IS DESTINY ~蒼白の騎士~ 作:ELS@花園メルン
SIDE イチカ
デュランダル議長のロゴスに対しての宣戦布告とも言える発言より二日。
ベルリンの被害状況の確認や被害者の救出などに尽力していたミネルバは一度、補給のためにジブラルタルへ戻った。
俺はその際、議長に呼ばれ執務室へと足を運んでいた。
「失礼します、議長。
それでお話とは一体?」
議長は執務室の窓から外を眺めていたので、その顔をうかがうことはできなかった。
しかし、こちらへ向くとフッと微笑み、話を始めた。
「ご苦労だったね、イチカ。
先日の戦いの連続で疲れているだろうに」
「いえ、結局あの巨体を倒したのはシンですから…」
「アウル・ニーダがパイロットだったというのは、レイから報告を受けている。
ロゴスとはやはり、その様な行いを罪もない子らへ強要しているのだな。
…それで、君をここへ呼んだ理由だが、例の装置が完成した。
よって君にはミス・シノノノと共に君の世界でのフリーダムについて調査を行ってもらいたい」
「あれができたのですか!?
で、ですが、今は平和の為にロゴスと戦わなくてはいけない時です。
なのでまずそちらを片付けるべきでは?」
「無論、その通りだ。
だが、君たちの世界のフリーダムの元凶が仮にロゴスだとしたらそれこそ、そちらの世界のために動かなくてはならないはずだ。
それに、イチカ。
君が抜けたらミネルバは危険に陥るほど、君の仲間は弱いのかい?」
「そんなことありません!」
「それと、ミネルバに戻ってきてもらったのは、君を含め新しい機体を受領するためでもあるのだよ。
君の機体は君の成すべきことを終えた後での受領になるがね」
それならば、俺のやることは向こうの世界でフリーダムを探し、必要ならば倒すだけだ。
それに千冬姉たちの所に現れたっていう俺の偽者についても探らないといけない。
「分かりました。
その命令、必ずやりとげてみせます」
すると、議長は翼のバッジを俺に渡してきた。
ザフトの特務隊の証であるFAITHのバッジだ。
「うむ。
では、君が独自に動けるようにこれを渡そう。
これから君には特務隊として、向こうで動いてもらう。
とは言っても、あまり向こうでは意味はなさないがね。
ミネルバ所属のまま動くよりかはクルーの者にも怪しまれず動けるだろう。
それでは私は、新しい機体を受け渡すので、そちらへ向かうが、君はどうするかね?」
「俺も向かいます。
事情を知ってる人には別れを言っておきたいので」
「そうか、ではついて来るといい」
急な特務隊の任命に些か戸惑ってはいるが、やるべきことをやる前に向こうへ向かうのは――と、思い俺は議長に付いていった。
ジブラルタルのMSハンガーへ向かい、そこには既にシン、レイ、アスラン、マユが待っていた。
四人は議長に敬礼し、議長の指示でやめるが、俺の胸に付けているフェイスのバッジを見て驚く。
「イチカ!お前もフェイスになったのか!?」
「ああ。
その事について皆に話すことがあるんだ。
俺は向こうの世界に戻ることになった。
シンやアスランはロドニアで俺と向こうの世界の知り合いの話を聞いてたから分かると思うけど、向こうに現れたフリーダムの調査、それに必要な装置が完成したらしい。
だから、俺は議長の命を受けてその対処に向かおうと思うんだ。
あっちは俺が生まれた世界だ。フリーダムが何をやろうとしているのか分からないから、俺がそれを確かめるんだ」
「そっか。
なら、お前の留守は俺たちがカバーするさ!」
「そうだな。
それに、お前が抜けたくらいで負けるようなことはそうそう無いだろう。
以前にも、お前とマユがいないことがあったが、何度も切り抜けているからな」
「むしろ、お前が戻って来る時にお前の場所が無くなってないか俺は心配だぜ」
と、シン、レイに言われた。
「事情は把握した。
けれど、向こうで何が待ってるか分からないんだ。
そちらも気をつけてな」
「ああ」
と、アスランに激励の言葉を貰った。
「…行っちゃうんだね。
って、別にそんなもう一生会えないって訳じゃないよね?」
「当然さ。
少なくとも俺は行き来することができるみたいだし、きっと戻って来るさ」
「うん!
じゃあ、さよならじゃないね!
