RWBY Mask of Grimm   作:人間のダスト

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 評価欄が赤くなってるのを見て脳内でRed Like RosesⅡが流れてきた(処刑用BGM)
こんなんオーラドバドバですわ。

 評価してくださった方々並びに読んでいただいている皆様に感謝を。これからもゆっくり続くと思うのでよろしくお願いします。

 今回はサブタイの人物の視点からお送りします。


Jaune Arc

 彼と初めて出会ったあの時は緊張、罪悪感、慣れない環境に一人で放り出される恐ろしさもあったのかもしれないが、それを加味したとしてもかなり失礼な目で見ていたのかもしれない。無意識であったとはいえ、それは決して許されることではないだろう。

 

 ……こんなことを思っていたということが筒抜けではなくて本当に良かったと思う。俺を膾切りにするぐらいは多分簡単にできただろうし……そこまではされなくてもオーラで守られてても反吐をぶちまけるような拳骨ぐらいは貰ってただろうなあ……

 

 

 

 飛行船の中で出会ったソイツは夜を切り取ってそこに貼り付けたような姿をしていた。やや厳ついが、ハンサムと言っても差し支えない顔立ちに黒一色の鎧と外套。その上から見ても分かる引き締まった筋肉が俺より少し高い身長をより高く見せ、更に背中にはソイツよりも巨大な漆黒の大剣を担いでいた。ソイツが近づいてきたときはわざわざ書類まで偽装して入ろうとしたビーコン・アカデミーの門をくぐることも叶わず死ぬんじゃないか、とね。

 

 もしくはゲロを吐いている俺を鬱陶しいと感じたのか、飛行船の内部で殺人事件でも起こそうとしているんじゃないかとしか思えないような足取りで近づいてきたんだ。そして目の前の存在はそんな大それたことを実行しても悠々と出ていくことができるようにも見えた。実際にはやらないだろうけど……多分。それ程に彼の発する威圧感が凄まじかったんだ。

 

 だけど彼の第一声が「大丈夫?」という意外性のある言葉だったときは脳がこの男の言葉を都合よく受け取っているのかと感じたぐらいだ。外見と噛み合わなさ過ぎて笑ってしまうが、そんなことをしたら間違いなくジ・エンドだ。だけどそれは紛れもなく目の前にいる男の発した言葉だったんだ。

 

 その言葉に一瞬安堵してしまったが、家族からも「お前は少し抜けているところがあるねぇ」と言われるぐらいには間抜け極まりない俺でも少し考えればわかる事だ。なんで危険な気配をプンプン臭わせている目の前の存在に対して警戒を一瞬でも緩めた?仮に目の前にグリムがいたとして気を抜くような奴がどこにいる?

 

 先の「大丈夫?」だってこちらの事を気遣って出てきた言葉であるというのは希望的観測どころではない。よくて黒い籠手のはまった拳から放たれる重いボディブローをしこたま浴びせられるか、最悪あの大剣で胴体を泣き別れさせられることになるだろう。もしこれが忍者が出てくる漫画であれば読者にウカツ!とかアワレ!と言われる程のおっちょこちょいぶりだろう。目の前にいるのは忍者ではなくどちらかというと狂戦士の方が近いだろうけどね。

 

 こんなところで死ぬのか。殺すならいっそ楽に殺してくれ。笑顔で見送ってくれた家族に申し訳ない。脳内で回っては消える負の感情をどうにか抑え込み、表に出さないようにしている。ゲロこそ撒き散らすことになろうとも、この一線だけは何としても死守しなくてはならない。

 

 それがこの有様だ。あまりにも無様すぎて泣けてくる。でも少しでも泣いたらその瞬間にこいつと俺の間での格付けは終わってしまう。入学した後にどんな目にあわされるか……

 

 

 

『お願いします!何でもしますから!』

 

『ん?今何でもするって言ったな?……じゃあここから飛び降りるか、切り刻まれるか好きな方を選べ』

 

『そ、そんな!』

 

 命乞いをした挙句、自分が目も当てられない姿になることは間違いないだろう。それだけは何としても避けなくては……

 

 

 恐ろしい想像をしていたら、彼は既に目の前まで迫ってきていた。遂に終わりの時が来たのかと粛々とその時を待っていたんだ。でも彼のとった行動は俺の背中をさすってくることだった。ホワイ?わけが分からないよ。予想外の出来事、いや違う、予想の範疇から外していただけだったんだ。

