ホモはせっかち、はっきりわかんだね。
原作で言う所のVol.1における最後の山場の導入部分。
それだけに長くなると思いますがどうか最後までお付き合いください。
冒頭三人称からお送りします。
「ネロ……」
禍々しさを孕んだ暗い空と赤黒い雲。
かつては美しかったであろう面影を残している崩れかけの神殿。
大地はところどころ赤くひび割れており、まともな生命体はいる筈もない。
そう、まともな生命体は、だ。この死の大地を支配する者が存在しない筈もない。
――――イヴは吹き抜けになっている神殿の最奥の二つ並べられた玉座に腰かけ、雲一つない暗黒の空を眺めている。
その姿は女帝を思わせるが……隣に座る彼女の愛すべき王もいなければ、かつてはいたであろう従者もいない。
表情は憂いと怒りが入り混じり、人形のような端正な顔を歪ませていた。
「なぜ?わたくしをお忘れですか?これほどまでにお慕いしているのに……」
彼女は配下にした
「なぜですか?わたくしの愛に何処か至らない点でもありましたか?」
彼女は答えられる限りの事を答えようとした。だが
「ああ……やはり静かな場所で語り合いたい……ようやく見つけたのに……」
彼女はネロと二人で心行くまで語り合おうとしただけだった。離れ離れになっていた時間を少しでも埋めるため。
「ああ……やはり帰ってきていただけないのですか……?」
彼はあの時彼女と決別した。それでも――――
「我が写し身よ……」
青白すぎる肌。六つに枝分かれしており、飾りのつけられている白い髪。
腕から顔にかけて血管が浮き出しているかのような脈が走っている。
額の中央の黒い菱形が目を引くが、何より瞳孔は赤く、白目の部分がどす黒い。
およそ人間離れした外見の女は悠々とした足取りでイヴの目の前に姿を現す。
「セイラムですか。今日はどのようなご用件で?」
人間という類稀なる成長性と感情から力を引き出す生物に対し、その力を認めているにも関わらず、この世界で誰よりも強い敵意を人類に抱く存在。
彼女はこの老獪な女が何よりも嫌いだった。恐ろしいからではない。古の時代の遺物が現在も尚、裏の世界に力を及ぼしているからだ。
「『王』は未だに見つからないのか?」
女王。彼女はイヴを小間使いか何かとしか認識していないのだろう。それでもこの女王が直々に足を運んでいるあたり、部下には任せられない重要な案件であると認識しているらしい。
「……ええ。王は目覚めなければわたくしでも探知できません。なので今日のところはお帰りいただけるかしら?」
女王の配下がいれば彼女の礼を失した対応に怒り狂っただろう。それでもこの女王が未だに平静を保って顔を突き合わせているのは自分たちの陣営……グリムの繁栄に必要な情報だからだ。
「そうか。だがあまり隠し事は褒められたものではない。私をあまり侮るなよ……」
それだけ残して黒い靄となって女王はこの殺風景な大地から去っていく。残されたのは一人の少女だけだ。
「不愉快な女ね……」
怪訝な顔でその靄を見送りながらイヴはついそう漏らした。老害であると思ってはいるが持っている力は間違いなく本物だ。決して侮っていい相手ではない。
だが本当に知られてはいけないことは隠し通した。イヴはいつの間にか流れていた額の汗を黒いハンカチでふき取り、満足した顔で再び味気ない空を眺める。
「……セイラム。あなたの時代は直に終わりを迎えるわ。ネロ、本当の貴方が戻ってきた時……私たちの時代が来る――――」
叛意を抱いていることを知られてはいけない。さもないければイヴはグリム陣営と人間陣営に板挟みにされかねない立ち位置だからだ――――
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……つまりそれの調子がおかしいっていう訳かな君は?」
「あんなノイズを立てておいて何の不具合もないだなんて言わせないけど?」
先日のフォーエバー・フォールの一件。アークドライバーに不具合が起こったことをなんて事のない顔をして聞き流すゴルドに対してネロは腹を立てていた。
「だがカルマの使っていたものには問題はなかったのだろう?で、あればだ。君自体に原因があるのかもしれない」
「と、いうと?」
