しばらく手が空かないので投稿を空けてしまいますが、RWBY愛がなくなってちまった訳じゃねえからよ……俺は止まらねえぞ……
教団という言葉の響きは大仰で、威厳のようなものを感じる。ここまである種の純粋さを持ち、訪れる者の敬虔さを感じる建物はそうそうない。私は初めてそれを目にした時、とても美しいと思った。それをただ眺めているだけで満足だった。何時からだろうか。あの美しいものを自分のものにしたいと思ったのは。外観が美しいのだから内装はもっと美しいのだろう。欲しい。このある種の結界の張り巡らされた聖なる領域が。私はこの一押しともいえる場所で願わくば彼と――――式を挙げたかった。清廉な空気が流れ、たった二人だけで静寂に包まれているならば……もう何も言うことはない。そのような場所で愛を囁くのであれば私は迷わず私の全てを差し出しただろう。結局、願望こそ叶わなかったが、私自身を彼に差し出し、彼も彼自身を私にくれた。
彼と私は同じ存在だった。この世で二つと存在し得ないものがが奇跡的に存在し、出会ったのだ。これを運命と言わずしてなんと言うべきか。普通という枠の中からはみ出ていた私と彼は同族の先導者たる存在でありながら、同族から離れた場所で生きてきた。唯一の理解者たる彼と苦楽を共にし、重ねてきた年月の中でわかり合えていたはずなのだ。
だから理解できない。あの人が私の前から去っていった時の事を。
「二人が付いてきてくれるのは心強い、すごく助かる」
「力を貸すっつってもメインはお前だかんな?そこ履き違えるのはいけねえよ?」
「僕ら抜きでも行けるだろうけど、ゴルドが『なんか三人組っていいだろう?』とか言い出したからねえ……ネロごめん、少しだけ我儘に付き合ってくれる?」
呆れたような目つきのカルマと、我儘な弟のようなものの頼みを聞いてやってほしいハルトが付いてきているのだ。ゴルドが出発前に二人を付けると言って送り出してきたはいいものの、問題はないのか。
「今は特に用はないし、付き合ってやるよ。俺たちはグリム教団については以前から追っていたからこれは元々全員で当たるべき案件なんだ。どれぐらい連携ができるか試したいとか、大方そんなところだろ。だからあんまり気にする必要はないんだぜ?」
面倒そうに首を回しながら気にする必要はない、と言っているものの、軽く片を付ける宣言をしたカルマ。
「まあ事実上の監視役なんだろうけどね。保険なんでしょ、実際のところは。ネロの後詰めでもやっとけってことじゃない?」
付き合いの長いハルトの推察。監視役とか大っぴらに言っていいのか。俺に対する信頼の裏返し程度に受け取っておいた方がいいのかもしれない。あるいはハルトもわざわざ付き合わされることになって、ゴルドに対して遠回しな嫌がらせをしようとしたのだろう。
「それじゃあ帰ったら今度こそ歓迎パーティーしてくれる?御馳走を食べて、なんか楽しくなる奴で!……あ、間違っても危ない奴じゃないのでお願いするよ?」
昨晩はパーティーどころの空気ではなかったが、今度は正真正銘の奴を。切実に。
「おっと、それじゃあ俺が腕によりをかけて作ってやる。期待して待っててくれ!」
「宴会には芸が欠かせないだろ?ならば僕の出番だ。アッ、と驚かせてあげるから楽しみにしてもらおう……」
怪しく笑うハルトと自信満々のカルマを見る限りだと、期待以上のものが出てきそうだ。さらりと片をつけてしまおう。
ゴルドの家――――拠点としている位置からほぼ正反対に教会はぽつんと建っていた。前情報通りの寂れ具合で、後ろめたいことのある者が密かに集まるには絶好だろう。当然ながら灯りはついておらず、暗い。
「あそこまでいかにも、って感じだと誰も近寄らないんだろうな」
「何かありますよ、って言ってるようなもんだろ。用がなきゃ近寄らねえよ」
