ゆっくりと意識が戻り始めた俺は目蓋を開く。
(ここは……どこだ? それに雨の音?)
最後に覚えているのは、事故にあって死んでしまい、神様の抽選とかに運よく選ばれて転生儀を行ったところで意識が薄らいでいったものだ。
目に入ってきたのは木造づくりの建造物――重厚な門だ。背中の固い感触から石床(いしどこ)の上だからだろう。聞こえてくるのはザーという音。どうやら雨音のようだ。
身体を動かそうとするが手足が動かない。どうやらシーツでくるまれているようだ。
おい……まさか転生が捨て子って言うことじゃないだろうな?! だとしたらあの神様相当ひどい奴なんじゃないのか?!
かぁああっと血が頭に上っていく。
(ふざけるな! いくらなんでもこのやり方はないだろぉぉぉぉおッ!!)
じたばたと暴れるが、シーツで拘束されていて四肢に力が出ない。
「おぎゃぁ、おぎゃぁぁぁぁぁ!!」
聞こえてくる叫び声が赤ん坊の泣き声。それが自分のであると気が付くと本当に転生したのだとしみじみ感じると共に無力なことを情けなく感じる。
騒ぎ立ててどれ位か立っただろうか。雨のせいで身体が冷えてきた。
歯がないからガチガチとならせないが、身体がぶるぶると震える。
(おいおい…………転生先の死が…………低体温の衰弱死なんて…………洒落になってないぞ)
幸い門にいるということは中には人がいる。なんとか気づいてもらわないと!
「おぎゃぁぁ、おぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
目一杯の声を上げる。喉が腫れようがこの際は仕方ない。死ぬよりは何倍もマシだ。
「おぎゃ……おぎゃぁぁ……」
泣きわめいで数分、息が荒くて声がかすれようとしたとき、重厚な門の扉が開いた。
「……誰だ、こんなところに赤ん坊を置いて行ったのは? うるさくて仕方ねえ」
出てきたのは袴姿の男。白髪、白髭で見た感じ歳は50代半の初老。体格が良く、まるで熊のようだ。
厳つい顔つきで俺を見下ろしていた。
男は俺を軽々と拾い上げる。鋭い双眸に声を出すのを忘れてしまった。蛇に睨まれた蛙とはまさにこのことのようだった。
「おめぇ、捨て子か?」
「おぎゃ、おぎゃぁぁぁ」
そう聞いてくる男にそうだと目一杯言ったつもり。
「そうか……しかたねぇな」
そういい厳つい顔つきが緩み、あやすように身体を揺すった。
「寒かっただろう。たく、こんな日に手前で産んだ子を置いてくなってんだ」
「おぎゃぁぁ、おぎゃぁぁぁ」
俺は全くその通りだと言ったつもり。
「おお、すまんすまん。さぁ暖かい家の中に行こうな」
そう言って俺を抱きかかえて門の内側に入っていく。
(ああ、よかったこれで一安心だ)
今までの疲労がドッときて俺は目蓋を閉じて眠りに付いた。
転生してから早5年が過ぎようとしていた。
俺は拾い主の初老の男――黒鐘柳治(くろがねりゅうじ)さんは門の前に居た俺を児童保護施設に預けるのではなく、引き取って育ててくれた。
黒鐘巽(くろがねたつみ)と名を付けて。
この人は武道家で、主に剣術を嗜んでいる。剣術だけでなく柔術の心得もある達人だ。
だから俺は立ち上がることができるようになると自ら教えを乞うた。
幼い俺でも容赦なく厳しい鍛錬をする。そのことに俺は些かも不満はない。なぜなら鍛えなければこの先の生活に響くことが分かっているからだ。
ISを操縦するのには基本、体力が必要だが、同時に強い精神力も必要であると思う。
特に、第三世代と第四世代のISは高い集中力が要求される代物だ。
神様が俺の魂の記憶を設計図に造ってくれたのならおそらくこれらは必須だと思うからだ。
そして日々心身ともに鍛えられ現在に至る。
今日も道着に着替えて、道場で日課の剣術の稽古をしている。ただ待つよりは鍛えるのと技術を磨くほうが今は大切だからな。
竹刀を構えて、目を瞑り、息を整える。
そして――目を開く。
「めぇえええんッ! どぉおおおうッ! こてぇえええッ!」
小さな竹刀を掲げて振り下ろし、薙ぎ払い、手前に引く。この三点の動作を終え、元の位置に戻り繰り返す。
一つ一つの動作を正確に、流麗に鋭くを意識して無我夢中に竹刀を振るう。
何回も、何十回も、何百回も、ただひたすら繰り返す。
「はぁ‥‥…はぁ……」
額から汗が噴き出して、動きに合わせて飛んでいく。動悸が速くなって息が荒く、酸欠で血が頭にのぼりくらくらする。
そうなって竹刀を下ろして息を整えてからまた同じように三点動作を始める。
柳治さん曰く、「基礎ができてからが本番だ」だそうだ。
先は長いが……今はそれほど悪くはない。
そう……あの日々に比べたら、幾万倍もマシだ。
「おう、やってるな巽」
「……はぁ……父……さん……」
俺は道場に入ってきた柳治さん――戸籍上は父であるから父さんと呼んでいる。今年で60歳になるが、日々鍛錬しているので肉体はその片鱗を感じさせない。
ただ、白髪なのでよく実年齢より多く見られることがあるらしい。
俺が肩で息をしているとあきれたようにため息を吐く。
「ったく、その年で毎朝早くから竹刀振っている奴があるか。朝飯ができたからさっさと顔を洗ってこい。飯が冷めちまうぞ」
「はい、今行きます」
そう言って、竹刀を片付けて洗面所で顔を洗って汗を流して食卓に着くとすでに朝ごはんは並べられていた。
「巽、さっき見たが基礎はできてきたな。今日から本格的な鍛錬をするぞ」
「本当ですか父さん!」
「ああ、本当だ」
食事中だが、俺は内側から湧き上がる衝動を抑えることができず、飛び上がった。
日々してきた努力が実るのが嬉しい。特に親しい人から認められるのは特に格別だ。
「食事中にはしゃぐな!」
容赦なく落とされる拳骨で涙目になるが、頬だけは緩んでいた。
――そしてこの年の夏、当時高校生の篠ノ之束によってパワードスーツISが世界に発表され、その数日後に「白騎士事件」が起きた。
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