蜘蛛の男の自由気ままな物語   作:黒豆博士

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どうも、作者の黒豆博士です。こうして小説投稿サイトに投稿させていただくのも初めての経験ですので、至らない点は多いと思いますが、どうぞよろしくお願いします。



ハンター試験編
第一話 焼肉争奪戦


 ゴォン、ゴォン、という重々しい音が響く。エレベーターに乗っているかのような、というか実際エレベーターの浮遊感を感じながら、黙々と箸を動かす二人がいた。

 一人は黒髪黒目に黒いコートを着た、全身黒ずくめの男。身長は一八〇センチほどもあるが、中性的な顔立ちに目の少し上まで伸ばされた髪のせいで、声を聞かなければどことなく凛々しい美女のようにも見える。

 もう一人は桃色の髪を後ろで少し結った女。顔立ちは美女のものだが、約一六〇センチという小柄な身長のせいで、美女というよりは美少女といった印象を受ける。和服に身を包み、左手の甲に針刺しをつけて針をいくつも刺している格好はどことなく女忍者(くノ一)のようだ。

 ちょうど焼き終わっただろう肉から香る美味しそうな匂いが食欲を沸かせた。と、突然二人の腕が残像を残して人外の速度で閃いた。空中でカキキキキキン! という金属のぶつかる音が連続して響く。無論二人の持った金属箸がぶつかる音だ。あまりの衝撃&風圧で、周りに置いてあった黄金調味料(やきにくのたれ)の入っているボトルが吹き飛んだ。

 瞬間、黒ずくめの男の注意がそちらに向く。咄嗟に手を伸ばして焼肉必須アイテムの安全を確保したところで、彼は己の敗北を悟った。

 

「もらった!」

 

 漆黒の男が、愛しの焼肉が残らず消え去った金網の上から声の主の顔へと視線を向ける。焼肉に視線を固定したまま焼肉のたれを救うという化け物じみた動作をさりげなく当たり前のように披露した彼だが、その顔には悔しさが現れていた。当然だ、美味しそうな肉が一歩及ばず全て奪われていくのを、彼は己の目で見届けてしまったのだから。

 

「ううぅ、マチ、一枚くらい残してくれたってよかったじゃねぇかぁ」

 

 涙目で呟いた男を、マチと呼ばれた美少女は勝ち誇った笑みとともに切り捨てた。

 

「残念だったね、そしてありがとうニード。あんただったら己の幸せよりもたれの安全を優先してくれると信じていたよ」

「ひ、ひでぇ。この子ひでぇよ。そんな信じられ方したって微塵も嬉しくねーんだけど。むしろ心に深い傷を作ってしまったんですけど。そしてあれはやはりわざとか! 俺は飛ばさないようにちゃんと気を付けてたってーのに!」

 

 テーブルに突っ伏して呻く男・ニードを完璧に無視して、マチは幸せそうな笑みを浮かべながら肉を頬張った。

 

(こ、このままではすべての肉が消えてしまう……それだけは避けねば……!!)

 

 ニードにとって肉は何よりの大好物だ。食えないとかなにそれ地獄。

 ――――そこで思いつく、最高の策。

 

(これだ……! これしかない……!)

 

 しかしこの策には欠点もある。それは、少しでも間違えればマチと接吻してしまうかもしれない、ということだ。

 もうお分かり頂けただろうか。そう、ニードが思いついた策とは、マチが食べる直前にこちらが喰らってしまう、というものである。

 

(勝てば天国、負ければ地獄。失敗すれば命はねぇ……!!)

 

 戦闘時のそれをはるかに超す集中力で、視線だけを動かしてマチの動きを観察する。チャンスは一度きり、しかも命懸けだ。

 待つこと数秒。口をもぐもぐさせ終えたマチが、次の肉をつまんだ。ゆっくりと口元へ運び、食べようと口を開いたところで――――。

 瞬間、死んだようにピクリとも動かなかったニードがしゅばっと顔を上げてマチへと突撃した。正確に言えば、マチの口元の肉へと。

 

「なっ――――――――」

 

 驚声を上げつつも、マチも人間を辞めた身、反射神経のみで飛び退こうとして――――――ニードに腕を掴まれて動きを止める。

 

「くっ!?」

「肉、獲ったり――――――――ッ!!」

 

 叫びながらテーブルを完全に乗り越え、肉を箸ごと頬張る。口の中に広がる肉汁と肉のやわらかさ、しっかりとした味を目を閉じて楽しむ。幸せを噛み締めながら口をもぐもぐさせること数十秒。

 目を開ける。

 眼前の美少女視認。真っ赤にした顔視認。つり上がった目視認。額の青筋視認。振りかぶられた拳視認。

 

 現状確認。逃げ場なし。回避可能な体勢でもない。

(あ、詰んだ)

 

 直後、マチの全力の一撃が、ニードの顔面に直撃した。

 

 

 

「しくしくしくしく……。俺の肉がああぁぁぁぁ……」

「うるさい! 食い意地張りすぎだこのバカ!」

 

 またもやテーブルに突っ伏すニードに、未だ顔を耳まで真っ赤にしたままのマチが吠えた。ちなみに肉は半分ヤケクソみたいな勢いでマチに食われてしまったので既に消滅している。

 処刑された(にくをくわれた)ニードは精神に999ダメージを負った! やったね!