「ま、まあ誰も近寄らなければ問題ないって思ってるんだろうしあんまり言わないでおこうよ……」
散々な評価だった。それも無理はない。なにせ全体的にぼろい。窓ガラスは所々割れており、蜘蛛の巣が張っているわ、屋根の塗装が所々剥げていて、一部吹きさらしになっている。おまけにてっぺんにあるはずの十字架が壊れて十字でなくなっていて、神の加護も何もあったものではない。悪魔だってこんな威厳もクソもない教会は嫌がるだろう。
「お邪魔しま〜す……」
ノックをするも、返事は返ってこない。窓枠が軋んで返事を返してきた。
「楽しい家探しの始まりと行こうか?誰もいないなら文句は受け付けないぜ……っと」
そうこうしているうちにドアを蹴破ってカルマとハルトは内部へと入って行ってしまった。
「どうしたもんかね……こうも何もないと成果もクソもあったもんじゃねえな。いっそそこら辺の床でも剥がして持って帰るか?」
冗談を言いながら乾いた笑いが出ているが、そんなことをしたら間違いなくカルマは大目玉をくらうだろう。内装も外観に負けず劣らず、いや、大分劣っている。入口から見えるはずの十字架はどこにも見当らない上、かつて掃除が行き届いていたであろう長椅子はどれもささくれ立っている上に腐りかけているため、少々埃の被っている床に腰を下ろした方がまだマシだろう。柱はどれも罅だらけで、いつ崩れてもおかしくなさそうだからここには長居したくはない。というかもう帰りたい。
「……待った。まだ諦めるには早いようだよ」
ハルトがいよいよ床を引っぺがそうとしているカルマを制止しながらその箇所へと近づいていく。そして聖書台の近くの床を杖のように持ち替えた笛で指し示した。
「このあたりの床、空洞になってる。そして多分入り口がどこかに……」
したり顔でハルトは聖書台に肘を掛けそうになったが、長年放置されていて汚くなっていたことを寸前で思い出したのかひえっ、という声を出しながら飛びのいた。そして間髪入れずにカルマが聖書台に拳を叩きこんでいた。勢いよく宙に舞った聖書台は落下と同時に粉々の木片と化したが、そのお陰で先ほどまでは見えなかった聖書台のあった箇所には薄く四角い切れ目の入った床が見えている。その床を退かすと梯子が暗闇の中に続いている。かなり長そうで当然ながら底は見えない。
「それじゃあ本格的に家探しを始めようか。こんな陰気臭いところさっさとおさらばするに限るぜ」
数分程梯子を下っていき、足が付く音が響く。相当広いところへと出たようだ。電灯もなく、鬱屈としており、表層よりも更に埃っぽい。
「見えるか?ハルト、ネロ。こりゃとんでもないもん見つけちまったかもしれねえぞ……」
「……見えるね。もう明らかに碌でもないことやっていたことがわかるよ」
「僕にはうっすらとしか見えないけど……正直全く見えないままの方が嬉しいかなって……」
整然と並ぶ試験管。中にはゴボゴボと音を立てて泡立つよくわからない液体が入っているものもあれば、いくつか中心から割れて内包していた液体が零れ出ており、何かがそこに入っていたことを否応なしに理解させられる。
パソコンの隣の資料とそこら一帯に散乱する報告書の様なものの内容など嫌でも想像がつく。
「十中八九グリムの研究だろうね。それもとびっきり質の悪いやつ……こういうのって内容は大体想像つくけど世間の皆様に迷惑をかけないのって本当に無いよね……」
一番近くに落ちていた紙切れを一枚つまむ。そこには『グリムの制御及び人工的なグリムの製法』という題でまとめてある。
