鎮守府のイージスⅡ~Marine Mission~   作:R提督(旧SYSTEM-R)

12 / 13
どうも、SYSTEM-Rです。このところ忙しく、間が空いてしまい申し訳ありません。長らくお待たせしました。今回は、この物語において海兵隊がみらいたちの重要なパートナーとなった、その理由が明かされます。その理由とは?それではどうぞ。


第四章:再起動(中篇その1)

 「ゲッ、なんでよりによってあんたが私の隣なのよ。イギリス人同士、ウォースパイトと一緒にいればいいでしょ」

 着席したビスマルクは、さも当然のように隣に座ってきたアーク・ロイヤルの姿を見て思わず青ざめた。いわゆる「ビスマルク追撃戦」において、艦載機の魚雷攻撃によって自身の舵を破壊し轟沈の伏線を作りだした彼女は、ビスマルクから見ればまさしく天敵中の天敵である。もちろん、今回の作戦にも彼女を仲間として連れてくる気など毛頭なかったのだが、同じ王立海軍出身のウォースパイトに「必ず戦力になるから」と強引に押し切られ、やむなく一緒に渡ってくる羽目になったのだった。

 「ハッハッハ、私が隣に座って何が悪い?これから同じチームの一員になる者同士が一緒になったところで、何の問題もないだろう」

 当のアーク・ロイヤルは、そんなビスマルクの胸中を露知らずに笑い声をあげる。気さくで誰に対しても好意的なのは彼女の良いところなのだが、いかんせん人間関係には鈍く自分がビスマルクのトラウマを蘇らせていることには、てんで無自覚なようである。

 「あんたの顔を見るとね…、こっちは色々と嫌な過去を思い出させられて精神的にしんどいの。お互いに艦艇だった70数年前、あんたが私に何したか忘れんじゃないわよ」

 「嫌な過去…?何の話だ」

 「こんな時にだけ都合よくすっとぼけないでよ…!!あぁもう、とりあえずその忌々しい複葉機をとっととしまいなさい。邪魔よ」

 ビスマルクは思わず声を荒げた。彼女の言う「忌々しい複葉機」とは、王立海軍がかつて絶大な破壊力を持つ切り札として用いていた「ソードフィッシュ」である。どういうわけか、アーク・ロイヤルはビスマルクに迫る際はいつもこの機体を直掩機として発艦させていた。その意図はともかく、ソードフィッシュのエンジン音を聞くだけで自分の最期を思い出してしまうビスマルクにとっては、まさしく「顔も見たくない存在」だろう。

 「あんたがそんな物騒なものを飛ばしてくるからこそ、こっちは逃げたくて仕方ないんでしょうが!!何でそう察しが悪いn…」

 「何を言っている、普通に声をかけただけでビスマルクがすぐ逃げ出そうとするから、こっちは仕方なくこいつを展開させているだけなんだぞ」

 アーク・ロイヤルは、何ら悪びれることなくビスマルクの顔を見つめる。そこに、今度はビスマルクと同じドイツ勢のグラーフ・ツェッペリンが割り込んできた。艦艇としてはそもそも就役すらしなかった、艦娘たちの中ではかなり珍しい経歴の持ち主である。

 「たとえどんな事情があるにせよ、空母が戦艦に向けて艦載機を発艦させればそれは戦闘態勢に入った証拠だ。それくらいの道理も貴官は理解できないのか。まったく、淑女の国だと言いながらとんだ蛮族だな」

 「何だと!?」

 思わずアーク・ロイヤルが気色ばんだその時。

 「はい、そこまで。これから大事な話し合いをしようって時に、大人気ないわよ3人とも。じゃれあうなら後にしてよ」

 そこで、誰かがその声とともに手を叩く音がする。3人が同時にその方向に振り向くと、そこにはみらいがしかめ面を浮かべながら立ちはだかっていた。全員の視線がその姿に集中する。

 「じゃ、じゃれあうってみらい、あのねぇ…」

 「あのもこのもないわよ。仮にもあなたがヨーロッパから連れてきた艦娘でしょ。過去に何があったかをここで根掘り葉掘り聞くのは差し控えるけど、これから一緒に作戦に参加する者同士なんだから仲良くやってよね」

