RWBY Mask of Grimm   作:人間のダスト

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八月に入ったのに期末テストや課題あるとかこれもうわかんねえな?

一週間遅れたのはそんなことがあったからです。一気に一万字とか行ける人見てると羨ましくなってくる。

一応前の話を0話ということにしておいていただければ幸いです。

気まぐれに書いていく感じになるかと思いますが、ある程度の構想はできているのでぼちぼちやっていきたいと思います。


Animal island

 メナジェリー。王国の一つであるミストラルの存在する大陸の南側にある小さな大陸だ。八十年前の戦争が終戦し、それまで人権の認められていなかったファウナス(獣人)に人間から贈られた土地だ。

 

 こう言ってしまえば『異種族同士の和解とは何とも素晴らしいことだ!』となるだろう。……だが実際のところはそう諸手を挙げて喜べる話ではない。土地の大半は砂漠になっているため非常に乾燥していて、危険な野生動物も多数生息している。「住めば都」と言って酷い立地条件と自らを誤魔化して居住するものは多いが、それでも生きることに適した土地とはとてもではないが言えたものではない。

 

 とはいえ過酷な環境の中にある安全地帯は彼ら(ファウナス)の涙ぐましい努力によってどうにか南国風の家屋が立ち並ぶこととなった。ある者はこの土地はすべてのファウナスの故郷であると宣言し、また別の者は歓迎に値する素晴らしい土地だと称賛する程に驚くべき変貌を遂げた。

 

 しかし、これはそう根の浅い問題ではないのだ。

 

 古代から人間に恐れられてきた彼らは人権こそ得たにせよ、未だ差別的な意識を牙も爪もない唯の人々から向けられることもあり、迫害されるということは決して少ないことではない。

 

 そのような自分たち(ファウナス)が住んでいるメナジェリーを一部の者は皮肉をもってこう呼ぶこともあった。

 

 

 動物園、と。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 あのベオウルフをの群れを狩りつくした後、ヴェイルへと向かおうとしてふと思った。

 

 

 

 ヴェイルからここまで一体何日ほどかかったのだろうか。少なくとも一週間はかかっている。自分の足は健脚であるという自信の程はある。しかしそれでも一週間だ。決して短い時間とは言えない。

 

 よほどの変わり者でもなければあんなところ(マウンテン・グレン)に行く奴はいないだろう。しかしあの場所を通ってしまった。完全に計画ミスをしているのだ。

 

 変わり者の上に計画ミスという救いようのなさを一旦棚に上げて今後の行き先を考える。来た道をわざわざ戻るのは旅としてはあまりにもらしくない。辛気臭いのは柄じゃないし。バイクの一つや二つあれば風を受けながら快適な旅を送ることができるのだろう。だがそのような文明の利器はここにはない。自分の足で歩く以外の手段はない。

 

 

 ならば逆に考えてみることにする。首都まで行くのに時間がかかる。とはいえ早く読書なり風呂なりしっかりとした食事にありつきたいという葛藤に自分は今悩まされている。だが、そのために来た道を逆走するなど以ての外だ。ならばどうする? じゃあいっそのこともっと時間をかけて船旅でもしてしまおう。この場合は有意義に時間をかけるのが正解だということだ。何事も早ければよいというものではない。

 

 旅をしているのだから楽しければいいのだ。その”楽しい”ということを満たすことに相当の努力は必要だが、自分の身を守った上で王国外で生きていく分の実力は余裕であると自負している。少なくともグリムに殺されるなどといった末路を迎えることはないだろう。死ぬ要因があるとするならば飽きで死ぬことになるだろう。そういった意味ではかなりの危機に陥っていた。

 

 ここのところ見かけたものは……道を行けばグリム。さらに道を行けばまた別のグリム。もっと道を行けばネヴァーモア(結局グリム)。

 

 代り映えのしないものばかり見せられても面白くない。見渡す限りの森を歩く。ぽっと降って湧いてきたグリムを殺す。たまに見つける旅人用の酒場で喉を潤す。何が悲しくてこんなことを延々とやらなくてはならないのだろうか。

 

 ……ただ一つだけ幸運なことがあったとするならば、しけた酒場にはどこか不幸そうなオーラを垂れ流しにしている男がいた。その男には一瞬興味を持ちはしたものの、見た限りだと飲んだくれた挙句、昼寝までかましているようで話しかけるのは申し訳ない。起きるまで待っているのも面倒だし、無理に起こすとこの手の輩は大抵殴り掛かってくるものだ。

