底辺プロトレーナーぼく、明日から頑張る 作:ねこまんま
ポケットモンスター、縮めてポケモン
人々は時に仲間として
時にペットとして
時に戦友として
共生し助け合いながら生きている
特にこの世界で最も重要で圧倒的人気を誇るモノはポケモン同士を戦わせて勝敗を競うポケモンバトル。若き少年少女の多くは最強のトレーナー達の一角である地方チャンピオンになるべく旅をして挑戦資格を得る第一開門のジムバッチを集めるのだ。
そしてそんな星の数ほどいる未来あるトレーナーの中の一人、厳しい修行の末に鍛えあげられた屈強なポケモン、百戦錬磨のバトルの末に身につけた冷静な指示、強さに溺れることなく顕著に高みを目指す鋼の意志を持つ
まさしくチャンピオンになるべくしてこの世界に産声をあげた若きポケモントレーナー
この物語は今はまだダイヤの原石でありながらも未来のチャンピオンになる男の話などではない・・・
ただのクズニートが1日1日を気紛れに退屈に言い訳を垂らしながら日々を消化していく日常を纏めたある意味、斬新で作者の闇すら感じるコンセプトの作品である。
***
〜キンセツシティ〜
僕はミントである、定職はまだない
人は生きる為に働くのか、それとも働く為に生きるのか、その答えを探すことに1日を消化する忙しくも充実した日々を送っている。
僕の父はとてもできた人である。ジムリーダーというトレーナーにおいて圧倒的勝ち組のステータスを持ちながらも不遜な態度をとることは僕の知る限りで一度もない。趣味はジムの改造をしながら後継者の育成に力を注ぐこと。本職では数多の挑戦者の越えるべき強固な壁として立ち塞がることである。
頭部からバルビートの“フラッシュ”が如くまばゆき閃光を常日頃から発し続けているとしても理想の父として誇りに思えてくるはずだ。
いつの日かその壁が顕微鏡の反射鏡のように僕の目を保護してくれることを願っている
彼と出会ってから不自由なく生きてきたし、ほとんど楽しいことばかりだった。このまま時が永遠に止まれば良いのにと常日頃から思っている。もちろん永遠にニートでいたいからではない、僕はただ定職を持ちたくないのだ。
父は僕が働かないことが悩みのタネのようだが、大人でありながらも子供のような心を持ち続けることも大事だと思わないのだろうか
彼は己にあった仕事に勤めることで幸せを感じる日々も悪くないのだ。がははは、がはははと人生の先人たる有難い言葉を頂いた。だが考えてもみて欲しい。
幸せとは自らが探して手にするようなモノではない、なんでもないような日常を幸せだと感じる心を手に入れるべきだ。むろん感受性が豊かなこのミント(14歳、ニート)はギャルゲーに勤しむ日々を幸せだと感じている。
まぁ冗談という名の戯言はさておき私は父の事が好きであり関係も良好である。反抗期という定義で曖昧化した子供の
そんな父は今日も新たなチャレンジャーを阻むキンセツジムのジムリーダーとして君臨している。そのころ僕はリビングで料理番組を見ていた。
“ニャースのねこまんま教室”、これは名番組と言ってしまえば過言である。だが個人的にはかなり好みだ。料理研究家のマダムが自身のペットであるニャースと前日の残り物の料理を新たな料理へと生まれ変わる様を放映している。例えば肉じゃがをカレーへと作り変えるといった按配だ。ここまでは完全なテンプレ番組だと思われがちである。しかし僕が楽しみにしているのは料理でなく料理ができて試食をするシーン、実はニャースはマダムの料理が好きでないのだ。僕の偏見では手の込んだ手料理は苦手らしい。
ニャースは主人の使い回し料理は食べたくはないのである。だがニャースはテレビというモノを理解している。当然のことながら視聴者にマズいとは思わせてはいけない。とにかく美味いと言えばいい、それが料理番組なのだ。つまりニャースが料理を食べてから一瞬だけ見せる不快な表情がすぐさま一流の高級料理でも食しているかのような満足げな顔へと変化するのである。
ミントはこの瞬間がたまらなく好きだった。彼は人より観察眼に優れており、常人では見逃すような変化を捉えることができた。この番組は半年ほど続いているがニャースの至福のひとときというような顔を見たさに視聴率は比較的高いためしばらくは楽しめそうだ。