勿体ぶった言い回しといまいち腑に落ちず、更に苛つくネロを尻目にゴルドが続ける。
「アークドライバーが能力を引き出すていう話を以前聞かせたのは覚えているな?調べるうちに分かったが、それはある条件を満たさなければそれは機能しない。激しい感情を持つこと。そして己自身がどのような存在か理解していなければいけない事。君は自分自身を半端にしか理解できていないのかもしれない」
鳩が豆鉄砲を喰らったように目をぱちくりさせる。それも当然だろう。いきなり自分自身の認識に甘い部分があると言われれば誰でも驚くのだ。例えネロのようなお気楽な人物であったとしても。
「まあそう驚くこともあるまい。自分自身は何者か、だなんて常時考えている奴はきっと自分に自信のない奴ぐらいだからな……」
ゴルドは普段は人を食ったような態度で受け答えをする男だが、おちょくる事は決してせず、それ以上に己の在り方を模索し続けているだけに過ぎない。
ネロもそれを理解している。なので苛立ちを収め、冷静に話を聞くことにに努めていた。
「あの音声は一種の認識機能のようなものだ。いわばシリアルナンバー。唯一無二である己を指し示してくれるものとでも捉えておくと分かりやすいか。だから
「それって結構難しい事だよね。……まあやれるだけやってみるよ」
椅子からゆっくりと立ち上がり部屋からネロは出ていく。
ゴルドはその後姿には……声を掛けずに見送った。
ゴルドは掌を握りしめる。そこから金属が軋むような音が響く。
「皆にもいずれは言わなければいけないか。ネロの事も……そしてオレの事も」
彼の言葉を聞いたものは誰もいなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
Case.1 チームRWBY
「う~ん、そうだね……お兄ちゃんがいたらきっとネロみたいな人だってんじゃないかなって思うな!お姉ちゃんとは違った優しさだし!」
「ルビーは偶にあたしに厳しいよね。そうだね……ネロは落ち着いた人かな。いつも物事を外側から客観的に見てるって感じがする」
「わたくしもそう思いますわ。オズピン教授も大概ですが……若者の肉体に老人の精神でも詰め込んでいるのでは?」
ブレイクは図書館に行っているという事で話は聞けなかったが、概ね『落ち着いている』という評価らしい。
「あっそうだ!明日街に出かけるんだけど一緒に行かない?」
「あー……まあ息抜きも必要か。ゴルド辺りを連れて行くかもしれないけど、それでもいいなら」
「ルビー、遊びに行くのとは違いますのよ?わかってますの?」
なんだろう……ワイスは時々腹黒になったり抜けていたりするので見ていて面白い。今はやや腹黒寄りか。
「ルビーもワイスも喧嘩しなーい。あたしはいいけどブレイクにも聞いてみるよ。後でスクロールに送っとくね」
女性は三人集まると姦しくなるらしい。どのような話題でも賑やかにできるのは本当にすごいと思う。
Case.2 チームJNPR
「顔が少し怖い奴だと思ってたけど、よく話すといい奴って感じだよなお前。……あの時はありがとな」
そんなこと思われていたのか……地味に傷つくな。まあ黒づくめで自分よりガタイのいい奴がいるだけで威圧感を感じるのは当然だが。
「ジョーンが世話になったねー!へっへっへ……どうしてくれようか。あ、カルマから何か甘いもの貰ってきてよ!」
「うちのノーラが本当に申し訳ありません……あなたは少し変わっていますね。このようなことをわざわざ聞きに来るなんて……」
この二人は漫才コンビのような……以心伝心、阿吽の呼吸というものが身についている。ノーラのボケにエッジが効きすぎているが。
「ジョーンに勇気をありがとう。こればっかりは私でもね。……そういえば貴方が強いってジョーンに聞いたわ。今度訓練に付き合ってもらえるかしら?」
「いやそんなことは……ジョーンお前さてはあの話したな?」
今更ながらジョーンは結構お調子者なところがある……
カルマのように軽い雰囲気から一転、人を殺していそうな鋭い雰囲気を出すようになられても困るが。
「なんかチームの時間で話している時にいきなり押しかけてごめん……」
「いや、いつでも来てくれよ。友達だろ?」
なんというか世間話のような感じになってしまった。『付き合いのいい奴』といったところか?