 

「乗り物に乗って吐くのはきついよね……大丈夫か?」

 

 聞き間違いではなかった。間違いなく助けてくれるという意図での行動だ。

 

「あ、ああ……大丈夫。ちょっと胃液が残ってるけどね……」

 

 俺は一体何を言っているんだろうか。彼の言動が途端に訳の分からない恐ろしいものから一転、安心できるものになっていた。ゲロを吐いている臭い奴、しかも知らない相手にここまでできるだろうか?俺にはとてもじゃないけどできない。身近な相手ならできるが、赤の他人にここまで親切にできるものだろうか。それはどこか父性のようなものさえ感じさせるような動作だった。

 

「俺はネロ。ネロ・ベスティア。本当は一か所にとどまるのは性に合わないんだけど、まあ成り行きとはいえここで学ぶことになったんだ。……君の名前は?」

 

「うぶっ……ジョーン・アーク。よ、よろしく……」

 

 彼――――ネロは少しだけしょげたような、悲しげな顔でこちらをのぞき込んでくる。その表情からは心配している雰囲気が伝わってくる。

 

「ゴルドに念のために酔い止めを貰ったけど、こういうのってどこで使いどころが来るか本当に分からないね……今回は使い所があるみたいだけど。ほら、飲んだら少しは楽になると思うから」

 

 ネロが酔い止めと合わせて水の入ったボトルも渡してくれた時は痺れたね。自然体でこんなことができる男になりたいよ。

 

 

 

 ネロ・ベスティア。彼やその仲間たちとの付き合い、そして奇妙な因縁はここから始まったのかもしれない――――

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 お姉ちゃん(ヤン)は飛行船から降りたらすぐにどこか行っちゃった……『かわいい妹よ、あたしばっかりと仲良くしないで他の人とも親交を深めてみるといい……それじゃまた後で!』なーんて芝居がかった喋り方しちゃってさ!あのお嬢様(ワイス)もなーんか嫌な感じだし、クールなお姉さんにもつれない態度をとられちゃったし……

 

「あーあ、武器を見るようにはうまくいかないなぁ……」

 

 あのお嬢様に言われたようにわたしって子供なのかな。確かに飛び級してビーコンに入ったからそうなのかもしれないけどあそこまで言う必要はないんじゃないかなー、と思うけど否定しきれないところもある。お姉ちゃんだってきっとそういうところが心配なのもよくわかるし、期待してくれてるのもわかる。だけど、それでも……

 

「これからの生活に不安しかないよぉ……」

 

 道端に体を放り、力なく寝転がる。口からはため息ばかり溢れてくるような自分はダメなんだと思う。

 

「ジョーン、もうゲロは残ってないか?脳味噌は無事?俺の指が何本に見える?」

 

「三本立ててるように見えるから大丈夫、後あんまりそのネタ引っ張らないでくれよ……」

 

「ははは、あんなにすごい勢いで吐いてたらそりゃね……第一印象ってホント大事だよ、ある俺の友達は胡散臭さと鉄臭さできてるようなもんだし」

 

 あっ、あの人たち飛行船の中でも見た!あっちの金髪の男の子はちょっと残念な感じがするけど悪い人じゃなさそう!で、向こうの黒づくめの人はあのおっきい剣がすごかったことが印象に残っているけど、どんな人かよくわかんないや……ゲロ吐いてたのを助けてたから優しい人なのかもしれないけど……

 

「しっかしカルマ達は俺を置いてさっさと行っちゃうしさ、マイペースが過ぎるよ!」

 

「まあまあ、そこらへんで許してやれよ。ネロも大概マイペースだってカルマ達は言ってたぜ?」

 

「そりゃそうだけど……お、なんか倒れてる。おーい、無事かー?」

 

 お姉ちゃん、二人友達ができそうです。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ジョーンが不安だから残るって言ったら三人は先に行って待ってるなんて言ってくれちゃうし、変に気まぐれを起こすものではないと酷く後悔していた。ビーコン・アカデミーの地理とか自信がないから誰かしら残ってくれても良かったのに……まあ入学して早速まとも?な友人を一人得ることができたのは幸先が良過ぎるくらいだから差し引きややプラスといったところか。しかし……