 

 だがこの無精髭を生やした男はただの飲んだくれとは少し違うような気がする。寝ていても隙が無い。起こそうとしても脇に置いてある剣を振りかざしてくるだろう。気持ちよさげに眠る気持ちよさげに眠っている名も知らぬ相手の都合も考えるべきだし、酔っ払いに勝ったとしても大した自慢になりはしないだろう。今度は起きているときに出会うことを願う。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 そして現在に至る。やや古ぼけた羊皮紙に書かれた世界地図を確認する。北上しないと既に決定しているのだから廃墟(マウンテン・グレン)をまた通るのはなし。もうしばらくはグリムを見るのはうんざりだ。となれば南下一択だ。しばらく歩いた場所に港町があるとのことなのでまずはそこを目指すことにする。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 潮の香りがする港町。ならば潮の香りのしない港町はあるのだろうか、磯臭くない浜辺があるのだろうかと彼は街中でずっと考えていた。わざわざこのように表現するということはきっとあるのだろう。書店で買った一冊の本に出てくる一節が引っかかっただけだが。このように些細でどうでもいいかもしれないことを考える時間が好きだった。平和で、脅威はない。少なくとも突然命を奪われるなんてことは起こりえない。

 

 結果としてこの旅路は順調であるわけだ。港町まで来るのに一週間と三日はかかったものの、ここには船の便が確かにある。邪魔にならない程度の新しい本も買えた。平坦で硬い建物の床ではなく、宿屋のそこそこの飯と体を休めることのできるベッドがある。今はその現状だけで満足している。

 

 

翌日の早朝、船が出発する時刻に間に合うように起床し、船のタラップの脇で乗組員と話している船長とおぼしき初老の男性に挨拶した。初老の男性は皺が刻まれた顔の口元を少しだけ引き上げて会釈を返してきた。デッキからは街が一望できる。遠くの空には雲ひとつない絶好のクルージング日和だ。食事の時間が待ち遠しい。問題があるとすれば金銭だがまあ大丈夫だろう。いざとなれば百パーセントオフで乗せてもらうという裏技もあることにはある。使わないに越したことはないが本当にどうしようもなければ皿洗いでもしよう。彼はどこまでも気楽だった。

 

 

 

「海の上って思っていたより暇だなあ……」

 

 口ではそういうものの暇を潰す方法はいくらでもある。船の進行によって生じる白い波を見ているとか、空を見ながら明日の天気はどうなるかを想像したり、そのついでに見つけた雲の形がどことなくグリムに似ていると思い嫌になったり、デッキの木目を数えたりするだけで数時間は過ぎて行ってしまうものだ。海の中には水棲のグリムがいることもあるというが、そんな暇つぶしをやらされる羽目にはならないだろう。きっとそうに違いない。やりたくない。

 

 料理は魚を山盛り……などどいうことにはならず、極めて普通のパン、スープ、添え物といったものだ。しかし落ち着いて腰を下ろして食べることができることのなんと素晴らしいことか。旅をしている身としては尚更だ。彼は舌鼓を打ちながらまだ見ぬ場所に期待を膨らませた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 船旅で二週間ずっと海の上にいれば小型のグリムとの遭遇は一度や二度ならある。サメ型のグリムがいた時には黒い銛を生成し、投げつけて三匹ほど一気に串刺したところまではいい。水棲のグリムもあまり知られてはいないがいることにはいるからだ。しかしそれ以上に驚いたものがある。

 

「なんで船にあんな武装が必要なんだよ……」

 

 小型の大砲を備え付けた船であれば何度か見たことがあるが、この船は規模が違った。船の側面に砲門がずらりと並び、船首側には主砲を備え付けている。なぜこのようなものを用意しておく必要があるのか。グリムの襲撃を凌いだ後、最初に見つけた若い船員はこう言った。

 曰く、海に出るということはただの旅より危険だ。お客様の身の安全を守ることも私たちの業務の一つだ。主砲?あれは船長の趣味らしい。ぶっ放すときになんでか知らんが「ファイアー!」と言うらしい。

 

