間をかけてしまったが、後が控えている。
足取りは軽く、最後のクルーを呼びにナミはナツメの部屋を後にした。
♦︎
同時刻、四方を漆黒の壁が囲む殺風景な一室に別の意味で汗を流す二人が居た。
ここはドラゴン・ゲート号船内に設けられた修行場、修練場である。壁はナツメの【黒蜜】によって補強されている為に、ある程度の衝撃であればビクともしない。正方設計の部屋だが縦横20メートルの広さがある。
日中は主にたしぎ、アインの二人が修業として暴れまわっているのだがーーー
「ふぅ……流石ですねビビ、アレを躱されるとは思いませんでした」
「リーシャも凄かったよ! 能力者なのは知ってたけど、まさかあんな事が出来るなんて。それにアレってナツメさんと同じーーー」
「ーーー付き合ってくれてありがとうございます。そろそろ戻りますよ、"ナミが帰って来た"ようです」
ビビの称賛に若干食い気味で言葉を被せるリーシャ。その表情は何処か嬉しそうで、寂しそうで……ビビには詳しくは分からなかったが余り良くない事なのかもしれない。と、それ以上深く聞く事はしなかった。
「うん。そ、それよりも大丈夫?これからナツメさんに会うのに……」
「ええ、この程度の傷や痣はすぐに治せます。ビビもほら、此方に来て下さい」
見れば互いの身体はボロボローーーとまではいかないが、所々に出来た打撲痕や擦り傷は中々に痛々しい。少なくとも[非戦闘員]のリーシャには似合わない傷だ。
ビビの傷口を暖かい光が包み込む。
この二年、アラバスタでリーシャが習得した【氣】を使ったアンチエイジフィーリングだ。
「凄い……傷がどんどん治ってく……」
「そう言えばビビに使うのは初めてでしたね。兄様の【龍掌】とまではいきませんが原理は同じです。これもアイン、たしぎの習得した"棗流"なんですよ?」
「へぇ〜、そっか。リーシャは凄いなぁ……」
「へ?凄い? 」
キョトンとした顔でビビに首をかしげるリーシャ。
ーーー凄い? そうでしょうか……戦闘に関して言えばナミ以外には敵いません。
ーーー医療知識はハンコックに及びませんし、私がやっているのは所詮お兄様の真似事です。
ーーー料理にしても、この一味は皆が
「そんな事ないよ!」
「あれ?わ、私…もしかして口に出してました?」
「あのね、リーシャ。アラバスタでハンコックが言ってたでしょ? "妾もこう見て完璧では無い。無論、お主達もじゃ。人には適材適所がある"って」
「ぷっ……あはははっ、それはハンコックの真似ですか? あんまり似てないですね」
「もぅ!茶化さないの! ーーーリーシャは本当に凄いよ。元から器用だと思ってたけど、家事全般は何でもこなしちゃうし、治療に関してもそう。これもハンコックが言ってたんだけどーーー」
『医療を学べば学ぶ程、思い知らされる……あの兄妹は規格外じゃ。のぉ、本当にあの二人は血が繋がっておらんのか? 妾にはそうは思えぬ。兄の背中を必死に追いかけるリーシャの姿は、昔のソニア達を想わせるが……日が変わる度に思うのじゃーーー』
「"まるでナツメが二人居るみたいだ"って。私は最初その意味が分からなかったよ? 性格だって全然違うんだし、雰囲気は……何処と無く似てる気がしなくも無いな〜って思う事はあったけど」
「わ、私がお兄ちゃんに?」
「でもリーシャが戦えるんだって知ってから、不思議と二人の姿が重なって見えたの」
「それは……つい先程のことですよね?」
「う、うん。さっきの戦い方、スタイルは全然違うんだけど、まるでナツメさんと戦ってるみたいで……上手く言えないなぁ〜。ごめんね」
「何で謝るんです? ナミも言ってましたが、ビビは自分に非がないのに謝る変な癖があります。もっと自分に自信を持って下さい。"海賊女王"が聞いて呆れます」
「手厳しいなぁ……そんな所も似てるかも」
「何か言いましたか?」
「ーーーふふっ!リーシャも自分に自信持ちなよ!って言ったの!」
「……っ……わ、私はいつでも自信満々です! 」
「出来る女ですからね!だっけ?」
「もぉ!ビビ!怒りますよ!」
♦︎
「ーーー何してるんですか? ナミ……」
「ひゃぁっ!!り、りリーシャ!? いきなり起きないでよ!!ビックリするでしょ!!」