 

「ねえねえ、その背中の剣見せて見せて!できることなら触らせて!」

 

 この先程まで鬱屈とした表情をしていた少女が一転、人懐っこい犬のように付きまとってくる。何でも彼女は自他ともに認める武器マニアとのことで、先ほども大鎌と狙撃中の機能を兼ね備えた自前の武器、クレセント・ローズ(三日月の薔薇)を見せてくれた。あのガチャガチャ動いて別の形態に変化するのにはある種アニメに出てくるようなヒーローが使うような武器に通じる格好良さがある。そう彼女に伝えるとかなり喜んでくれた。彼女が本当に犬だったら尻尾を激しく振っているだろう。というかそのような姿を幻視してしまった。この短時間で分かったことだが、彼女は基本的には明るい性格のだろう。ちょっと距離感を間違っているだけで。

 

 ……話は変わるが、カルマ達はなんだかんだ言って一定の距離は置いた上でコミュニケーションをとってくるからここまで相手と自分の距離が近いのは新鮮だ。強いて言うならばカルマと偶に肩組みをしたぐらいだろう。女性、しかも年下相手だからどう接すればいいかよくわからない。要するに、このような体験は初めてだから困惑していた。とはいえこれ以上放置すると自分の肩にぶら下がって来るかもしれない。人によっては役得なのかもしれないが、毎回ここまでひっつかれると鬱陶しいし……

 

 だがアークドライバーはデモンストレーションにしては派手過ぎる。これについて聞かれたらちょっと上手い言い訳をした程度ではルビーは納得してくれないだろう。それにこういうのは人に知られずに隠していざという時に使うのがイカすというのが製作者(ゴルド)の言い分だ。そういわれてみるとそういうものだなと納得してしまう。

 

「そっかそっか、ルビー、ジョーン……大体の奴が重くて持てないって音を上げるだろうけど……ほら、持ち上げてみなよ?」

 

 この学園の責任者には申し訳ないが、この道には犠牲になってもらうことにした。石畳に大剣の切っ先を向け、少しだけ突き刺す。後は重量と切れ味で豆腐(カルマが料理すると大体使われているような気がする)に包丁を入れるようにズブズブと沈み込んでいき……鍔の部分で止まった。

 

「うわあ、すっごい切れ味……私のクレセント・ローズでもここまでザックリ切ることはできないかも。それじゃあちょっと失礼して……ん、んー!動かない……!」

 

「じゃあネロ、お言葉に甘えっ……!?ぜ、全然動かねえ!こんなのずっと担いでたのかよ!?」

 

 息を切らしてここまで驚いてくれると悪い笑みが出そうになるが、こんなもので驚いてもらっていては困る。これは前座のようなものだ。言ってしまえば弓で遠くのものを射抜いても、双剣で木から落ちてくる葉を細切れにしても、大槌でそこら一帯ベッコベコにしてもいい。彼女(ルビー)のクレセント・ローズのような大鎌で演武をするのもアリだし、いっそのこと素手でも構わないのだ。目に見えて一番インパクトがあるから大剣を見せているだけに過ぎない。

 

ぬ"ん"っ"!ずぇ"りゃぁ"!……ふう、どんなもんよ。本当は平面でやった方がいろいろ飛んでいくから威力が……うん?どうかした?」

 

 姿勢を低くして柄を掴み、そこから前方に思い切り振り上げることで切れ長の穴を空けた地点からきれいに直線を描き、石畳が破壊される。更に斬撃の余波で線が伸びていき、抉れていく。だが砂利や石の欠片は飛び散ってすらいないことが一層大剣の切れ味を雄弁に語っている。既に人が捌けていて目撃者がいなかったのが幸いだ。見つかった日には入学する前に退学するという在学記録のワーストワンというありがたくない肩書を頂戴してしまう可能性があったことを考えるとやや軽率だったかもしれない。ここは軽く素振りしただけで壊れるような道だったと心の中で納得しておくことで自分の心の平穏は保つことにしよう。

 

「ねえネロ」

 

「か、必ずしもご希望にお答えすることができるわけじゃないってことで……だけど驚いたでしょ?」

 

