RWBY Mask of Grimm   作:人間のダスト

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 RWBYのVol.6あくしてくれ……話の流れ的にアトラス編っぽいから楽しみなんだけどな~

 RWBYは一応7期とか9期辺りまではやるって言ってますけど本当に完結するんですかね……?


Leader ship

 あの後オズピン学長が取って付けたように告げたが、カルマがチームリーダーだそうだ。

 あれか、チームの頭文字の生徒がリーダーになるシステムなのか。だとしたらオズピン学長の頭の回転速度はとんでもないことになる。よくもまあランダムなアルファベット四文字を組み替えて色を連想させるチーム名を作れるもんだ。その語彙の多さには感服せざるを得まい。

 

「しっかし、俺がチームリーダーかよ……どうせならゴルドがやった方がいいんじゃね?」

 

「断る。確かに私は君たちの能力を(ネロ以外は)よく見てきたが、咄嗟に動けるとなるとやはり君しかいない」

 

「そうだね。君はなんだかんだ言って根は真面目だからね。人の面倒とかついつい見ちゃうでしょ?」

 

 初日からとんでもないことを言っているチームリーダー(カルマ)だが、なんやかんやで投げ出すつもりはないらしい。二人もそれを理解した上でおちょくっているように見える。

 

「なあなあ、じゃあネロはどうよ?ほら、別に言うことを聞くつもりはこれっぽっちもないが、チームのリーダーってだけで箔が付くぜ?」

 

「いや……それなら形だけはカルマがリーダーで、後は各々が柔軟な判断・連携をすればいいだけでしょ。俺たちはそれぞれ分かりやすいくらいに突き抜けてるんだから。下手に短所を潰すよりも、長所を生かす方が絶対いいって」

 

「まーそれもそうか。悪かったな、分かり切ってること聞いちまって。……ま、裏口入学がバレたってオズピン学長はいきなり追い出したりはしねえだろ。なんだかんだ言って既に俺たちは入学時の成績でトップを取っているからな。それにあの男は人材コレクターって目をしてやがるから良くも悪くも安心できるってわけだ。……丁度うちにも似たような奴が居るからよーくわかるぜ」

 

 

 カルマとゴルドの間で視線が交錯する。ゴルドは目が笑っているが、カルマの目は笑っていない。研究者という立場であればそれも当然と言えば当然なのだが……

 

 

「そういえばさ、廊下の方でなんか音がしない?これの手入れをしようとしてたのに気が散る……」

 

 ハルトが愛笛を両手で撫でながら謎の音について指摘したので、ドアを開けて廊下に出る。

 ……その音源は(チームRWBY)の部屋のようだ。そうなると自分たちの斜め向かい(チームJNPR)から何の反応も無いことが不可解だが。もしや留守だろうか?今の時間帯は早朝なのでそれはないと思うが……

 

「おい!うるせ……えぇ……」

 

 その向かいのドアを蹴り開け、勢いよくなだれ込んだカルマが語調を落としていく。一体何を見たという……これは仕方ない。正気を疑う。

 

「あっ!うるさくしちゃった?いや~まさかそんなに音が響くとは……」

 

 ヤンが出迎えてくれたが、チームCHNG(俺たち)の視線はその魅惑のブラウス姿ではなく、天井から吊り下げられたベッドと、積み上げられた本をベッドの四隅に置いて無理矢理二段ベッド改造されたソレに視線を注いでいた。こんな珍妙なものが堂々と部屋の大半を占領しているのだ。気にならない筈がない。

 

「えーっと……何これ?」

 

「ダモクレスのベッドですわ。勇気ある者のみこの下段のベッドに寝ることを許されますの……わたくしは反対したのですけれどね」

 

 吊り下げられたベッドについてワイス・シュニーが丁寧な説明をしてくれた。手短に要点を纏めているというのも高評価だ。この真面目さをうちの参謀(ゴルド)も是非とも見習って欲しい。

 