「寝てたつもりはありませんが……それよりも、その右手に構えた油性マジックは何ですか?それで私の顔に何をしようとしてたのか説明して下さい」
「ち、違うのよ? 別に何も……ね、ロビン」
「あら。『ほんっとリーシャって肌白いわね。こう白いと何か描きたくなっちゃうわ』って言ってたのが聴こえてたけど」
「へぇ。私の顔はいつから貴女のキャンパスに?」
「ロビンの裏切り者!? 無駄に上手いモノマネすなっ!!ーーーリーシャ〜? そう言えばビビが居ないみたいだけど〜」
「もう遅いので今部屋に送っている所です。そ・れ・よ・り・も!ナミ?」
「わ、悪かったってば! 私がそんな事するわけ無いでしょ?ーーーってアンタ今何て?」
「初犯、且つ未遂に終わりましたし、500万ベリーで勘弁してあげます。感謝して下さい」
「ちょ!私からたかろうっての!? 」
「ついさっきアインとたしぎから"たかって"ましたよね? これから私が何処へ向かうかお忘れですか?」
「うっ!」と後ずさりするナミ。リーシャが言いたいのはつまり、折半という事だろう。何よりも金を愛する元泥棒をカツアゲする少女。ナツメとの一件で舞い上がったテンションは何処へやら。軽率な行動を後悔する航海士であった。
「はぁ……降参よ、降参」
「ふふっリーシャ、貴女ナツメにどんどん似てきてるわね」
「ロビンまで……先程ビビにも同じ事を言われました」
「あ!それよ!リーシャ、ビビを部屋に送ってるってどういう事?」
「ナミには言ってませんでしたっけ……ケタケタの実。私の能力です」
「あ、あれ!? リーシャがもう一人!? いつの間に………分身の能力って事?」
「それだけじゃ無いですけどね。昔は数体が限界でしたがーーー」
リーシャの部屋を埋め尽くす勢いで突如出現する分身達。その光景にロビンも目を見開いていた。気が付けば、否。気付けなかったのだ。更に、驚愕すべき性能をリーシャは語り出す。
「この分身はこの場に存在しているようでしていない。そして確実に存在している」
「なに?どういう事?」
「ロビン、分身の一体に攻撃してみて下さい」
リーシャは分身を一体に留め、ロビンにソレを攻撃するように促す。
「いいの?」と再度確認を取り、徐に手に持っていた本を開くと、栞として使っていた短剣を分身に向け投げた。だが……
「っ……!!な…んで…」
ナイフは分身をすり抜けた。そしていつの間にか分身の背後に現れていた"もう一人"のリーシャがナイフの柄を掴みーーー気が付けば更にもう一人の分身リーシャ。ロビンが投げた筈のナイフをロビンの背後より首筋に突き立てているではないか。
瞬時に4体に増えたリーシャ。分身を全て消し再び口を開く。
「……何が起きたのか理解出来ましたか?」
「い、いつの間にか分身が増えてたし……気が付いたらロビンが」
「私にもさっぱり。見聞色でも感知できなかった……ナイフをすり抜けたから存在しない幻影だと解釈したけど、それだと後ろに現れた分身がナイフを掴めた説明がつかない。それにーーー」
「あの分身は此方が攻撃する時には実体化し、敵意を感じた攻撃はすり抜けます。そして分身が触れたものは寸分違わず複製出来ます。と、言っても制限はあるんですけどね。そしてーーー」
ーーー分身は目視でしか認識することが出来ない。
「はぁ!? そんな都合が良い能力、反則じゃない!」
「ロビンの見聞色でも感知出来ないとなると、お兄様でも難しいかもしれませんね。ですがナミ、この能力はリスクがあるんです」
「り、リスク? それって」
「ふふっ、秘密です。ーーービビも送り届けましたし、私、お兄様の所に行って来ますね!では後程」
ロビンもリスクについて気にはなっていたが、追求するようなことはしなかった。アレだけの能力なのだ。リスクがあるのは当然だろう。と
「は!?き、消えた!? ロビン!リーシャがーーー」
「ええ。まだ他にも能力があるのね」
「はぁ〜、ナツメに続いてリーシャまで化け物じみてきたわね……ったくあの兄妹は」
ーーーナミは気が付いていなかったみたいね……リーシャが最後に一瞬だけ見せた目……あれは間違いなくーー【龍眼】
♦︎
「……お兄ちゃん………お兄ちゃん!!!」
「うぉ!っ、はは!リーシャ、よく来たな。つーかマジですまん! こんなに待たせる事にーーー」
