RWBYの新シリーズも始まったことで毎回新情報出てきすぎじゃろ……見ている分には楽しいけど二次創作泣かせすぎて草生えねえ。
それでは第五話、どうぞ。
暗闇の中からかすかに音が響く。その方向へと意識を向けると、どろりとした暗闇の中に二人の人影が浮かび上がる。内容こそわからないが、言葉の端々に荒々しさがあり、どうやら口論をしているらしい。
「――達の未来の――だけどそんな―――しては――――」
「■■■、―――私たちの――のためです」
女、というよりも少女というべきだろう。
落ち着いた声色だが高い声で、相手を説得せんとする彼女の幼い顔立ちの中には既に女性的な性質を帯びている。黒いドレスの中に白い装飾もそれを一層際立たさせている。シンプルな装飾とはいえ、どことなく上品な雰囲気が漂っているあたり、いいとこのお嬢様か何かだろうか?
その一方で男の方は裾が膝まである、黒いコートのような外套を纏っている。そこそこの長身で、すらっとした体つきのため物語に出てくるステレオタイプの悪魔のような印象を受ける。実際に悪魔ではないのだろうが何となく既視感がある。しかしその既視感の正体はわからない。
箱入り娘なお嬢様と足長おじさんと言うには親しげな雰囲気だ。偶に会うような間柄ではなく、よく会う、あるいは同居生活をしているのではないだろうか。今見ているこの場面では喧嘩をしているものの、そうでなければもう少しばかりはマシだろう。
「――気で――ているのか? ――ちは闇に――きてきた……――らこそ慎重に――運ばな―――ならない」
その映像がよりはっきりしてきたことで場面はどこかの部屋ということがわかる。そこに二人の男女がいるということがはっきりと認識できるが、男の顔には靄がかかっていて相変わらず容貌はわからない。
「―――などと―――いきませんわ」
「―れは――俺の意思だ―――めるのはやめてくれ■■」
少女は男よりも頭一つ半ほど低い背丈で部屋から出ようとする男の前に立ちふさがるが、肩を押しのけて出て行った。
「もう俺は行く。願わくばもう会わないことを祈るよ。さよならだ、■■」
「行かないで!それじゃあこれから私たちどうするの!?」
男は何も答えず、無言で背を向けて外へと出て行った。この後別れたのだろう。映像が終わる最後あたりに顔の下半分しか見えなかったが、男の唇は横一文字に結ばれていた。
「すまない……こんなことに加担することはできない」
すたすたと足音が遠ざかっていく。その男の懐には銀色に鈍く光るものが見えた。
ひんやりとした土の感触を背中に感じる。外套を毛布代わりにして野宿をして、それからハルトと交代で番をしながら森を進んでいたところだった。
少しうとついている間に夢を見ていたようだ。見覚えがない場面だったが、あの男女に懐かしさを感じたが一体何だったのだろう。自分に何らかの関係がある場面だったのか?だがそれはおかしい。
自分にはそんな知り合いはいないはずなのだから。今までずっと一人でやってきたし、恐らくこれからもそうだろう。今はハルトと共に旅をしているが、それは今のところ目的地を同じくしているからに過ぎない。
結局、彼は旅の行き摺りのようなもので、少ししたら自分はまた一人旅だ。目的もなく、ただ各地を転々とする生活に戻る。残念なことではあるが生きることはそんなものだ。あの夢の中の男女ですら最終的には別れていたのだから自分たちであればもっと簡単に切れる縁だろう。
森を抜けるまでに虫に集られたりはしたものの、昨日のようにグリムの大群と派手なパーティーを繰り広げるようなことはなかった。ただ、衝撃の事実が判明した。
「一か月ぐらいかかるって言ってたけどそこまででもなかったな……」
ネロが飛び降りた森……フォーエバー・フォールだが、ヴェイルから少し離れた場所でその中を抜けていくように貨物列車が通っていたらしい。シュニー・ダスト・カンパニーの本社はアトラスにあるということは有名な話だ。よく考えてみれば空路か海路でその積み荷を送るのは当然のことだが、あそこで下車したことが本当に悔やまれる。その場合はハルトと出会うことはなかったのでどっこいなのかもしれないが。