……彼女のアイスブルーの瞳は見れば見る程氷の弾丸が飛んできても違和感はなさそうだな、と思いながら聞き流してしまった。割とどうでもよさげなことでさえ真剣に語るのではないかと思うとハルトと性格的にはよく似ているのではないかと思う。

 ドーナツについてカルマと本気の議論をしていたのには驚いた。最終的にはプレーンシュガーこそが至高だとハルトが言い張ったので、カルマが折れた。熱量を向ける方向は人それぞれだというのが自分の持論だが、あそこまでアホな意地の張り合いは見たことがなかった。

 

「まあ……その様子を見ると他の三人は賛成したみたいだね?」

 

 ハルトの表情にこそまだ出ていないが、苛つきが見え隠れしていてかなり心臓に悪い。

 

「え、ええ……ですがわたくしも手を貸しているという意味では同罪。今後このようなことが起こらないようにチームリーダーに言い聞かせておきますので、今回は納得してくださるとありがたいのですけれど?」

 

 おお。最初は気圧されてこそいたが……最終的には毅然とした対応で押し切ったのは意外だった。非を認めつつ、自分は曲げないその対応は好感触だ。

 

「うーん……まあそうだよね。部屋のリフォームでうるさくならないなんて寧ろ不自然だし。僕の方こそごめんね?うちのチームリーダーが怒鳴りこんじゃって……」

 

 しれっとカルマに全責任を押し付けていたが、カルマはルビーとダモクレスのベッドを観賞していて聞いていなかったようだ。

 

 それよりも『うちの部屋にもこれ作っちゃうか……』と呟いていたので背筋に寒気が走った。

 

「いやいや君たち、そんなことよりも予鈴が鳴ったぞ。早く教室に行かないといけないだろう?初回から遅刻なんて無様すぎはしないか?」

 

 ゴルドの指摘で場がいきなり水を掛けられたようになった。

 

「おっと、そうだったな。ルビー、面白いもん見せてくれてありがとよ!じゃ、俺は先に行ってるぜ」

 

 カルマの赤髪がたなびいて一筋の風となり、去っていく。汎用性の高いセンブランスは羨ましい限りだ。

 

「ほら、隣の部屋の住人達も気が付いたようだ。ほら、駆け足始め!」

 

 ……ワイスやジョーンのように走力に自信がない組が置いて行かれるのは納得なのだが、身体能力に優れたファウナスであるブレイクや新入生の中でもトップクラスの能力を誇っているピュラでさえ追いつけない速度で走りだし、自分たちを置き去りにしていったのには目を疑った。

 そういえばゴルドがまともに動くところなんて見たことがなかった気がする。あのロボットのようなカクカクとしたモーションでどうしてあそこまで速く走れるのか。あまりの不可思議現象に膝が笑ってしまい、危うく遅刻してしまう所であった。 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 ピーター教授はでっぷりとした腹と白いカイゼル髭がまず目に飛び込んで来る。細目なのは齢だろうか?動物に例えるならアシカのような見た目をしていた。

 

 そんなピーター教授の講義は結構面白く、基本的なグリムの生態や四国家の現状や、ハンターとしての心がけについて熱く語っていたのが印象深い。彼の熱心さも伝わってくるし、内容も結構面白かったが、若かりし頃の自分の体験について長々と語るのがなければもっと面白かったかもしれない。お陰でまともに講義を聞いている生徒がほぼいない。寝ていたり、本を読んでいたりする。

 

 ……隣に座っていたルビーが俯せになって寝る事も、デフォルメされたピーター教授の顔をノートに落書きしていてもまだ見逃してもいい。おバカな顔つきで大道芸の真似事を始めても……ギリギリ見逃す。

 流石に鼻をほじろうとしたときはすかさず頭をはたいて止めたが。ルビーの逆隣りに座っていたワイスがわなわなと震えていた。だが、頭を押さえて涙目になっているルビーを見て何か思うところがあったのかこの場は抑えてくれた。

 