「いいの、いいの! むぅ〜っ!お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!」
「おお!?ど、どうしたリーシャ、何処にもいかねえよ。ほら、何か飲むだろ?」
部屋に入って早々、ナツメの姿を視界に入れたリーシャは勢い良く兄に飛び付いた。
そこに先程までの仰々しさは無く、純粋に兄へ甘える妹の微笑ましい光景だ。
足をパタパタと動かし、グリグリと兄の腹部へ頭を擦り付けるリーシャ。そんな愛らしい妹を暫し撫でてやるナツメ。
五分ほどそのやり取りは続き、満足したのか自分のした事を思い出したのかーー恥ずかしいーー耳の先まで真っ赤に染めた少女の姿は心情を容易に汲み取れる。
思わず顔を伏せる妹を尻目に席を立つナツメ。
真新しい金の装飾が施されたティーカップに注がれるのはーーリーシャにしか出さない特性の紅茶だ。
丁寧に入れた紅茶を未だ俯いた少女へ手渡し、自らもソファーへと腰を落ち着かせる。
「ふわっ!?お、お兄ちゃん……いいの?」
「何遠慮してんだよ、こんな時くらい甘えてもバチは当たんねぇだろ? そんな神が居たら俺がぶっ飛ばす!」
「ふふふっ、お兄ちゃんは世界最強だもんね〜!」
ナツメの膝の上でプラプラと足を振りながら、リーシャは満足そうに兄を見上げていた。
愛する妹の、心から幸せそうな笑顔にナツメも笑みで返す。だが、その奥に……一瞬だったが、僅かに除いた[陰]を"棗"が見逃すはずも無く。
「なぁリーシャ、お前……何があった」
「お兄ちゃん! 」
ナツメの元から飛び降りるリーシャ。手の中からリーシャが離れていく感覚。僅かにナツメの手を掠めた余韻は何処か淋しさを感じさせた。
兄の正面へ身体を向け、そっと瞼を閉じる妹。そしてーーあるはずの無い[ソレ]をゆっくりと発動させる。
リイィィィィィィィィィーーーーーーーーーン
「……バカな!……龍眼……だと」
「ふふっ。そうだよ、……ナツメと一緒」
何処までも見透かされたような感覚を覚える黄金の瞳。瞳孔は縦に割れており、呼吸に合わせて僅かながらに収縮を繰り返す。棗だけが持っていた能力の為、自らが見るのは初めてになるが、間違い無く妹の双眸に収まるソレは龍眼であった。
掛け替えのない家族ーー愛する者達と出逢わせてくれた未来を見据える瞳。
驚きはした。驚きはしたが、今ナツメの心を疑心させるものはそこでは無い。
妹は、リーシャは今ーー
「お、お前、リーシャ……だよな?」
ーー今確かに俺の事を[ナツメ]と
気が付けば龍眼は解除され、普段の……可愛らしい妹の瞳に戻っていたが。
「私が呼ぶのは可笑しい……かな……ナツメ」
「っ!!」
こいつは……本当に俺の妹なのか!?
「……今は…違うかな」
「は!? お、おい。リーシャ今、俺の心の中を」
「ぷっ……あははははっ! だってだって、すっごく分かりやすい顔してるんだもん! ーーこいつは本当に俺の妹なのかーーでしょ? 直ぐ顔に出るんだから、心を読むまでも無いよ!」
「っ……か、からかうなよリーシャ。逆に俺はお前が何を考えてるのかさっぱりだーーお前のそんな顔……見るのは初めてだからな」
「そう……だよね。ううん。私も今自分がどんな顔でナツメを見てるかわからないもん。だからーー貴方が見せて?」
「は? っ!! おい!ちょ!!リーシャ!?」
ナツメの両頬へ添えられた白く美しい手。爪の先まで手入れの行き届いたソレを、妹である筈の少女からの諸手を、ナツメは拒否する術を持たない。
互いの鼻先が触れ合うほどの距離まで詰め寄るリーシャ。潤んだ彼女の双眸に釘付けになるナツメ。
そしてーー両者の視線が交差する。
「そっか……私、今こんな顔してるんだね」
ーーこれが私?お兄ちゃんの瞳に映ってるこれが……
「り、リーシャ………」
「ふふ、ナツメのそんな顔見るのも初めて……」
唇と唇が触れ合うギリギリの距離感。言葉を口にすれば互いの吐息を確かに感じる距離感。
ピンク色に指した唇と同じくらい染まった彼女の頬が微かにつり上がる。
ーーリーシャ……お前………
「ーーなーんてね!! お兄ちゃん可愛いっ!」
「は、はぁ!?」
「ふふふっ、ビックリした?」
「………ビックリした。ったくリーシャ、お前は悪い子だな」
「……お兄ちゃん………」
「……っ………… リーシャ、お前やっぱり」
好きだよ!!
