今回はようやく入学前。世間ではもう一か月ぐらい前に終わっていますけどね。文章に起こす際に結構削ってる部分もあるのでRWBY本編見ていない兄貴は是非とも見ろ(今更)
正直なところ、本当にそのようなことができるのか疑ってかかっていた。なにせビーコン・アカデミーは話に聞くところによるといわばエリートの集まりであり、ほんの一握りの生徒しか入学できないという話程度は小耳に挟んでいる。それを理解した上であの提案をしたというのであれば無謀もいいところだ。
「まあまあ、そう悲観的になることはない……秘策がある。私の特技を存分振るう機会が遂に来た、といったところだ。これに関してはすぐに終わる程度の事だから問題はない」
発案者だけあってどうにかする方法までちゃんと考えていたらしい。しかし、まっとうな方法を期待するのはやめておくべきだろう。彼の言う『秘策』がどのようなものかは知らないが、できる限り穏便なものであることを願うばかりだ。
「それじゃ、俺らは俺らで準備すっか。ま、体裁ぐらいは整えておかねえとすぐにボロを出してこの案もご破算だからな……」
まだ何かするべきことがあるというのだろうか。恰好が目立ちすぎるから周囲に紛れるために普通の服でも買いに行くとでもいうのか。
「そんじゃあ俺たちはちょっと長めのお勉強タイムとしゃれこもう。最低限の知識ぐらいは身に着けておかないと浮くからな。ゴルド辺りは大丈夫だからこの案を提案したんだろうが、俺らもついていけないと意味がない。実際、ここ数年は戦うことに生きる意味を見出してきたようなもんだ……俺自身のちょっとした復習を兼ねてネロにも教えてやるよ」
それに関しては構わない。本をゆっくり読む時間としての建前としては最上級のものだ。しかし気になることがある。
「結局、なんでゴルドは学校に行こうとか言い出したワケ?まさかとは思うけど……ただ単に行ったことがないからとかじゃないよね?」
これがわからない。暇を潰すために学校に行くなどと言った日には翌日には自分の姿が此処にはないことも覚悟してもらわなくては。
「お答えしよう。の理由としては私たちの隠れ蓑としての学生の身分だ。よく考えてくれ、我々は傍から見れば怪しい集団もいいところだ。変身した姿で謎の仮面集団として活動してもよかったのだが……君達は嫌がるだろう?私だって嫌だ。まあ君の言う通り、閉じた場所で育ってきたから一種の憧れというのもないことはないが……それは大した理由じゃない。ビーコン・アカデミーにはある遺物が隠されているらしい……が、まあこれもどうだっていい。あれば儲けものだが、無くても困らない。不要なものを探す時間などないのだから。これで満足いただけたかな?」
いつも以上に早口で喋っているあたり、建前と本音は半々くらいといったところか。自分にも行ったことのない場所への期待はある事にはあるのでそれも十分理解できる。しかしなぜ今なのか。
「ああ、何か勘違いしているようだが別に今年じゃない。早ければ来年、遅くとも再来年入学だぞ?今のままでは準備が足りてないから仕方がない……」
え?