 そう……この場は。本当に問題なのはここからだ。

 

 ピーター教授が猪型のグリム、ボーバタスクと誰か実践授業をしてみないかといったところでワイスが名乗りを上げたのだが、その内容がマズかった。文字通り猪突猛進といった様子のグリムをいなしつつ、やや手間取りながらグリムを倒していた。そこまでは問題ない。

 だが、そこでルビーがいちいち口を挟んできたのが気に障ったのか、ワイスは同じチームメイトに口も利かずに出て行った。……最終的にルビーの言ったとおりに動かざるを得なかったことに対して屈辱的だったというのもあるのだろうが。

 

 

 

――――そして今、廊下でワイスが薄く左目に傷跡のある美しい顔でこちらを見上げている。

 

「ねぇ、なんで俺呼び出されてるの?」

 

 鬱憤をぶつけるにしても筋違いではないだろうか。

 

「あなたのチームでまともに話を聞きそうなのが貴方でしたので」

 

 カルマは付き合いが浅いとチャランポランに見える。話してみると結構付き合いがいいことに気付くのだが、それに気が付くのはもう少し時間がかかりそうだ。

 その点、ゴルドはこの手の相談をする相手としては論外だ。話をすべて聞いた後、正論と解決策だけ言って鼻で笑われるのがオチだ。余計に油を注ぐ。

 となると、この場合において相談すべき相手として正解なのはハルトなのだが……敢えて言うまい。ゴルドとカルマの折衷案ぐらいは出してくれそうだが、果たしてそれが彼女の成長になるのだろうか?

 

「……そんなことよりも一つ提案がありますの。聞いてくださる?」

 

 悪事の片棒を担げというのであればお断りだが、彼女の深刻そうな顔つきから察するに……プライドが邪魔して簡単に頼めない事といったところか。

 

「あなたのところのチームリーダーとうちのチームリーダー、交換してくださるかしら?」

 

「本気か?言っちゃなんだけどルビーの方がまだマシだよ?」

 

 カルマにリーダーの素質が無いという話ではない。ただ単に親友(カルマ)を(彼の性格的にうまいことやるかもしれないが……)女三人の針の筵に放り込みたくないというのもあるし、ルビーがこちらに来たらいつも以上に神経を尖らせる羽目になる。

 

「いーえっ!あそこまでリーダーとしての意識が低い方に従うのはまっぴらごめんです!」

 

「どうかな。まだ初日でそれは流石に言い過ぎだと思うよ?君の実力がルビーと比べて劣っているという事はないだろうけど……」

 

「……随分と含みがありますわね」

 

 ……あまり勿体ぶっても良くないか。はっきりと言ってしまおう。

 

「今、俺の前にいるのは君はただのガキだよ。欲しいものが手に入らなかっただけのね」

 

 本当は自分がチームリーダーになれなかったことに対して不満があるというだけなのだ。ルビーがだらしなくなければここまで彼女も怒り狂うこともなかったのかもしれないが。

 

「そんなことは全くありませんわ!」

 

「……本当にそう?自分の胸によく聞いてみて?」

 

 先ほど腕を組んで否定したワイスを生暖かい目でじっと見る。しばらくは負けじと目を合わせてきたが、瞳孔が揺れ動き、最終的に斜め下に視線を落とした。

 

「いえ……冷静になりました。続けてくださる?」

 

「ワイス、君は今持っているものを最大限に伸ばしていくためにここに来たんだ。リーダーになりに来たわけじゃないだろ?そこを履き違えちゃダメさ。大いに学んで、大いに学生であることを謳歌する。それが今許されているんだからやらないなんて損さ!」

 

 間違いなく自分が言ってはいけないし、自分たちの本来の目的の事を思うと胸が痛む。だがそれでも見逃せないものがある。誰かが言わなければチームRWBYの空中分解待ったなしだ。

 

「俺が君に言えることはこれくらいさ。だけどよーく考えてくれ。……もし本当に世界の危機が迫っている時でもそんなことを言うようならば君は本当に愚かだ」

 