「なになに……『グリムが人類に仇成すものであることは周知の事実だ。しかしこの無差別に破壊を撒き散らす獣に指向性を与えてやればどうなるか。そうすれば兵器として運用可能であり、人類がグリムの危機から遠ざかることは間違いないだろう……』だってさ。どうやら自分の危険は遠ざけることができなかったようだけどね。続き読むよ。『グリムの破壊を撒き散らす方向を人間から変える実験は現在まで悉く失敗に終わってきた。しかし特定の人間、といったように対象を逸らすことには部分的に成功した。グリムを捕獲することはできてもすぐに死んでしまう。幾度となく行われた実験の結果、グリムは人間の感情、それも負の感情をエネルギーへと変換することにより活動していることが判明。負の感情を抱く人間を優先的に襲うのはこのような性質があるからだと私たちは推察した……』……あんまり言えた事じゃないけどここが滅びてよかったよ。こんな研究が完成した日にはこのレムナントで安心して寝ることのできる夜は間違いなくなくなる……!」
「違いねえな。こっちのタイトルもなかなか酷いな……『ヒトとグリムの融合実験』だと?『グリムの持つ性質を人に与えることにより、強靭さとグリムの性質を得ることができる。しかし、人体に不純物、それもほぼ正反対の性質を持つグリムの肉体を埋め込むことにより、全身のオーラの流れは悪くなり、寧ろ悪影響を与える毒となることが判明。現在、安定した試験体はなし、追って研究を続ける……』だとよ。こりゃゴルドから又聞きしたことのあるアトラス軍の研究も真っ青のマッドっぷりだな……」
カルマが口を押えるジェスチャーで不快感を露にする。そしてその目に憎悪の炎がちらついているように見えた。その時だった。突然ハルトが小さく鋭く声を上げ、目配せしてきた。
「気を付けて二人とも、何か音がする。どうも先客がいたみたいだ……うまいこと隠れていたみたいだけど、こっちが気づいたからかお構いなしって感じだ」
余裕ぶった高い音がこちらに向かってくる。感覚がやや途切れ途切れな辺り、一層その足音の主の余裕ぶりを表している。それに気づかない愚か者はこの場にいない。それ故、その一音一音をこの場にいる者は何一つ決して聞き逃すまいと意識を集中させている。
「あら、今日はもう一人新顔の方がいるようで……?まあ、それはそうと随分と早い再会でしたね?ネロ・ベスティア……」
女の声だ。それも聞き覚えのある声。わざとねっとりとさせて小馬鹿にしているかのような口調。この声の主を俺とハルトは知っている……!
「イヴ……なぜここに……!」
「なんだ?知り合いか?」
カルマの聞き方はすっとぼけた調子のものではあるものの、鋭さが含まれている。当然、味方だと思っているからこのようなことを聞いたわけではない。
「奴さん、どうやら俺にご執心みたいな感じでね。ハルトとかもいるのになぜか俺ばっか目の敵なんだ。不思議だよなぁ?」
ネロもそれに合わせてとぼけた返しをした。呆れを含んだ声色ではあるが。
「ええ、私も不思議ですね……?なぜ私を見てそのような反応になるのかが。ここにはもう用はないから帰るところなので退いていただけませんか?」
それはひょっとしてギャグで言っているのか。だとすればとんだ大物ぶりである。というよりも彼女はどこか天然なところがあるのかもしれない。少ない会話でも察することができる程だ、恐らくあの喋り方は本当にわざとなのだろう。
「ですが質問に答えるのは淑女の義務。答えることができることであればお答えしますわ」
これは誘われているのだろうか。彼女がどこか期待しているような妖しい笑みをこちらに向けているのだ。もしこれを無視したら恥をかかせるように思えてしまい、ハルトやカルマにも流石に引かれそうだ。
「ただし一人につき答える質問は一つ。相談するのもなし。それでよろしければ何でも答えますわ。先ほどのネロさんの質問ですが、懐かしい雰囲気が漂ってきたのでここへ参りましたの。しかし外れだったようなのでで帰らせていただこうかと思った矢先に貴方がたがいらっしゃったので……こうして気まぐれを」