「そんなの好きに決まってる! 私、私、お兄ちゃんの事大好きだよ!! 戦いだっだら、医療だったら、料理だったら負けちゃうかもしれない!!でも!この気持ちはっ、貴方を想う気持ちは誰にも負けない!! お兄ちゃん!お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!………好きだよぉ…死んじゃやだよぉ…………」
「お前までそんな事心配してたのかよ……」
ーーそれに……いくらおめかししても……どれだけ貴方の事を想っても……私はお兄ちゃんの妹なんだよね……ううん。それで良い。初めて出来た私の大切な家族だもん。たった一人の妹だもん。だけど間違ってるとは思わない。思いたくないよ。せめて……ナツメの側に居たい。私が守ってあげたい。大切なこの気持ちと共に
何故それが聴こえるのか説明はつかない。だが唐突に流れ込んでくるリーシャの本音にーーナツメの中の[何か]が吹っ切れた。
「……チッ、ったく本当にどうしようも無いな。リーシャ、お前にまで泣かれちゃあ俺もいよいよお終いだ」
「ぐすっ……お、お兄ちゃん?」
「……お仕置きだリーシャ。俺が……この俺が死ぬだと!? どいつもこいつもあり得ねぇ事を好き勝手言いやがって!! ふざけんじゃねぇ!!分からせてやるよ。しっかりと見てやがれ! お前の兄が!お前達が船長と呼ぶ俺が!お前達が愛したミカグラ・ナツメは死にやしねぇってなぁ!!」
「え!? お、お兄ちゃーーーーーきゃぁぁぁぁあ!!」
ーーこれが、これからする事が正しいとは思わない。だが……このままでいい訳がねぇ!!全員、全員だぞ!? 一人漏れ無く泣き喚きやがってーー舐めてんじゃねぇ!
リーシャを脇に抱え、瞬足を持って外へーーテラスから飛び出た金と銀は、そのままドラゴン・ゲートの甲板へと降り立った。
一体何をするつもりなのか。初めて見る兄の、想い人の表情からは何も読み取る事は叶わない。
「リーシャ、此処を動くなよ」
「お、お兄ちゃん! 何するつもりなの!?」
「クククッ、決まってんだろーー喧嘩だよ喧嘩ァ!」
「は?はいぃ!?」
「ふっふはははは!! リーシャ、お前が、お前達が愛した男がなんなのか……俺の本当の姿を!世界最強の男の姿を!しっかりとその目に焼き付けろ!!」
凄王の覚醒と共に、ナツメはこの世界で初めてーー嘗てその身を神に滅ぼされる事になった禁断の力【創造と破壊】の力を行使した。呼び出されるは滅びを齎す破壊の竜ーー
「久しぶりに喧嘩の時間だぜーー来い!バハムート!!」
♦︎
テラスから燦燦と差し込む日の光に、微かな熱を感じながら右へ左へ身を動かす様は、果たしてどんな夢を見ているのかーーーーー
ーーーーーーふっ、幸せそうじゃのぉ……良かったな、リーシャ。じゃが
キングサイズのベットに横たわるは金と銀。シルクのシーツは薄手のために、二人が[生まれたままの姿]であろう事は容易に想像できる。
ーーーシュルシュル
水を差すのは如何なものかと珍しくも脳裏を過ぎった"まともな思考"は既に彼方へ消え去りーーー来訪者が奏でるのはその身を纏う全ての布が地に付する幸せな音色ーーー否、邪なる本能か
「リーシャが許されて妾が許されぬ道理があるまい」
全く意味の分からない持論を独りごちる彼女の頬は薄く紅色である。
ナツメの右側は「金」によって埋まっている。ならば。と、彼女はそそくさと左側へ身を遊ばせた。
この"軽率な行動"がある意味修羅場を齎す事になるなど、この時の彼女には想像ーーーー出来ていたが、いつもの事じゃ。と、軽く無視するのだった。
ーーーーーー
後半の詳しい描写はこれから先の話で組み込まれる予定です。
[リーシャの今後の立ち位置、バハムートとの戦闘等]
特にリーシャの龍眼に関してはこれから先の物語に深く関わって来ます。
リメイクを書いていて思ったのですが、現在13話までの台本形式を消したいので一から書き直しています。
なので、14話からの話は大して変化が無いのです。
この場合どうするべきなのでしょうか。
また新しく投稿し直すのか、それとも今現在投稿中の話を丸々差し替えていくべきなのか……
ご意見下さると助かります。