 お気に召さなかったようだ。期待を裏切ることになってしまい心苦しいが、彼女の気を惹くような変形機構があるといったものではなく、常人の膂力ではまともに振るえないものをぶん回してそこら一帯の石畳をズタボロにしただけだ。種も仕掛けも何もなく、超人的な身体能力を見せつけただけになってしまい本当に申し訳なく思う。自分にはそんな複雑な武器を作る力はない。いいとこボウガンぐらいだ。そういった機械周りの扱いはゴルドの役回りだからそういったメカニカルな物が見たければそっちに頼むことをおすすめする。

 

「俺と比べてすごい筋肉が付いてるとかじゃないのに何でそんなえげつないのを振り回せるんだ……?」

 

「まあ、鍛えてますから。ジョーンも十年くらい鍛えればこれくらい簡単にできるようになるよ」

 

 不自然にならないような受け答えはしたが、ジョーンも十年鍛えれば簡単にできるというのは嘘だ。今のジョーンが本当にできるようになりたければ、まず人間を卒業する事から始めるべきだろう。その点、言っていて悲しくなってくるが、今更ながら自分は最初から人間を辞めていたらしい。二年前の時点で余裕で出来ていた。これは薄々おかしいと今の仲間と出会う前から思ってはいたがゴルドの検査で確定させられたことを思い出し、また落ち込んだ。

 

 

 

「そういえば、どこに向かってるの?」

 

「ルビーこそどこかしら目的地があるんじゃないのか?俺、ネロについてきただけだぜ?」

 

「えぇ……人のいそうなところは大体騒がしいから、多分みんなそこに集まってるんじゃないかな。さっ、早く行こう」

 

 おー、そうか!とか、なーるほど、ネロってなかなかいい発想力してるー!と言っているこの二人の今後が凄く不安になってきた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 しばらく三人でほっつき歩いていると、人が密集している気配の場所、大きなホールに着いた。さっさと三人を見つけて合流――――ってあれは。

 

「……」

 

 ブレイクだ。本を読む姿はまさしくクールビューティー。二度と会うことができないと半ば諦めてはいたが、出会うべき相手は出会うべき時に会うとかいう、俗に言う運命的な出会いというものを信じざるを得ないだろう。本当はすぐにでも駆け寄りたいところだが、正直申し訳なさと不甲斐なさで顔向けすることができない。というかよくよく考えると彼女とはそこまで親しくない気がする。寧ろカルマの方が彼女と親しい可能性まである。あまり過干渉はよろしくないし、今は彼女の無事を喜ぶべきか……

 

 こちらにはまだ気が付いていないみたいだし、何よりあの時は尾を生やして変装(?)していたから余程ドジを踏まなければ気づかれない……というかここで見つかると非常に気まずい。二年と少しの間、放っぽっておいてのこのこと表れるなんてことができる程ネロ・ベスティアという男の面の皮は厚くない。それは自分が一番よくわかっている。

 

「おーい、ルビー!こっちこっち!場所取っといた!」

 

 彼女は……ああ、ルビーの姉か。飛行船の中でジョーンのゲロが靴に飛び散って不機嫌になっていたのが記憶に新しい。妹に対するさりげない気遣いや、表情の作り方からもう既に明るい女性だと分かるが、ルビーとの決定的な差は距離の取り方だろうか。どことなく大人らしい、一歩引いた立ち位置からものを見ているような……本当に大人らしく、ルビーとはあまり似ていない。緩やかなウェーブのかかった長い金髪に、少々目に毒な服装。これ以上は何故かいけない気がする。うん。

 

「あっ、お姉ちゃん!ジョーン、ネロ、ごめんちょっと行く場所があるから入学式の後で!」

 

「ちょ、待てよ!ハァ……そうかい、結局俺と話してくれる女の子なんていないってか?」

 

「いや、どうだろ?ジョーンが気づかないだけで案外いるかもしれないよ?」

 

 あんなに熱っぽい視線を送られてるのに気づかないなんて……ねぇ?今もジョーンにそれとなく目線を送っているにも関わらず、当の本人はどこ吹く風。というか正反対を向いていて気付く様子すらない。もしも彼女がこいつと組むことになったらできる限りサポートせねば。……というか彼女、なんか見覚えがあると思ったらピュラ・ニコスか!あのシリアルは少し味が濃すぎるからカルマが嫌そうな顔をして食べていた。今も旅をしてたら彼女の事は多分知らなかっただろうと胸を張って言える。自慢できることではないが。

 

「んなアホな。もしそんな子がいたら俺はとっくに……って、ネロもどこ行くんだよ!?」

 

「ってな訳で俺も行くから。これからの学生生活でも何か困ったことがあれば力を貸すからさ」

 

 後ろで冗談だろとか言っているが、本気だ。ジョーン、安心して待つといい。楽しい学生生活が待っているぞ……!