さらりと質問権を消費されてしまった。これは俺の質問には答えるつもりはあまりない、という意思表示ととってもいい。それにしても前会った時よりも感情を前面に押し出しているように見える。どこか無機質で、有無を言わせないところがあったが、まだこちらの話を聞いてくれそうには見える。それでも気を許した途端に足を掬われるだろう。
「じゃあ俺が聞いてもいいか?知っていればでいい。大柄な男の姿をしたグリム……これに心当たりはあるか?あるならば教えろ……二人が黙ってても俺も大人しく聞くとは思わないことだ……」
続いてカルマが口を開く。何時にも増してドスの利いた声で質問を通り越してこれは詰問だ。気分を損ねて答える気を損ねるかもしれないと思うと止めたいが、そうすれば間違いなく彼女は去る。
「あら怖い。そんな情熱的な視線を送られては答えないわけにはいきませんね?知っています。私としてもあのはぐれ者の始末は急務ですから。……並々ならぬ事情があるとお見受けしましたがあれは危険ですわ。言うなれば知性を得た怪物。生かしておけばレムナントに災厄をもたらすでしょう」
驚くほどすんなりと喋るイヴ。だがカルマの目が納得がいかないと言っている。知っているのはそれだけか?と。
「あれは貴方の村を襲って以来行方が知れませんの。今も何処かで牙を研ぎ、闇の中に潜んでいるということしか足取りは掴めていません。……私に目を付けたのはよい着眼点だとほめて差し上げますわ」
意識しているかどうかは定かではないが、神経を逆撫でするようなことをつらつらと言い放つ。カルマは相も変わらず眉間に皺を寄せている。この異様な空間の外側でこの事態を静観していたハルトが静かに口を開く。
「……ならば君は何者なの?明らかに真っ当な人間ではないよね?僕たちの気配察知から二度もすり抜けて現れる……人間には至難の業だ」
当然の疑問だ。そもそも彼女は何者なのか。かなりの実力者であることは確かだろう。しかしそれだけで自分たち三人を出し抜けるものなのだろうか?それに対する答えは否だ。自惚れかもしれないが、並のハンターが束になってかかってきたところで自分たちは
だというのになんだ。何故この目の前にいる存在に警戒心を抱かずにいられないのは――――!
「何者か……ですか」
うーん、と悩んでいる姿は結構かわいらしいところがあるが、それがとてつもなく恐ろしく見える。人間の姿を持った
「そうですね……今まで生きてきた中で自分が何者か、という答えというものを未だに持ち合わせておりませんの。ですがまあ――――」
あまりにも抽象的で、実際のところは答えになっていない答え。これでは質問の意味がないじゃないか、と思っていたが再び彼女が口を開いた。
「しかし私は人間ではありません。ですがグリムという訳でもありません。強いて言うなれば
先日ゴルドが定義づけていた存在。以前彼女がフォーエバー・フォールで仕向けてきた黒い人型の異形。そして恐らくカルマの話に出てきた大男もそうなのだろう。恐らくは目の前の人から外れた美しさを持った少女も。
「プリテンダー……!」
そう呟いた途端、空気が張り詰めた。
「それでは今宵の逢瀬はここまで。さ、退いてくださるかしら」
「退く気は無い……って言ったらどうする?」
第三者からすれば挑発そのもの。ぎょっとした表情でカルマとハルトがこっちを見る。目が今は仕掛けるべきではないと言ってはいるが、いざというときの覚悟は既に決まっているようだ。実際のところは勝算こそあるものの、相手は未知数。グリムに関する能力を扱うことぐらいしか分からないが……無闇矢鱈に戦うのは愚行ではあるものの結局はどこかで仕掛けなくてはこのグダグダとした空気を破れない。こっちとしてはさっさと事を済ませ、帰ってパーティーがしたいのだ。