「ネロ……?」

 

「ただの例え話さ、気にしなくていい。で、まだ無理にチームリーダーになりたかったり、交換したかったりする?」

 

 

 言葉には出さなかったが、彼女は白い細く首を横に振ることで答えた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「本当は俺なんかが諭すよりも先生がやってほしかったんですけどね……ねぇ、ピーター教授?」

 

 ワイスが去った後、廊下の角からピーター教授がのっそりと出てきた。

 

「ほっほっほ、君には教師になる才能があるかもしれんな。どうかね、卒業したらここで教えてみんか?」

 

「はっはっは……とんだ御冗談を。僕はそこまで模範的な人間じゃありませんって。それよりも……」

 

 なぜ立ち聞き等していたのかが気になる。そう繋げたかったが、敢えて言葉にはしなかった。

 

「生徒間で何とかなる問題であればともかく、そうでなければ我々教師の出番だからな。是非とも頼ってくれたまえよ?」

 

 そう言って教授は腹を叩き、太っ腹を揺らした。頼りがいがあるとは思うのだが……どうせならブレイクの双丘が揺れるところが見たかった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「へぇ……そんなことがあったのか。まあ俺はそれでも構わなかったが……お前の言う通りルビーよりも苦労する事請け合いだろうな」

 

「本当だよ。君が向こうに迷惑をかけるのは目に見えてるからね。ルビーもあの日以来シャキッとしてるようだし……」

 

 数日後、チームCHNGのメンバーが食堂で朝食を取りながらワイスと話した内容について語っていた。それ以外はいつも通りの朝だった。

 

「まあ、長い事付き合ってる僕やゴルドも偶に辟易しちゃうからね。とてもじゃないけど君を御せるとは思えないよ」

 

 ゴルドもそれに合わせて頷く。

 

「しかしネロが青春を謳歌することを人に勧めるとは。君はそこまで齢を取っているわけでもないのに時々爺臭いね」

 

 言葉の刃が突き刺さる。特に爺臭いと言われたのが胸にクリーンヒットした。相変わらずゴルドは歯に衣着せないで喋るのをもう少し手加減してほしい。

 

「やっぱり楽しいことはできるうちにやらないと。……俺たちは皆心当たりがあるはずだろ?」

 

 三人の視線が途端に鋭くなる。チームというよりも飛びぬけて強い四人が集まっているだけであり、外から見ればチームの体を成しているだけに過ぎない。未だ友人としての付き合いが続いているのは……お互いを憎からず思っているからだ。親近感があると言ってもいい。

 

「まあ、な。それはそうと……あん?何してんだあいつら……」

 

 カルマが深いため息を吐きながら食堂を見渡し、いっそう騒々しい方へと振り向く。その視線の先にいたのはチームCRDLだ。ファウナスの女子生徒に絡んでいるが、あまり気持ちの良い見世物ではない。

 

 その中心にいるのは……カーディン・ウィンチェスターか。いかにもガキ大将といった図体のデカさと頭の悪そうな顔つきの男だ。……頭は本当に悪かったようだが。

 確かジョーンに嫌がらせをしていたのを何回か見かけた覚えがある。その時はただのおふざけかと思っていたが、ジョーンをロッカーに閉じ込め、射出したのは少しやりすぎだろう。

 

「んー……あんまりああいうのは見過ごせないねえ。ちょっくら注意しに行くかい?」

 

「公共の場であそこまで品性下劣な真似ができるとなるといっそ清々しいね。かなり不愉快だけど」

 

 兎耳を引っ張られている彼女は弱弱しい抵抗こそしているが、カーディンがそれを辞めるつもりはないらしい。

 

「ほら、モノホンだって言っただろ?」

 

「ひゃはは!マジかよ!」

 

 ――――自分は少しファウナスと人間の確執について甘く見ていたのかもしれない。恐れるのはまだ理解できる。自分より強い存在がいたなら誰だって恐れるだろう。だから排斥した。差別した。……そして閉じ込めた。