 みらいの有無を言わせぬ強い語調に、ビスマルクは思わず黙りこくってしまった。返す刀で、みらいはアーク・ロイヤルとグラーフにも厳しい言葉を投げかける。

 「あなたもあなたですよ、アーク・ロイヤルさん。味方に向かって艦載機を飛ばす艦娘がどこにいるんですか。警戒されて当たり前です。お互いに仲良くしたいなら、そんなものに頼らずに歩み寄ってください。グラーフさんも仰ることはもっともですけど、そうやって無用な一言で相手を煽るような真似はよしてください」

 「むぅ…」

 まだ何やら不満げな表情を浮かべたままの、アーク・ロイヤルとグラーフ。だが次の瞬間、2人の顔は驚きとともに同時に別の方向に向けられた。

 「みらいには無暗に歯向かわないでおいた方がいいわよ、2人とも」

 声の主はワスプだった。その口調は依然としてあっけらかんとして軽いが、口にする内容はいたってシリアスそのものである。

 「老婆心ながら同じ空母として忠告させてもらうけど、その子に喧嘩を売るのだけはやめておきなさい。彼女は対空戦闘をやらせたら右に出る者はいないイージス艦、この場にいる空母全員が束になっても敵う相手ではないわ」

 この私を、たった1発の誘導弾で火だるまにして海に沈めたのが他でもない彼女なのよ、とワスプが付け加えた言葉に、2隻の空母は目を見開いたまま再びみらいの方に顔を向ける。黙って一度力強く頷いた彼女の姿に、さすがの2人も思わず戦慄の表情になった。すかさず、ワスプはそんなアーク・ロイヤルとグラーフに向かって畳みかける。

 「私たちは何のために遥々日本までやってきたの。彼女たち日本の艦娘や海兵隊の助けとなる為であって、70年前の延長戦を繰り広げる為ではないでしょう?今の私たちはもう敵同士ではないのよ。そんな下らない争いを繰り広げて恥を晒す暇があるなら、自分たちがこれから立ち向かうべき敵をどう倒すかを考えなさい」

 「うっ…」

 最早何も言い返せない2人は、悔しそうにしばし唇をぐっと噛み締める。やがて、先にグラーフの方が口を開いた。

 「さ、先ほどの言葉は撤回させてもらうぞ。すまなかった」

 「私、こそ…」

 アーク・ロイヤルも渋々それに応じて頭を下げる。それを確認したみらいは、ワスプの方に顔を向けて目だけで「ありがとう」と礼を言った。すぐに、「どういたしまして」という返事が向こうからは返ってくる。お互いに言葉は交わさない無言でのコミュニケーションだが、双方が言わんとすることはしっかりと伝わっていた。

 「さて、それじゃあ今度こそ始めるとしようか。日本国海兵隊一等海佐、第一海兵艦隊司令兼駆逐艦『海皇』艦長の長峰一平だ。こちらにいるのは、同じ海皇の副長兼砲雷長である二等海佐の高城渚。今回は事情によりここ台湾の高雄基地に集まってもらったが、普段は2人とも内地の千葉県館山市にある館山基地に所属している。一佐、二佐という階級名は恐らく聞き慣れない者の方が多いだろうが、君たちがかつて所属していた海軍で言うところの大佐や中佐だと思ってくれ」

 一旦は立ち上がったみらいも含め、ようやく全員が着席した計36名の艦娘たちを前に、壇上に立った長峰は語り掛けた。その若々しさからは想像もつかないほどの階級の高さに、主に海外から来た者たちが目を丸くする。彼の後ろには、プロジェクター用の真っ白なスクリーンが見えていた。

 「まずは今回、これだけの艦娘たちにこの場に集ってもらったことに心から感謝したい。本来ならば自分も参加したいと願っていたにもかかわらず、様々な事情でそれが許されなかった者もきっといるはずだ。それを思えば、君たちがここにいること自体が非常に意味のあることだと思う。海兵隊を代表して礼を言わせてもらいたい。ありがとう」