「どうもしませんわ。貴方がそうしたいのであればお付き合いしても構いませんが……今はまだその時ではありません。然るべき場で共に踊りましょう。その時は……エスコート、してくださいね?」
またこの感じだ。不意に梯子を外されるようなこの感覚。以前の邂逅でもそうだったが、こちらの内心を完全に見透かしているように思える。その視線はとろんとしていて色っぽさを含んでいる。熱くなりすぎて……いや、これは彼女によって熱くさせられたのだ。すっかり頭から抜けてしまっていたがこれは調査だ。勝手に向こうが去っていくならば追う必要は必ずしもない。どこか抜けていて、純粋ささえ感じる天然な部分。相対する者の思惑を読み取り、掌の上で転がさんとする魔性の女としての二面性。加えて少ししか言葉を交わしていないにもかかわらずこちらを熱くさせる話術。
恐ろしい女だ。何を考えているのか全く読めない。動作から感情を消しているようで、ふとしたところで感情を表す。感情の動と静を自在に操っている。
「……ああ、いいとも。さっさと行くといい。その然るべき時とやらがいつになるのかは知らないけど……エスコートしてやるよ」
表向き敵対する意思を抑え、淡々と告げる。この女とこれ以上同じ空間にいるのはどうしてか不安になる。なんというか……自分が自分でない何かに変えられてしまうような、得体の知れない感覚に襲われる。それだけではない。今さっき確信したことがある。
彼女は以前の俺を知っている。どのような関係であったかは未だに分からないが、知り合い以上の関係であったことは間違いないだろう。ただ、それを知るのは今ではないということだけだ。
「それではごきげんよう……もしもそれまで生きていれば色々教えて差し上げますよ……?」
彼女の姿が、モノクロトーンのドレスの色調が暗くなっていく。全身がどす黒く染まった時、それは液体の様な何かに変化し……その液体が弾け、地面に染みこんで周囲の闇に紛れて消えていく。
「見事に煙に巻かれたな。どうするよ?もう何もめぼしいものもなさげだしよ、俺はもう帰って寝たいんだが」
「同感だね。正直、自分ひとりだったら膝をつきそうだった……それほどおぞましい雰囲気をにおわせていたよ、彼女は」
心なしか彼女が去った後の地下空間は明るい。精神的にも、視界的にもだ。光は全く差し込んでいないにも関わらず。だが――――
「やっぱり引っかかるところがあるなぁ……」
ああも印象的な少女を忘れることなどあるだろうか?となると失われた記憶の中に彼女の姿があったのかもしれない。
「おっ?まさかアレにホの字か?気の多い奴だなー、そういうのはブレイクだけにしとけよ?」
……あっ
「えっ……?お前まさか忘れてたとか言わねーだろうな?」
間の抜けた空気が場を包み、二人からまるで異星人を見るような目つきが突き刺さる。
「あはは……なんというか……ネロらしいね?」
口調こそいつも通りの柔らかさだったが、ハルトの水晶のように透き通った瞳から飛んでくる視線がいつもと比べて冷ややかだった。カルマに至っては顔の表情筋を引きつらせて『それはないわ……』と口にこそ出さなかったが、おおっぴらに顔に出ている。
「いや、忘れてたわけじゃなくてさ……自分のミスとはいえはぐれちゃったし、今できることと言ったら無事をお祈りするくらいしかないかなー、と」
正直ここで彼女の捜索を放り投げてしまってはベラドンナ夫妻に顔向けできない。一宿一飯の恩義すら果たせなくて何が旅人か。記憶を取り戻すのも大事だが、
「まあこれ以上ここで議論しても仕方がないんじゃないか?捜査の網を広げていくしかないってゴルドも言っている。俺もハルトも当面の標的がようやく見えてきたってところだ。人ひとり見つけるだけでも相当労力はいるしな……」
