「なかなか揃わないもんだな」
太刀川さんが小南先輩の左手に手を伸ばし、1枚のカードを取る。
生駒さんの紹介により、ボーダー攻撃手ランク1位であり、個人ランク総合でも1位……つまりボーダー隊員で一番強い太刀川さんと会えることになった。流石に紹介してくれたその日に会うことはできなかったけど、2日後の今日に会ってくれることになり、今こうして太刀川隊の作戦室に来ている。
「相手の手札も多いからじゃない? 分かんないけど」
「あんまり関係ないと思うけどね……さて、次は夏川ちゃんの番か。太刀川さんの取って」
「はい」
そしてその場には攻撃手3位小南先輩も同じ玉狛支部の迅さんも来てくれた。
……来てくれたと言うのは違うかな。私が来た時に太刀川隊の作戦室に2人が居た。何でも小南先輩が、「ほら、この前のうやむやになったじゃない? 別にあたしが負けたわけでは絶対にないけど、あたしがジョーカー持って終わったのが気に食わない」ということで、迅さんも連れてババ抜きをしに来たらしい。そこで、「折角だし夏川ちゃんもやる? 」と迅さんに言われ私も参戦する運びとなった。
もしかしたらA級の凄い人たちに囲まれて何遊んでるんだと友達に言われてしまうかもしれない。でもそれは違う。
2日前の生駒隊の訪問で思ったことがある。関係のないものに取り組んだときにも学ぶことがないか探す姿勢が必要なのではないかということだ。
確かに、生駒隊がB級3位になれた理由が、ボケとツッコミとノリでないことは事実だと思う。そう、ツッコミと仲間との連携の関係性はない……でも、いやだからこそ、私は思ったんだ。
関係のない事柄だからこそ、そこから学べることがないかを探す姿勢が重要なんだって。
そのことを隠岐先輩に言ったら……
「強くなろうっていう姿勢はいいんじゃないかな? 間違ってはいないと思うよ」
と言ってくれたし。
ただ彼女は知らない。隠岐がその後、「こう否定したら、そういう結論になるのか……でもまあ気づけて嬉しそうな顔してるし、これはこれでいいのかな? 間違ってないと思うしね」と呟き、溜息をついたことを。
だからこそ彼女は嬉々としてこのババ抜きに参加したのだ……そう、全て学ぶために。
「……ふふ、1組揃いました」
「マジか、やるなー」
私が引いたカードは、ハートの8だった。私の左手にはスペードの8がある。ババ抜きは同じ数が揃ったときに、カードを捨てられるルールだから、これで手札が減ることになる。
とはいえまだ序盤。1枚捨てたところでリードしたなんて言えない。相手はさっき小南先輩のジョーカーを1枚ちょっと上に上げる作戦に引っかからず、普通のカードを引いた猛者だ……裏の裏だと思ったんだけどな。流石だ、相手がどうくるかを読んでるんだ。
「さて、次は俺か。夏川ちゃん、いい? 」
「あ、すいません。どうぞ」
私が太刀川さんの方を向いたままだったので、迅さんが声を掛けてくる。
この人も要注意人物だ。小南先輩にジョーカーを引かせた張本人。小南先輩が左端のカードを引こうとしたとき、「小南的にそのカード引かない方がいい」と言って不敵な笑みを浮かべた策士。その結果、「その手に乗るわけないでしょ、バカね」とジョーカーを引かせた……流石に支部の仲間。どう動かせば、どう動くかをきちんと計算に入れている。
「……うん、やっぱり」
「夏川ちゃん、どうかしたの? あ、1組揃った」
「いえ、なんでもないです」
私の手札を1枚引いた迅さんが2枚のジャックを捨てるなか、私は悟った。
これは、単なるババ抜きじゃない。ボーダー攻撃手の上位陣が揃ったババ抜きなんだ。そこに発生するのは、作戦の立案とその作戦の読み合い。個人ポイントの増減こそないけど、これも立派な戦いとなるんだ。これは単なるお遊びではない。関係ないなんてことはないはず。今だってそうだ。
「俺的に真ん中か、小南から見て右から3番目を取るのがいいと思うよ」
「う、うっさいわね! ……っていうかあんたはもう関係ないでしょ、迅! 」
今も私の横に座っている迅さんが小南先輩を挑発している。何の作戦なのかはすぐには分からなかった。