「二年後に大きな祭典がヴェイルで行われることは読書や街を巡ることが趣味のネロ君であればとうに存じているかもしれないが……きっとそこで奴らの手の者が仕掛けてくるだろう。この一、二年がレムナント史に残る転換期になることはほぼ確実だろう。そして事を起こすのは……」
ゴルドが嫌味ったらしい教師の物真似をしながら確認を取ってくる。しかしヴァイタル・フェスティバルか……二年に一度行われる四大国家の文化を互いに讃え、ダンスやパレード、各国家の代表がトーナメント戦で競い合う祭典だ。確か今年は39回だったと新聞に載っていた。となると狙い目は第40回、開催地は……
「ビーコン、か」
ゴルドが大正解、と言わんばかりの笑みを浮かべ言葉を継ぐ。
「察しが良くて助かるね。そこで指を咥えて見てるくらいならいっそ学生になってしまおう、というわけだ」
「だったら俺たちは今よりもっと強くならねえといけないってことか?今以上に強くなって何と戦おうってんだよ。アレか?まさか一人一国征服出来るぐらいに強くなれってか?」
冗談きついぜ、と言わんばかりのカルマの横槍。種を問わずグリムを単独で百体以上倒す程の実力は既にある……が、それはあくまでもグリム相手の話。忘れそうになるが、自分たちは
「まあまあ、三人とも落ち着きなよ。これからの一年間……場合によっては二年間になるけど、僕らの長所を伸ばして行く期間になるわけだよね。だったらとことんやるべきじゃないかな?」
沈黙を貫いていたハルトがようやく口を開いた……前々から気になっていたが、やはり熱心な部分があるのだろう、アークドライバーを持った手に力が入っているように見える。ただ、それは負の感情の篭ったものではない。どちらかというと、もっと自分には先を見る事ができる権利がある!と言わんばかりのものだった。その証拠に目を輝かせ、アークドライバーを持った手を上下に振っている。
「あとネロはスクロールを持っていないよね?そのうち買いに行こうよ。使い方はゴルドに教わればすぐに使えるようになるよ。これがないと連絡取れないから不便だしあった方がいい」
スクロール。戦闘によって減少したオーラの残有量を確認したり、四大国家にそれぞれ一基づつ存在する管制塔の範囲内であれば、スクロール同士での通話も可能といった優れものだ。ハンターにとっては必需品ともいえる物なのでどちらにせよ持っていないだけでかなり不自然なので手に入れないといった選択肢はない。
「ああ、三人に少し頼みがある。君たちの持っているアークドライバー、一時的に預かるがいいか?そろそろデータもまとめなくてはならないのでね。これも私なりの強くなるための努力であり、精一杯の君たちに貢献できる支援だと割り切って協力してくれ。どうかな?」
「俺はまあ……初めてお前と出会った時に渡されたものだしな。あった方が助かるが、無いなら無いでやり様はあるしな。だが二人はどうだ?ネロに至ってはお前のお手製じゃないから調整に大分時間が要るんじゃないのか?」
「カルマ。僕をあまり侮ってくれちゃ困るね。本当に僕が見た目通りの貧弱坊やにしか見えないって思っていたなら君に対する見識を改める必要がありそうだ。そもそも僕らは
常人ならばおよそ正気とは思えない発言の数々。人類はダストと武器を持って初めてグリムという怪物と互角に渡り合う権利を得ることが出来る。それをよりにもよってハルトは必要ないと断じたのだ。自分はそれこそ素手でもグリムをどうにか出来る。しかしハルトも同じく素手でどうにかすることが出来る様にはとても見えなかった。
「そいつは失敬した。別にお前の実力を疑ってるわけじゃないぜ?手酷くやられた俺が言うんだ、あれを初見でどうにかできるやつは俺の知る限りこのレムナントにはいねえ。なんせ
以前、ゴルドはここにいるメンバーは全員
自由自在にダストを操る。それがハルトの持つセンブランスの正体なのだ。成程、これは表に出れば間違いなく火種になる。ダストは人間が生きるためにはなくてはならない必須の代物。日常品から武器といったハンターにとっては欠かせないものにまで使われている。それを自由自在に操り、個人の掌の上ともなれば生かすも殺すも気分次第。黙って見ているなどといった悠長な真似をする国はないだろう。
ハルトはいつも試験管の様なものを持ち歩いていたが、あれは自分の体から抜き取ったダストを入れておくためのものなのだろう。正確には自身の体液を抜き、それを液体ダストに精製。やろうと思えばポピュラーな結晶体や気体にすることも可能なのだろう。個人のマンパワーでダスト技術の遥か先を行っている。これを神の御業と言わずしてなんと言うべきなのだろう。世界最大のダスト生産企業のシュニー・ダスト・カンパニーですら途方もなく矮小な存在に見える。
