IS DESTINY ~蒼白の騎士~   作:ELS@花園メルン

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強化人間

SIDE イチカ

 

 

俺の偽者。

束さんは確かにそう言った。

 

 

「どういうことなんですか?束さん」

 

『そのまんまの意味なんだよ、いっくん。

いっくんの偽者。顔、声、体格全てがいっくんの生き写しのような感じだった。

でも、どこからか突然フラッと現れたの。

当然、家に帰ったからちーちゃんや一緒にいた中国人は泣いて喜んでたんだよ。

だからこそ、そいつが偽者だって言えなかった。

そんなこと言ったらちーちゃん達、絶対に壊れてしまうから。

それに、何の確証も無く言ったとしても信じて貰えないだろうからね。

だから、仮にこっちへ戻ったとしても、言い方はアレなんだけどいっくんの居場所は今は無いの。

けど、もし戻るときが来たら束さんに任せて!

戸籍や住むとこなんかはこっちで何とかするから!』

 

「そうなんですか…。

今の俺が会いに行ったところで千冬姉たちには却って混乱させてしまうってことか。

 

なら、議長。

あの装置が完成したら向こうの世界のフリーダムについての調査を私に任せてください」

 

「ああ、無論そのつもりだ。

こちらの世界から現時点で唯一移動できるのはイチカだけだからね。

我々の世界から流出した物が被害を及ぼすのであれば、その尻ぬぐいはこちらで行うべきことだ」

 

『なら、いっくん。

こっちはいっくんが帰って来れるように、それと帰ってきたときの為にバックアップの準備を整えておくよ。

それと、出来ればそっちでのいっくんのデータを送れないかな?

そうすればこっちでいっくんの力になれるものを作れるかもしれないからさ』

 

 

ということで、俺の機体のデータから俺の機体のOSや各種データを束さんに対して送った。

 

 

「それでは束さん、そっちはよろしくお願いします」

 

『いっくんも、気を付けるんだよ!!』

 

 

そうして、通信は切れた。施設の調査もある程度終了し、一度、引き返そうと思った矢先に、MSが接近してくるアラートが鳴った。

 

 

「地球軍か!」

 

「シン、イチカ、アスランは迎撃を頼む。

レイ、君は奥にいる調査隊に退避の指示を」

 

「「「「了解」」」」

 

 

俺たちはそれぞれの機体に乗り込み、システムを立ち上げた。

すると、メインカメラが敵の姿を確認した。

敵は二機でガイア、アビスだった。

 

 

「アウル…、それじゃあガイアにはスティングかステラのどちらかが…」

 

『シン、俺とガイアへ攻撃を!

イチカはその間のアビスへの陽動を頼む』

 

『分かった!』「了解」

 

 

俺はアビスへビームライフルを放つ。

 

 

「アウル!」

 

 

なるべく施設から遠ざけるために、俺は射撃で牽制しつつ機体を押し出し、そのまま接触回線で通信を行った。

 

 

「たった二機で一体どうするつもりなんだ、アウル!」

 

 

俺は、時間を稼ぐためにもそう問いただした。

 

 

『――が…』

 

「え?」

 

 

小さい声のため、あまり聞き取ることができなかった。

 

 

『母さんが!母さんがぁ!!』

 

「母さんって、いったいどうしたんだよ!!」

 

 

あの施設にはそもそも誰もいなかった。

ならアウルの言う【母さん】って一体…?

兎に角、動きを止めさせるしか!

 

 

『邪魔すんなよ!母さんがあそこに!』

 

「話を聞け!

お前の母さんはあそこにはいなかった!そもそも、誰もいないんだよ!!」

 

『うあぁぁぁぁ!!』

 

 

駄目だ、話を全く聞いていない…。

けど、動きが単純になってる。

冷静さが無い今なら!!

 

 

俺は、フラッシュエッジビームブーメランを投げた。

それはアビスのビームランスで弾かれるが、冷静さを欠いていることで一振りは大振りなものになっていた。

だから俺はその隙を突き、両腕をデファイアントビームジャベリンを両手に持ち、切り裂いた。

更に、メインカメラを破壊し、抵抗しそうな要因を潰した。

 

が、腕と頭部を失ったアビスは未だ暴れまわるので、仕方ないと思い、コクピット部分を殴ることで衝撃を与え、気絶するように追い込んだ。

 

 

「こちらイチカ。

アビス及びそのパイロットを沈黙させました」

 

『了解、こちらも――シン!?何をやっている!』

 

 