…でも迅さんの次の言葉で分かった。
「『もう』なんて言ったら、どこにジョーカーあるか分かるぞ、小南」
「なっ! 」
呆れたように溜息をついた迅さんの言葉により、小南先輩は「ヤバッ」と言った後に口を大きく開ける。
これはきっと小南先輩をイラつかせて動揺を誘った上で、自分の思通りに動かす作戦。思ったらさっきのジョーカーの時にも小南先輩を思い通りに動かしていたもんね……気づけて良かった、警戒しなきゃ。とりあえず迅さんの口車に乗らない! って頭に入れないと。
「安心しろ、小南。俺もとっくに気づいてるから」
「なっ! 」
たぶん太刀川さんも迅さんの意図に乗っかろうとしたんだと思う。不敵な笑みを浮かべた後、ドヤ顔で言い放つ。
「いやいや、小南。バレバレだから……ね、夏川ちゃん? 」
「え……」
太刀川さんの追加攻撃の後、迅さんが私に話を振る。
迅さんの作戦に太刀川さんも乗った。理由は1つ。小南先輩の手札を引くのが太刀川さんだからだろう。もし小南先輩を思い通りにできれば、ジョーカーを引かなくて済む。ジョーカーさえ引かなければ、早く上がることができる。そして太刀川さんが上がった後は、順番的に私が小南先輩のカードを引くことになる。
……ということは、私もこの作戦に乗れば、ジョーカーを引かなくて済むことになるってことだと思う。
もし迅さんに裏があったとしても、太刀川さんが先に上がったとしても、この作戦に乗るのは吉とでるはず。
そう思った私は、小南先輩の方を向いて元気よく言う。
「はいっ! 引いたときの表情で丸わかりでした! 」
「なっ! ウソでしょ……この子には絶対にバレてない自信があったのに」
小南先輩は口を開けたまま項垂れる……下を向いていて最後の方は聞こえなかったけど、ダメージを与えられたのはきっと事実だと思う。
でもいくら動揺させることが成功されたからといっても、すぐに思い通りになるわけじゃない。だから……
「んで、小南。どれがジョーカーなの」
「言うわけないでしょ、バカじゃないの」
直接的な言葉では絶対に無理。
「ほう……これか」
「……いいんじゃない? どれでもいいから引きなさいよ」
太刀川さんだってそんなこと分かっている。だからこそ反応を見ようという作戦に切り替えたんだと思う。
3周目で少し分かったことがある。それは、小南先輩は少し嘘つくのが苦手ということ。でも反応を見るという作戦は、私だってすぐに思いついた。そんな小手先レベルの作戦はすぐに対策されるに決まっている。実際小南先輩はそっぽ向いて、太刀川さんの手が見えないようにしている。これなら太刀川さんが何を引こうが、小南先輩の反応は分からない……いや分からないのは私だからみたい。隣に座っている迅さんが笑顔だし……この人策士じゃない、きっと悪魔だ。
「知ってるか、小南……」
「な、なによ」
私が迅さんの怖さに気づいたと同時に、太刀川さんが小南先輩に喋りかけていた。
……そういえば、生駒さんが言ってた。
「トランプって10秒以上相手のこと見ない時間が続くと負けらしいぜ」
「えっ、そうなの!? 迅! 今何秒よ! まだ10秒じゃないよね!? 」
「8秒くらいだな。
何でも、相手の心も読んでいるんじゃないかと思われるこの迅さんと実力が拮抗している化け物らしい。
「知らなかった。そんなルールがあるなんて……」
「よし、じゃあ引くぞ」
「い、いいわよ。来なさいよ」
今だって小手先レベルの作戦ではなく、小南先輩を自分の土俵に持ち込んでいる……私もそんなローカルルールがあるなんて知らなかったし。
きっと小南先輩が来ることが分かった段階でババ抜きをすることを予測し、懸命にババ抜きの穴と作戦を立てていたんだ。相手に対する予測とそれに対する準備を怠らない。きっと小南先輩がババ抜きを選択した時点で太刀川さんの勝利が確定していたんだと思う。
「おー、揃った。ラッキー」
「あーもう、何なのよこのルール! 」
そんなことを事前にする人で、他人のことを操る悪魔と実力が拮抗している人。それがボーダー攻撃手ランク1位太刀川慶という人なんだ。
「あ、そうだ……小南」
