今回はネロの一人称で進んでいきます。
俺の目の前には以前ホワイト・ファングに所属していたはずの男、カルマ・ケーファーがいた。あの時は結局最後まで現れなかった。用があると言いくるめられたのもあるが、あの場からまんまと逃げ去ったのだから、弁明の一つは聞かせてもらわなくては気が済まない。
「あの後何をしていた?それによっては……」
「おいおいそんな恐い目つきで見つめてくれるな、楽しくなっちまうだろ……つうか本当に気付いてねえのか?結果的にアダムを宛てがった形になっちまったのは謝るけどよ。感謝こそされども非難される謂れはないんだぜ?」
何を的外れな事を。少なくともあの場には俺とアダム・トーラスしか……いや、待てよ?
「……もしかしてあのごつい鎧野郎か?」
半ば確信に近いものがあったとは言え、自信なさげに答える。あの男は敵と見做した相手を易々と逃がさず、それこそ息絶えるまで追いかけてくるだろう。とてもじゃないが、生温い思考回路の持ち主ではないことはあの短時間の間で嫌というほど感じ取った。仮面に隠されていて表情こそ見えなかったが、親の仇を見るような目で俺を見ていたことは想像に難くない。
だが、不意打ちとはいえ難なく脱出したであろう男が身の前にいるとはいえ俄かには信じがたい。だがそれが最も可能性としては有りえるということも目の前の男が証明してしまっている。
そんな俺をよそにカルマは悪戯が成功した子供のようにニヤリと笑った後に拍手をした。正解だったようだ。だからといって何か景品をくれるつもりはなさげだが。
「分かってんじゃねえか。俺はタイミングを見計らってお前とアダムの戦いに横槍を入れて逃がしてやったってワケ。それでこいつを使ってある人物にお前の事を知らせたんだ……なあ、ハルト?」
ポケットから取り出したスクロールを右手で自慢げに振っている。それよりもハルトだ。最初から知っていて、その上であの街で待ち構え、誘い出し、ここまで連れてきたということか?
で、あればだ。彼らを信用してもよいのか。それが問題だ。囲まれているといった訳ではないが、この三人を突破して逃げるのは流石に困難だろう。ハルトの実力は言わずもがな、数十体のグリムをさっくりと倒している。カルマも同じくらいの戦闘力を持っていると見積もってもいいだろう。博士は……よくわからないが、この二人と長いことやってきているのだ、弱いことを期待するのは愚か者のすることだ。隠し玉ぐらいはいくつかあると見てもいいだろう。
「おい二人とも、なんかネロの顔にすごくシワがよってねーか?これってもしかして怒らせたんじゃないか?ここに来る途中で博士になんか胡散臭い格好で出てきてくれって頼まれたから嫌な予感がしてたが……」
「ネロ。この不義理に関しては僕からも謝らせてほしい。騙すような形になってしまったけれど……君に悪いようにするつもりはない。自分たちに近い雰囲気の存在は今までいなかったからつい舞い上がっちゃった節があるんだよ。僕も、カルマも。……もちろんゴルドもね」
「博士と呼べハルト。まあ私としてはきみに幾つかの質問をさせてもらいたいからここまでご足労いただいたのだがね。危害を加えても一リエンの得になるまい?だいたい……」
これ以上喋らせるとろくなことがないと博士のもったいぶった喋りを止めるために、側面に来ていた二人が肘で脇腹を小突いた。小突く、と表現したが嫌な音がするほどの強さで突いたため、ゴルドは突かれた箇所を抑え込んで悶絶していた。なんだか、この人物がどのようなものかが大体は掴めてきた。結構ふざけるタイプのようだ。他人を巻き込んで被害を広げるのが玉に瑕といったところか。
「……なんかこんなことで怒った俺がバカみたいだ。さっさと入ろうよ。こんな玄関先で話していても何もわからないしね」