頭に手を当てながら歩いていると同行者―――ハルト・クラールハイトが肩をちょいちょいと突く。この二週間程ネロと行動を共にしている男だ。七色のキーの付いた横笛を吹くことを生きがいとしているどこか飄々としたところのある苦労人だ。ネロが白いマントとかよく着ていられるな、と呟いたら途端、
「同じようなのを数着は持っているからね。それにどこでも洗おうと思えば洗えるし」
とのこと。真偽はどうあれ先のグリムとの戦いでついた砂埃が落ちて真っ白くなっているあたり結構な綺麗好きだったりするのだろう。身なりを常に清潔にしておくのは旅をするにあたって重要なことだったりする。だがうまいことやりくりするのは大変なのは誰でも同じなのだが、ハルトにはそういった素振りは見られなかった。
先日は一発芸と称して指の先から火を放ったり、風がないのにマントをたなびかせ恰好つけていた。恐らくダストを扱う技術に長けているからこそできる芸当なのだろう。本当は他にもできることがあるのだろうし、本気を出せば一人サーカス団みたいなこともできるのではないかとネロは密かに思っている。
「まあ悪天候に見舞われて大幅に足止めを食らうことも想定した上での日数だからねえ。ヴェイルの内陸側は山に囲まれているしペースものんびりだし……まあ早く着いてよかったよ」
青空が広がっている。
「それにしても昨日の大立ち回りはすごかったけどさ、誰かに教わったの?言いにくいなら構わないけど」
木のまばらな空間に出たので腰を下ろす。
「誰に習ったとかそういうものじゃないね。気が付いたらあそこまでできるようになっていただけだよ。俺も自分の事なのによくわからないところとか結構あるんだよね……自分のセンブランスがどんなものか分からない、どうして発現させたのか、そもそもなんで使えるのかって気味が悪くない?一人で旅してる分には便利だなー、とか軽い気分だったけどね」
額に皺を寄せて語るネロ。少しだけハルトは吹き出してしまったため足を止めてしまったが、すぐに追いついて真面目な表情を作った。
「僕もセンブランスを発現した時のことはよく覚えてるよ。なんたって自分自身の性質が一番現れるものだから。……絶対に忘れることはできないくらいには、ね」
最後あたりで少しだけ声色のトーンが下がったような気がした。しかし、ハルトから見てもセンブランスを初めて使った時のことを忘れているのはやはり不自然に見えたらしい。
「そりゃ不自然だよ。自分のことを忘れているようなもんだし。後ろ向きな性格だったら後ろ向きなセンブランスになるかもしれないし、優しい性格なら誰かを守ったりするようなセンブランスを発現しやすいんじゃないかな。その人の個性をより分かりやすく、目に見えるように現れたものがセンブランスじゃないか、と僕は思うね」
そこまで講釈を行った後に、まあ、知り合いの受け売りなんだけど、と付け加えた。
「尚のこと自分が何者なのか分からなくなってきたよ……黒い靄から武器を作り出すセンブランスから俺の人となりとか分析するのって難しくない?」
手から黒い靄を出しながら指の先で回しながら弄りながら頭を掻く。
「でも何となくその靄ってグリムが消えるときに出す奴に似てるよね……」
「え”っ!? 縁起でもないなぁ、俺がグリムみたいな物言いじゃない?」
ハルトにはそのようなつもりが無かったとしても、グリムのようだと遠回しに言われてしまうと埋めることのできない溝、あるいは越えられない壁のようなものを感じてしまう。
「まさか。ネロは間違いなく人間だよ。それに人間でも酷い奴はいるしね。そんなに気にしなくてもいいと思うよ?」
「腑に落ちないけどまあいっか。でもハルトも大概じゃない? 初めて会った時にいつの間にか後ろにいたのは本当に驚いたし、グリムを刺したと思ったら突然破裂するし……種明かししてくれてもいいと思うんだけど、どう?」
質問されっぱなしというのもなんだか悔しいので今度は質問する側に回る。いつものようにはにかむハルトはそのうち教えるつもりだったのか、すんなりと話してくれた。
「あー、あれね。まあいろいろ
それくらいの事なら、とネロは首を縦に振った。
「よし、それじゃあ手品の種明かしだ。まずはいきなり後ろに回ったのから。……それっ!」
ハルトの姿が一瞬にして溶けていく。ぎょっとしたが、消えていった跡をよく見ると金色をした粒子状のものが散っている。それがネロの背後に集まって人の形を作りやがてハルトになった。
