ネットの繋がり   作:元気
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お久しぶりです……


生放送

 或は驚いていた。


 まさか始まってたった数分間で、視聴者数が五万人以上になっているからだ。

 自分も生放送を何回かやっていたが、ここまでリスナーが来たことはない。よくて約一万人。少ないときだと百人にも満たない。だからだろう、生放送でこんな人数に見られるのはさすがに緊張した。


 彼は昔の写真を載せてはいるが『アルシエル』本人の顔を露わにしたの初めてだ。まあ、フードを深く被ってはいるが、頭からつま先まで、じっくりとリスナーに見られるのは初経験である。


「……そうだな。せっかく二人組になったんだ、そこにいる駄人の悩みでも解消してやるか」


 [おおっ!! さすが!]
 [いいなー]
 [マルキ様ぁー!!!!]
 [優しいマルキ様hshs(*´Д`≡´Д`*)hshs]

 マルキは後ろを向いて、或を呼ぶ。

「駄人、さっさと来い」
「は、はい」


 裏返りそうな声を堪えて、恐る恐るマルキに近づく或。マルキの隣に静かに腰を下ろし、様子を伺うようにチラチラと盗み見する。いっけん、挙動不審になって落ち着きのないように見える或。

 しかし、彼……アルシエルがこのように慎重に行動するのには、きちんとした理由があるからである。

 マルキのように、ファンが沢山いて誰もが知っているような有名人に、変に馴れ馴れしくしたりすると、リスナー、もといファンにフルボッコにされてしまう結末を知っているからである。ファンが持っている『嫉妬』と言うものは、本当に危険なものである。

 有名人など、手の届くことのない憧れの人は、ファンに平等に振る舞うのが当然。



──だからである。

 少しでも抜け駆けした奴はファンの間で叩かれ、ネット社会で始末されることですらあってしまう世の中なのだ。


 顔を覚えられた。


 話しかけられた。


 友達に近い存在になった。



 その事実があるだけで『嫉妬』という感情が生まれ、負の感情で心が染まる。有名人であればあるほど、その感情は大きくなるのだ。誰もが平等でいないと蹴り落とされる。それが、抜け駆けした罰であり、ルールだ。そういう世界なのである。
 そのルールは、誰もが話すわけでもなく、受け継ぐわけでもない。
 人間の残念で黒い部分を、誰もが持っているから語り継ぐ必要が無いのだ。

『嫉妬』は、この世界では普通の感情と化された。つまり、抜け駆けした奴には罰を与えてもいい。そう、思われるようになる。



 だからネット社会の間で【抜け駆けしない】と言うとは、暗黙のルールとなっている。



 そんな様子を近くでよく見てきたアルシエルだからこそ、このように行動したのだった。


 [そこ変われ]
 [羨ましいー]
 [ずるいー]

 隣に座った瞬間、このような嫉妬コメントがちょくちょく見られた。

 やはりかと。或はある程度予想してはいたので、さりげなく座っている距離を遠ざけた。


「さて……或だったか。何か悩みを言ってみろ。正直耳が腐りそうだが私が相談に乗ってやらなくもない」


 離れたことに気づくことなく、マルキは上から目線で或にそう言い放つ。

 そう言われた或は、頭を掻いて少し悩んでしまった。

「んー、悩み……ですかー。何かあったかなー」


 確実に自分よりも年下の相手に、気を配りながら敬語を使う自分自身に自嘲した。
 確かに、相手の方が圧倒的に有名人で、なおかつ人気者だと理解している。しかしそれでも『アルシエル』としてのプライドが邪魔をする。

 しかし、今の状況を察して誰にも分からないように、静かに息を抜いた。


 チラリと、目線を画面に移して見ると、コメント欄には様々なコメントが流れていた。が、ここで一つのコメントが目に写った。


 [この人、さっきのゲームで凄いこといった人じゃんw]

 そのようなコメントが流れた瞬間、他の人たちも便乗するようにコメントしてくる。


 [あっ、蹴って土下座したイカれた野郎だっけか?w]
 [なにげ正論いってて草生えた]
 [目が死んでて怖かった]


