ゲーム
たった三分間で大量の人間が犠牲になった。
フォロワーが0になった瞬間血を吹き出し彼らはバタバタと死んでいった。それが赤の他人なら良かっただろう。しかし、ハズした人間の中には自分の親しい友人、恋人、家族などいるのが心底憎たらしいと、目の前で死んでいった人間をみて青年は思っていた。
しかし、それは憎たらしいと思うだけであり、実質、死体を見たところで悲しくとも何ともない。恐怖すら湧き上がらない自分の本心に素直に呆れているのが現状だ。
「別に、そんな緊張しなくてもいいのに」
「む、無理ですよそんなこと!!」
ゲームが終わり、無事に生き残った二人はマーブルの指示に従い、腕に記された番号の部屋に向かって歩いていた。
先程のゲームで、或とチホは相互フォローし、お互いの情報を共有したわけだが、今、目の前にいる青年がアルシエルだと知った瞬間、チホは緊張で固まってしまってしまった。
「そんなになんなくても……」
ガチガチに固まっているチホを横目で見ながら、静かに呟いた。
アルシエル。リアアカ内でも名を響かせており、たった一回の歌ってみた動画をあげて以来、一躍有名人となった。歌っていくうちにファンは徐々に増え始め、国内人気アイドル──椎葉 サヤにも認められたと噂されているほどの人気っぷりだった。その勢いは、リアアカに入ってからでも勢いを落とすことなく、フォロワーが少なからず増えていっている。
歩いていると、チホは何度か彼をチラチラ盗み見してから、重たそうな口を開いた。
「にしても……アルシエルさんって、その、アイコン画面と全然違う顔ですよね」
チホが少し申し訳なさそうに或に向かって言った。その言葉を聞いて、少年は無言で俯く。
有名歌い手、アルシエルのアイコン画面に写っているのは、醜い顔をしたデブであった。誰もが引くぐらいの醜さであり、ファンからはすぐさまアイコンを変えて欲しいと殺到したほどであった。
[イメージが崩れる]
[せっかくいい声なのにやめて欲しい]
[マジでデブスじゃんwww]
このアイコンにしてから、一部のファンは嫌すぎて離れてしまうほどのだった。しかし、それでも自分を受け入れてくれている人もいる訳で、青年はそんなファンの人たちに感謝していた。
初めの頃は、友達に描いてもらった自分の絵を載せていたのだが、敢えて今の画像に変えたのである。それはもう一つの自分がそうしたかったからだ。
『やっぱり、人間はクズじゃねーか』
離れていったファンや、自分に送られてきたリプを見て、少年は冷たく言い放った。光の宿っていない軽蔑混じりの冷たい目で画面を見ていたのも記憶に新しい。しかし、もう一人の自分は首を横に振る。
『それでも、残ってくれる人がいる』
実際、殆どの人はアイコン画面を変えようとしないアルシエルに対して、少しばかり不安を抱いてはいたが、今はそんなことを気にすることなく現在進行形でファンを続けてくれている。
そんな状況のなか、早瀬 或の中で二つの意見が飛び交っていた。
『奴らは信用できない』
『顔だけで判断していない』
『どうせ流行に流されてるだけだ。そのうち離れる』
『少なからず残ってくれている』
『表面上だけのクセに』
『本心で喜びたいんだ』
もう一人の自分を鋭く睨みつける自分。正直もうどれが本当なのか分からない。自分とはどんな人物で、どんな性格をしていて、どんな風に見えるのか、全てが分からない。
分からなくなった感情はどんどん膨れ上がり
最後に残った感情は『何も感じない』の一つだけだった。
そんな自分に彼は鼻で笑い、軽蔑し、自嘲した。
「もう、わかんねぇよ」
最後に呟いた叫びの声は、周りの雑音に掻き消されて、誰にも届くことは無かった。
先に進んでいくと、ある場所に着いた。
そこにはステージがあり、ステージ上に何やらボタンがあるらしく、何かを始めるということは或だけではなく誰もが感じ取った。
「ここでも何かやるみたいだな」
「うぅ……少し怖いですね」
チホは先程の大量に死んだ人間を思い出し、身震いした。
下手したら自分もあんなようになっていたと想像するだけで、彼女の脚は恐怖で震え始める。
そんなチホの様子に気づいた或は、黙ってチホを見つめていた。
何て言葉を掛けてあげるのが正解なのか、彼にはわからない。感情が麻痺しているせいで、かなり普通とズレているため、こんな時にどんな慰め方をしたらいいのか、彼にはわからなかった。
だから青年は、今までの経験をフル活用して考えた。その結果、笑顔を作り、チホの背中を摩る選択をした。
