今回で遂に本作の軸になる四人が全員登場!という訳で少し遅くなってしまいましたが今回から用語解説をページの最後に入れたり人物紹介のページを作っていきたいと思います!これからもMask of Grimmをよろしくお願いします!
First contact
ヴェイルの街中で青年が二人並んで歩いていた。一人は黒い外套を纏った癖毛をはねさせている。懐にベルトを隠し持ちながら歩いているため金属音が鳴っているものの、本人も周囲もあまり気にしている様子はない。もう一人は透けてみえる程の白髪だ。横にいる男と比べてサラサラだが、若干ウェーブがかかっている。白いマントの裏には複数のビンがセットされており、空になっているものもあれば、中にダストの詰まっているものもある。そして腰に紐を通して笛をぶら下げているため剣のように見えるがれっきとした演奏道具だ。
どちらも優男といった風貌だが、正反対の色味をした男が歩いているとそれなりの物珍しさでもあるのか、通行人が目線を向ける。だがそれだけの事なのでまた前を向いて歩いてゆく。
「もうそろそろ着くよ。そこで今後について相談しよう」
「わかった。しかしどんな人たちなのか気になるな~!」
ネロが期待に胸を膨らませるとハルトは呆れ顔とも諦めとも取れる表情をする。
「僕がこんなこと言うのは筋違いかもしれないけど、あんまり期待しないほうが……」
「いやいや、ハルトの仲間って事は強いんでしょ?だったら楽しそうだな〜!」
「うん、まあ、そうだけどちょっと行動に問題が多いっていうか変わってるっていうか……」
テンションまで正反対である。片やスキップをしそうな程に高揚しており、片や今にも地面の底に潜って行きそうな程に沈んでいる。市内の雰囲気は穏やかで、この二人だけがやはり浮いていた。
「あの二人はもう市内に入ったのか?」
何処かの一室で男がスクロール越しに通話している。その一室は広々としており、薄暗い。機械と作業机が所狭しと置かれていて、作業机の上にはガラクタと何かの設計図が散乱している。スクロールとディスプレイ、部屋の所々で発光する機械でかろうじて灯りをとっている。
「おお〜やっぱそう?いや〜悪いね、今回の賭けは私の勝ちだ。今度ちょっと頼みを聞いてくれるだけでいいからさ。」
相手側から舌打ちが返ってくる。余程悔しかったのだろう。男は作業をしながらけらけらと笑う。
「……え?歓迎会の方が先?じゃあお使いよろしく。経費はあとで渡すからそれで賭けの分はチャラでいいよ。うん。頼んだよ。」
相槌を適当に打った後に通話を終わらせ、椅子から立ち上がる。全身を軋ませながら欠伸をして背伸びをする。未だに笑みを抑えることができないらしく、誰かがこの姿を見たら間違いなく気持ち悪いと言うだろう。
「やっぱり篭りっきりはよくない……この後散歩にでも行くか。しっかしハルトが連れて来るのがどんなのか楽しみだなぁ……!」
街の中心というのは基本、中心部に重要な施設があるものだ。役所であり、交通の便であり、市民の生活に必要なものを売る場である。他にもいろいろとあるだろうがここでは割愛する。まあ何が言いたいのかというと――
「随分と大きな家だね……」
彼らはその反対、郊外に出ていた。郊外とは言ったが、実のところ少し外れに出ただけで、住宅街というべきだろう。その住宅街の一角で外観は二階建て、ボロくはないが立派というほどでもない、少し大きいということとこげ茶色の屋根以外には特筆すべき点はない家の前にいた。
「お世辞をありがとう。まあ家主に言ってやればたぶん喜ぶよ。その家主がいると思うんだけどね……」
ハルトが呼び鈴に指を伸ばし、プッシュした。澄んだ音が鳴るが反応はない。首を傾げ、再び押す。やはりというか、当然ながら反応はない。
「あれ?おかしいなぁ、家にいるって言っていたんだけど……ちょっと連絡してみるから待ってて」
スクロールを取り出して操作を始める。ドアは相変わらず沈黙していて、うんともすんとも言わない。見たところなんの変哲もない白いドアで、汚れたら気になるだろう。鍵を差し込んでノブを回せば開くだろう。間違ってもハリボテではないだろうし、実はドアが上にスライドして開く自動ドアという事はないだろう。