……ノーラは涎を垂らして此方を見るのは勘弁してくれ。そのまま食われてしまいそうで気が気ではない。
Case.3 教師陣
「ネロ君。君は私の話をよく聞いてくれる。私の若い頃もそれくらい勤勉で……」
「私の講義をよく聞いてくれるという風に記憶しているッ!君はファウナスの友人がいるから差別意識を持たずにスポンジのように私の話を聞いてくれるのは大変よろしいッ!」
「……あなたのチームは性格に難のある面子が集まっていますが……あなただけは驚く程まともです。性格面だけ見ればあなたがリーダーに見えるくらいには」
あまり教師陣とは特別な付き合いがある訳でもないので、どうしても講義の中での話になってしまう。非常にむず痒いが『勤勉な学生』という評価を頂戴した。
……数日程前、自分が入学式の日に破壊した石畳をセンブランスで修復しているグリンダ女史を見てしまい、非常に申し訳ないと思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ"あ"~ダメだ。全っ然わかんないなぁ……」
本のページを捲る。捲る。捲る。分厚い本を静かに閉じ、突っ伏せる。
図書室のような静かな場所であれば何か浮かぶと勝手に思っていただけで何も思い浮かばない。
主観的に自分に向き合っても全く分からないと思ったからこそ他者の客観的な意見が欲しかったが……
それもよくよく考えてしまえば結局は別の主観的意見でしかないともとれる。
「俺って結局……?」
冷静。良心的。真面目。どれも月並みの回答の域を出ない。
確かにそうなのかもしれないが……そこからもう一歩踏み込んだ答えが欲しい。
たとえ、目を背けてしまいたいものであったとしても。
たとえ、普段なら切り捨ててしまうものであったとしても。
今はそれが途方もなく欲しい。
正の評価ではなく負の評価が欲しいと願ってしまう程には。
「ネロ?」
背後からやや女性にしては低音のハスキーボイスが聞こえた。
……ああ、ブレイクか。そういえば図書室に行ったと言っていた。彼女は誰かにわざわざ構うようなタイプではないと思っていたから意外だ。
「ああそうさ、ご存知だろうけどネロだよ……そうだ、今暇してる?」
いきなりの事だから断られてしまうかもしれない。
そこまで仲が良くないかもしれないから断られてしまうかもしれない。
それでも
「……ダメかな?」
「……何か思い詰めてるみたいだから少しだけ付き合ってあげる。……ここだと誰が聞いているか分からないから場所を変えましょう」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「……あなたでも自分が何者なのか悩むのね」
カフェテラスで彼女は少し冷ました紅茶を啜りながら意外そうな顔で自分の顔をまじまじと眺めて居る。
「まあ突っ走るような生き方をしていると、ふと自分が何者なのか見失ってしまうもんだよね」
甘めのミルクティーを注文したのでそれを啜りながら二年の間の事を回顧する。
流されて生きてきたつもりはないが、ブレイクを親元へ送るために行動し始めてから色々とあった。
ホワイト・ファングの列車襲撃。
カルマを始めとした超人たちとの出会い。
プリテンダーとの戦いの幕開け。
そしてビーコン入学。
二年でこれだけのことが起きたのだからきっとこれからも様々な出来事に見舞われるだろう。
……だけど頼もしい仲間がいると思えばそこまで困難な事だとは思わない。寧ろどんと来いだ。
「それであなたがどのような人かだったわね。……割とマイペースでふらふらとしていて、普段は何考えているか分からない人って感じ」
おお。的を射ているかもしれない。マイペースでふらふらしているのはともかく、考えている事が読めないと言われるのは意外だ。結構わかりやすい方ではないだろうか。
「あとは……普段は無気力な癖にいざという時はお節介。どこか傲慢さを感じる程に。だけどそれに救われている人もいるのも確かね」
うぐっ……無気力か。手厳しい。自分にお節介なところもあるというのは気づかなかったが、いざ面と向かって言われるとキツい。