行ってらっしゃい!」
「ああ、行ってきます」
そう言って、マユとハイタッチを交わした。
「…なあ、アレどう思う?レイ」ボソッ
「…俺は良い感じだと思うがな。アスランは?」ボソッ
「どうだろうな。
イチカがどう受け取っているかにもよるし、マユの気持ちも俺には分からないからな。
二人次第と言った所か…」ボソッ
と、三人が何かを言っていたが、無視しておこう。
「イチカ。
それでは君には準備の後、再びここへ戻ってきてもらおう。
既にこちらの準備を済ませてある。
後は、君の準備とミス・シノノノの方の受け入れが完了次第、任務を行ってもらう」
「分かりました!」
俺はミネルバへ戻りグラディス艦長へ事情を説明し、別れを言ってから準備を始めた。
NO SIDE
イチカがハンガーを出て、残ったシン、アスラン、レイ、マユの四人は議長から新機体を受領していた。
ライトが点灯し、4機のMSの姿が現れた。二機は姿は殆ど似ているが、一機は全くの新型、最後の一機はインパルスに酷似していた。
「まずはシン、君からだ。
【ZGMF-X42S デスティニー】。
君のインパルスから得たデータを元に君用にカスタマイズが施されている。
武装はインパルスの各シルエットを参考にしている。
確認してくれ」
「は、はい!ありがとうございます!」
シンはデスティニーへ乗り込み、そのスペックを確認し始めた。
「続いてはレイ。
【ZGMF-X666 レジェンド】だ。
かつて、ラウが乗っていた【ZGMF-X13A プロヴィデンス】の後継機だと思ってくれていい」
「ラウの?
ありがとうございます、議長」
「クルーゼ隊長の…」
レイ、アスランはレジェンドを見て、自分の兄のような存在、上官のことを思い出していた。
レイもレジェンドへ乗り込み、機体のチェックを行った。
「続いてはアスランだ」
「はっ!」
「そう固くならなくていい。
君の機体はシン同様にデスティニーだが、これは戦死したハイネ・ヴェステンフルスが受け取る予定だった機体だ。
機体名は【ZGMF-X42S REVOLUTION デスティニーR】だ」
「ハイネの?」
「本来、彼を主体とした部隊を編成する手はずだったが、それも行えないまま彼はこの世を去ってしまったからね。凍結するつもりだったが、君のセイバーもかなりの損傷を負っているだろう。
受け取ってくれ」
「…一つお聞きしてもよろしいですか?」
「何だい?」
アスランはギルバートに真剣な表情で訊ねた。
「この時期での新型、恐らくですが核エンジンを搭載していますね?」
「ああ、その通りだ。
条約で禁止されていたという事実も無論承知している。
が、それはロゴスとの戦いにおいて必要なことだと私は思っている。
ベルリンの時の惨劇を未然に防ぐためにもこれは必要なことだ。
それに、ロゴスを解体させたら、これらの機体は全て放棄するつもりだ」
ギルバートはそうアスランに話す。
「…わかりました。
この機体、確かに俺が受け取ります」
アスランは機体に乗り込み、システムやOSの調整を開始した。
最後にマユへ渡す機体に体を向け、デュランダルは説明を開始した。
「最後にマユ、君の機体だ。
【ZGMF-X56S/F デスティニーインパルスF】
君が乗っていたF・フリーダムを発展させたスペックを開発途中だったデスティニーインパルスへ採用したものだ。
この機体は単機でも充分な火力を発揮できるが、イチカへ渡す予定の機体との連携が前提の機体だ。
二人そろって渡す予定だったが、イチカはしばらくここを離れるからね。
君に先に渡すことになってしまったが、存分に振るってくれたまえ」
「はい!」
マユはデスティニーインパルスへ乗り込み、機体情報を目に通し始めた。
「これ…、インパルスの比じゃない…!
それに【ハイパーデュートリオンエンジン】、【ミラージュコロイド】だって!?
条約違反を承知でこの機体を造ったっていうのか…。
これ、振るう相手を間違わない様にしないと…」
シンは自分に託された機体のその恐るべき性能を目で確かめ、強力な力を振るうことに少し戸惑いながらも、その責任をしっかりと感じていた。
「ラウの機体の発展型か…。
俺に扱えるのか―――いや、彼ができたのなら、俺だってやってみせる」
レイはラウのことを思い出し、その強さに負けない様に戦うことを胸に誓っていた。
「デスティニー、それにこれはミラージュコロイドか…。
まるで、ハイネとニコルと共に戦っているみたいだな…。
議長は、未然に防ぐためにこの力を俺たちへ託したんだ。
その意思を無駄にしないためにも、俺は戦うさ…。
キラが一体、何を思っているのかは分からない―――けれど、向こうが撃って来るというのなら俺はそれに立ち向かうまでだ」
アスランはかつて共に戦った戦友と機体を託したデュランダルと、たくさんの人の思いに応え、親友と戦う事を決意していた。
「これ、性能が凄すぎる…!
それに、【機動兵装ウイング ドラグーンⅡ】。
機体の方で自動操縦みたいだけど、扱えるのかな、私に…?
ううん、託されたんだもん。
機体性能に見合うように私が頑張らないと…!