「ハルトはここに住んでるんだよね?だったら鍵の一つや二つくらい持ってたりとかは…」
「恥ずかしながら僕の鍵は家の中に置きっ放しにして出かけた事に今気づいてね……」
その一言でネロは全てを察せざるを得なかった。肩透かしを食らわせたくなかったのだろう。
「僕の他に二人いるんだけど、そのうち一人は買い出しに行ってるって連絡があったから、当てにしてたのはよく引きこもってる方……こっちが家主なんだけど、僕たちになんの知らせもなく時々外の空気を吸いに行くから行動パターンが読めないんだよね」
まあ僕も人にあんまり言えたものじゃないけどね、と付け加えた。
「その家主?がどんな人なのか益々気になってきた……」
「前から言ってるけどだらしないところがあるかな。でも根っこの部分が偏屈で固い部分があって、何かに熱中すると他の事を省みないでやり続ける。その熱意を少しは埃を被った本の整理に向けてくれるとありがたいね」
ハルトはため息を吐きながらその「博士」の人柄について語った。ネロは本の部分が気になったが、曰く
「ネロの求めるような本はないと思う。そりゃ伝承を纏めたものとかはあるけど、大抵は図鑑や、カタログ、新聞のスクラップだから小説みたいな物語の本は少ないよ。『他人の作ったものを眺めるのも悪くないが、作る方がより楽しいんだよ』って言っているからね、彼。情報収集をライフワークにしているから仕方ないのかもしれないけど……」
端的に言うとやりたいことをやりたい時にやる人のようだ。ネロは眉をひそめた。
「そういうのあんまり好きじゃなさそうだけど?」
「腐れ縁みたいなものさ。まあ些細なきっかけだったんだ、彼との出会いは。今年僕が十六歳になったから……うん、五、六年くらい前かな?その頃僕は天涯孤独の身になってしまってね。こうなったのは偶然か必然か……多分必然だったんだ。まあ不幸な事故だったと割り切るしかない。一人で旅をしていた時に出会ったんだ。アトラスの方の出身だったんだけど、博士の父に拾われることになったんだ。それから数ヶ月くらい後のことだったっけ。博士本人と出会ったのは」
目を細めながら玄関先に腰を下ろし、懐かしみながら語る。その隣にネロも腰かけた。いつの間にか日が暮れてきている。
「突然のことだったんだ。博士の父親が死んだってことが耳に入ってきたのは。それと入れ替わりで博士と一緒に暮らすことになったんだ。遺言で『ヴェイルへ行け、そこなら私の息子がいる。迷惑をかけるかもしれないが、根はいい奴だ。よろしく頼む』って。当時の僕は戸惑いと不安でいっぱいだったよ」
苦笑いが自然に漏れている。ハルトは少し上を向いてため息を吐き出した。それから昔話の続きを語った。
「初めて彼に会った時は本当にやっていけるのか疑問に思ったよ。実際一週間ぐらいして我慢できずにお互いに鼻っ柱をへし折ってやろうと思いながら喧嘩したよ。結局互角の実力だったから決着がつかなくてね。最終的には流れで仲直りしちゃったっけ……原因がつまらない意地の張り合いだったしね。そこから今までやってきて、ここに住んでいるってわけさ。たまに衝突したりもするけど、いい友達だと僕は思う」
「なんかそういうのって…いいね。俺にはそういうのって今まで無かったから羨ましいよ。覚えてる範囲でそんなことはないから、多分経験はしてないと思うから」
「人生これからだよ。あんまり昔のことばっかり拘らなくてもいいんじゃないかな?」
「でも、俺は俺自身が何者なのかを知りたい。過去が無いことがどうしようもない程不安なんだ、ハルトと出会ってから……悪い事をしたならそれならその分いい事をして償う。誰かを助けていたならそうすればいい。助けなくちゃいけない人もいるし……知らないままに生きるのも選択の一つかもしれないけど、それはきっと逃げだ。分からないなら分からないなりに手を尽くした上でないと納得できないんだ!」
その吐露はもはや怒鳴り声に近かった。ネロの突然の豹変にハルトは投げかける言葉がなかった。
「うちの玄関先で随分白熱してるくれちゃってるじゃない、君ら。さっさと入んなよ。寒いとこで一夜を明かしたいなら私は一向に構わないよ?」