今日は前日の残りであるパンバンジーの茹でてある鶏胸肉の切り身を使った料理だった。軽くレンジで温めてほぐしてツナ状にした後にマスタードとマヨネーズをパンに挟んだサンドイッチである。そしてサポーターであるアナウンサーが見栄えと工程を台本通りに語ると試食の時間だと言った。ニャースはご機嫌そうな顔で微笑みながらも目だけは笑っていなかった。そしてそれを口に含む瞬間にピンポーンという音が家の中へ響き渡る。玄関の方振り返ったことで何時ものニャースの表情を見れなかったことに悲しくなるやむを得ないとして客人が誰かを見に行った。
客人が来る予定はないはずだ。僕自身は誰も招いていないし、父の客ならばジムへ行くはずだ。どうせアルセウス教の勧誘だろう。
かつて『貴方は神を信じますか?』と言われた事がある。当時の僕は勧誘(セールス)という概念を知らなかったためにドアを開けてしまったのだ。素直に『神なら人が働くことなく幸せだけをもたらせると思うので、いないと思います。』と答えた。やはり今の僕とは違いあどけなき純粋な頃もあったのだな、と感じずにはいられない。
僕はそんな思い出にふけっているとドアの前にまで着いていた。セールスの時のために居留守を使うために足音を立てることなくドアに備えられているレンズを覗き込む。ドアを挟んで目の前にいたのは僕と父の知り合いである小さな女の子であった。額を出すように分けたさらさらの黒髪はピンクのリポンで留めてツインテールにしており、灰色のワンピースにピンクのカラータイツを履いている。
ミントは二重にロックしてある鍵の施錠を解いてドアを開けた。僕は洒落気のないジャージであるが彼女にはそこまで気を使わないでもいい間柄だと勝手に思っている。
彼と目があった少女はツツジ、カナズミシティのジムリーダーである。年齢は12歳、僕の二つ下ではあるが、同じトレーナースクールに通っていたことと彼の父と同業者であり、なおかつジムがカナズミトンネルとシタゲタウンを挟んだ所にあるため交友関係は良好なのだ。
ツツジは気の抜けた表情をしているミントを見て少し微笑みながらビシッと人差し指を立てて彼を指差しつつ口を開いた。
「さぁ出かけますわよ!」
彼女はいつもこうなのである。僕が引きこもり兼ニートになってから定期的に訪れ外へ連れ出そうと頑張っている。トクサネのホエルコウォッチングやミナモのサファリ、ルネで海水浴などを企画して連れて行ってくれた。だが2次元の世界に足を踏み込んだ僕はこの程度では揺るがない。
彼女はトレーナーズスクール時代から僕を気にかけてくれている。当時は僕が9歳で彼女は7歳だった。兄の後ろを着いて行く健気な妹のような関係である。何故か気に入られて学生時代の大半を彼女と過ごすと、僕が2年だけ先に旅へ出た。
しかしなぜだろう?僕の
養ってください
願わくばギャルゲーを浮気に含めないで
彼女はそして今日も何かのツアーを企画してやってきた。僕としては急な彼女の訪問でさえも嬉しいものだし、楽しくなかった事は今まで一度たりともなかった。
だが今日は行けない、真夏の太陽が昇り紫外線という名の無慈悲なレーザーが僕の皮膚組織へ侵攻を開始したのだ。
「ごめん。今日は日焼けするから、また今度ね。」
僕はスマートに理由と謝罪をして今日は行けないと旨を彼女へ伝えて、ドアノブに手をかけて扉を閉めようとする。
僕は日焼けが嫌いなのだ
なんかガンで早死にする気がする
「むぅ、しょうがな・・・くないですわ!」
ツツジは一瞬だけ僕の理由に納得しかけたがそうはいかなかった。彼女はドアノブを掴んでドアが閉じられるのを防ぐ。
「え、日焼け対策で学校を休む事って忌引きと同じ扱いだよ。知らなかった?」
「・・・。そんなルール知らないですわ!ってか貴方は女子ですの?」
ドアを閉めようとするミントは隙間からツツジへ諭すように声をかける。余りにも清々しい戯言に彼女は再び流されかけるが、あと一歩及ばずだった。
「私だって日焼け止めぐらい持ってます。でも今日は必要ありませんわ!」
彼女は少し趣向を変えて“ひみつきち”でゆったりと過ごす予定であった。引きこもりの彼を連れ出して外気に触れさせるより、外でありながらも安心できる室内の方がいいのではないかと考えたからである。