 

 ――滂沱と涙を流すニードから視線を外して、マチは頬を両手で挟み込んだ。

 まだ顔が熱い。おそらく今自分の顔は真っ赤だろう。見られなくてよかった、としくしく泣いているニードを見るが、どうせ見たって気付かないんだろうなあ、と嘆息する。次いで、先ほどの出来事を思い出す。

 

(か、かかかかか、間接キスしちゃったんだよね……)

 

 チラリ、ともう一度黒衣の男を見る。そして、もう一度溜め息をついた。滝のように涙を流す自分の想い人兼幼馴染兼相棒は、しかしこれまでちょっとでも自分の気持ちに気付いたためしがないのだ。今回も自分だけが意識してるようで、我ながら馬鹿みたいだと思う。

 

(ホント、考えれば考えるほどコイツへの殺意が湧いてくる……!)

 

 マチは拳を握った。あまりの怒りに肩がプルプル震える。

 マチは無言でニードとテーブルをキスさせた!

 

「へっぶうううううう!? 何故に!?」

「自業自得。少しは自分で考えなバカ」

 

 頬杖をついて、そっけない態度で顔を背ける。気付かないだろうが、見せるのは恥ずかしい。

 

「相変わらずキッツイなぁ……それがなきゃあ可愛いのに」

「か、かわっ!?」

 

 ビックーン!! と肩が跳ねる。恐る恐る振り返ると、いつの間に近寄ってきたのか、怪訝な顔をしたニードの顔が、目の前に。

 

(近っか!! 近い近い近いって!?)

 

 ばっとマチが距離を取るよりも早く――――マチの額に手が当てられる。ゴツゴツとした、見た目からは考えられないほど大きく強い手。

 

「……ッ!! ――――きゅぅ」

「うーん、やっぱり熱あるのかな? いやでもマチがそんなヤワいわけないし……っておい!? 大丈夫かマチ!?」

「だだだだ、大丈夫だから! 大丈夫だから放して! 抱きしめないで―――――――――ッ!」

 

 叫ばれた内容に、ニードは強いショックを受けた。部屋の隅で体育座りをして「そんな強く拒否しないでもいいじゃん……」「心配しただけなのに……」などとブツブツ呟く。背中にズーンという書き文字が幻視できるんじゃないかってくらい哀愁が漂っているが、ほんといい気味である。リア充死すべし。

 マチはというと、

 

(抱きしめられた! 抱きしめられちゃった! きゃーっ!)

 

 という感じで、両手で自分の身を抱いて抱きしめられた瞬間を思い出しながら口をあわあわさせて悶えていた。自分で叫んだことなのに離れられた瞬間寂しくなってしまった現金な自分に嫌気がさすが気にしない。とりあえずニードは死ね。

 混沌とした事態がようやく収束したのは、それよりおよそ十数分も経った頃だった。

 

 

 

 エレベーターで移動する時間もあとわずかというところで、爪楊枝を咥えたニードが、はあ、といきなり溜め息をついた。

 

「? どうかした?」

 

 と怪訝そうに訊ねてくるマチに、ニードはもう一度溜め息をついてから説明を開始した。

 

「や、あのさ、これから行くのってハンター試験じゃん?」

「なに当たり前のこと言ってんの?」

「うん、そうなんだけどさ。世界中の人たちが憧れるハンターになるための試験会場が定食屋の地下ってどうよ?」

「どうって……ま、まあ、微妙、かな?」

「だろぉ? なんとなく、もうちょっとカッコいいところが良かったなー、って」

「気持ちはわからないでもないけど、仕方ないじゃない」

「うん、仕方ない。仕方ないのはわかってるんだけどさぁ……」

 

 もう一度はぁ、と溜め息をつく。

 そう、現在ニードとマチが向かっているのは第287期ハンター試験会場だ。毎年試験会場は変わるらしいが、今回はその会場がザバン市市内の定食屋『ごはん』で合言葉を言ってエレベーターとなっている『奥の部屋』に乗って行かなければならない場所……つまるところ、定食屋の地下なのである。定食屋の名前が安直すぎるのは気にしない。

 はあ、ともう一度溜め息をつく。お茶をすすっていたマチが呆れ顔で言った。

 

「あのねえ……溜め息つきすぎると幸せ完全に失くなるよ?」

「いんや、大丈夫。俺マチが隣にいてくれればそれで幸せなんで」

 

 思わずぶっとお茶を吹き出しそうになるが、すんでのところでこらえる。必死に飲み込み、ぜーはー呼吸を繰り返してから、聞き返す。

 

「え、なに、あたしがなんだって?」

「え、いや、その、俺はマチがいてくれればそれだけで幸せだ、って言っ、オイイイイイイイイ!? しっかりしろマチ!! いきなり倒れんなよ、お前今日なんか変だぞ!?」

「だ、大丈夫、大丈夫だから。心配しないで。……そっか、あたしがいれば幸せか。そっか……えへへ」

「おい、いきなり笑い出してどうしたお前」

「な、なな、なんでもない!」

 

 プイッと顔を背ける。そんなマチの態度に、鈍感野郎ニードは首をひねるばかりであった。

 桃色な空気が漂う。

 すんまっせ――――ん!! ブラックコーヒー大至急ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!

 

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