 

 

 

 

 その後も遠目にルビーといかにもお嬢様といった、白を基調に裏地に赤といったワンポイントが際立つ衣装を身に纏った少女と言い争いをしていたり、ジョーンが残念さを発揮していたのを見ていたが、年相応の動きはああすれば浮かずに済むのか、などと言ったら三人に声を揃えて「いや、それはおかしい」と言われてしまった。自分らしくやればいいそうだ。

 

「諸君、長話は好きではないだろうから手短に話そう……」

 

 壇上のオズピン学長がスピーチを始める。このような畏まった場でその切り出し方はどうかと思うが、視線を集めるのに効率的であることは確かだ。だが大抵こういう話の始め方をする手合いは――――

 

「君たちは知識を得るためにここ、ビーコン・アカデミーに訪れた。自身の持ち味をより伸ばしていくために来たのだろう。卒業したのであれば人々を守るために戦う日々を送ることになるだろう……」

 

 話を手短に終わらせた試しがない。間違いなく数十分ほど立ちながら話を聞かされるだろう。先人としての言葉は確かにありがたいが、要点をかいつまんで話してくれてもいいんじゃないかと思う。もう話半分で聞いてもいい気がしてきた。

 組織のトップに立つ人物というのはどうしてこうも話が長いのか。彼個人が話したがり屋というのもあるのかもしれないが、この学長は見た目以上に年老いているような立ち振る舞いをしている。杖を片手で突きながら立ってるし。それ以上にオズピン学長は何というか……人間味を感じない。超常の存在(自分たち)のような、初見の相手が見たら得体の知れない存在と思い込ませる掴みどころのなさがある。気を付けなくては……

 

 

 

 

 

 オズピン学長の長々と続いた有難いお言葉を頂き、壇上の女教師、グリンダ・グッドウィッチ……彼女の目の前でそう呼ぶつもりはないが、グリンダ女史と呼ばせてもらおう。彼女がダンスホールで今晩は泊まるという事と明日入学試験を行うことを告げ、今日は解散の運びとなった。

 

「しかしよぉ、こんな大人数で寝るってのは……お泊りパーティっていうより避難生活って方が近いよな、ハルト?」

 

「なんでそこで僕に振るのかな?……でもそれは同感だね。ここは女の子もいるからいつもみたいにズボラな格好では寝られないね、カルマ?」

 

 二人の間に火花が飛び散っているような、いないような。半裸のカルマが寝袋に体を入れず、その上に寝転がるのをハルトは頭頂部と目以外を潜り込ませ、睨んでいる。……というか周りを見渡してみると男子生徒は上半身半裸になっている奴が多い。何故だ。

 寝る体勢について言い争っているが、付き合いの長いゴルドは止めようとしない。自分も止めるつもりは毛頭ない。かなりどうでもいいので二人は気のすむまでやり合えばいいと思う。……二年ほど付き合って分かったことだが、カルマはてきぱきしている時とだらける時の落差は大きいし、ハルトは楽器型の武器を扱うという事もあり、メンテナンスの際に細かい汚れや傷もかなり気にしている。同じチームは相部屋で生活するという話らしいが、そこら辺の問題は大丈夫なのだろうか……?

 

「まあその辺りは弁えるだろう。家では一人一部屋割り振っていたが、ここでの生活が相部屋となれば互いにある程度の妥協は必要だろうし……どうしてもダメなら私が何とかするさ」

 

「本当に聡いというかなんというか……ゴルドは俺の心の中でも読めるのか?」

 

「いやぁ?君の目線と不安げな表情、あの二人がピリピリしている時に何かを言わんとしている。これらの情報から当たりを付けただけだ、ネロ。ただの推察に過ぎない」

 

 そういうものだろうか。まあそういったテクニックだとすれば練習すれば誰でもできるようになる類の小技なのだろうか。それなら今度教わってみようか。

 