家の中も普通だった。ソファにカーペット、数脚の椅子にテーブルがあり、そこそこ大画面のテレビが奥にでん、と置かれていた。一見普通どころか十見ぐらいしても普通に見える。それ以外に目を引くものといえば二階へと続く階段と青いドアと緑色のドアがあるだけで本当になんの面白味もない普通の家だった。
「まあ適当なところに座ってくれたまえ。床に寝そべっても構わないが、案外硬いぞ?」
「そんじゃ俺はなんか作るか。ほら、お前ら腹が空いているだろ?俺も空いてるんだ。すぐに作れるものだからまあそこそこに期待して待っててくれ」
「じゃあ僕は少し汗を流してくるかな。博士もあんまりいじめないように」
ゴルドが一番奥側の椅子にゆっくりと座り、カルマは青いドアを開けてその向こう側へといった。どうやらキッチンになっているらしい。ハルトに関しては何も言うまい。ゆっくりと旅の疲れを癒してもらいたい。後で自分もシャワーを浴びよう。
「それでゴルド、何でも教えてくれるって言ってたよね?」
「いや別にそんなこと一言も……まあいい、答えられる事や推察ぐらいであればしてあげようか。その分私も聞くが構わんね?」
腕組みをしながら少しだけ水飲み鳥のように首を振り、こちらに同意を求めてきた。構わないということだろう。俺も答えることができる限りは答えるという意図で近くにあった椅子に腰かけた。
「よろしい。じゃあこっちから質問させてもらおうか。君の持っているそのベルト、どこで手に入れた?」
「―――――記憶喪失でね。俺も知りたいくらいだ」
「そうか。いやなに、ほんの些細な好奇心なんだよ。それは父の研究データに残されていたものに酷似していてねぇ?そのデータからハルトやカルマの後継機も製作してはみたものの、肝となる部分が上手くいかない。となるとだ、実物を探すだろ?データとして残してある以上実物が何処かにあるはずだ……見つかれば御の字、ぐらいのものだったが。そこに運よくそれを持つ君が現れた」
ゴルドは余程興奮していたのか捲したてるように息継ぎをせずに一息で喋った。
「私の父は研究施設の事故で諸共消し飛んでいた!だがね、研究成果をここに残してくれていた以上実物も必ず何処かにあると信じていた!漸く……オレの人生の目的の一つを達成できた」
懐、ベルトのある場所へと獰猛な視線を叩きつけてくる。ゴルドは長いこと息を潜めて獲物を狙っていた狩人であると同時に、飢えている獣でもあった。
「後で見せてくれ。悪いようにはしない」
口元を三日月のようにしながらこちらに視線を飛ばしてくる。約束通り何でも答えてくれるらしい。
「じゃあさ、カルマに俺のことを聞いてるなら知ってるかもしれないけど、ブレイク・ベラドンナがどこにいるか知ってる?」
ここ最近はいろいろとあったためすっかり頭から離れていたものの、旅の第一目的は彼女を見つけることなのだ。他にも聞きたいことは山のようにあるが、まずは無難そうなところから行くべきだろう。
「ふむ。君が列車の一部を切り離して逃がした
他人事のように顎をさすりながらつらつらと憶測を並べた。生きていたことに安堵すべきか、手掛かりを完全に失ったことに落胆すべきかはさておき、何を聞くべきか……
「ゴルドやハルト、カルマ達って結局何者なの?そこんところよくわからないと力を貸すに貸せないかな~って思ったり……」
今のところ謎の変人集団でしかない。随分と前に本で読んだ物語に出てくるような悪の秘密結社にしては随分とアットホームな雰囲気だが、仮にもテロ組織のホワイト・ファングに潜入するような輩がただの物好きである可能性は低いということは個々の高い能力が証明してしまっている。
「我々が何者か。教えるのが遅いか早いかだ、ここで入団審査をしてしまおうか」
勿論ホワイト・ファングほど甘くはないぞ、と茶目っ気を込めて人差し指を向けてきた。そして今までで最も真剣な顔つきになった。いつの間にかハルトとカルマも居間にいる。二人も同じように神妙な面持ちだった。
「端的に言ってしまえば
「ま、あんまり構えんな。長いこと自分に近い奴らとつるんでるとよ、分かるんだよ、雰囲気で。お前は間違いなく