「ふう。そこそこ疲れるんだよねこれやるの。まああの時はこんなに分かりやすくやったわけじゃないけどね。それじゃ次の演目と行こうか。そこの木を見ていてね」
どうやら次はグリム爆発の謎を実演してくれるらしい。笛を取り出し、穂先を突き刺し、そこから
「これもちょっとしたセンブランスの応用ってとこかな。こっちは効率よく対象を破壊するために編み出したけど、隙が思いの外デカいのと、人に向けて使うにはちょいとばかし危ないのが難点だね」
額に汗を滲ませながら解説をする。
「流し込んだのは……ダストか?」
「んー……今のはファイアー・ダストだけど別の奴でもできるよ。その分疲れるけど」
事も無げに言ってのける。いつの間にか汗が引いている。
「まだまだできることはたくさんあるけど……今回はこんなもんで勘弁してくれるかな、お客さん」
「十分すぎるよ、疲れてるだろうしもう少し休憩していこうか」
「ふふ、随分と楽しそうですね?」
突然背後から女の声が飛んできた。二人は振り向くがそこに姿はなかった。だが再び前を見たそこに――――
いた。
二人分の気配察知を掻い潜って表れた時点でもはや只者ではないのだが、さらに恐ろしいことにこの女は昨日見た夢の女そのものだった。
ずきり、と頭に響く。夢の中でしか知らない筈なのにどこかで会ったのではないかと心の片隅で囁く自分がいる。ここで背中を見せたら間違いなく、殺される。
「いきなり殺しはしませんよ……ほんの少し試すだけです。あなたの力を、ね」
心の中を覗いていると錯覚してしまいそうな言い様。少女の顔はかわいらしさこそあるものの、それが尚のこと得体の知れなさを醸し出している。
「……ああ、そこの白い方はお疲れでしょうし別に下がっていただいて結構ですよ? 面白い芸も見せていただいたので。そこのネロ、と名乗っている方だけに用があるの」
この場面では全く嬉しくない気まで遣ってくる。丁寧すぎる態度に息を吐こうとしたがそれを遮って少女は続ける。
「いきなり現れ申し訳ありません。イヴ、とでも呼んでいただければ何よりです。では早速ですが――」
このまま言わせっぱなしだと向こうのいいようにされてしまう。
「ちょっと待った、力を試すってどういう」
問答無用といったところか。イヴと名乗った少女の影が伸び、広がっていく。その影は彼女を中心として広がり続け……今いる開けた場所の地面はどす黒い色に染まった。
「まあ説明も面倒なのでサクッとやってください。まずはそれからです」
いきなり投げやりになった上にイラついているように見える。しかし何を始めようというのか。
「後ろだ! ネロ!」
影が伸びてきた。それは槍のように鋭い。間一髪で躱したが、飛び越えて行き、イヴの脇に着地した。
「シュウウウ……」
人と蜘蛛を混ぜたような外見をした
「少し前のグリムの群れはまさか……!」
「貴方の想像はおそらく正解でしょう。まあ……あの程度で死んでもらっては困りますが」
暗に行った行為を認めた。となると人型をしたグリムらしきものと何らかの深い関わりがあるとみて間違いない。しかしただの人間にグリムを、ましてやそれよりも強そうなものを従えることができるのか?
答えはノーだ。華奢な肉体であると侮ったら返り討ちになること請け合いだ。その上どれだけ低く見積もってもこちらを睨む蜘蛛よりかは強いだろう。無策で殴りかかって勝てるとは到底思えない。
「無抵抗で私の
微かに唇が動き、笑う。尤も、目は全く笑っていないが。
「そこまで挑発してくるってことは逃がしてくれるつもりは欠片もないだろ? そんなゴミを見るような目でそんな言い回しをするような奴は自信家ぐらいだからな……」
その一言を宣戦布告と受け取ったのか、異形は糸を吐いてきた。身を少しずらすことで
「言うほどでもない、こっちの方は虫並みたいだな?」
自分の頭を指で突きながら煽る。イヴの顔から薄ら笑いが消えている。
「まさかそんな温いとでも?……やりなさい、僕よ」
糸を吐いてそのままの態勢だった蜘蛛はぐい、と頭を後ろに引いた。
みしり。と音がした。木をへし折って下敷きにしてやろうという考えらしい。
「それはこっちのセリフだよ」
倒れてきた樹木を横に蹴り飛ばすことで水平に飛んでいく。かなりの勢いで飛んで行き、細い木を十数本なぎ倒した後に太めのものに当たり、ドスンと音を立てて落ちた。