 この船は海賊船と呼んだ方が適切な気がするが、あと一日で目的地のメナジェリーに到着するというアナウンスが流れてきたと思うと少し名残惜しい。それでも地に足をつけることができるのかと思うと少し安心する。そう思っていると後ろから声をかけられた。

 

「一人旅か?」

 

 港町で挨拶をした初老の男性はやはり船長だったようだ。船長帽を被り、白い髭が口元を覆い隠している。誰がどう見ても船長だろう。これで船長じゃないと言われたら詐欺罪で訴えなくてはならなくなる。

 

「まあ、そうですね。一人で延々と旅をしていますね」

 

 突然の質問に対し月並みの返しをする。

 

「退屈ではないか?」

 

 逡巡するが答える。

 

「まあ、長いこと旅をしていますからそりゃあ退屈の一度や二度は経験しましたよ。目的のない旅ですからね。普通の人は何かしら目的を持って旅をするものですが僕にはそれがない。でも行く先々で自分が見たことがないものを新しく発見するのってなんだか楽しくないですか?」

 

 船長はそれだけ聞くと乗船する前に見せたのと同じ笑顔を此方に向けて「そうか」とだけ呟いた。

 

「気ままに旅を続けるのもまた一つの旅の形なのかもしれないな。だが誰かと共に旅をする。それもまた楽しいことだと思うぞ? 私は長いこと船の上で生きているが、一人だけではとてもじゃないがここまでやってくることはできなかっただろう。君にはそんな人はいないのか?」

 

 そんなものはいない……心の中そう呟きながら一呼吸置いた後に口を開いた。

 

「なるほど……そういう発想もあるんですね。ありがとうございます。いままでずっと一人身だったのでそのようなことは考えもしませんでした」

 

 新しいものを見たときは誰しも驚きと称賛、そして関心を示すものだが、それは自分も例外ではなかったようだ。

 

「ずっと一人か……いつか良い仲間と共に世界を旅することができるとよいな。君の旅路に幸があらんことを願うよ」

 

 そうして船長は去っていった。この船に乗っているファウナスのカップルや、きゃいきゃいとはしゃいでいる子供たち。彼らは一体何のために旅をしているのだろう。見ていると誰しもが笑顔だ。なぜああも幸福そうなのだろう。自分とは境界線で区切られ、戦いとは縁遠い世界にいると感じた。

 

「生まれてから今までずっと一人で生きてきたからなあ……一緒に旅してくれる人とか見当もつかないな」

 

 その独り言を聞いていたのはざざあ、と返してくる海だけだった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 船からタラップが下ろされる。この時の自分は『木目を数える次は部屋の壁の模様を見て遊ぶぞ!』などと言い出す前に外へ出ることができて助かったという顔をしていただろう。辺りを見回す。赤銅色の鐘の音を響かせながらその中を乗客が降りていくのを見ながら足元に気を付けながら歩くの良いのだが、辺りは混んでおり見通しはあまりよろしくはない。360度どこを見ても人、人、人。進むだけでも精一杯だ。

 

 そのほとんどがファウナスの人々であるので自分は少々浮きがちだ。……あまりやらないに越したことはないのだが、少し裏技を使うことにする。

 

 尾てい骨の辺りからにょきり、と太い尾が生えてくる。尾は黒々としており、所々に甲殻と見紛う程に鋭い白い棘が生えている。ファウナスには自分の体の特徴を隠せる個体が存在する。なのでいきなり尾を出したとしても邪魔にならないように隠していたのだろうとしか思われないだろうし、今までもそうだった。

 

「なんだか落ち着かないなあ……」

 

 別に悪行を行っているというわけでもないのになぜこうも神経質になっているのだろうか。ただ尾を出しただけだろう。吊るし上げられるようなことではないはずなのにどこかで嘘をついているようで胸の奥がむずむずする。

 

 尾を生やしたのなんて何時ぶりだろうと思いながら降りてゆく。いっそのこと耳も生やしてしまおうか。そこまでやるとあからさますぎるのでやらないが。

 

 勢いで船旅を敢行、しかもレムナントの最南端の島までやってきたところまではいいが、何をするかなんて考えていない。とりあえずは市場をぐるりと見て回ることにしよう。動いた後でも行動方針を決めるのは遅くない。呑気な南国の空気に当てられてより一層呑気になっている。

 