それでもフォローを入れてくれている彼女の優しさにはかなり救われるが。
「参考になったのであれば何よりだけど」
「ありがとう。こういうのって普段は意識してなかったからさ。新しい自分を見つけたようで……なんか新鮮だよ」
リボンが動いているのに彼女は気が付いているのだろうか。その様はとてもかわいらしいのだが、彼女がファウナスであることを知らない者が見たら驚くだろう。
「君はもうルビー達にはファウナスだってことを……」
「まだ打ち明けてない。このことは……」
「そうだね。君が覚悟を決めたら話せばいい」
今更ながらなんという犯罪臭………男女が二人きりで密会。しかも男は女の秘密を握っている。
ブレイクの雰囲気も相まってダークな方に思考が引っ張られて行ってしまう。
「なんか本当にすみません……」
「ネロが謝る必要はないわ。本当は私がすぐに打ち明けていれば良かっただけの事。気に病まないで」
違う、そうじゃない。下心丸出しの想像をしてしまったことに罪悪感を感じているんだ……
彼女が感づいていないならばともかく、その上で気を遣われたのであれば精神的に死ねる。
「今度は私の話に付き合ってくれる?あなたが良ければだけど」
「もち。自分だけ一方的に喋るのはお話じゃないからね。付き合うよ」
美味しい魚の話とかチームでやっていることについて話してくれたりするのだろうか。
「……お父さんたちには帰りたくないって伝えてほしい。いっそ『あなたの娘は死んでいました』とでも……」
ちょっとこれは昼下がりには重すぎやしませんかね……神が存在するならば間違いなく優しくないのだろう。
ブレイクもブレイクでしんどい話をサラッと振ってくるのはやめていただきたい。
こんな話あの夫妻にはとてもできない。というかメナジェリーの土を踏めるかどうかさえ怪しい。
「……そんなことは冗談でも言わないでくれ」
「それでもこの手は汚れているの。だからこうでもしないと……」
これはかなり根が深そうだ。正直なところ、ヤン辺りに丸投げしたい……
当然ながら今ここでどうにかすることが出来るような問題ではない。
絶対に正しい選択は今の世には存在しないし、これからも現れないだろう。
だが、ここで看過するという選択肢は俺には選べない。
……だからこそ今は厳しい言葉をかけなくてはならない。
「それじゃ君は永遠に逃げ続けることになる。見えるもの、見えないもの。……何より自分自身から」
逃避という選択自体が悪なのではない。逃げとは自己を守る事。生きる為に上手に使いこなさなくてはならない手段だ。
だがそれを選択することで不幸になることは果たして良い事だろうか?
「そしてこの場合誰も幸せになれない。君のご両親も、ルビー達もだ。俺だってそんな君を見ていて辛いし、何より君がダメになってしまう」
やはり彼女は内に暗いものを溜めこむ性格のようだ。誰かが手を差し伸べなければきっと腐ってしまうだろう。
「でもこれは私の問題なの。みんなを巻き込むわけにはいかない。私のせいでみんなを危険なことに巻き込みたくない……」
「それでも俺個人はブレイクに手を貸す。なんならうちのチームの愉快な仲間たちもセットで付けようか?」
危険な橋は既に渡っている。現在進行形で渡り始めたばかりだ。
こう言ってしまうのも何だが、ホワイト・ファングよりもプリテンダーの方が手に負えない。
「ふふ……あなたにも楽観的なところがあるのね」
微笑んでこそいるが、頭部のリボンは少しだけしおらしい。
あの中の猫耳が垂れていると思うと、かわいらしいそれも戒めの鎖のように見える。
――――!? なんだこれは。
――――また戻ってきてくださいね、■■■。
――――ああ。お前が考え直したらな。リリ■。
「う"っ……!?」
これは俺なのか。イヴが俺を親しげに、愛する伴侶に向けるような優しい瞳をしている。
今までの凍り付くような一瞥からはまるで想像もつかない。
「大丈夫?ぼうっとして……」
「いや、もう一つだけ言わせてほしいことがある。だから少しだけいいかな……?」
お前は既に察しているのだからもうそれくらいにしておけ。
わざわざ嫌われるつもりか?聞いたところでどうするというのだ?