イチカが戻ってきたときに笑われちゃうもんね!」
マユは自分の機体の情報を見て、その性能、武装に驚くが、それに見合うパイロットになれるように自分も強くなると誓い、長く共に戦った相棒に恥じない様に戦うことを決意した。
SIDE イチカ
俺はミネルバにて荷造りを進めていた。
と言っても、束さんの方である程度の支度が行われていると思うから大した量では無く、自分が使っていた銃や端末などの最低限なものを揃え、再びハンガーへと戻った。
ハンガーにはさっきいたときと違って、新しい4機のMSにライトが当たっており、それらがシンたちの機体だと俺には分かった。
「議長、お待たせしました。
私はいつでも行けます」
「ああ、分かった。
それではこちらだ」
俺が議長に案内されたのは、ハンガーの隅にある少し大きめな装置の前だった。
「これが、束さんから言われていた装置ですか?」
「ああ、彼女の才能には恐れ入るよ。
敵に回っていれば恐ろしいと思えるくらいにね。
それでは、そこの台座に乗ってくれ。
後は君の生体情報を読み込むことであちらの世界へ飛ばすことが可能なのだそうだ」
「はい。
では、行ってまいります。
議長、こちらの事、よろしくお願いします」
「任せておいてくれ」
俺は台座へと上がると、装置が作動し、俺の身体を読み取っていった。
「イチカ!」
すると、マユが俺のところにやってきた。
「後は装置の方で行ってくれるだろう。
私は外しておくよ」
と、議長はこの場を離れた。
「必ず帰ってきてね!
じゃないと、私、寂しいから…!」
「ああ、分かってるさ。
それに、向こうに俺の端末を持っていくから、束さんに頼めば連絡が取れるようにしてくれるさ」
「じゃあ、これは無事に帰って来られるようにおまじない!!」
そう言って、マユは俺にキスをしてきた。
「私、待ってるから、帰ったら答えを聞かせてね!」///
「…あ、ああ」
俺は急なことでそんな言葉しか出てこなかった。
そして、俺の身体を装置から発せられる光が包み、俺の目の前は真っ白に塗りつぶされた。
『あなたが、織斑一夏ですね?』
(誰だ?――千冬姉に似ている?)
『最初の搭乗者が彼女だからでしょうね。
外見は彼女を参考にさせてもらっています。
私は、コアナンバー001【白騎士】と、貴方がたが呼んでいるISのコアです』
真っ白な世界で俺の目の前に現れた千冬姉に似た女性は自分を白騎士だとそう答えた。
(て、ことは【白騎士事件】の時の白騎士って、千冬姉ってことなのか?)
『ええ。我が創造主の友人である彼女を乗せ、私はミサイルを落とすために戦いました。
ですが、その結果ISは軍事利用に扱われ、本来の目的である宇宙利用が行われなくなっています。
…そして、白騎士事件と呼ばれた事件の日。
ISという存在のすべてが始まった日。ミサイルを撃ったのは創造主という情報が流れ、自作自演と世界では言われてますが、それは間違いです。
ハッキングを行い、今の世の中へと誘導するためISの力を見せつけようとした人物は別にいます』
俺は白騎士から信じられないことを聞いた。
束さんに罪を着せた黒幕が存在すると、白騎士は俺に教えたのだ。
(それって、俺が探そうとしているフリーダムと関係しているのか?)
『その可能性は否定できないでしょう。
それで、織斑一夏。
あなたにはその真実を追っていただきたいのです。
創造主の為にも、そして世界の為にも』
俺は唐突すぎて、少し戸惑っている。
【世界の為】という、スケールの大きい出来事にまで発展しているとは思わなかったから。
それに、その存在が俺の探しているフリーダムに関係している可能性もある、という事。
もしかすると、全てが一つに繋がっているかもしれないということもあるのかもしれない。
(分かったよ、白騎士。
俺がその真実を暴いて見せる)
俺は白騎士へそう宣言した。
『―――そうですか。
ありがとうございます、織斑一夏。
では、貴方のご武運を祈っております』
そう言うと、白騎士は姿を消し、真っ白な世界は徐々に薄れていった。
「いっくん!いっくん!!」
「…ここは…?」
目の前には俺の知り合いで向こうの世界で姉の親友だった【篠ノ之 束】さんがいた。
「成功したんだよ、いっくん!
いっくんは帰ってきたんだよ!自分の世界に!」
「!本当だ!
本当に移動することができるなんて…!」
「いっく~ん?束さんを舐めすぎだよ?
まあ、疲れていると思うからまずは休んでもらわないとね!
でも、その前におかえりなさい!!」
「はい、ただいま!」
イチカは無事にIS世界へと戻りました。
ここからはIS世界編となります。
その前に、各種設定を一回、上げようと思います。
それと、シン、レイ、アスラン、マユの機体を新機体へと変更です。
それぞれの武装なんかは後日、設定で上げますので、お待ちを・・・!