ああ、退屈だ。そう思いながら少年は公園のベンチで寝ころびながら自前の漫画雑誌を読みふける。
時刻は午前10時を過ぎた頃、公園内には少なからずの人がいるが、その大半は近所の子ずれだ。
少年の様に学生服で鞄を枕代わりにして授業の時間なのに漫画雑誌を読んでいる者なんかいなかった。
彼は学校生活が退屈のあまり無断で向けだしていたのだ。
――毎日毎日同じことの繰り返しで、レールの上を行くのがそんなに楽しいのかね。俺には到底理解できないね。
「ふぁあ」とあくびをして、読み飽きた漫画雑誌をベンチの下に落とす。
ここ最近の漫画も同じような物ばかりで少年は飽き飽きしていた。
「はぁ……退屈だ」
腕を頭の後ろで組むとそう呟く。
季節は夏季の兆しを見せるように日は熱いが、少年のベンチは木陰で時折吹くそよ風が心地よく頬を撫でていく。日陰になってくれている木の枝からの木漏れ日がチカチカと瞼の内側を照らすのと、子供の遊び声と風で揺れる木々の囁きが子守歌の様に少年を睡眠に誘おうとする。
「ゲーセンでも行くか」
寝て時間を浪費するよりは幾分かマシだ。瞼を開きて起き上がり、ベンチから立ち上がる。鞄を持って、公園の出入り口に行く前に読み飽きた漫画雑誌を捨てていく。
昔は楽しみにしていたが歳を重ねるごとに興味がなくなり、今ではコンビニで立ち読みをした方が幾分かマシだと思えた。
少ない小遣いで買ってはみたが、やっぱり退屈であった。
これから行くゲームセンターもそういう場所だ。使う金はあっても、心を動かすものがない。
しかし、少年には行く当てがないから放浪する。
内心では時間の浪費と感じながらも、乾いた心を満たしてくれるのならいいやと割り切る。
ゴミ箱から出入り口の前まで行くと少年の真横をボールと、それを追っていく子供が少年を追い越して歩道から道路に飛び出していく。
キキィイイっとタイヤのすり減らす音と、後ろから悲鳴が少年の耳を届く。
目の前で事故一歩手前の現状が目の前に作り出されている。
少年は反射的に鞄を捨て、駆け出す。
ボールを抱えて固まっている子供の襟を掴み、力いっぱい公園の方に投げ飛ばした。少年は転び、投げた子供が歩道にあることを確認できた。
よし後は――瞬間、少年の視界で世界が反転した。
身体の左側から車が突っ込み、少年はボール様に弾き飛ばされ、数回地面を転がって仰向けに倒れた。
「……あ…………がぁ…………はぁ……」
脳が感知したのか全身に痛みが包む。
左腕が明後日の方向へ向いている。
息がうまくできなくて苦しい。
――俺……死ぬのかな。
様々な予想が頭の中に廻っていき、だんだんと視界が霞んでいく。
――ああ、でもいっか。退屈な世界でなんか生きたってしょうがないし。
諦めたようで、割り切ったように少年は笑い、死んでいった。
「ぱんぱかぱ~ん! おめでとう! 君は抽選に選ばれました!」
死んでだと思ったら、目の前に美しい女性が立っていた。古代ローマの人が着ているような服に、頭には花の冠を被っているその女性は、笑顔いっぱいにそう言った。
正直に言って混乱していた。
「……抽選? それよりここは……」
そう言って辺りを見渡す。彼方まで続く白一色の空間に、冷気のような霧が足元に発生している。建築物のようなものや人の気配は無い。ここには俺と目の前の女性しかいないようだ。
「ここは死んだ人の魂が行き着く場所。天国でも地獄でもない、いわばその手前かしら」
「よく理解できないのですが……俺は――」
「――死んだわ。子供を助けてね」
「ッ!!」
やっぱりあの痛みと衝撃。息苦しさは本物か。
しかし、痛みは感じられなく、複雑に折れ曲がっていた左手も元通りになっている。
「どうして……傷が……」
「それは貴方の魂の中にある姿を私が具現化したの。事故あって腕やら内蔵やらがぐちゃぐちゃの状態にもできるけど……やる?」
「いや。このままでお願いします」
この女性、笑顔でとんでもないことをさらっと言うな?!
「それで貴女は神様ってことですか?」
「そんなものかしらね」
「その抽選ってどういうことですか?」
そう聞くと、神様?はこれまでない満面の笑顔をした。
「そう抽選! 君は運がいいね。死んだ直後なのに記憶と特典をもって生まれ変わることができます!!」
両腕を掲げて祝福するように拍手する。
え?! 転生?! 転生ってあのラノベあるある的なあれ?! マジで?!
流石に驚いて声を無くしていると
「まじまじ。よかったね。好きな世界に記憶と特典もって行けるなんて君は本当に運がいいね」
「嘘じゃないよな……ですか?」
「嘘じゃない。神様は嘘つかない」
「架空の世界でも?」
「架空なんて存在しない。人間が想像した数以上の世界はあるよ」
神様はドヤ顔で答える。
俺は両の拳を握りしめた。やったマジか。好きな世界に転生だって? なら退屈とは無縁じゃないか!
「なら……IS、インフィニット・ストラトスの世界に転生させてくれ!」
俺は迷わずに、神様に言った。
IS――インフィニット・ストラトスは人気のライトノベル作品。数多くのクロスオーバー作品が存在する名作だ。
なぜ俺がそれを選んだかと言うと、単純に読んでいて退屈しない作品だったし、なによりキャラ良かったからだ。
「IS……ね。わかったそれで? 特典とかは何にする?」
「ならISをひと……! ちょっと考えさせてくれ」
「? いいわよ。時間はたっぷりあるし」
言いとどまった俺に不思議そうに神様は小首を傾げた。
特典。恐らく要望の幅は広いだろうし、ISの一つや二つはよくあるテンプレ的な回答だろう。それでもいいのだが、それだけじゃ面白くない。何かないか……何か……ん? 待てよ。魂……そうだ!
「決めた。ISを4つ貰えますか?」
「はいはい。それから?」
「そのISに……魂を与えてほしい」
「魂……それは命と言うこと?」
俺は頷く。ISは作中の中でも何らかの意志らしきものはあるが、それは曖昧なもの。だから最初から命があれば、より最適に進化してより面白くなると考えた。
「ふ~ん、なかなか面白そうな特典を願うのね。いいわ。貴方のISには命を吹き込んであげる。他には?」
「これだけでいいです。後は転生先で補います」
身体能力向上とか、天災級の頭脳とかあると楽かもしれないが、それではすぐに退屈になってしまう。
俺が求めているのは、いつまでもみずみずしい新鮮さなのだから。
「わかった。ならこれから転生の儀を行います」
そう言い神様の両腕の中に光が収縮され、俺はその光の中に吸い込まれていく。目の前が光で満たされ意識が薄らいでいく。
「そうそうISのことは貴方の魂の中にある記憶を元に作るから安心してね。それじゃ、頑張ってね――私たちの戯れを」
感想誤字脱字なんでも待っています