いる筈もないもう一人の自分が脳内で囁いてくる。
その通りだとも。やめておいた方がいいのは百も承知だ。
だが――――ここで言わなければ二度と言う機会はないかもしれない。
嫌われたくないなら関わり合いにならなければよかった。
怖ければ見なかったふりをしておけばよかった。
どうしようもないなら逃げてしまえばよかった。
――――それでも結局見過ごせなかった。どうにかしてしまった。だからあの時のアダムから彼女を逃がした。
「俺とブレイクって結構似てるのかな……って」
だから惹かれたのかもしれない。と後に続けることはできなかった。
「そう……なのかもしれないわね。でも違うところも確かにある」
強情で、普段はクールだけどマイペースで、自罰的。その癖、内に感情を溜めこむ。
自分がクールかどうかはともかく、根っこの部分はそこそこ似ていると思う。
イメージカラーも黒と黒でお揃いだ。
だけど――――
「でも俺はファウナスじゃないし、君は隠しているそれを無くすことはできない。みんな違ってみんないい。それが叶う世界になればいいな――――」
……これは紛れもない本音だ。争いで傷つく人が一人でも減ることを願っている。
「それには大いに賛成だわ」
心なしかいつもよりその琥珀色の瞳は優しく見えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ブレイクのカップはいつの間にか空になっていた。
こうして他愛のない会話を続けることが出来ればどれだけ素晴らしいだろうか。
平和を主張している青い空。
ふわふわと浮かぶ白い雲。
燦燦と照り付ける日差し。
うん、実に和やかだ。さっきまでかなり重い話で押し潰されそうだったが。
「ネロ……あなたって何者なの?」
危うく口の中の物を吹き出しそうになった。
唐突にぶっこんできましたね……というかそれで迷っていたから相談したのですがそれは……
失礼ながらブレイクは猫目ではなく鳥頭のファウナスだった……?
まさか友人だとは思っていないからこんな重い話題ばかりぶっこんでくるの……?
そうだとしたらかなり傷つく。さっきの空気がぶち壊しすぎる。
「いやいやいや、俺は俺でしょ。自分を少し見失っていたただの青年以上のなんだって言うのさ?」
最初に記憶喪失の、といった但し書きが付くが。
それともマスクマンに変身する旅人とでも名乗っておけばいいのだろうか?
「あなたを『ただの青年』と呼ぶにしては修羅場を潜っているようだった。それに生きてここにいるのはアダムを振り切ったという事に他ならないわ……」
……そういえば彼女は場数を相当踏んでいるのを忘れていた。
当然、ある程度は相手の実力を読むことができるのだろう。
彼女よりも確実に強いであろうアダムを撒いたという事がバレている以上、誤魔化してこの場を乗り切るのは無理があるのだろうか。
「そんなのはただの偶然……そんな怖い顔して睨まないでくれよ。美人さんが台無しになってしまうよ?」
はぐらかそうとしたら睨まれてしまった。
これ以上すっとぼけたら本当にビンタされてしまう……これは万事休すか?
「……まあいいわ。そこまでして言いたくないってことは余程大事な事だろうし、それだけ分かれば構わないわ」
ブレイクに気を遣わせてしまった。
隠さなければいけない事だったとはいえ、格好が悪すぎる。
「……悪いね。何時か必ず話すから」
自分も彼女の事は厳しくは言えない、か……
……
◆◇◆◇◆◇◆◇
その後ブレイクとぶらつきながらビーコン・アカデミーまで戻り、門の前で分かれる。
既に空は薄暗くなっており、瞼も重くなってくる時間帯だ。
「いるんだろ――――?」
そこで足を止めて虚空に声をかけた。
誰も返事をするはずがないのだが、それが帰ってくるというある種の確証があった。
「で、どこまで聞いてたんだ?」
イヴ。
「あらあら、流石ですね。三度目ともなれば容易に察知しますか……」
影が一点に集まり、それが人の形へと形成されていく。その姿は相変わらず自信に満ち溢れており、服の白い部分が闇の中でより映えている。
そして水の枯れた噴水の縁に腰かけ、隣へ座るように促してきた。
「そりゃそうだろう。あんなに熱い視線を送られて気付かないなんてありえないって」
そこへ腰かけながら軽い調子で身振り手振りを交えて彼女の様子を伺う。
以前よりも表情が柔らかい。危険な雰囲気を感じさせず、唯の少女にしか見えない。
「まあ嬉しい。そうですよね。あれ程に分かりやすいサインを出していて気が付かない筈はありませんものね」
本当は嘘だ。どれがサインなのか全く分からない。ほとんど直感で出任せを言っただけだ。
口ぶりからするとブレイクと話していた時からずっと居たらしいが……
あのブレイクでさえ全く気付いた様子はなかった。勘付いたのは奇跡だろう。
「ですがあなたは適当なところがありますし……今のが嘘ではないとは言い切れませんね?」
剣呑な空気が流れている。もし嘘がバレたら大騒ぎになるだろう。
また石畳を破壊することになったらグリンダ女史の胃に穴が開いてしまう。
「……しかし俺とお前が昔からの知り合いだったとはな」
穏便に切り抜けるには関心を惹く話題を出すしかない……!