ハルトがここまでとんでもない秘密を持っていたのだ。ならば、カルマにも、ゴルドにも、あるのだろう。世界を根幹から揺るがしかねない程の秘密が。そして自覚こそしてはいないが、自分にも――――
「――――よし。大体理解したな?理解したなら今日はここで終わり。次のところは適当に予習しとけ。おいネロ、なんつう顔してやがる。ここが終われば机に向き合う日々とはオサラバだ。もう少しの辛抱だからそんなに情けない声出すな」
座学に時間をかけた。これは教師役を交代で行い、得意な分野を教え合うことで知識の幅を広げていく。一般常識(自分はどこか一般常識とはピントが外れたところがあるらしい)や、レムナントにおける物語(弾き語りをしていた経験のあるハルトは詳しかった)について理解を深める。意外なことに、カルマは普段の態度とは裏腹に情報を纏める能力に長けていた。どの分野もそつなくこなし、要点を絞って頭に入れる。ホワイト・ファングに潜入していたこともあり、これくらいは朝飯前なのだろう。
本人曰く、「これくらいはできないと仇討ちなんざ夢のまた夢だ」とのこと。この二年の間に各々が何故プリテンダーを追うのか。それについても聞いた。カルマは目の前で殺された父の仇を討ち、集落を崩壊させた元凶を討つためにゴルド達と共闘しているらしい。一時、その件で荒れていたところでハルトと取っ組み合いの末にダブルノックダウン。この時一瞬とはいえハルトの方が地面に倒れるのは遅かったとハルトは語っている。カルマが一切反論しない辺り本当なのだろう。とはいえカルマにも言い分はあるらしく、当時はアークドライバーを使っていなかった伸びしろの分で負けただけだという。これも筋は通っているのでハルトは反論しない。まあ、その後「でも負けは負けだよね!」とゴルドが煽り半分で言ってしまったので危うくマウントの状態からタコ殴りにされそうになっていたのは昨日の事のように覚えている。
「ふぃ~、やっぱ笛の演奏だけで入学できるほど甘くは……ないよねぇ……」
ハーメル・クラールハイト。皆はハルトと呼ぶ彼もまた因果な生き方をしてきた。普段から持ち歩いている笛。センブランスを使う際の媒体としてもかなり優秀らしいが、その辺りは門外漢なのでいまいちよくわからない。だが彼にとってはそれだけのものではないらしく、今の自分を形作っている要因の一つとまで言っていた。そもそも今のセンブランス自体後天的に得たもので、元のセンブランスは上書きされて消されている。それを取り戻すことも重要だが、あまり期待していないようだ。この笛もハルト以前の持ち主がいたらしく、その人物はプリテンダーとの関連性が高く、発見することが目的に繋がるとのこと。
「明日だ……これから楽しい学生生活が始まるんだからここでバテるのはもったいなくないかね?うん?」
最近は誰一人として博士とは呼ばないので遂に諦めたのか、名前呼びになっても気にしなくなったゴルドは未だに何を企てているのかよくわからない。推察だが、一度だけ見たロケットの中の写真には彼に似た壮年の男性と、人型素体のロボットが写っていた。この壮年の男性が彼の父だろう。アトラス軍の科学者だったことは彼が以前口にしていたので、ハルトの改造実験や、出会い等もきっと軍繋がりなのだろうと思い、それについて問うのはあまりにも礼を失しているので無意識の内に避けていた。
「そうだね……明日の朝、飛行船に乗ってビーコンアカデミーに行くんだ……しかし早かったよね、この二年間は」
自分はいったい何者なのか。この二年間、ただ闇雲に鍛錬だけを続けていたわけではない。ブレイクの捜索、自分の出自の調査、……そしてイヴとのコンタクト。どれも空振りだった。一番収穫があったことといえば、ゴルドに渡した血液から判明した情報によると、自分が真っ当な人間である可能性が極めて低いという結果だけがゴルドの口から淡々と告げられた。何故そこまで冷静にそのようなことを告げることができるのか理解に苦しむが、初めて出会ったあの時から確信に近い何かが彼の中にはあったのだろう。それが物的証拠によって正しい推測であったことが確定しただけだったのだ。
薄々感づいてはいた。ただ、今までその可能性を頭から切り離し、ずっとそうではないと無意識に言い聞かせていただけに過ぎなかった。この内から溢れ出る力、グリムと真っ向からぶつかり合える肉体、あまりにも破壊的なまでの
ハルトの言っていたセンブランスの話ではセンブランスは自分自身の写し鏡だと言っていた。ハルトはそれを一度砕かれ、新たに与えられた。その
普段見せている姿は仮初の姿。色とりどりのダストはこれを隠す仮面なのだ――――