 賑やかな市場を見回り、林檎を一つ買うことにした。魚や野菜などがずらりと並んでいたが、歩きながら腹ごなしをする分にはこれぐらいが丁度いい。その赤くて表面が少しすべすべとした果実をがぶりと丸かじりにする。齧った箇所は歯形が付き、そこから汁が溢れ出ているのはその林檎が新鮮である証拠だ。やはり買い食いとはこうあるべきだ。ほかの果実も食べ頃のものを揃えていた。明日もう一度あの露店で別のものを買いに行こうと思いながら、当面の問題である寝泊まりする場所を探す。いっそ野宿でも問題はないのだが、街の中で野宿はいかがなものか。あまりいい目では見られないだろう。というわけで野宿はなし。となると――――

 

 

「すいませーん、誰かいませんかー?」

 

 自然、何処かのお宅に泊めてもらおうという選択肢を選ぶことになる。これも失敗したならいよいよ野宿をする覚悟を決める必要があるが、相手の良心に訴えかけることで何とか一泊だけでも……とやぶれかぶれにこの島で一番大きな家へ訪れたわけだ。その結果――――

 

 

「何だ、お前は?」

 

 大柄な男が玄関にのっそりと現れた。胸毛が濃く、筋骨隆々の野性的な男だ。自分も背丈は人並み以上にはあるが、普通の筋肉の付き具合の青年と見比べればまさに対照的。同じ点を挙げるとするならば黒がパーソナルカラーであるというぐらいか。そんな自分の黒いを瞳を見据えながら、親しい中でもない男からは至極真っ当な反応が返ってくる。当然だが、この島一番大きな家を持つであろう男と知り合いというわけでもなければ、有名人というわけでもない。しかも夜遅くにお邪魔します、などと言われて丁寧な応対になるだろうか。そう考えれば男のやや荒っぽい応対も致し方ない。

 

「一晩だけでいいので……泊めていだだけません?」

 

「……この私をギーラ・ベラドンナと知ってのことか?」

 

「いえ、存じませんがここぐらいしかなかったもので」

 

 ギーラは目を細めた。

 

「一晩だけだぞ」

 

 表情こそ崩さなかったものの、入れてくれるということだろう。踵を返し奥へと戻って行く。その不器用な好意に甘えることにした。

 

 

 

 リビングの奥にはキッチンが見え、そこには一人の女性がいる。おそらくギーラの妻だろう。彼女が夕食の用意をしているとこちらに振り向き、見慣れぬ男が旦那の後ろにいることに気づくと少々驚いたのだろう。まあ、という表情をして出迎えた。

 

「あら、その方は?」

 

「旅人だそうだ。泊まるところがないからここにやってきたらしい」

 

「あらあら、大変だったでしょう!どうぞどうぞ、疲れているでしょうからゆっくり休んでくださいな!」

 

「妻のカーリーだ。何かあったら言いなさい」

 

 そういうとギーラはまた別の部屋へと去っていった。おそらく自室だろう。

 

「そういえばあなたの名前をまだ聞いていなかったわね、お名前は?」

 

 ふと思い出したように此方に対して問いかける。それに対して彼は少しだけためらったが、カーリーは返答を待っているのか顔をじっと見ている。その無言の間に耐えられなくなったのか仕方なしに答える。

 

 

 

 

「ネロ。ネロ・ベスティアです」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 しばらくしてギーラが戻ってくる。島の有力者である彼は多忙なのだろう。やや疲れた表情を浮かばせながら椅子にどっかと座る。出されたばかりの紅茶をぐいと飲み、ぼーっと虚空を見つめているネロを見て疑問に感じる点があった。

 

 こいつは本当にファウナスか?

 

 確かに動物的特徴を持ち合わせている。黒々とした太い尾が現に生えている。だがどこか普通の生物らしさを欠かしているように思えてならない。どこか、怪しい。

 

「君は何のファウナ――――」

 

「はいはい、今日の夕食ができましたよ!」

 

 その質問は夕食の合図に遮られることなり、ふと湧いた疑問は遠くの方へと飛んで行った。子の青年の出自は大きな問題ではないはずだ。わざわざ疑う必要がない。暗殺者ならこのような回りくどいことをする必要もないし、第一印象からそのような大それたことをするようにも見えない。となるとあまり触れずとも害はないだろうと判断した。

 

「しかしここはいい場所ですね。皆笑顔で受け入れられる。そんな場所はこの世界には数えるほどしかないでしょうし」

 