 長峰はそう言うと、深々と頭を下げる。数秒後、再び顔を上げた彼の表情はより一層引き締まったものになっていた。

 「だが、それでも君らの中にはもしかしたら、こんなことを考えている者もきっといるだろうな。『海軍バリの航洋能力を持つ日本の軍とはいえ、陸上戦闘を本分とするはずの海兵隊が何故自分たちに協力を呼び掛けてきたのか』と」

 「何故って、海軍は今まさに中東の最前線にいて自分たちの指揮を執っているだけの余裕がないから、じゃないの?この間、お店に来た時にそう言ってたじゃない」

 「確かにそう言ったが、実はそれだけが理由じゃないんだ。そもそも、今は俺たち海兵隊も一部の部隊は中東に派遣されている。たまたまそれが、俺が率いる第一海兵艦隊ではないというだけでな」

 首を傾げたあすかの言葉に、長峰は何やら意味深な笑みを浮かべながら頷く。その次の瞬間、彼が言い放ったセリフに艦娘たちは思わずどよめいた。

 

 「実を言うとな…。君たち艦娘を国防の最前線から追いやり、今のこの状況に追い込んだのは他でもない、俺たち日本国海兵隊なんだよ」

 

 「海兵隊が…」

 「私たちを国防の最前線から追いやった…!?」

 長峰の脇で話を聞いていた高城と、かつて才原から直接それを聞かされていた大和が思わず顔を歪める中、艦娘たちは一様にお互いの顔を見合わせる。海軍に所属していたはずの自分たちが、何故海兵隊の働きかけによってそこを去る羽目になったのか。何度考えても話のつじつまが合わない。

 「どういうことだ。まさか戯れで言っているのではあるまい。説明を願おう」

 物静かながらも、はっきりとした口調でそう問いかけたのはグラーフだ。

 「俺たち海兵隊は、日本国防軍四軍の中でも特に『少数精鋭』を是とする軍種だ。陸海空全ての戦力を統合運用する能力を持ち、そしてその全てが他三軍それぞれに匹敵するだけの練度を有している。中小国相手なら、例えばうちの海上戦闘部隊は他国海軍と殴り合ってもそうそう負けやしない。それこそが俺たちにとっての最大の強みだ」

 長峰はそう言うと、そこで不意に苦笑いを浮かべながら肩をすくめてみせた。

 「だが、そんな俺たちにも弱点はある。『単独で長期的に作戦遂行能力を維持することが出来ない』というね。陸海空の3部門で予算を分け合う以上、当然それぞれの部隊規模は小さくなる。単発の戦闘だけなら俺たちだけでもなんとかなるが、他の三軍による十分なバックアップなしには、長期間にわたる戦争をやり抜くことは覚束ないというわけさ」

 上陸作戦は、普段はそれぞれ全く別のフィールドで戦う軍種同士が連携して臨まなければならない、非常に複雑極まるものだ。単純に陸海空軍をそれぞれ投入したとしても、意思疎通や連携に失敗すれば戦端を開くどころか、自軍が大ダメージを負うことも避けられない。だからこそ、最初の突入部隊としての海兵隊の存在は重要な意味を持つ。

 海兵隊が陸海空軍の支援なしには作戦を継続できないのと同じように、陸海空軍も海兵隊の突入なしにはフィールドに足を踏み入れることは出来ない。日本国防軍という組織が傘下に収める四軍は、その意味でまさに持ちつ持たれつの関係にあるわけだ。

 「対イスラム同盟掃討作戦において、敵陣営の根底にあるのはイスラム教という、世界で2番目に大規模な宗教だ。彼らの主張に共鳴している奴らが世界規模で広がっている以上、この戦いがごく短期間で終息する見込みは薄い。場合によっては数年を費やすことだって想定しなきゃならないだろう。そうなれば、俺たち海兵隊の力だけで何とかするのは不可能だ。だからこそ、海の戦闘についてはどうしても海軍の協力を取り付けなきゃならなかった」

