IS DESTINY ~蒼白の騎士~   作:ELS@花園メルン

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刹那の思い

SIDE イチカ

 

 

ミネルバがジブラルタルへ向かう途中、以前議長に言われていた連合のエクステンデッド【アウル・ニーダ】の処遇について、連合へ引き渡すことでその命を繋いでもらう、ということになり、俺はグラディス艦長へ申し出た。

 

 

「つまり、彼を連合の元いた部隊へと送り帰す。

そう言うことで良いのね?」

 

「はい。

シンが保護したステラとアウルの二人の内、一人は治療を行うことが可能ですが、もう一人は今の設備では余裕がないということで二人を生かすために、俺は地球軍と接触しようと思います」

 

「そう…。

議長の賛同を得られているのであれば私からは何も言わないわ。

でも、危険が伴うのではないの?

こちらがいくら貴方一人で行くと告げても向こうが部隊を展開していたら、それこそ貴方が捕まる可能性だってあるのよ?」

 

「その危険もあるでしょう。

でも、下手に数を連れて刺激する方が却って危険だと自分は思います」

 

 

グラディス艦長は少し悩むと、

 

 

「いいわ、許可します。

向こうへの連絡はアビスの識別コードで通信を送るというので良いわね?」

 

「はい。

許可していただき、ありがとうございます」

 

「良いのよ。

でも、必ず戻りなさい」

 

 

俺はアウルを連れていくため、病室へと向かった。

医務官には事情をあらかじめ説明してあったので、連れ出す際の補助をしてくれて助かった。

 

 

「識別コード、ヴィーノ送っておいてくれたのか。

あいつ等にもお礼を言わないとな…」

 

 

俺は機体を発進させ、アビスのコードで地球軍に連絡を取る。

 

 

【こちらはザフト、ミネルバ所属の者だ。

アウル・ニーダを保護している。

彼の身柄をそちらへ引き渡したい。

そちらの部隊の指揮官一人で来てほしい。

場所は――――】

 

 

といった通信を送り、指定した場所で待つ。

途中、アウルが眼を覚ました。

 

 

「あれ…僕…?」

 

「起きたのか、アウル」

 

「母さん…?」

 

「俺は、お前の母親じゃないよ。

ってか、俺男だし性別違うからな?」

 

 

アウルの眼はまだ虚ろというか、しっかりと前を見れていない感じだった。

 

 

「僕、どうなるの…?」

 

「大丈夫だよ、お前はこれから家へ帰れるんだ」

 

「家?母さん、待ってるかな…?」

 

「きっと、待っててくれてるよ。

だから、それまで寝てていいんだぞ?」

 

「ああ、ありがとう、イチカ……」

 

 

そう言って、アウルはまた眠りについた。

再会したときは俺のことを覚えていないようだったけど、記憶操作の暗示が解けかけてるってことなのか?

 

 

指定したポイントへたどり着いた俺は、機体のシステムを警戒モードで起動し、向こうの接触を待っていた。

すると、接近する機影を一機確認し、確認すると色の違うウィンダムだった。

ウィンダムは俺の機体から離れた所へ着陸し、コクピットを開くと、仮面の男が機体から降りてきた。

 

俺もアウルを抱え、そのまま機体を降りる。

 

 

「アウル…」

 

 

仮面の男は俺が背負っているアウルを見ると、そうつぶやく。

 

 

「こいつを死なせたくないから帰すんです。

だからこそ、約束してください。

こいつを、ちゃんと家族のいる暖かい生活を送れる場所へ帰すって!」

 

「…家族のいる、というのは承諾しかねる。

アウルの親は既にこの世には存在しない。

だが、暖かい生活を送らせる、ということは何とかしてあげよう」

 

 

親がいない…そういう意味では俺もアウルも似ていたのか…。

 

 

「…あ……ネオ?」

 

「目が覚めたのか、アウル」

 

「僕…」

 

「今は話さなくても大丈夫だ。

それと、ザフトの兵士君。

アウルに最後何かを言ってやってくれるか?」

 

「…わかりました。

アウル、ちゃんと治して来いよ?

そしてちゃんと平和なとこで暮らすんだぞ?