 そんなことよりブレイクだ。先ほどは気後れしたが、この時間帯であれば一人の可能性もあるだろう。ゆっくりサシで話せるはずだ。とはいえ彼女としてもホワイト・ファングに所属していたことは後ろ暗いだろうし、そういった相手の弱みに付け込むような話の導入はしたくはない。あまりそういったことは話題に出さないようにしなくては……

 

 いやちょっと待て。年頃の女性に夜中に尋ねる。これってひょっとしなくてもまずいことではないだろうか?しかも寝間着だろうから薄着確定。会話次第では下手すれば御用されるかもしれない。この年で札付きはご勘弁願いたい。しかも変態のレッテルまで貼られたら社会的に死ぬ。

 

 決死の覚悟でホール内を捜索して――――いたことには、いた。だが――――

 

「こんばんは~!お元気ですか~?元気なら返事してくれると嬉しいんだけど!」

 

 ルビーが手を引かれながらブレイクが本を読んでいるところに近づいている。手を引いているのは勿論ルビーの姉だ。掴んでいる手とは反対の手で手を振りながら堂々と歩いている様子は結構騒々しい。夜中に打ち上げられた太陽のようなものだ。彼女に怯んでいる場合ではない。ブレイクと話をしなくては。

 

「こんばんは……もう暗いんだしちょっと声のボリュームは抑えめでね?」

 

「あっ、ネロ!さっきぶりだね!お姉ちゃん、この人がネロだよ!」

 

「本当に二人も友達を作ったんだ……聞いたときは耳を疑ったけど、やるじゃないルビー!」

 

 ルビーは性格に難のある子だったらしい。何時も周りにいる比較対象(カルマ・ハルト・ゴルド)がどいつもこいつも飛びぬけて変人だったから確信には至らなかったが、それくらいであればまだかわいらしいぐらいだ。

 

「おっと、あたしはヤン。今後もうちのルビーをよろしくお願いしまーす!」

 

「ちょっとお姉ちゃん恥ずかしいってば……」

 

 何も恥ずかしがる必要はない。君のお姉ちゃん(ヤン)は立派な姉だと言ってやりたいが、口に出すのは無粋だろう。というかブレイクと話をするためにこちらへ来たのから先にそっちの方に……

 

「静かにしてもらえるかしら。集中でき……!?」 

 

 自分が話しかける前に読んでいた本を閉じてブレイクに先に声を掛けられた。一瞬とんでもないものを見るような目で見られたが、ホワイト・ファングの事について知る存在が現れたからだろう。なのでアイコンタクトを送る。

 

『安心してほしい、それについては話すつもりはない』と。

 

 ブレイクの気が紛れるようにとついでにウインクもしておく。彼女の足が生まれたての小鹿のように震えだしてしまった。ちょっと……いや、かなり気の毒な事をしてしまった。悪気はなかったが逆効果のようだ。これはもう小細工抜きでフレンドリーに行くしか……

 

「おっ、久しぶりじゃんブレイク!元気してた?」

 

「え、ええ……元気よ」

 

 通報三秒前からちょっと警戒しているくらいには気を許してくれたようだ。これなら普通にお話ができる日もそう遠くはないだろう。……本の背表紙でいつでも殴れる構えを取っていなければ。

 

「あれ、二人は知り合い?もしかして……ネロのこれとか?」

 

 ヤンが小指を立て、口笛を吹く。そのように見えたのか。確かにブレイクはかわいいし、一緒に本屋でも巡りたい……いやいやいや、残念ながらそういった浮いた関係ではない。だが空気が軽くなったことはヤンに感謝しなくては。

 

「そうなら嬉しいけどね。まあちょっとした仲であることは否定しないかな……」

 

「ええ。彼とはそこまで深い仲じゃないわ。……そ、そういえばそこのあなたは今朝爆発してたわね」

 

 ルビーしか話を振ることのできる相手がこの状況ではほぼいないとはいえ露骨すぎる……!そんな話題の切り替え方じゃ興味津々そうな顔をしている二人の注意は逸らせない……!ブレイクはもっとクール系だと勝手にキャラを自分の中で固めてしまっていたけど思いの外ドジっ子……!アリだ……!いやバカな事考えてる場合じゃない。自分の方でもどうにか……

 

「え、あ、あたしルビー。良ければ爆発娘とでも呼んでくれれば……いや、やっぱり普通にルビーって呼んでくれると嬉しいかなー……なんて」

 