そのことに気を取られていた異形の横面に拳を叩きこむ。少しだけよろけて後ずさるが、まだまだ元気いっぱいといった様子だ。素手で殴ったというのもあるが、相当タフだ。アーサぐらいなら素手でもなんとかなるのだが。
「訂正致します、思っていたほどではなかったもののなかなかですね」
イヴが冷たい声で告げ、それと同時に踵を翻す。
「さっさとあなたの隠し持っている
広げていた影が少しづつ小さくなり、半分ほどの大きさになり、そこからもう一体異形が現れる。今度は蜘蛛ではなく狼の頭をしていた。その瞳に理性はなく、毛むくじゃらでいかにも凶暴といった風体だ。
「もう一体ぐらい増やしても問題ないですよね?せいぜい楽しんでください。またお会いしましょう。もっとも次があればの話ですが」
影が完全に消え、イヴの姿も消えた。その上奥の手までバレている様子だった。興味をなくしたのか用を済ませたのかは知ったことではないが、一難去った。
「グルル……」
また一難。置き土産をどうにかしない限り未来はないだろう。
「……お前らがグリムなのか、結局違うのかは知らないけど俺がやることは一つだ」
ハルトとは短い付き合いだったが、悪いものではなかった。この秘密がバレたら何を言われるか分かったものではない。だけど自分が何者なのかも覚えていない俺を信じてくれた。なら。
「勝って、生き残る!」
ベルトが腰に巻かれる。言わなければならない
「変身!」
僕はあのネロが本当に信頼できる人物かどうかを博士とアイツから見てきてくれと言われて接触した。
「なんだ、結構熱いところがあるんだね」
少し離れたところの影から顔を少し出して様子を伺う。異様なまでの怪力を誇り、黒い靄のセンブランスを操るネロでも2対1は厳しいだろう。
「しょうがない。本来は使わないで連れてきてくれって言われてたけどそうも言ってられないか……」
ダストの基本四色……赤、青、白、黄色の石を装填されている白いバックルを取り出し、少しだけ躊躇いながらも腹部に押し付ける。側面からベルトが伸びてがっちりと巻き付く。
――――これをつける度に、自分がまともな存在からは外れている事実を突きつけられる。ならばせめて自身の変容を受け入れなくてはならないだろう。
ハーメル・クラールハイトは十年前のあの時に既に死んだのだ。あの時の自分はもう戻ってこない。戻りたいと思っても、選択を悔やんでも、それでも時間は無情に流れ去っていく。
「いくよ。変身」
「くそ、この……!」
ネロは苦戦していた。蜘蛛と狼を象った人型の思いもよらないコンビネーションに翻弄されていた。
「シュウウウウ……!」
先程の失敗から学んだのか、距離を置けば蜘蛛が短い糸を弾丸のように吐き出して寄せ付けないようにして牽制し、
「フンッ!」
驚異的な跳躍力と鋭い爪で相方の補助とトリッキーな動きをして撹乱する狼が喉元を狙ってくる。
「なるほど、伊達に二足歩行してるってわけじゃないか……!」
獣並みの知能である事を期待していたが、どうもそこまで都合よく欠陥があるわけでもないようだ。オマケにファウナス並みか、もしくはそれ以上の身体能力まで持っているときた。元となった動物の性質からは外れていないが、その特徴を大きく強化されているようだ。糸はワイヤーのように頑丈で太く。獣はより強靭に。半端に強くなっている訳ではないからタチが悪い。
「どうしたもんかな……」
ネロがボウガンから黒い矢を射て狼の足を止めるものの、蜘蛛が短く吐いた糸で矢を幾つか撃ち落とす。膠着状態が続けば不利になることは間違いないが、逃がすつもりは欠片もないらしい。
「随分と忠実なペットだな……」
イヴの機嫌を取っておくべきだったと後悔したが、結局差し向けてきただろう。
「ペットデモ、カマワナイ。アノカタオマエモドステエラバナイ……」
狼の方がカタコトとはいえ口を利いてきた。イヴから何らかの命令をされているようだが、どうもよくわからない。今ので判明したことといえば手段を選ばないことぐらいか。
「尚更捕まる訳にはいかないな…!」
左手で矢の乱れ撃ちをして距離を詰めつつ、右手に太い刃を持った短剣――剣闘士の使うグラディウスが近いだろう。距離の近い狼を袈裟斬りにした。血が噴き出す訳でもなく、太い赤い筋が浮き上がる。ここまで切れ味がよいと思ってもみなかったのか、狼はよろめいて後ずさる。