無言で彼はドアを閉めようとしているため外出は乗り気でないのだと感じたツツジは更に趣向を変えようと提案をする。
「じゃあ、ポケモンバトルをしませんこと?久しぶりにお手合わせしたいですわ。」
こう見えてもミントはポケモンを持っており世話だけは欠かさずにしている。体調に応じてご飯にきのみを加えたり、ブラシングをする。旅へ出た経験は無駄ではなかったとは言えるだろう。
「ジムリーダー様にニート如きが太刀打ちできるとでも?」
「うぅ・・・」
ミントとツツジはトレーナーズスクール時代には特別許可証を有しており、何度もバトルを重ねたのである。当時はミントの圧勝であったが威張ることはなく、彼女のポケモンの特訓を手伝っていた。ミントの世話と負けず嫌いな性格から気づいたらジムリーダーにまで上り詰めていたのである。
遥か高みに登った彼女がバトルを提案すれば強者の余裕に感じ取られても仕方ない。だがスクールで最も強かったミントが2番手であるツツジにバトルを申し込んでいたから、彼をバトル好きと思い込んでいたのかもしれない。仮にそうだとしても無気力ニートが自ら勝ち目のない戦をするだろうか?つまりツツジは戦術を読み間違えたのである。
ツツジは目をウルウルさせながら泣くのを堪えていた。ミントは少し意地悪をし過ぎたのである。10歳を超えて大人であるとはいえ心と身体はまだまだ子供なのだ。
ミントは少し焦ってドアを閉めるのを断念してツツジを慰めようとする。だがその瞬間を偶然通りかかった近所の悪ガキに見られていた。子供にとってニートは大人の恥であり、決して大きなお友達という認識でなかった。
「うわぁ、女の子を泣かせてやがる。
虫網を持っているヤンチャな子供はニヤニヤしながら口を開く。
「ニートに外面なんか要らねえよ、どうせ外なんか出ないからw」
ミントは軽く鼻を鳴らして言い返す
「うわぁ〜、社会のゴミだ!底辺だ!」
「るせぇガキ、俺にも人権はあるんだよ」
「生きる権利はあっても義務はねぇよ、ばーかばーか」
悪ガキはそう言い放つと走って逃げて行った。最近、子供の突く悪態がえげつなくなっていっている気がする。どこの悪い大人に影響されているんだと彼は思った。世の中は本当に荒んでいると感じざるを得ない。清き心の日本人はどこへやら・・・
「ぐすっ・・・少し出直してきます。」
ツツジは涙を拭いながら形勢を立て直すべきだと戦略的撤退することに決めた。
「でも必ず私が兄さんに引きこもりをやめさせてみせますわ!」
ツツジは目をキリッとさせてミントに宣戦布告のように言い放つと走って何処かへ行った
あ、久しぶりに兄さん呼び、頂きました
昔みたいにお兄ちゃんに戻してくれないかな
***
そんなこんなで時計の針が12時を回っている。食事の時間だ。
我が家のニートの朝は早い。なぜならポケモンの朝食を用意する必要があるからだ。だが仕事や学業に専念する必要がないので二度寝をする。結果的にニートの朝は実に遅く、10時頃に目を覚ます。朝食は朝に取らず昼に朝昼兼用の食事取るのである。
ミントは彼の持つポケモン達にご飯を用意すると冷蔵庫を開いた。料理は得意であり家事も卒なくこなしてくれるためテッセンは強く働けと言えないのである。医者からは血圧が高く肥満気味と言われているが酒はやめられない。せめて料理は野菜を中心に摂りたいのだが当人は業務で忙しく不得手であるため外食となってしまう
危険ゾーンとセーフゾーンを行ったり来たりしている彼にとってニートは必要だった
その事をミントは理解しており、健康に気を使うメニューにしている。米は雑穀米にして揚げ物は一切出さず、野菜中心のメニューにしているためテッセンと同じ食事を食べるせいで彼自身は痩せていた。
ミントが冷蔵庫を開けると、すぐに食べられそうのはカボチャの煮物とコンビニ弁当だけだった。テッセンは若者向けでなく自分よりのメニューになってしまうために1人の時は外食代を渡すつもりだったが、ミントはコンビニ弁当で十分だと言った。遠慮したのではなく外出したくないからである。
彼はテッセンのセレクトした塩唐揚げ弁当を手に取るが
そして30分後、彼はベットとトイレを行ったり来たりする羽目になった。その後、無気力人間が本当の意味で無気力に倒れていると引き返してくれたツツジに看病して貰った
ツツジちゃん、まじ天使
ぜひとも