そしたらまた、バスケなんかやろうぜ」

 

「イチカ…、おう、そうだな」

 

 

それだけ言うと、俺は機体へ戻りシステムを通常モードへ移行してこの場を離れた。

 

これであいつと二度と会えなくなったとしても、これが正しい選択だったはずだ…。

 

俺はそう強く思うとミネルバへの帰還の道を一気に駆け抜けた。

 

 

 

NO SIDE

 

 

薄暗い部屋。

一人の青年が俯き、悩んでいた。

 

 

「アスラン…どうして、君は…?」

 

「いつまで悩んでいる、スーパーコーディネイター」

 

「そんな風に呼ばないでくれ!」

 

「アスラン・ザラは敵になった、それだけだろう?

今までも敵として戦っていたことがあったんだろ?

なら、元に戻っただけじゃないのか?」

 

「ッ!違うッ!そんなことない!

いくら君が、ラクスの認めた人だからと言っても、それ以上は――!」

 

 

そう、怒りながら振り向く青年。

しかし、少年はその青年の眉間に銃を突きつけた。

 

 

「それ以上は、何だ?

敵であるなら撃つ、それだけの筈だ。

ラクスの敵になるというのなら猶更な」

 

「…でも、アスランは」

 

「やれやれ、ラクスが知れば嘆くだろうな…。

自分の騎士がかつての友と戦場で銃を向け合うだけでこうもヘタレるなんて」

 

 

と、皮肉気に少年は青年にそう言った。

 

 

「それで、君は一体なんの用でここに来たっていうのさ?」

 

「地球軍の部隊がベルリンで展開しているそうだ。

こちらの補給が終わりしだい、殲滅に向かうぞ」

 

「殲滅じゃない…。

だって、僕は誰も殺してなんか…!」

 

「ミゲル・アイマン、ニコル・アマルフィ、ラウ・ル・クルーゼ」

 

「!?」

 

「そして、フレイ・アルスター。

皆、お前が関わって死んだ人なんだろう?

何が不殺だ。お前は十分に人殺しだろう?」

 

「違うっ!僕は!」

 

 

そう、否定する青年に少年は暗示を掛けるかのように、つぶやく。

 

 

「お前は人殺しだ。

それはお前自身が良く分かっているはずだ。

認めろ、スーパーコーディネイター。

お前の価値は戦いの中でこそ見出されると。

ラクスだってそれを望んでいるさ」

 

「――ラクスも…?」

 

「ああ、今もお前の為に新しい剣を用意してくれてるだろう。

だからこそ、お前はその為にも自身の力を見せつけるんだ。

それがラクスの為にもなる」

 

「僕の…力が、ラクスの…?」

 

「ああ。

だから、次こそは殺せ。アスラン・ザラを、群がる敵を」

 

 

青年の眼から光が消えていくように見えた。

そして、青年はポツリポツリとつぶやく。

 

 

「アスランを…、敵を…殺す…。

それが…ラクスの為に……」

 

 

少年は部屋を出て、自分に割り当てられた部屋へ向かう。

 

 

「お前にとってのラクスが、今のお前を見たらどう思うのだろうな?キラ・ヤマト。

そして、向こうでもこちらでも、漸く動くことができる。

織斑一夏…お前の存在を潰すことで、俺の俺たちの存在意義が証明される」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

地球連合軍の基地にて。

ネオ・ロアノークは一人の少年をベッドに運ぶ。

 

 

「?おい、ネオ、何だよコイツは?」

 

「お前の兄弟さ、スティング」

 

「兄弟?俺にそんなのいたのか?」

 

 

緑色の髪の青年【スティング・オークレー】は運ばれている衰弱した少年を見てそう言った。

 

 

「それでネオ?

コイツ連れて帰ったけどどうするんだ?」

 

「何、当てはあるさ。

確か、この基地にロールアウトされた新型があったな。

それに彼を乗せるのさ」

 

「な!?あれは俺にって言ってただろ!?」

 

「スティング、安心しろ。

お前の機体もちゃんと準備が進められている。

だから、きちんと帰って来るんだぞ?」

 

「ああ、任せとけって」

 

 

そして、運ばれた少年はカプセルベッドの中に放り込まれる。

 

 

「ロアノーク大佐。

どのように処置を施しますか?」

 

「ふむ。

では、ここ最近の記憶の消去。並びに、ロドニアに向かって見た光景を私が言うとおりに調整できるか?

内容は――――」

 

 

そう言われ、研究員は装置を操作し、ベッドを起動した。

 

 

「さあ、目覚めたら今度こそ、暖かい世界の為に戦おうな、アウル」

 




これで次回からベルリンでの戦闘に持っていけそう…な気がします。

そしたらそろそろあっちの世界での物語を進めてもいいかなって思います。

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