ネットの繋がり   作:元気

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ファァァァアーー!


エゴ

 [顔写真みたいなー]

 [アルシエルさん声いいから絶対にカッコイイよね!]

 [イケメンオーラがでてる]

 

 歌い終わったあと、リアアカで呟くたびにこのような返信がよく送られてきていた。

 

 声だけで勝手に自分で理想絵を想像し、更に期待を高めるファンの人たち。現実逃避するかのように、自分の想像を勝手に押し付けられ、もしその想像以下だった場合、何事も無かったように離れる群衆。

 

 大抵そうである。自分の思っていたモノよりはるかに下回った時、手のひらを返すように罵り、唾を吐く。

 

 

 そんな残酷な世界を生きているアルシエルは、このようになってしまった人達や、望んでいない結末の末、消えらざるをえなかった人をたくさん見てきた。

 

 自分の好きだった歌い手さん。彼はとても歌唱力があり、力強い歌声を披露し、性格的にもいい人間だった。しかし、一部のファンの奴らが、彼の顔写真を見つけた瞬間、灼熱の炎が急速に冷めていくのを目の当たりにした。

 

 [えっ、なにこれwww]

 [めっちゃ、ぶっさいくやんw]

 [うわー ないわー]

 [消えろよw]

 

 

 彼のファンだった奴らは、そのような悪口を言って去っていった。

 

 そして彼本人も、ファンだった人たちが自分から離れていったショックで、歌う活動を辞め、ネットから姿を消した。

 

 

 

 所詮、人間は大抵顔で決まる。

 

 そう確信したのは、歌い手活動を本格的に始める一週間前の出来だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は現在に戻り、今、アルシエルこと早瀬 或は、リアアカ内に閉じ込められていた。

 

 手にはスマホを持って、ステージ上にいる知人のことを静かに見守っている。彼女……藤巻 チホは両手を合わせて、変な画像が来ませんようにと、必死に願っている最中だった。

 

 そしてとうとう、その時がやってきた。

 

 

 

「皆さんご注目、選ばれた画像は〜〜〜これだぁああぁあああ!!!」

 

 

 

「……きゃああああああ!!!!!」

 

 一瞬の沈黙のあと、大きな悲鳴が部屋中にこだました。しかし、チホの叫び声なんか聞こえないと言わんばかりに、誰もが目をモニターから逸らすことなくガン見している。特に男性たちは、口をだらしなく開いたり、眼球が飛び出るのではないかと思うくらいに目を見開いたり、写真に収める者、更には息をハァハァ言わせる者までいるほどだ。

 

 

 

 チホのスマホから選出された画像は、彼氏に宛てた手紙を口に咥え、全裸で自撮りをしたものだった。

 

 彼氏宛に書いた紙には『ユウジくんへ 一ヶ月記念♡ オカズにしてね///』と書いてあり、少し恥じらっているのが分かる絶妙の顔でピースサインし、その紙を咥えていた。

 更に、大人しそうな顔の割に反比例している大きな胸。また、白く細いウエスト。まさに男という男の視線を集めるには充分なボディであった。

 

 当のチホは、飛び跳ねて両手を振大きく動かして隠そうとするが、それも虚しく、モニターがあまりにも大きすぎるため無駄な行動に終わってしまう。

 

「さあ、現実の皆さん、投票をお願いします!!」

 

 マーブルが現実にいる人たちに呼びかける。

 正直、この写真はどう考えても『いいね』で確定だろう。と、青年は軽く安堵した。

 

「見ないで!! これは彼氏のために撮った写真で……」

 

 顔を今までにないくらい赤く染めて、彼女は死に物狂いで飛び跳ねている。正直同情してしまうほど恥ずかしい写真で、今後彼女の黒歴史となるであろう。そう、青年は未来予想図を描き、苦しそうに顔を歪めた。

 

「さぁ、悩んでる暇はありませんよ! 三十秒以内にボタンを押さないと即ゲームオーバーですからね!!」

 

 マーブルが急かすようにチホに向かって言い放つと、チホは今にも泣きだしそうな顔でチラッと、或に助けを求めた。それに気がついた或は、少しばかり申し訳なさそうに首をすくめて、いいねボタンを押すようにジェスチャーする。

 

 現時点で彼に出来ることは、チホのスマホから出た画像を客観的に評価することだけである。

 

 そばに行って助けることも出来なければ、大声で話しかけたところで時間が来てしまう。そうなれば死ぬのはチホのフォロワーである自分だけではなく、自分のファンの人たちも巻き添え死してしまい、或は大量殺人犯以上に人を殺してしまうことになる。

 

 それだけは必ず避けたいため、とりあえず落ち着いて彼女に指示を出したのだった。

 

 

 チホは或のジェスチャーを理解したのか、先程よりも顔を赤らめてコクリと頷き、やけくそになったのか大声で叫んだ。

 

「ちっくしょ────!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 結果、彼女の予想は無事に的中し、クリアすることができた。

 

 圧倒的『いいね!』多数でクリアすることができたものの、あんな恥ずかしい写真が出てきてしまったため、彼女には相当なトラウマが植え付けられてしまっただろう。

 