 だが、笑いものにしようというのは……理解できない。幾ら抵抗の意志が弱いとはいえ、あそこまで心無い行為ができるのか。これではまるで――――

 

「おい」

 

 いつの間にかカーディンの目の前までカルマが動いていた。その声からは抑揚が消え、ここからでは伺えないが恐ろしい表情をしているだろう。

 

「なんだ?俺たちは今遊んでるんだから邪魔すんなって!」

 

 カルマが右手の人差し指を立てて天に向かって突き上げる。この動作を行う時はカルマが何かをしようという時だ。となると……

 

「失せろ。親父が言っていた……女の子に優しくできない奴に碌な奴はいないと」

 

 これは不味い。下手をすると血を見ることになる。キレてしまったらオーラで守れる限界以上に相手をボコボコにしてもおかしくない。

 

「ああ!?ちっ……てめえら確かCHNGの……覚えとけよ!」

 

 ただ、突き抜けた愚かさもなかったようだ。ここでカルマに痛めつけられる覚悟で殴り掛かったのであれば称賛こそしないが、その蛮勇に拍手くらいは送っただろう。……実際は尻尾を巻いて退散したので地に落ちていた評価は地面の底に沈んでいったが。

 

「へっ、一昨日来るんだな……ほら、立てるか?」

 

 カルマが兎のファウナスの少女に手を貸し、立ち上がるように促した。彼女はそれにやや躊躇いつつ、その手を取って立ち上がる。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「まあ気にしなさんな。同じファウナス同士なんだからそう気張る必要はないぜ」

 

 ……こうしてみるとファウナスの人柄には大きく分けて二種類いる気がする。

 

 ここにはいないが……船で密航して出かけることが趣味のサルのファウナスの友人や、カルマのようにファウナスだからどうした!と言わんばかりに前向きな性格のタイプ。

 

 ブレイクやこの兎耳の少女のように人間との差異に苦しみ、迫害されてきたことによってどこかしらで引っ込み思案になり後ろ向きな性格になってしまうタイプ。

 

 後者のタイプだからと言って必ずしも暗い性格という訳ではないし、前者のタイプだからと言って快活な性格であるというつもりもない。だが、大体この2タイプに分類できる。

 

 

「しっかしまあ、あそこまでされてなんで抵抗しない?なんか後ろ暗い事情でもあんのか?」

 

「い、いえ……別にそういう訳では……ただ私のチームリーダーが彼らを殺してしまうのではないかと思うと……」

 

 そのチームリーダーの事は気になるが、嫌がらせをされた相手によくもまあ……そこまで慈悲を掛けてやることができるものだ。彼女は聖女か何かだろうか。

 

「おいおい、それなら尚更言った方が……」

 

「私のせいで迷惑がかかるのは嫌なんです……!」

 

 仲間であったとしても人間がファウナスを庇うことで迷惑になる?本当にそうだろうか。チームメイトはその助けの声を待っているだけじゃないのか?

 

 

 

 その一部始終を見ていて……何が正しくて、何が間違っているのか分からなくなってきた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 俺は今面倒な奴に付きまとわれている。

 

 カーディン・ウィンチェスターだ。こいつが俺を後ろから突き飛ばしてくるのはまだいい。クロケア・モルスを通りすがりに展開させて通路にひっかけられたのは地味にショックだった。俺よりも上手く使ってくるとは……

 ロッカーの中に押し込められてどっかに飛ばされそうになった時は流石に冷や汗かいたよ。ネロとピュラが止めてくれなかったらどうなっていた事か。

 

「――――このようにファウナスによる人権革命、いわゆるファウナス戦争以前に人類はファウナスとの人権革命を推し進めていたのだ!」

 

 ウーブレックス教授……いや、博士。教授って呼ぶと訂正されるんだっけ。彼は教室を縦横無尽に駆け巡りながら講義をする。その速さは目にも留まらない程で、講義の進行速度もかなり早い。

 

「今君たちはッ!遠い過去の話だと思い込んでいるようだが……これは今現在も起こっている現実だと理解してくれると有難い。何故ならこの問題は現在の社会にも未だ根深い問題として残っているからだ!」

 

 高速移動の合間に水筒に口を付けながら喋っている。本当に速い。隣に座っているネロや少し離れた席にいるカルマはその動きを目で追っているようだ。もしかして見えているのか……!?