 だが、海軍における当時の主戦力である艦娘たちが作戦への参加を躊躇するなら、彼女たちは戦力として勘定に入れることは出来ない。時間的猶予が限られていた以上、本来なら首根っこを掴んででも組み入れたいところだが、指揮系統が異なる海兵隊が勝手に海軍内の人事に首を突っ込むわけにもいかないだろう。ではどうするかと思案していたところで海兵隊が目を付けたのが、10年以上にもわたってドック内で息をひそめる形となっていた、海軍の戦闘艦艇だったのだ。

 「このプランを、清川傑防衛大臣も交えた防衛省での『5者会談』で提案したのは、扇原ミシェル海将。我々海兵隊にとっての現場の最高指揮官だ。彼が直々に海軍に対してそういう提案をすることの意味、君らも想像は出来るだろう?」

 史実における海上自衛隊がそうであるように、日本国防海軍は海洋国家・日本の海を守る国防組織として世界屈指の高い練度を誇っている(もちろん、この10年艦娘を国防の主戦力としてきた国々は、戦闘艦艇の実戦運用をしてこなかったので、そこは割引いて考える必要はあるが)。その彼らが対イスラム同盟掃討作戦に参加することは、連合軍はもちろん「身内」たる日本国海兵隊にとっても重要な意味を持っていたのだ。

 「昨年までの過去10年、海軍と海兵隊はそれぞれ異なるターゲットを仮想敵として定めていた。海軍は知っての通り深海棲艦、そして海兵隊は島嶼部を占拠した人間の武装組織。実際には、この間に大規模なテロ事件が起きることがなかったからこそ、お互いが相互補完的に協力し合う体制がなくとも動けてきた。その両者をもう一度統合運用する必要性が生じたからこそ、無理を承知で海軍にはこういう提案をさせてもらったんだ」

 長峰はそこまで一気に言い切ると、再び艦娘たちの顔を見回した。真っすぐにこちらを力強く見つめ返してくる者、下を向いて唇をかみしめる者、反応は様々ではあるが皆一様に黙り込んだままだ。

 「だが…、もちろんこの提案は決して簡単なものじゃない。いざ実行に移すとなれば、関係各所に多大な負担をかけることになる。事実、元々海軍の主戦力であった君らをこうやって『犠牲者』にしてしまった。他に有効な手立てがなかったとはいえ、結果的に君らを最前線から追いやったことには責任を感じてるんだ。だからこそ、俺たちは『艦娘を国防の舞台から引きずり下ろした軍』と同時に、『艦娘をもう一度そこに引き戻した軍』でありたいと思った。それこそが、俺たちが君らに協力を要請した理由だ」

 みらいは長峰の言葉に、ずっと黙ったまま耳を傾けていた。海軍戦闘艦艇の再就役によって生じた様々な負担。それは、彼女自身がこの数か月間ずっと体感し続けてきた物でもある。深海棲艦との戦いが途絶えてしばらく暇を強いられていたと思ったら、突然『お払い箱』を宣告され、たらいまわしにされた挙句艦娘としての地位も返上させられ、最後は海軍から離れることを余儀なくされて鬱病にまでなってしまった。その経験がどれだけ辛いものであったか、言葉ではとても言い表せないほどだ。

 彼女はふと、自分が横須賀に現れて最初の夜のことを思い出した。あの日、孤独感に苛まれて臨時にあてがわれた自室で号泣し、そのまま泣き疲れて眠ってしまったみらいは、夜になってから起き出してきて岸壁に1人佇むその最中、海面にゆらゆらと漂う一枚の木の葉を目にする。ただ波に流されていくだけのその葉っぱは、まるで時代のうねりに抗えず飲み込まれていく自分を暗示しているかのように見えたのを、今でもよく覚えている。そして図らずも、それは現実のものとなってしまった。