 

 そんな彼女が、羞恥心で染まった顔を手で覆い隠して、部屋から出ようとすると、背後から男性という男性からの「いいね!」という称賛の嵐を浴びるのだった。

 

 現に或の周りにいる野郎どもは全員親指を立てて「いいね!」と大声で言っていた。それも顔を緩ませて。

 

 

 ……正直、下心が丸見えである。

 

 

「さて、チホはクリアしたことだし、今度は俺の番か……」

 

 青年は拍手していた手を止め、袖を巻くって腕に記された自分の番号を確認した。

 

「1215……か、あと十四人」

 

 

 袖をゆっくりと下ろし、青年はスマホに視線を移し、静かに指を動かした。

 

 高速でタップを繰り返したり、文字を打ったりしている間に、徐々に彼の順番が迫ってくる。率直に言うと彼の行動はこのゲームのクリアとは全くもって関係の無い。しかし、偽善者である青年にその行動は意味があった。それは後に、彼にとって都合のいい方向に持っていくことが出来ることを、少年は知っているからである。

 

 

 

 そしてとうとう、彼の出番が回ってきた。

 

「1215番〜」

 

 マーブルが自分の番号を読み上げたので、彼は自分がやっている作業を一時中断させた。そして、ステージへと顔を向ける。

 

「……行くか」

 

 フードを深く被り直し、彼は堂々と歩き始める。人が彼の進む道を開け、黙って彼を見つめた。

 

 彼は恐れることなくスマホを台にセットし、鋭く目を尖らせる。その目は大きなモニターに向けられていた。彼には自信があった。彼の画像には困るようなモノはない。0か100のどちらかである。

 

 

 そして今回彼から選出られた画像は───0であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱりな。所詮人間はそんなもんだ。

 

 俺はモニターに映し出された画像を見た瞬間、すぐさま『悪いいね』ボタンを押した。

 

 

「おえっ……気持ち悪っ!!」

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 

「なんだアイツ、あんな事してんのかよ……」

「うわぁ……正直ありえない…」

「可哀想」

 

 画像を見た偽善者どもが、口々にそう呟く。俯いて出来るだけ画像を見ないようにしている人もいれば、顔を上げて俺を睨みつける奴もいる。

 

 

 可哀想。そうやって同情したり、この画像を見て怒りが込み上げてくるやつらに限って、いざとなると逃げ腰になるのだ。実際に、このような場面に遭遇したら、殆どの人間は何事も無かったように通り過ぎるだろう。現にそうだった。

 

 まあ、全員がそういう訳では無いと思う。ほんの極一部の人間なら助けてくれるに違いない。問題は、そんな勇気のある奴に出会えるか出会えないかの違いだ。

 

 

「はい、投票が終わりました〜! 結果は……もちろん悪いいねでした! まあ、普通にこの画像は人間性を疑うような画像でしたね〜」

 

 モニターにはこの画像の感想が映し出される。

 

 [最低。マジでありえない]

 [人間としてどうだよ]

 [脳みそイカれてる]

 

 その感想をみて、俺はついつい笑ってしまった。

 

 笑って、とにかく笑って、懸命に叫びたい衝動を抑える。鎖骨辺りにある印を服越しから触った。

 

 

「可哀想って思うなら、次こーゆーの見かけたら必ず助けてくれるんだろうな?」

 

 俺が煽るように言うと、観衆は怒りを爆発させて俺に向かってブーイングをかました。

 

 

 ……まったくコイツらはエゴな奴らばっかだな。

 

 

 

「あたりまえだろ!!」

 

 誰かがそう叫んだ。

 

 

 俺は不敵に笑いながらステージから降りて、近くにいた中年男性に近づき、鳩尾に思いっきり蹴りを入れた。

 

「ぐおっ……!?」

 

 中年男性は鳩尾を抑えて、嘔吐物を吐き出しながら地面に崩れ落ちる。ゲホゲホと、苦しそうに咳き込み、震える。

 周りにいる人は驚き戸惑い、沈黙が走った。静寂な空間に男性の苦しそうな声が響き渡る。

 

 さらに攻撃するべく、俺は無心で男の頭やら背中やらを、躊躇なく蹴り続ける。

 

 躊躇うことに抵抗のないせいか、男性は徐々に弱々しくなっていき、今にも気絶しそうである。ちなみに、誰かが止めるまで、俺はやめるつもりは無い。

 

 

 

 数分間同じことを続けるが、誰も動かずにその場に固まっている状態だ。

 

「まあ、こんなもんだよな」

 

 最後に気絶させるべく、俺はサッカーボールを蹴るかのように、助走をつけて蹴りあげようとした瞬間

 

 

 

 

 

「もういいだろ!!!」

 

 そう、誰かが叫んだ。

 

 

 ピタッと脚を止めた先には、男性を守るように庇い怒りに満ちた顔で俺を睨みつける青年がいた。

 

 

 

 

 

 それが俺と──向井 ユウマとの初めての出会いだった。

 

 

 

 

 




( ˙-˙ )ファァァァァァァァァァァwwwwww

主人公……悪だな

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