「ウググ……!」
「さっさと尻尾巻いてご主人様のところに帰るんだな…」
膝をついて傷をかばう狼を見下ろす。ふと周辺を見ると蜘蛛の姿が見当たらない。
「プッ!フシュウウウ!」
狼を囮に使ってその隙に木の上に登っていた。おまけに糸を縦横無尽に張り巡らせ、上から、横から、斜めから糸を吐く。 糸の上を飛び跳ね、駆け抜け、這いまわる。ボウガンを連射しても蜘蛛の巣に穴を空けて空振るだけ。その上逃げ場も塞いでいる。地の利は怪人たちにあった。
「……ちょっと遅れたけど開演時間には間に合ったかな?」
「ハルトッ……!?」
白を通り越して透明なマントを羽織り、いかにも奇麗好きな青年の姿ではなく。
魔術師の被るような真っ白いローブの者がいた。仮面の下でネロが驚いたのはハルトと思わしき存在の顔の部分が磨き上げられた宝石のような多面体のようになっていたためだ。その多面体が透明な仮面のようになっており、その下に赤い複眼のようなものが見えるからギリギリ顔と認識できたが、瞳がなければかなり不気味な風貌だ。
「ハルト……でいいんだよな?」
「うん。さっきまで君と一緒にいたハルトだよ」
穂先の付いた笛を持っていたからこそ声を掛けることができたが、そうでもなければ謎の闖入者扱いだ。
「ナンダ、オマエ」
彼らにとっては闖入者扱いらしい。それに対してハルトはこう名乗る。
「ただのしがないマジシャンだよ……さあ、ショータイムだ」
やや慇懃な態度でお辞儀をしたハルトが笛を蜘蛛に向け、穂先から炎が吹き出る。糸を伝って炎が広がり、バランスを崩して地面に叩きつけられ、丁度ネロと狼、蜘蛛とハルトが向き合う形になる。
「少し前と同じだけど……今度はしっかりしてよ?」
「大丈夫、失敗から学んだからね。今度は1対多が2つじゃなくてしっかりと2対2ってわけだ…!」
仮面で見えないがお互いにニヤリとしているのだろう。そう思うと何故か笑えてきた。
既に合図は不要だった。破れかぶれになって突っ込んできた二頭をギリギリまで引きつけて文字通り飛んで躱した。ネロは跳躍だったが、ハルトは足にに風を纏わせ脚力を強化していた。正面衝突させてふらふらにした後、囲む。
「少し早い幕引きと行こうか?……ネロ!」
「しゃあっ!」
団子状態の二頭に手を向け、青い光線が放たれる。すると下から凍りついていき、出来の悪い氷像になった。そこにネロがどす黒い大剣を振り下ろし、粉々にした。
粉々になった二頭は空気中に溶けていき、塵になっていった。
「ふう……お疲れさん」
「しっかしハルト、そんな隠し芸があるならいの一番に見たかったなあ……」
「それはこっちの台詞だよ、その変身、陰から見てたけど随分ご機嫌な姿になったね」
元の姿に戻った後、そこら一帯が燃え滓と氷の礫でボロボロになっているにも関わらず、お互いにいつもの調子を崩さない。
「お褒めに預かり恐悦至極、ってとこかな?ハルトに言わせれば」
「まあお互い見せたくないものではあったようだけどね!」
ネロもハルトも冗談めかしてみたが、意図せずして知られざる一面を見せ合う形になってしまい、やはり気まずい。
「いややっぱり気持ちが悪いとか思われるのはね? 傷つくんだよやっぱ。俺も仕方なくあの姿になった時に引かれたことあるし……」
列車からブレイクを逃がした時の眼差しは今でも忘れられない。実際にはどう思われたかは分からないが、あの視線はあまり浴びたくはない。
「いやいや、僕なんてあの姿になる前から普通の体じゃなくなってるし……」
「……」 「……」
なんだかここまで悩んでいても困惑しない相手を見ていると自分の悩みが馬鹿馬鹿しく思えてくる。いつの間にか笑いがこみ上げてきた。
「ははははは!自分のこともよくわからないような奴だけど……これからもよろしく!」
「あはははは!もう君は僕たちの仲間だって。まあ仲間も似たような奴だからやっていけるよ、あんまり僕の胃を痛めるようなことをしないでくれると嬉しいけどね……」
自分は今、一人ではなくなった。ここから旅の本番が始まるのだろう。
終わりっぽい雰囲気ですがまだまだ続きます。
感想、好評、ご指摘等々ありましたらお待ちしております。