「……まあそういう見方もできるのだろうがね」

 

 ネロのふと出たメナジェリーに対する見方に対して何か含みを持った返しだ。

 

「と、言いますと?」

 

「誰もがここにいることを望むというわけではないということよ」

 

 空気が落ち込む。まずいことを聞いてしまった。ネロは話題を変えるために別のことを聞こうとする。

 

「そ、そういえばあの写真の方は?」

 

 正直聞かない方が身のためだと思いながらも、これくらいしか話を逸らせそうなものはなかった。意を決して喉の奥から搾り出されるような声が漏れた。

 

「うちの家出娘だ。今頃どこにいるやら……」

 

「この人、そっけなく言っているけどとても気にしてるのよ」

 

 やはり聞くべきではなかったのかもしれない。だが、ネロはここで引いたらただ空気が読めないだけになってしまうというやるせなさと、毒を喰らわば皿までという男気を見せるために更に深く突っ込むことにした。

 

「……お嬢さんのお名前は?」 

 

「ブレイクだ。だがなぜそんなことを知りたがる?」

 

 悲しげな表情に警戒の色をが混じる。

 

「そういえば泊めてもらうのに何かお代を出さないといけないですね。一宿一飯の恩義というやつです、探してきましょう」

 

 ネロの突然の提案に対し二人は驚きの色を隠せない。一晩泊めるだけなのにそのような大仕事を任されてくれるのか。なぜこのようなことを言い出すのか。これには流石のギーラも不審感が生まれる。

 

「そんなの良くないじゃないですか。……僕には家族と一緒に暮らしたことなんて今まで生きてきて一度もなかった。ですがあなたたちはいい人だ。こんな身の上もよくわからない自分をて泊めてくれたし、いつでも娘さんを想っているのが伝わってくる。そんな人たちが落ち込んでいるのを見過ごすなんて自分にはできない」

 

 ……ここまで言い切るのであればいっそ清々しい限りだ。ネロの光を吸い込んで消してしまうほど真っ黒い瞳からは何も読み取れないが、嘘をついてはいない。ならばいっそのこと彼にかけてもよいのでは?

 

「頼まれてくれるのか?」

 

「僕は自分が分からないから旅をしてきたんです。……でもここで困っている人を見捨てたら本当に人でなしになっちゃいます。辛気臭いのは良くないですし」

 

 聞いていて随分と耳障りの言い言葉だ。……これは彼の嘘偽りない本心なのだろう。ネロが父親(ギーラ)から一切目を逸らさないのは決意の表れなのか。ならば――――

 

「赤の他人の君にこのようなことを任せるのは本当に気が引けるが……君を信じて任せることにする。本当は自ら探しに行くことができればよいのだがそうも言えん。あの子が帰ってくる場所を残しておかなければならない」

 

 ギーラは目線を下に落としながら語る。やはり後ろめたさがあるのと同時に心配なのだろう。大切な何かを失ってしまった者を見るのは何時みても胸がざわつく。

 

「いいんです。こんな世界だから助け合いをしなくちゃダメですよ。……それじゃあ今晩休んでから明日この島を出ます。一刻も早く娘さんを見つけなくちゃですよね」

 

 そう軽々と言ってのけた後、出されたまましばらく置かれていた食事を勢いよく食べる。二人はくすりと笑った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

「もう行ってしまうのか?」

 

 翌朝、自分は日が昇るか昇らないかという時間に発つことを夫妻に伝えた。もう少し準備をしてからでも問題ないと引き留められたが

 

「あんまりここにいると出にくくなっちゃうので。居心地が良すぎるものですから。今度ここに来るときは娘さんと一緒に来ます」

 

 それだけ言って港へと歩いていく。少し突き放しすぎた言い方だったかもしれないが、自分の後姿を見送る二人が呼び止めなかったのを見る限り真意は伝わっている。

 

 

「本当に大丈夫かしら……」

 

「彼と話した時間は短いが、何か譲れない芯の様なものがあるのを感じた。きっとやってくれると信じるしかない」

 

 

 

 ……ベラドンナ夫妻に娘を連れ帰ると啖呵を切って意気揚々と一歩踏み出し、しばらく歩いたところまでは良かったものの、また船に長いこと缶詰になることを想像すると泣きそうになった。

 




遂に主人公の名前判明。


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