 

「ファウナスであるというだけで差別や弾圧を受けた者はいるかね?」

 

 ぽつりぽつりとファウナスの生徒が手を挙げている。……カーディンに虐められていた子も手を挙げていた。あの時はカルマが追っ払ったから大事にはならずに済んだみたいだけど、ノーラが足をへし折ってやろうとか言い出すし、ピュラも我慢の限界みたいだったからあそこであんなことが続いていたらどうなっていたか……

 

「嘆かわしいッ!実に嘆かわしいッ!良いかな諸君、それこそまさに卑劣で愚かしい暴行の象徴であるッ!……まさに……えー……まさしくッ!ホワイト・ファングもその一端であるッ!」

 

 

 

「それではファウナスの優位性について答えられる者はッ!?……それではアーク君、ようやく協力してくれる気になったか!」

 

 ヤバい!居眠りしてて話の内容聞いてねえ!

 

「素晴らしい!実に素晴らしいッ!では答えは!?」

 

 勿論わかるわけがない。まくし立てるように答えを求める先生には申し訳ないが、理解でき……ん?

 

 ピュラが先生の後ろからジェスチャーで何かを伝えてきた。すらりとした長い指で自分の目を指差した後、両手で輪を作り目に押し当てる動作をしているのは非常にかわいい。だけど何を伝えたいんだ……?

 

「えーっと……双眼鏡?」

 

「おいおいジョーン、それを言うなら目がいい、だろ。冗談はよしてくれよ?」

 

 隣に座っていたネロが訂正してくれなかったらもっと笑われていただろう。カーディンは笑っていたが。

 

「なかなかにユーモアのある回答をありがとうッ!それではカーディン君、君はその優位性についてどう答えるッ!」

 

「まあ、畜生ならば兵として従えやすいってところでしょうか」

 

「それは偏見ってものではなくて、カーディンさん?」

 

 慇懃な回答をしたカーディンをピュラが丁寧な口調で窘めているが、あれは内心で怒っている。

 

「あ?文句あんのか?」

 

「別に。答えは暗視能力です。ほとんどの獣人は暗闇でもはっきりとした視界の確保が可能です」

 

 流石ピュラだ。俺じゃ分からなかったのにあっさりと答えたのはエリート中のエリートって感じがする。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 カーディンが苛ついていたりしたが講義は無事に終わった。ウーブレックス先生に居残りさせられたのは仕方ないけど、カーディンと一緒だったのは最悪だったなぁ……教室から出たのと同時に突き飛ばされたし。

 

「本当に足をへし折ってやりたくなってきたわね。……そうだ!いい考えがあるわ!ほら、こっちに来て!」

 

 そしてピュラに屋上に連れてこられたのだが、まさか……

 

「なあピュラ。俺そこまで思い詰めては……」

 

 飛び降りろってことか?死ねば楽になれるというのはとんだブラックジョークだ。

 

「違うわ違うわ!そんなことのために連れてきたんじゃないの」

 

 

「ジョーン……あなたはまだ入学したばかりで大変かもしれない。戦士としてまだ一流でないというなら協力させてほしいの。……放課後、私とここで特訓しましょ!」

 

 確かに彼女がコーチになってくれるならば……希望はあるかもしれない。でも……

 

「なあ、俺ってそんなに頼りないのかな……」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 夜風に当たろうと屋上に来たらとんでもない場面に居合わせてしまった……ジョーンとピュラが何やら話しているみたいだが、こちらにはまだ気づいていない、邪魔するのも悪いしそろっと退散させてもらおう……