ビクっと体を震わせたチホだが、或が自分を落ち着かせようとしてくれている事に気づき、安心したのか優しく微笑んだ。
「ありがとうございます」
落ち着きを取り戻したチホは、笑顔で或にそう言った。何も知らず笑顔で言うチホが、彼は眩しく見えた。本心から自分も笑えたら、どれほどいいか。そんな思いが横切るが、青年は笑顔を崩すことなく
「どういたしまして」
フードを深く被り直して、そう、無機質な声で言った。
「はいどーも皆さーん! この部屋の司会を担当いたします。マーブルの分身、マーブル六号でーす」
その言葉にこの部屋にいる人達がザワザワと口を動かした
「六号ってなに?」
「そんなにマーブルいんのかよ」
「さっさと現実に返せっての……」
様々な人間が自分の思ったことを静かに呟いたり、隣にいる人間に話しかけ始めた。
人という動物は、口々に文句を言ったり誰かと話すことで、心に染み付いた恐怖という感情を誤魔化す。それは人間の性質とも言えるであろう。一度植え付けられた恐怖は一人で抱えるのには荷が重過ぎる。なら、一人で抱えるのではなく誰かと共有するなら怖くない。そう、人間は思うのである。
まさにその状況にあるこの部屋。誰もが不安の渦に飲み込まれていった。
そんな人間をみてマーブルは怪しく微笑んだが、誰も気づくことなく話は進められていく。
「みなさんは、自分のスマホにいったいどんな画像を入れていますか?」
マーブルがここにいる人間に問いかけると、みんなは自分のスマホに目を移した。
「ここでやるのは『悪いいね! ゲーム』です。皆さんのスマホの中に入っている画像を一枚ランダムで選出されます。その画像を第三者目線でどう思われるか予想し、ステージ上にあるボタンを押してもらうというゲームです! 選出された画像を審査するのはこの中継を見ている現実の皆さまです! 参加したから死ぬ……という危険はないので、バンバン参加しちゃって下さい!」
マーブルが言い終わると同時に、周りは一斉に自分のファイルを開いた。スマホ内に入っている画像を消去すべく急いで消そうとするが、マーブルの補足説明でその行動は無駄に終わってしまう。
「今、急いで消そうとしている人……無駄ですよ。ゲーム中は画像を消すことは無可能でーす。あっ、言い忘れていましたが、もし予想が外れた場合はその瞬間フォロワーもろとも
周りが慌てふためくなか、ただ一人平然とした顔でその場に立っているのは、感情を失った少年だった。
彼は自分のスマホに入っている画像を見ては、顔色ひとつ変えることなくスクロールしていた。
「あ、アルシエルさんは、落ち着いていますね」
未だにさん付けなのが少々気になってるようだが、彼は余裕そうな顔を崩すことなくスマホの画面から顔をあげた。
「俺の中にある画像は、いいか悪いかの二択にハッキリ別れてるからな。迷う必要が無い」
そう言い切る或を、チホは尊敬の眼差しで見た。彼から放たれている自信に満ちたオーラは、何度も経験したプレッシャーというモノの乗り越え方を知っているからこそのものだった。
リアアカに限らずで有名になるということは、年齢制限関係なく、いつでも誰かに見られているという感覚が付きまとうことになる。そのため、ちょっとした悪い発言をするだけでも、人気があればあるほど叩かれしまつとなるのだ。
だからこそ、
「あと、アルシエルって呼ぶとバレるから、普通に或で呼んでくれれば嬉しい」
言い終えると彼は、ぐいっとチホの顔に近づいて小さく囁いた。
突然の出来事で、チホの心臓がバグバグと激しく脈打つ。憧れのアルシエルに右耳から小さく囁かれてしまっては、心臓が大きくとびあがるのもムリはない。
彼の整った顔がすぐ近くにあることと、自分の大好きなアーティストが自分に囁いたという興奮と嬉しさで、チホはまたもや顔を赤くした。
それと同時に、彼氏の顔が頭を横切り、罪悪感も生まれる。
「は、はい……或さん」
ぎこちない笑を浮かべて、チホは或から離れたのだった。
「それではさっそく、1201番の人どうぞ!」
「わっ、私ですか!?」
マーブルの呼びかけでハッとするチホ。半歩進んでから或の方に顔を向けて「行ってきますね」そう、一言残してからステージに登った。
「行ってらっしゃい……くれぐれも死ぬなよ」
数少ない、少しだけだが信頼している人物が、この命のかかったゲームで一番最初にやるプレイヤーとなると、心配になるのは当たり前である。しかし、これが本当なのか偽善なのか、本人にもわからなかった。
感想プリーズ