突然の声に顔を上げると男が一人立っていた。眼鏡をかけており、ライダースウェアの上に白衣を羽織るといったどこかミスマッチな恰好に、金色のメッシュを入れている。首元にロケットを掛けているのがまともそうに見えるため、尚のことアンバランスさがある。
一見噛み合わない組み合わせの風貌だが、馴染んでいるというか、着こなしのためか違和感を感じさせない。どこかしっくりとくる。その男がとぼけた声で二人に話しかける。
「……誰だ」
尖った声で名乗りを促す。その男はククと笑いながらネロを見る。その見方はどこか観察しているようにも見えた。
「ハルトから聞いているだろう?私がその博士って奴さ。あれか、よぼよぼのじじいだと思ってたとか?ご想像とかけ離れててがっくりさせたなら謝罪し……たりはしないよ。勝手に期待されて勝手に落胆されてなんで謝る必要がある?」
気取ったとも、知的そうにも聞こえる声でつらつらと喋る。その表情はどことなく楽しげで、その反応を半ば期待していたともとれた。
「改めて自己紹介だ。私はゴルド・モルテ。博士で通っている。ン~、君らが帰ってくるのを待っていたよ!歓迎するよ、ネロ・ベスティア!」
ネロは想像以上の歓迎ムードには驚くが、目つきは依然として鋭い。ハルトが肩を落として改めて向き直る。
「これがうちの問題児その一。通称『博士』さ。ハァ……」
「人を問題児呼ばわりするけど君も大概だよハルト。フラリとどこか行くんじゃないといつも言っているよ?」
ハルトは呆れ混じりにいつものように溜息を吐いたが、鋭い返しが即座に飛んで行った。どうやらいつもこの調子らしく、お互いの発言については何も言わなかった。
「おっとお三方、もう着いてたのか?……何だよ、結局俺が最後か?だらしねえったらありゃしねえ。まあパーティーには間に合ったんだから良しとするか……」
博士、もといゴルドとは別の声が博士の後ろから飛んできた。声の主は黒の中に赤のワンポイントの入ったハンチング帽を被り、カブト虫を象ったシルバーアクセサリを首にかけている。それにジーンズにジャケットといったラフで少し怪しげな雰囲気だが、どこにでも、少なくとも市街地にいても違和感を感じないような服装をしていた。
「お前は……!」
ネロはこの声の主に心当たりがある。というよりも知っている。
「おや、猫被るのはやめたのかブラザー?その方がいい。前に会った時はどことなくらしくない感じだったからな。何事ものびのびとやるのが一番だ……」
「カルマ・ケーファー……!」
「おう、久しぶりだな。元気してたか?」
―次回予告―
「このような話は聞いたことがあるかい?」
「胡散臭さだけは天下一品だね」
次回 Grimm Cult
今回のざっくり用語解説
・オーラ
レムナント世界において生きとし生けるものすべてが有するもの。ぶっちゃけス〇ー〇ォーズのフォ〇スや〇ンター✕ハ〇ターの念。人間だけではなく動物(犬など)も持っている。だが、例外的にグリムは所持していない。これはグリムという存在の在り方に起因するものと思われる。
基本的には攻撃から身を守るためのバリアのようなもんだが、軽い傷なら受けた傍から回復する自衛機能としての一面もある。とはいえある程度の限度がある。それを超えると直接肉体にダメージが通るようになる。
これの達人になってくると武器や拳にオーラを通して攻撃できたり、直接相手に流し込んでダメージを喰らわせることができたりする。後述のセンブランスはオーラを用いた技術の粋ともいえるだろう。
・センブランス
個人個人が持ち合わせるオーラを用いた固有能力。わかりにくい場合はスタン〇能力とか念能力を想像すると分かりやすい。基本一人一能力で同じものはない。(偶然同じ、もしくは近い能力にはなることがある)とある一族には例外的に遺伝するものもあるらしいが……?
本作ででハルトが述べていたが、センブランスとその使い手には深いつながりがあることが多いため、発現した時のことは忘れることはない。(正確には忘れられない程の衝撃的な出来事や、個人に密接な関係があるものがトリガーとなって発現することが多い)
そのため、センブランスはその使い手の写し鏡のようなものとして見ることができる。