 

「違うんだ。俺はここに相応しくないんだ」

 

「何を言っているの……?相応しいからここにいるんじゃない」

 

 色恋話だと思っていたが雲行きが怪しい。もう少しここで立ち聞きさせてもらおうか。

 

「俺はビーコンに入学することを許されてここに来たわけじゃないんだ……」

 

 そんなことを言ったら自分含めてチームCHNGは全員ろくでなしだ。そこまで気にすることでもない。

 

 隠れて話を聞く限りだとジョーンは訓練校にも通わず、試験に合格したわけでもなく、アカデミーに実力で入った訳でもない……つまり、成績証明書を偽装して裏口入学したインチキだ、というらしい。

 だが、先祖代々英雄であった家族に顔向けできないという羞恥心を持ちながら、そこまでしてハンターになりたいという熱意を持ち、手段はともかく入学したのだ。

 ゴルドに師事してハッカーにでもなればいいのではないだろうか。

 

「だったら私が協力して……」

 

 確かに彼女が協力すれば大きな前進だろう。ジョーンがそれを素直に受け取れば、の話だが。

 

「協力なんていらねえよ!俺だって助けられてばっかりの能無しなんかになりたくない!仲間が生死を掛けて戦っている時に一人だけ木の上にしがみついて隠れてるような奴にはなりたくねえよ……!」

 

「自分ひとりでどうにかできなくて……何が英雄だ」

 

 ……これはちょっと手助けが必要か。

 

「聞いていればよくもまあそこまで情けないこと言えるもんだ、ええ?」

 

「誰!?……ってネロ!?あなた今の話……」

 

「君のような優等生に顔と名前を憶えられているとは光栄だ。……でさ、ジョーン。お前いいのか?」

 

 ピュラがいきなり現れた自分に驚いているが今はジョーンだ。ここが彼の分水領だろう。

 

 英雄になるか、ろくでなしになるかの。

 

「なんだよ。バカにすんのか?」

 

「まさか。そこまで手段を選ばずに入学するなんて見事だと思うよ。俺もあんまり人の事言えないしね。……いいか、ここに入学する以上ある程度は実力が付くんだ。やってけない奴はどっかで必ず痛い目を見るさ。お前はその覚悟があってここに来たんだろ?」

 

 ジョーンは沈黙している。だが首は小さく縦に振った。

 

「だろ?本当にどうしようもないと思ったらお前のチームメイトに相談するのが筋だろ。……リーダーがナメられるってことはお前のチームメイトもナメられるってことだ。それを頭の片隅に常に置いておけ。……わかったか?」

 

 孤独と孤高は全く別物である。カルマは人懐っこい態度こそ取っているが本質は孤高の男だ。ある一定のラインから入ろうとすると強い拒絶をぶつけてくるが、ある程度の協調性がある。

 だがジョーンは違う。頼ってくれと言う仲間を突っぱねて孤独になろうとしている。それは良くないものを後に遺してしまうだろう。

 

「少し頭冷やしてきな。これ以上話を続けてもお互い辛いだけだしさ」

 

「っ……!」

 

 ジョーンが俺とピュラの横を走り抜けていく。俺は止めなかったが、彼女は止められなかった。

 

「ねえネロ。ジョーンは……」

 

 此方の顔を伺ってくる彼女はいつもらしからぬ不安そうな表情を浮かべている。

 

「こればっかりはあいつが腹をくくれるかどうかの問題だ……それまで見守ってあげてほしい。そんであいつが君を真に頼って来た時がチームJNPRの本当の結成だと思うな」

 

 

 そういってこの場を去る。そして、彼女だけが煌々と輝く崩れかけている月の光を浴びていた。

 

 

 

 




 最後あたりにシーズン12話でジョーンとルビーが話しているシーンを挟もうとしましたが、描写していると話のテンポが更に悪くなってしまうので泣く泣くカット。RWBY本編見て確認して、どうぞ。

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