彼女と休日を。   作:イーベル

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ISABにて山田真耶先生参戦! 記念SSです。おめでとうやまや。


彼女と花の金曜日を。

 三月に突入したものの、まだ少し肌寒さが残る夜だった。俺は真耶に呼び出しを喰らって会社から少し離れたおでんの屋台に脚を運んだ。暖簾の向こうにいるであろう彼女をこれ以上待たせる訳にもいかず、俺は暖簾を捲った。

 屋台に踏み込むやいなや、俺の方に振り返る真耶。ショートカット緑髪が揺れて、赤く染まった頬が露わになる。とろけた目付きで俺を捉えると長椅子の隣を強く叩いた。俺は彼女の隣を陣取る。

「せんぱーい。遅いですよ。いつまで待たせる気だったんですか~」

「呼び出しに気が付いたのが残業終わってからだったんだ。許してくれよ」

「残業と私どっちが大事なんですか!?」

「うわ、めんどくせ。だいぶ酔ってんな……」

 そんなにグイグイ(すそ)引っ張んなよ。よれちゃうだろ。

「親父さん。こいつと同じのを一杯と、大根、牛すじ、あとはんぺん下さい」

 店主のおじさんが気前よく「あいよ」と返事をして、目の前のおでん鍋から皿によそり始める。その様子を眺めていると、隣の真耶が日本酒を飲み干してコップの底を机に叩きつけた。

「うわっ、ビックリした」

「わらしも、もう一杯くださ~い」

「真耶はやめとけよ。もう呂律が回ってないだろ」

「そうだぜ嬢ちゃん。自力で帰れなくなるぞ」

 親父さんが俺の注文した品々を机に置きながら忠告する。すると真耶は裾を引っ張るのを止めて俺の腕に抱き着く。服の下に隠された二つの白桃が俺の腕を巻き込み、形を変える。まだ酒を入れていないのにも関わらず体温がグングンと高まるのを感じた。

「先輩に送って貰えるからだいじょうぶで~す」

「なら安心だな」

「親父さん!?」

「でも一回水挟んどきな。悪酔いするからな」

「はーい」

 意外にも素直に忠告を聞いた真耶は親父さんから水を受け取る。俺はそれを眺めながら日本酒を口にした。キリッと澄んだ旨味が熱と共に喉を通り抜ける。だが、困ったことに右腕は真耶に封じられているので箸を取る事ができない。温かいうちに食べたいのだが、離せとか言ったら逆に面倒な事になりそうだ。だからジェンガの如くゆっくりと引き抜こうと試みる。

 だが、彼女に搭載されている超高感度胸部センサはそれを見逃さなかった。

「先輩、何しているんですか」

「箸取ろうとしてたんだけど」

「そんなの要らないですよ。私が持ってますから。ほら口開けて下さい」

 箸で大根を四分の一ほどに切り分けると、俺に向かって差し出した。普段はこんな事恥ずかしがって絶対にしない。間接キスだとか、どうだとか言って。酒の勢いというのはたいへん恐ろしい。

 でもまあ、真耶は酔った記憶は翌日に引き継ぐタイプ。故にここは乗って翌日以降からかう材料にする事にした。俺は口を開けて大根を箸から奪う。

「旨いな。出汁が染み込んでる良い大根だ」

「でしょう? 先輩にもオススメしたかった店なんですから」

「でもそれだけじゃないだろ? 俺を呼び出した理由。……何かあったのか?」

 問う。今回呼び出しに使われたライン。普段のやり取りは顔文字満載、愛らしさに満ちた物なのだが、今回に限れば「ここに居ます」という短いメッセージに屋台の位置情報だけだった。正直な所、焦ったのだ。聞かない訳にはいかない。

「別に、大したことじゃ……ないんですけどね。ちょっと愚痴っても良いですか?」

「いいに決まってる。普段は俺が聞いて貰ってばかりだからな」

「では、お言葉に甘えて」

 俺の腕から離れて真耶は語り始める。よく仕事を回されててんてこ舞いする事。それを見られた生徒にからかわれてしまう事。だからどうにも自分に自信を持てないという。

 冷たいコップを握りながら俺は話を聞いた。

「私はやっぱり、ダメな女なんです……」

「そうかな? 俺から見ればそんなこと無いと思うけど」

「先輩は私の仕事ぶりを見てないからそんなこと言えるんですっ!」

 ぷくーと頬を膨らませながら机に突っ伏す。こういう思い込みが激しいというか、自責の念が強い所が彼女の良い所であり短所であり、チャームポイントだと俺は想うのだけれど。本人は自覚してないんだろうな。だから、俺は彼女の頭をそっと撫でながら口にする。

「俺はさ、真耶の責任感の強い所とか、親しみやすい所とかが結果に繋がっているんだって思う。そういう所で信頼されているからこそ、真耶に仕事を任せるし、生徒も寄って来る」

「そう、かもしれませんけど……」

 突っ伏したまま返ってきた弱い声。立ち直るにはあともう一押しって所だろうか? 俺はトドメの一言を慎重に練ってから表に出す。

「だから、もっと自信を持っていい。もっと自分を出していい。俺が太鼓判を押してやる」

「先輩……」

「もちろん、たまには断る事も大事だ。お前は押しに弱いところがあるからな」

「そう、ですね。先輩っ! 私、明日も頑張りますっ!」

 顔を上げて右拳を突き上げる。俺は頭から手を離した。意気込む真耶を見ると自然と頬がほころんだ気がする。彼女は人差し指を立てると店員さんを見た。

「親父さんっ! もう一杯」

「まだ飲むのかよ」

「はい。今、最高にいい気分なので!」

「明日、どうなっても知らないからな」

 そうぼやきつつ、ようやく取れた自分の箸ではんぺんを摘まむ。今日は花の金曜日。通称花金。だから酒の飲み過ぎで体調が崩れても大丈夫だろう。明日は土曜日の訳だし――いや、ちょっと待て。IS学園って土曜日も授業があったような気が……。

「ちょっと待て真耶! ストップ、ストップだ!」

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