「……ほう、面白そうだな。その事について詳しく聞こうじゃないか」

 興味を持ったのか、マルキは口角を上げ、或の方に顔を向けた。体を前のめりにして、いつでも聞く準備が万端だとでも言うかのように視線を逸らすことなく、或の目を見続けた。

 マルキの目は、興味があることをを包み隠すことなく、キラリと瞳を光らせた。

 その眼と、リスナーから見られているという状況で逃げ場がなくなってしまった事に気付き、或は心の中で舌打ちをして、ニッコリと微笑んだ。


「ちょっと偽善者の奴らに、喝を入れようとしただけですよ。その結果、一人結構な傷を負いましたが……」
「なるほど……偽善者の奴らとやらには、どの人間に向けて言ったのだ?」


 その言葉に、少年はピクリと反応した。


 少年は思った。

 ここでなら、俺は本当の自分をさらけ出すことが出来る。
 今の状況で、俺自身が『アルシエル』と言うことはごく一部の人間しかしらない。

 コレはチャンスだ。

 俺、早瀬 或としてここで思いを伝えればそれでいい。



 しかし、それには大きなリスクが伴っている。

 そう、俺が『アルシエル』だと知った時のファンの反応である。
 俺が人間を蹴っていた。という事実は変えられることではない。たとえ、本人に許しを得たとしていても、同じ人間を虐めていたと言う事実だけで、全ては決まる。

 だから、もし、ここで少年の本質をさらけ出したとして、後にネットで正体がバレたら……






「ふっ、だからなんだよって、話だな」


 ギラり。

 誰にも聞こえずに、空気に溶け込んだ言葉は、どこか棘を持っていた。


 鋭く尖った眼にはハイライトはなく、まるで人が変わったようになった。
 今更ビクビク恐れていた所で、何も変わらない。
『アルシエル』というヤツが或だとバレるのも時間の問題だ。ここ、リアルアカウントにいたら尚更である。
 偽善者が嫌いで、でも、自分が偽善者でいる。そう言う矛盾に違和感を感じなくなったのは、歌い始めてからだったな。
 そんなことを思いながら、或は口元に弧を描いた。

「あぁ、あの時あの場にいた間抜けズラの、クズ人間共にだ」
「ほう……」


 コメント欄で、煽ってくるような文字が見受けられたが、或はそんなことなんか気にすることなく続ける。

「アイツらは、俺の画像をみて酷いといったんだ。そして、俺がヤツらに挑発した。そしたらなんて言ったと思う? アイツらは逆ギレしながら『虐められているヤツらがいたら助ける』なんてほざきやがったんだぜ? だから、心から思っているかどうか、実験したってわけ」

「……そうか」



 仮面を外し、本性を露わにした少年に、マルキは興味が湧いた。
 先程の優しい人とは思えない、優しい目から一変、鋭く尖った刃みたいな目には、復讐の因縁がチラリと見える。
 荒ぶった口調には、躊躇いなど一切感じない。むしろ、傷つけるためだけにあるのではないかと錯覚するようだ。



 そして、何より驚いたのは、この人も、自分の素が分からなくなっていることだ。


 自分を偽って、偽って、偽って、偽って。

 出来上がったのがさっきの優しそうな人間。でも、本当の自分ではなくて、仮面を被り、素顔を誤魔化すピエロ。
 誰も知らない、誰も知ることのないピエロの素顔は、いつしか自分ですら本物が分からなくなって、偽りを本物と思い込む。

 しかし彼はまだ、心の柱があるお陰で、自我を保てている。まだ、自分を見失っていない。


 ──マルキ(わたし)と違って。


 マルキは、少し羨ましいと思った。マルキととても似ていても、まだ、自分が残っている彼……早瀬 或を。

「【類は友を呼ぶが同一ではない】か……」

 そう、彼女は呟いたのだった。







コレからはちょっと余裕が出来たのでちょくちょく更新します!
(話数を溜めるので亀更新です)






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