そこまでは良かったが、彼女の動きがピタリ、と止まった。
夜の帳が降りる。うっすらと笑みを浮かべている
それでも彼女にあまり強く出ることはできない。何故だろうか?
「ふふふ……あはははは!そうね。確かに私は昔の貴方を知っている。それどころかこの世の誰よりもあなたの事を知っている……」
彼女が狂喜しているところを見ると大正解だったようだ。
――――やはり鍵は彼女だ。彼女が記憶の鍵を握っている――――!
「なら教えてくれイヴ。俺が何者なのか……どうしても知りたいんだ……!」
――――一瞬、彼女の顔から表情が消えた。
先程まで余裕の笑みを浮かべ、あまつさえ狂喜していたにも関わらず、だ。
それがとてつもなく恐ろしかった。
「……まあよろしいでしょう。ですがこれを聞けば後戻りできなくなりますよ?」
「構わない。覚悟は既に決まっている!」
「でもダメ。私を本当の名前で呼んでくれない限りぜーんぶ教えるのはつまらないですわ」
私を今までほったらかしにしていた方に教えるものですか。彼女は耳元でそう囁いた。
女心はよく分からないが、教えることを渋られても困る。
「じゃあどうするつもり?俺が仲間を呼んできてもいいんだ?」
「いえいえ、なのであなたが一番知りたくない部分から教えて差し上げますわ」
何を言うつもりだ。これ以上聞いてはいけない。脳の奥で警鐘が鳴り響く。
突き放そうと思っても金縛りにあったように体が動かず、それができない。
耳元に息が吹きかかり、こそばゆさとおぞましさを同時に味わわされながらその時を待たされる。
「あなたは私と同じグリム……いえ、あなた方に合わせてプリテンダーとでもお呼びしましょうか? ねえ……ネロ・ベスティア?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
脳がその情報を受け取ることを拒否してフリーズしてからどれほどの時間呆けていただろうか。
目の焦点が合わず、目の前のイヴの姿もぼやけ、既に辺りは暗くなっていた。
「おやおや……ゆっくりしていってください。私は時間が許す限りあなたの傍にいますので」
まさか……気を失っていたのか。
しかも膝枕までされて。
だがそこまで悪い気はしない。どことなく懐かしく思うのは過去にも膝枕をされた事があったのだろうか?
少しだけ欠伸をしてから起き上がり、再び彼女と向かい合う。
彼女の光を消し去ってしまいそうな黒い瞳に自分の姿が映っている。
「俺と君は結局グリムなのか?」
「あなたがグリムだと思うのならばそうなのでしょう」
優しい声で彼女は問いに答えた。
それに関してはもう隠す必要もないと言わんばかりに答える。
それがより
「俺と君は親しい仲だったのか?」
「ええ」
「家族と言えるほどに?」
「……ええ」
「……もしかして」
「それ以上は言わないで。さもなければあなたの事を引き裂かなければなりません」
怒り。悲しみ。哀れみ。そんな負の感情を多く含んだ瞳から目を離すことが出来ない。
……其処から視線を外したら二度と自分の前に彼女が現れないだろう。
「グリムとして再び私と共に往こうというのであれば『ネロ・ベスティア』として歓迎いたしますわ。ですが人として生きるというのであれば――――」
私の事を、本当の貴方を思い出してくださいね……
それだけ残して彼女は夜の闇に溶け、姿を晦ました。
◆◇◆◇◆◇◆◇
今更ながらRWBYの登場人物の特徴掴んで書けてるかどうか心配になってきた……
どっちにせよ、最後まで突っ走りますけどね!
感想、ご指摘、好評の声等々お待ちしております。