 だが、海を自由に往くことが出来ない木の葉も、いつかはどこかの岸辺にたどり着くことだってあるのだ。たとえ、その場所が元々の住処ではなかったとしても。もしかしたら、今の自分や他の艦娘たちが置かれている立場も、それと同じようなものなのかもしれない。そして大事なのは、自分たちには木の葉とは違って確固たる意志があるということだ。たとえ大きな時代の流れには個々の力だけでは逆らえなくとも、行く先々で小さくとも力を発揮することで少しずつ未来を変えていくことは出来る。

 時には辛く苦しい道筋でもある過去に目を向け、そこから学ぶことはとても大切だ。だが、それ以上に大切なのは「それを元にして如何にこの先の大海原に向け針路をとるべきか」ということに尽きる。過去の出来事に縛られた結果、現在と未来から目を背けるのでは本末転倒なのだ。たとえタイムスリップという超常現象が起きようとも、「全く同じ過去は2度とやってこない」のだから。

 「長峰一佐」

 みらいの呼びかけに、一同の視線がこちらに集中する。

 「お話はよく分かりました。あなた方が私たちに対して責任を感じているということ、それもよく伝わりました。ですが、そろそろ前置きはここまでにしませんか。今の私たちにとっては、それ以上に大事な話がこの後に控えているはずです。私たちは何も、一佐からのお詫びの言葉を聞きたいがために、ここに集ったのではないんですから」

 「そうね。あなたの話には正直驚かされたけど、それは話の本題じゃないわ。それよりも、早く『戦』の話に入りましょう。そうでなきゃ、わざわざこれだけの人数を海外から呼び寄せた意味がないわ」

 みらいの言葉に、ビスマルクも頷く。室内がざわめく中、長峰はその声を両手で制した。

 「分かった。君らがそう言うなら、本題に入るとしよう。高城二佐、プロジェクターの用意を」

 その言葉に、脇に控えていた高城がそばにあったスイッチを入れる。すると、天井に設置されていたプロジェクターの電源がオンになり、長峰の後ろにゆっくりと画像が表示され始めた。そこに浮かび上がったのは、風来食堂でゆきなみ型と金剛型の姉妹が見せられたあの海図だった。その中央やや右下あたりの地点に、ペンで書いたような赤い丸が描かれている。

 「君らも既に知っていることかと思うが、この赤丸で示したエリアは11年前、日本国防海軍のイージス駆逐艦『さきがけ』が消失したとされる海域だ。そして最近、まさにこの地点に深海棲艦の新たな泊地誕生が確認された。我々海兵隊の使命は、11年前の消失事件の調査の為にこの海域に向かい、そして現在は泊地に身柄を拘束されていると推測される、日米加3ヶ国による国際調査チーム人員を救出することだ」

 「泊地上陸作戦…。まさしく海兵隊としての本分というわけですね」

 「その通りだ」

 霧島の言葉に、長峰は頷いた。

 「だが、今回の敵となるのは深海棲艦。残念ながら俺たちが保有する装備は効果がない相手だ。そこで、本作戦の実行にあたって発生しうる戦闘、具体的には泊地に対する威力偵察と上陸作戦決行時の露払いを君たちにはお願いしたい」

 「威力偵察ってことはもしかして…、夜戦!?」

 その瞬間、川内がぱぁっとその瞳を輝かせる。先ほどまでは、真面目な顔で長峰の話を聞いていたのとはまるで対照的だ。

 「あぁ、もちろんだ」

 「ぃやったぁ!!ね、ね、いつやるの、いつやるの!?」

 頷いた長峰を見た川内のテンションは、一気に最高潮である。海軍の現場を離れても、どうやら夜戦に対して血が騒ぐ点は少しも変わっていないらしい。

 「やれやれ、まーたあの『うるさい5500t級軽巡』のお出ましか。勘弁してよ…」

 「あ、アハハ…。相変わらずですよね、川内さん」

 呆れ顔で1人呟く夕張に、吹雪が苦笑いしながら同調する。

 「ふぅん…。日本海軍には常軌を逸した夜戦バカがいるって話、本当だったのね」

 「全く、なんで夜戦なんかであそこまではしゃげるのかしらね。信じられない。もしかしてどこか性癖でも歪んでるんじゃないの」

 ドクトリンの違いから、夜戦などめったにやらないドイツ勢のマックス・シュルツとビスマルクに至っては、散々な言いようである。だが、当の川内はそんな彼女たちの言葉などどこ吹く風だ。