「僕たちとしてもさ。やっとのことで見つけた同類なんだよ、三食昼寝付き、困ったときは助けあいの精神のアットホームな職場で……あいてっ」
ハルトが正直なところすごく信用ならない笑みを浮かべて発したキャッチコピーのようなものに「それは表面はいい企業が謳っている胡散臭いの決まり文句だろ」とカルマから突っ込みを受けていた。
「あそこの漫才は放っておくとしよう。入団試験の事だが、このような話は聞いたことがあるかい?」
真剣な表情から一転、あくどい笑みを浮かべながら近づいてくる。
「グリム教団というカルト教団の事だ。どう?胡散臭さと危険さがすごいだろ?」
「ああ、あんたが胡散臭いって言うんだ。危険かどうかはともかく胡散臭さは天下一品なんだろうな」
少し空気を冷ました後のゴルド(博士と呼べと何度も言われたが、面倒なのでやめた)曰く、グリム教団はその名の通りグリムを崇める教団であり、闇の深淵に救いを求める破綻者の集まりとのこと。この危険な宗教が表に出ない理由は、「歴史書だって何でも書いている訳じゃないだろ?」と言われ納得した。要は歴史の闇に葬り去られたという訳だ。
ところが最近になってその名が裏社会で微かに流れ始めたという。その名前を伊達や酔狂で名乗るような馬鹿はそうそういないだろう。一昔前がどうかは知らないが、現代でそのようなことをすれば破滅は間違いないからだ。レムナントに点在する四つの王国は現在もグリムの潜在的脅威にさらされている。
そして、入団試験の内容がこの教団の調査らしい。
―次回予告―
「で、どうするよ?」
「サッサと片付けて帰ろうか」
「柔軟性を持たせつつ臨機応変に対応する方向で」
次回 HERO&HERO&HERO
今回のざっくり用語解説
・グリム
レムナントの人々の生活を脅かすやべーやつ。太古から存在し、人々はダストの力を得るまで怯えながら生活していた。対抗手段を手に入れて尚、現在の四つの王国以外は大体こいつらの生息域と言っても差し支えないため、旅を行うだけでも命懸け。事もあろうに人間や被造物を狙ってぶっ壊しにかかるため、RWBY原作では「破壊の獣」とも称される。
グリムにも年齢という概念が存在し、齢を経るごとに強くなったり、そもそも危険性の高い種だったりと強さもピンキリだが、オーラの使えないバンピーだとベオウルフ一匹でも脅威となる。ヤバいのだと一体で複数の村を壊滅させたり、ちょっとした山並みの巨体を誇ることも。本作でも言われているが、悪感情を捉えて寄ってくるため、一匹見たら十匹はいると思うべし。こいつらがすごい勢いで湧いてくるとそのシーズンの終わりを感じる。
この作品のタイトルにも入っているため、かなり重要なワードである。
・ダスト
自然界のエネルギーを凝縮した物体であり、人類の英知。オーラに反応してダストの持つエネルギーを発する。これにより人類はグリムに対する対抗手段を得たと言われている。その割には発生の起源が解明されていない(失伝した?)、宇宙空間に出ると力を失うといった謎物質。
その分、結構なトンデモ物質で、レムナントのエネルギーはほぼこれで補われている。
世界各地の鉱山から採掘され、そのうちシュニー・ダスト・カンパニーの所有する鉱山がシェアの大部分を占めている。ワイスかわいいっす。
最初は四大元素(火・水・風・土)のみだったが、人類の創意工夫で結構なバリエーションが生まれた。属性はF○やD○のようなRPGに出てくるような属性を想像すればイメージしやすい。
形状は粉末状のものと結晶状の二種類があり、粉末状が精錬後のもの。結晶状のものの方が使用難易度は高く、熟練者でなければ扱いに苦労するだろう。
用法としては、単純に弾にして打ち出すだけでも使える。もっと原始的な方法だと衣服などの装備品に組み込んで使用することもあれば、直接肉体に取り込む・融合させることでその力を引き出すこともある。
ハルトのセンブランスと深い関連性があるようだ。