と、アスランの驚いた声が聞こえ、そっちを見やるとシンがガイアから少女を引っ張り出しているのが見えた。

彼女にも俺は見覚えがあった。

アウルと一緒にいた少女【ステラ・ルーシェ】だ。

彼女もアウルと同じようにガイアに乗っていたということだろう。

で、シンはステラをインパルスへ乗せ、ミネルバに向かって飛んでいった。

 

 

『ああ、くそっ!何をやってるんだ、シンは!』

 

「アスラン、こっちのアウ―――アビスのパイロットはどうすれば?」

 

『アビスの収容は後で行うとして、パイロットが生きているのならミネルバへ運んでくれ。

俺が話を通しておく』

 

「分かった」

 

 

俺はアウルをアビスから引きずり出し、怪我が無いかなどの確認をした後、ジャスティスへ乗せミネルバへ連れて行った。

格納庫へ戻ると、アスランが既に連絡を入れておいてくれたからなのか、担架の手配がされていた。

俺はアウルを背負ったまま、コクピットから降りる。

当然ながら、地球軍の兵士をザフトの船に連れ込んでいるので、警戒はされていたが、意識が無いのを確認したら、医療班が医務室へ運んでいった。

 

結果として、ステラとアウルを連れ込んだ俺とシンはアスランの指示と言うことと奪取された機体の鹵獲ということでグラディス艦長の御叱りのみで済まされた。

とはいえ、これまで散々、俺たちを苦しめてきた機体のパイロットということもあり、皆警戒していた。

 

 

 

医務室で静養しているアウルとステラは外傷は軽い打撲などで済んだのだが、衰弱が酷かった。

理由としては、二人が地球軍の生体CPU【エクステンデッド】であることが原因だろうと、ロドニアの研究施設で得たデータを元に明らかになった。本来、エクステンデッドは精神暗示装置を用いてその体を調節する強化人間らしいのだが、その装置が無ければ精神的にも身体的にも悪影響を及ぼすようだ。

それを聞いた時のシンの顔はとても辛そうな顔だった。

 

ディオキアの海で遭難していた時にシンはステラと一緒にいた。多分、その時に共感したんだろうなと俺は思う。

一時期、ステラが眼を覚まして暴れだしたときも抱きしめ、「大丈夫、俺が守る」と言い聞かせていた。

 

 

俺とシンは二人を助けたことで議長に呼ばれた。

 

 

「二人が助けた連合のエクステンデッドだが、このままではどちらも衰弱死するだろう」

 

「そんな…、どうにかならないんですか!?」

 

 

と、シンは議長に訴える。

 

 

「だが、方法はある。

それは君たちだってわかっていることじゃないのかい?」

 

 

そう。

その方法を俺たちは知っている。

地球軍に二人を帰すことだ。

でも、それはつまり、戦場に出てくる様に向こうが調整してくる可能性もある。

 

 

「はい…。

でも、ステラを、これ以上戦いの中に置いておくことは俺は嫌なんです!!」

 

「だが、それ以外に方法が無いのも事実だ。

選んでほしい。

君たちは、彼女たちが生きる可能性に賭けるのか、命の尽きるその時まで見守るのか」

 

 

俺は、アウルが最後まで苦しみながら死ぬのを見たくない。

関わった時間はそれほど長くない。

でも、失いたくない大切な友達だと思える。

だからこそ、アイツには生きていてほしい。

 

 

「議長、俺はアウルを、アイツを地球軍へ送り帰します。

アイツには生きていてほしいから…。

でも、地球軍がアウルを兵器として戦場に駆り出すのだとしたら、アイツは―――俺が撃ちます」

 

「イチカ…」

 

「分かった。

君はどうする、シン?」

 

 

シンにとってもこれは酷な選択だと思う。

自分が守ると誓った人を敵とも言える相手に帰すのだから、そうなればきっと、また戦うことになるだろうから。

 

 

「すみません、俺、まだ答えを出せません」

 

 

シンの拳は震えていた。

多分、アイツも心で揺らいでるんだと思う。

 

 

「そうか。

なら、決心が着いたのなら報告してほしい」

 

 

俺たちはミネルバへ戻り、二人の様子を見に向かった。

アウルとステラは暴れださない様にと拘束具をされ、ベッドに寝かされていた。

俺たちが部屋を訪れ、声を掛けても二人は目を覚まさなかった。

 

 

そして、ミネルバはそんな二人を乗せたまま次の戦場へ向かう。

次の戦場でもきっと、フリーダムが出てくるんだろう。

あのフリーダムと束さんの言っていたフリーダム。

 

今になって出てきたあの二機に一体どんな関係があるかは分からないけれど、世界を混乱させるならアイツは、俺が…

 




アウルもロドニアにステラと奇襲を掛けて来れたのは、単純にスティングがアウルを止められなかった、というだけです

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