 「はしゃいでいるところに水を差すようで悪いが、あいにくまだ今の段階ではいつ出撃できるとはっきりしたことは言えない。出撃準備にはしばらく手間取るだろう。君らもしばらく現場を離れていて、腕も鈍っているかもしれないしな」

 「むぅ…。何だ、すぐには出られないのか。つまんないの」

 「まぁまぁ姉さん。夜戦の機会自体はちゃんとあるみたいですから、ね?」

 まるでワガママな子供のごとく唇を尖らせる川内を、苦笑しながらなだめたのは妹の神通だ。こういう時、みらいは彼女たちのどちらが本当の姉であるのか、今一つよく分からなくなる。

 「なぁに、時期が決まってないだけでやることは決定事項みたいなものさ。心配することはない。それに、君らには戦闘云々の前に決めなきゃならないことがあるだろ?そっちについて意思決定する方が先だ」

 「決めなきゃならないこと?」

 「まずそもそも論として、我々海兵隊からの協力要請を正式に受諾するのか否か」

 この問いには、36名全員が即座に受け入れると表明した。もとよりその前提で自分たちはここに集まっているのだ。今更それを問い直すのは野暮というものである。

 「まぁ、これはさすがに愚問だったか。そしたらその次の段階として、できれば君ら自身のチーム名と旗艦を誰にするのかを決めておいた方がいい」

 「チーム名と、旗艦…?」

 「今回集まっているのは、所属国も艦種も様々な36名。しかも義勇軍という性格上、誰かの指揮統制下に入っているわけでもない。だが、今回俺たちにとって何よりも大事なのはお互いが連携して動くこと。個人の集合体では、さっきのアーク・ロイヤルやグラーフ、ビスマルクの諍いがあったように、早晩破綻するだろう。お互いの結束の為にも、義勇軍としての名前とその最高司令官を決めておくのは、重要な手続きだと思うが?」

 長峰の言葉に、一同は皆思案顔になった。確かにそのセリフには一理ある。問題はそれを如何に1つにまとめるか、である。そんな中、不意に意見を述べようと立ち上がった者が1人いた。ウォースパイトだ。金剛と同じく英語交じりで話すが、流暢さという意味ではこちらの方が上かもしれない。

 「私は、flagshipを選ぶのであれば今回はJapanの艦娘たちからすべきだと思うわ。救出対象が日米加3ヶ国にまたがるとはいえ、本作戦の実施主体が日本の防衛省であり海兵隊がmainとなるのであれば、これはJapanの皆さんが主体となるべき話。私たち海外艦はあくまでsupportの為にここにいるわけだから、heroineの座を横取りするわけにはいかないわ」

 「そうねぇ。36名いると言っても日本の皆さんだけで単独過半数なわけだし、ここはやっぱり日本艦娘の中から選ぶのが一番いいでしょうね」

 どこかのんびりとした口調でそう同調したのは、イタリアの戦艦『リットリオ』。おっとりした性格に反して、火力・速度・耐久・回避・索敵といずれもかなりの高水準を誇る、ヨーロッパ戦線きっての実力者だ。

 「私も特に異議はない。まぁ、アメリカ勢にとっては自国民も絡んでいる以上、他人事では決してないけれどね」

 ノースカロライナが同調したのを見て、日本の艦娘たちはお互いに顔を見合せた。「あくまでも日本勢が主役」という理由で、日本勢が音頭を取るべきだというのは正論かもしれない。ではその中で誰が旗艦をやるかとなった時、候補者は案外多いのだ。

 「では、日本の艦娘の皆さんの中で、過去に戦闘を伴う作戦において旗艦を務めた経験をお持ちの方は、手を挙げてみてもらえますか?」

 高城の問いかけに、室内のあちこちから手が挙がった。名乗り出たのはなんと計6名。第一艦隊を率いた大和とその一代前の旗艦である金剛、それぞれ第二~第四水雷戦隊のリーダーを務めた川内・神通・那珂、そして3姉妹の末っ子でありながら、第三護衛艦隊のリーダーに指名されたみらいである。