「次は何よ」
私が太刀川さんの凄さに気付いている横で、太刀川さんと小南先輩の戦いは続くと思ってた。でもそれは違った。
「今の嘘だから。ババ抜きにそんなルールないから安心しろ」
それは太刀川さんの発言によって終わったからだ。
「なっ! 」
「え、ウ……ソ」
小南先輩だけでなく、私も驚いてしまう。
「ちょっと騙したわね、このヒゲダルマ! 今の無効でしょ! そうでしょ、迅! 」
「そういうローカルルールがあったわけじゃないんですか? カードを取り合うゲームだから、そういうルールもあるんだと思ってました……」
小南先輩が勢いよく立ち上がり、私の隣にいる迅さんに抗議をしている。
そんななか、私はというと2日前の水上先輩の言葉を思い出す。確か……
「確かに詐欺とかの犯罪だったら、騙すのは悪いわ。でもほら……ランク戦なら、敵に悟られないのは重要だと思う。シューターは味方の援護する役割やし。いやまあ、確かに悪気しかないけど」
……とかそんな感じだった気がする。
直接聞いたわけではないけど、今回のババ抜きは単なるお遊びじゃないはず。さっきも思ってたことだ。これは立派な戦い。騙し騙され勝ち進まなくてはならないものである以上は、騙したからアウトなんてことないんだと思う。
「小南……俺たちの勝負に言い訳は無しだろ」
「迅……あんた、何カッコつけてんのよ、たかがババ抜きでしょ」
迅さんが真剣な表情で小南先輩に言っているのだから、きっとそういうことなんだ。
「小南、あれだ。たかがババ抜き……」
小南先輩が呆れた表情を浮かべていることを確認して、太刀川さんも小南先輩の方を向いて真剣な表情で言う。
言葉を止まったときに、太刀川さんはこっちを見てくれる。たぶん私に意図が伝わったのかを確認してくれたんだと思う。ババ抜きをする前に如何に騙すかも考えるような人だ。きっと私が知らないだけで、このババ抜きの間も私のことを気にかけてくれたに違いない。太刀川さんが期待してくれている以上は、期待に応えないとね。
「されどババ抜きですよ、先輩」
私も小南先輩の方を向いて真剣な表情で言う。
その言葉を聞いた小南先輩は、私の方に右手を伸ばしデコピンをした後に、溜息をついて言う。
「あたしより枚数多い子に言われたくないわよ」
……分かってる。小南先輩より枚数だけ考えたら多いのは事実だし。
「……先輩だけには負けるわけにはいきません」
「へぇ、言うじゃないの」
そうだ。太刀川さんの戦いを見させてもらい、学ばせてもらったのに現在ビリを争っている小南先輩に負けてしまいましたでは話にならない。
「あんたがあたしに勝とうなんて10年早いわよ」
「知ってますか、先輩? そういうの死亡フラグっていうんですよ、友達が言ってました」
小南先輩だって強敵だ。太刀川さんと迅さんが2人で協力して挑んでいる相手なんだ。まだ隠している作戦があるはず……ジョーカーだけ上げる作戦だって、私は騙された。それ以上のことで来られたら絶対に太刀打ちできない。
「あんたの方こそ、死亡フラグよ。それ」
小南先輩が不敵な笑みを浮かべてこちらを見てくる。
「……ふふ、余裕を持っていられるのも今だけですよ、先輩」
きっと私も同じ表情をしているだろう。
この勝負に勝って友達に報告するんだ!
「小南も夏川ちゃんもまず俺らを倒してから言ってね」
「そうだな」
その後、夏川も小南も迅と太刀川にコテンパンにやられたのは言うまでもない。
特に何も決めずに書き始めたのが、2日前。
太刀川と餅で書き始めようと思っていたはずなのに気づいたらババ抜きをしてただけで5000字近くいったのでいいかなーと思い、切り上げました。
今回は気づきイベントが小さすぎたなと個人的に反省しています。気づきイベントが小さいとこの子の良さが活かせないことに3話目で気づきした。
まあ、あれです。小南メイン回を書く前に小南を登場させた方がやりやすかったので書いた回になります。
というわけで次は、小南……と言いたいですが、誰か挟みたいなと思っています。
誰か絡んで欲しい人いたら言ってください。よろしくお願いします。
ではではー