 ルビーは思っていた以上にポンコツだったらしい。愛想笑いをしながら自己紹介をしてしまったがために話の流れが変わってしまった。お陰でこれ以上の追及は躱せたが、爆発したとは何なのか。ジョーンと共に道に倒れていたルビーを見つける前に彼女が一体何をしたのか気になる。

 

「そこの彼が既に呼んでいたけれど私はブレイク。よろしく」

 

「よろしく!そのリボン似合ってるよね、あなたのパジャマに!」

 

「そうね。ありがとう」

 

 ヤンがそれとなくブレイクを服装を褒めたが、取り付く島もない。再び本を読み始めてしまった。ルビーとヤンは顔を合わせて苦笑いをしている。

 

「えーと……いい夜ね、そう思わない?月も出てるし」

 

「そうね。素敵な夜だわ。この本と同じくらいには、ね」

 

 ヤンのフォローをするのであれば、空気を読むのがが下手なわけではない。上手い部類だろう。今回は間が悪すぎたが。本を読んでいる相手に取る対応として騒がしいのは不適切だった。読書の最中に邪魔されたら誰だってトサカにくる。鳥のファウナスではないので実際にトサカはないが。

 

「ねえねえどんな本なの?教えて教えて!」

 

「え?ああこの本?二つの魂を持つ男の話よ。とても古い御伽噺……」

 

 ちょっと気になる。今度貸してもらおう。

 

「あたしも本が好きだよ!子供の頃からお姉ちゃんに読み聞かせてもらってたんだ。物語の英雄が怪物を打ち倒すような英雄譚をね……ハンターになりたいって思い始めたのはそれからだったと思う」

 

「その心は?」

 

「本の中のヒーローに憧れたんだ。正義のために戦う姿がとてもかっこよくて、その……私もに戦うことのできない人たちの助けになろうって!」

 

 誰かのために戦う。それは尊い行いだが非常に危うい。グリムを成り行きとはいえ倒してきたがそれは力のない誰かを守るためではなく、降りかかる火の粉を払っただけ。人に誇れるほど立派な動機ではないことは確かだ。

 

 ……ブレイクを助けたときのことをふと思い出す。あの時の自分は果たしてヒーローだったのだろうか?情けなくはなかっただろうか?

 

「そう……素敵な子供の夢ね。でもこの世界はそんなに優しくないわ」

 

 俺は……ブレイクがほんの一瞬だけ悲しげな表情になったのを見逃さなかった。

 

「それでも、優しい世界にするために私たちがいるんだと思うな。そう信じたい」

 

「ルビーは真っすぐな子だね。自分に妹がいたらきっとこんな子だったんだろうな……」

 

「おっとネロ?私の妹はあげないよ~?自慢の妹ですから!」

 

 ヤンがルビーを抱き上げ、頬擦りをしようとしてグーで殴られていたが、ああいうのがきっと姉妹なのだろう。とはいえグーから始まる仲は少し遠慮したいが。

 

「ふふ……ルビー、ヤン、それからネロ。これからも宜し――――」

 

「あなたたちさっきからうるさいですわよ!お休みになられている方もいるんですのよ!」

 

 銀色に輝く白髪の名も知らぬ彼女は昼間は確かサイドテールだったはずだが、今は解いている。騒々しさでいけばルビーたちと五十歩百歩だろう。人の事は言えないはずだ。

 

「うわぁ!またあんたなの!?」

 

「シッ!そうだよね眠たい人もいるよね……」

 

「あーら、今になってどうしたのかしら?」

 

「ずっと仲よくしようとしてたよ!」

 

「そうだよ、なんであんたうちの妹に突っかかってくるわけ?」

 

 怒涛の流れ過ぎてどこで口を挟めばいいのやら。……うわ。カルマとハルト、それにゴルドもこちらを睨んでいる。流石にキンキン声で喧嘩されるのはかなりイラつくらしい。

 

「ちょっとブレイク……どうにかしてくれるとありがたいかな……」

 

「……今晩はもう本を読むのをやめるわ」

 

 そういって彼女は燭台の火を一息で吹き消した。暗闇の中で見えたその顔は物憂げで美しかったが、とても残念そうにしていた。

 

 




ちょっとテンションハイになって字数増えてしまった……



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