慰めはありがたいが、どうにも締まらない潜入任務であった。ちなみにゴルドからは『まあ……がんばってくれたまえ。あ、これからもよろしく』といったこれまたなんとも締まらない評価を頂戴してしまった。
昨日夕食を食べたテーブルの上に人数分の資料を広げ、ゴルドは腕組みをしながら何かを書き込んでいる。ハルトはかえって来て早々シャワーを浴び、今さっき居間に来たところだ。大分長いこと浴室にいたことから落ち着くまで結構時間がかかっていたようだ。軽い前菜を作って持ってきたカルマも表面上は平然としているが、どこか不安そうで、いつもの頼りになる雰囲気を感じられない。裏を返せばそれは今回の作戦の結果にはあまり納得できていないということだろう。
「ふんふむ……君たちが集めてきてくれた情報をまとめるとこうなる」
①グリム教団は既に壊滅(およそ5年以上前?)残党も確認できず。
②研究内容は人間の手でグリムを制御、管理する術について。さらにそこから発展し、人間にグリムの力を組み込む研究をしていたようだが計画は頓挫。もしくは実験失敗
③イヴという少女はプリテンダーと何らかの形で関係がある。また、彼女自身が普通の人間ではないらしい。
④彼女はネロにホの字……?
「おい最後」
事前までおふざけで書いてあったであろう項目が消されている。どこをどう解釈すればイヴが自分に惚れているという解釈ができるのだろうか。理解の外側すぎて咄嗟に声を吐き出してしまった。まさかアレか?自分だけ名指しで呼ばれているからといった安易な理由か?だからこそおふざけのつもりなのだろうが。とはいえ、この張り詰めた空気を崩そうという彼なりの精一杯の努力なのだろう。あまり悪くは言えない。
「まま、そう声を荒げなさんな。ゴルド、俺たちの標的こそ見えてきたが、肝心の目的に繋がりそうになった線がぷっつり切れちまったがどうするよ?敵襲にでも備えてここを更に要塞化でもすんのか?それともまたちまちまと足で情報を稼ごうってハラか?そんな調子じゃ俺たち全員よぼよぼの爺さんになっちまうぜ?」
やはり冷静だったのは表情だけだったらしい。平常時ならばゴルドのおふざけに乗るであろうカルマも痺れを切らしている。詳しい事情は知らないが、彼にも譲れないものがあるのだろう。それはここにいる者は全員そうだ。思えばそれ以外の事はあまり知らない。今度機会があれば聞いてみるべきだろうか……
「それに関してはカルマに同感だね。幾ら僕らがオーラを察知する術を持ち、様々な形でグリムに対するアドバンテージを取れるとはいえこのペースじゃ目的なんてとてもじゃないけど果たせっこない。参謀たる君の意見を聞きたい」
突然の事だった。ゴルドは普段は怪しげな表情こそしているが、気持ち悪さを感じる程ではない。絶妙に破綻した科学者の様な口調と、所々で見せてくる影のある部分が混ざり合い、イカしているようにさえ錯覚してしまう程だ。しかし目の前の男の目は相変わらずの胡散臭さで三日月を横向けにしたようになり、口角を一気に吊り上けているためか、歯も心なしか眩く輝いているように見える。ああ、あの顔は間違いなく何か企んでいる顔だ。ククク……と誰がどう見ても嫌な予感を感じさせる笑い方なのだから真っ当な手段であるわけがない。自分以外の二人もげんなりしている。
「まあいい加減穴熊を決め込むのも飽きたし……そうだ!君たちさ――――」
学校とか、興味ないかい?
―次回予告―
「ここがビーコンアカデミーか……!」
「こんなことやってる場合なんかね?」
「うげっ!おえええええぇ……」
次回 Internship
イヴ出てくるとなんか文字数めっさ増える。あれか、情報量増えるからか。絶対今度出てきたら一万字超えてくるわ……
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