「おぉ……すごい……」
飛行船の内部は驚くほど広く、窓の外に見える景色は新鮮だった。何せ人生で初めて乗るのだから当たり前。カルマの作った弁当を食べながら見ると絶景に見える。さながらピクニックの感覚だ。背中にあまりにも太く、黒々とした大剣を担いでいなければまさにそうだったのかもしれないが。一応ハンターの卵として入学するのだからそれくらいしておけというカルマのアドバイスからそうしていた。
他の三人は少し離れた場所に散らばって思い思いの時間を過ごしていた。演奏、トレーニング、パソコンいじりといつもと変わらない。だがそれはいつも通りに動くことができるということの証明でもあった。それにしてもゴルドの武器がメリケンサックと拳銃を合わせたようなものと、身の丈ほどの機械の意匠がある巨大な斧だったのはかなり意外だった。白衣にライダーススーツとその武器の組み合わせは相当アンバランスだった。彼の事だからもっとハイテクで、ボタン一つ押せばミサイルが雨あられと飛んでいくようなものだと思っていたのだが。
「おえぇ……うぇぇぇぇ……」
金髪のどことなく冴えない雰囲気の青年が嘔吐している。この飛行船に乗ってからずっとこの調子だ。あまりにも不憫だったので酔い止めをやったが、それでも吐き続け、もう胃液を吐いている。その時に互いに自己紹介をしたが、彼の名はジョーン・アークというらしい。
「おいおいおい……大丈夫かよ?」
見かねたカルマが此方に近づいてきた。この重力が抜けていく感覚はかなり楽しいものがあるが、ジョーンは苦手なのだろう。いっそ気を失わせてやった方が楽ではないかと思ったが、それもそれでどうだろうか。というよりも彼自身、不憫な星の元に生まれているとしか思えない。
「あ、ああ……大丈夫さ、ネロ、カルマ……」
なんというか、庇護欲を掻き立てられる男というのだろうか。ん……?今、あの燃えるような赤毛の少女がジョーンに視線を向けていたような気が……そう思って視線を返したが、その視線は既に別の方向に向いていた。気のせいか?彼が悪い人間ではない事はこの短時間でもそれとなく伝わってきたが、しっかり助けないとぽっくり死んでしまいそうな雰囲気がする。
「ルビー!まさかかわいい妹とビーコンに行く日が来るなんて夢みたい……!」
「お姉ちゃん、く、苦しい……」
溢れんばかりのスタイルの良さを前面に押し出している服装に、がっちりと噛み合っている腰まで伸ばした長いウェーブのかかっている濃い金髪の少女がルビーと呼んでいる少女に抱き着いている。話の流れからすると彼女らは姉妹なのだろう。
「これから楽しみだな……!待ってろよ、ビーコン・アカデミー!」
窓の下には広大な湖が広がり、その先の断崖絶壁にはビーコン・アカデミーがそびえ立っている。びしっ、と指を差したその横でジョーンが吐いた。胃液が床に飛び散り、靴に跳ねた。
「ちょっ、お姉ちゃん!そこのお兄さん!靴にゲロついてる!」
「え!うそうそうそうそ!ちょっ……もう!」
「おいおい……もしかして四年間この調子なのか……?」
気を張っていた自分はもしや少数派で、実はかなりアホな事をしていたのではないか。数秒前の意気込みを返してほしい。
―次回予告―
「私、ルビー・ローズっていうの!その武器どんなの!?見せて見せて!」
「じゃんけんホイ!んじゃあ俺はネロと行くぜ!」
「よろしい。では総員位置につけ。これより入学試験を開始する!」
次回 Jaune Arc
・Element(ダスト操作)
ハルトの使用するセンブランス。ダストを主として戦う相手に対して絶対的な優位性を持つ。ダスト弾をそのまま打ち返そうと思えば打ち返せるし、ダストでできることはその身一つで大体の事ができ、その場で精製・ダスト同士の組み合わせもやろうと思えばできるという汎用性もあり、無策で挑んだら間違いなく絶望することになる。策があっても生半可なものでは真正面から食い破られるという大概酷いもの。
当然、能力を発動させる規模によってかかる負担はオーラ以外にも文字通り身を削っているので段違いだが、規模を広げようとすれば更に負担がかかる。本人曰く全力ならそこら一帯火の海にも氷漬けにもできるが、カルマやゴルドとガチンコした時以外はやっていないとのこと。裏を返せば普通の相手にはこれ程の無茶はせずに一方的に勝利を収めることが可能。
劇中のネロの独白でもあった通り、どのような形であれ周囲に完全に露見することになれば間違いなく全方位から狙われる類の能力。そのため今までは隠れて活動をしていたが、目的に大きく近づくだろうという判断の上、背に腹は代えられない、と今回の入学を決意した。