 「日本勢19名中6名…。思ったより多いわね…」

 高城に促され、壇上に一列に並んだ彼女たちの姿を見つめながら、フランスの戦艦『リシュリュー』が呟いた。

 「じゃあ、手っ取り早く決めるためにここは『日本の学生さんの流儀』でやりましょう。全員机に伏せて。今から1人ずつ名前を言っていくから、1人1票で手を挙げて」

 さすが現場指揮官と言うべきか、こういう場面での仕切りを高城は得意とするようだ。間を置くことなく、どんどんテンポよく事を進めていく。もし彼女が人間でなく艦娘であったとしたら、彼女が旗艦になんていう可能性もありえたのかもしれない。

 「はい、それじゃ全員顔を上げて」

 投票終了後、高城の一声で全員が再び顔を上げた。

 「下から順に発表するわね。那珂さん3票、川内さん4票、神通さん6票、金剛さん7票。そして…」

 その次に高城が発した言葉に、その場の全員が耳を疑った。

 「大和さんとみらいさんが10票ずつ。以上です」

 「1位が同数…!?」

 艦娘たちが一斉にざわついた。だが、誰よりも驚いたのは当のみらいである。この6名のうち、他の5名は全員が国防海軍時代に自分より長いキャリアを持っていた。その中でも、1位を争うとしたらやはり戦艦である大和と金剛だろうというのが、彼女の中での漠然とした見立てだったのだ。いくら自分が最新鋭の兵装を誇るイージス護衛艦であるとはいえ、彼女たちを差し置いて自分が選ばれるなどとは夢にも思っていなかった。自分に票が入れば光栄だと思ってはいたが、まさか大和と同率1位になるなんて。

 「こいつは予想外だったな。最高指揮官を選ぶ投票で同率1位になるとは」

 長峰が目を丸くしながら口笛を吹いた。

 「しかし艦長、旗艦の枠は1つしかありません。同率1位だからと言って2名同時に選ぶというわけにはいきませんよ」

 ここは残る2人に絞って決選投票といきましょう、と高城が言おうとしたその時だった。

 「その必要はありませんよ、高城二佐」

 壇上からそう言い放った声の主は…、大和だった。

 「その必要はないって、どういう意味ですか、大和さん」

 「それよりも、もっとシンプルに決着をつける方法があるからです。簡単な話ですよ」

 そう言うと、大和はふと自分の反対側の端に立つみらいの方に向き直った。みらいと大和、2人の視線が交錯する。数秒後、大和の口をついた予想だにしない言葉に、室内からは驚きの叫び声が上がったのだった。

 「本作戦における私たちの旗艦の座は、あなたに譲るわ。みらい」




ビスマルクとアーク・ロイヤルは、ここでもやっぱり追われる側と追う側になりそうです。アーク・ロイヤル自身は別に悪意もないし気さくでいい人なんですけどね、そりゃ空母が艦載機を飛ばして来たら戦艦としては恐怖ですよね。しかも史実では因縁のある2人ですし。お互いに太平洋戦争を知らない2人、果たしてこの作戦での共演を機に仲良くなれるでしょうか。

日本国海兵隊は作中では最早「海上勤務の陸上戦闘集団」という本来の定義を飛び越え、「影の海軍」と俗称されるほど海上戦闘部門が発達した組織となっていますが、やはり正式には海軍ではない以上限界はどうしてもあります。対テロ戦争が起きていない時は別々に行動していてもなんとかなったけれど、さすがに長期にわたる軍事作戦では自分たちだけじゃ手に負えないということですね。

そして最終盤では、大和がみらいに旗艦の座を譲るという衝撃発言がありました。この発言の理由については次話で触れる予定です。合わせて、彼女たち義勇軍の名前も次話で発表となります。どうぞお楽しみに。それではまたお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。