蜘蛛の男の自由気ままな物語   作:黒豆博士

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※EXシリーズには猛烈なキャラ崩壊が含まれております。苦手な方はブラウザバックをお勧めします。


EX:ゾルディック家編
第十三話 男の影


※ゾルディック家その壱 二組目

 

 

「なるほどねー、キルア坊ちゃんの友達ですかい。うれしいねぇ、わざわざ訪ねてくれるなんて」

 

 ――タイルの床、少し大きめの扉、前に一つ備え付けられた応接用の大きな窓、一辺二・五メートルほどの正六面体の空間。

 その小屋といってもいい場所の名を、パドキア共和国ククルーマウンテン樹海前ゾルディック家正門守衛室と言う。

 恰幅のいい身体に窮屈そうに守衛服を身につけた、人あたりの良さそうな顔つきと鼻の左にある大きな黒子が印象的な守衛室の主の男性は、ゴン、レオリオ、クラピカの三人に茶を差し出しながら感慨深そうにぽつりと零した。

 

「あたしゃ二十年勤めてるけど、あんたたちでようやっと二組目だよ、友人としてここに来てくれたのはね。雇われの身でこんなこと言うとバチが当たりそうだけど、本当に寂しい家だよ、だーれも訪ねてきやしない」

「「「……二組目?」」」

 

 少々思い当たる節がある言葉に反応した三人に対し、守衛は一瞬顔を向けたが、しかし返答はすぐには来なかった。ふーっ、と煙を吐いて、守衛はそこで少し黙し、思い出すように呟いた。

 

「ええ、二組目ですよ。あの人が訪ねてきた時以上に驚いたことは、あたしはこれまで生きてきた中で一度もない」

「「「…………」」」

 

 思い当たる節がある、というかバリバリその答えが予想できちゃっている三人は頬に汗を垂らしながら視線を泳がせた。守衛は昔のことを思い出しているのか、目を細めて茶をすすっているので三人の様子に気づいていない。

 数瞬の沈黙に耐えかねたのか、クラピカが口を開いた。口元がひくついたせいで声が震えたのは仕方ないとしか言い様がない。

 

「ち、ちなみに、その人物たちの名前は……?」

「はい? ああ、ニードさんとマチさんってんですよ。いやぁ、あの人たちはいろんな意味ですごかった」

「「「あ、やっぱり?」」」

「あれ? 君ら、あの二人を知っているのかい?」

 

 きょとんと目を見開く守衛に、三人は試験でのことを話し、

 

「………………えぇーっと、はい。――いや、来てくれて本当に嬉しいよ。ありがとう!」

「……、いやいやぁ」

 

 すぐになかったことにした。 

 

 

※ゾルディック家その弐

 

 

「しかし君らを庭内に入れるわけにはいかんです」

 

 頭を下げた守衛ゼブロは、しかし三人の来訪に対し意外とも当然ともとれる反応をした。

 ――意外。キルアの友達として訪ねてきたことをこれだけ喜んでくれているのに、そんなことを言ったのが意外。

 ――当然。いくらキルアの友人だと主張したところで、嬉しがってくれたところで、自分たちがゼブロの主たるゾルディック家に害を及ぼす者かどうかわからないのだから当然。

 瞬時にそんな考えを張り巡らせても、三人にとってその言葉が納得できないものであることに変わりはなく、ピタリと動きを止め次の言葉を待つ。

 しかし、ゼブロはあくまで穏やかな口調で諭すように言った。

 

「さっき君らも見たでしょ? でかい生き物の腕を。あれはミケといってゾルディック家の門番なんですけどね、家族以外の命令は絶対に聞かないしなつかない。――十年前に主から出された命令を忠実に守っている。“侵入者は全員かみ殺せ”」

 

 一息にそう言い、煙草を一度吸ってから、ゼブロは思い出したように付け加えた。

 

「あ、忠実じゃないやな、食い殺してるし家族以外の二人にもなついてるから。とにかくミケがいるからあんた達を中には入れられないね。坊っちゃんの大事な友達をガイコツにするわけにゃいかないからね」

 

 はっはっは、と笑ったゼブロは、目を細くしながら三人にとって一番効果的なことを補足した。

 

「ちなみに、家族以外になついた二人というのはニードさんとマチさんですよ。逆に言えばあの二人くらいの実力がなければ無理、ってことですね」

「……しゅ、守衛さん、あなたはなぜ無事なんですか?」

 

 三人は聞かなかったことにした。

 

 

※ゾルディック家その参 試しの門

 

 

「んぎっ……ぎががが……ッ!!」

 

 ――本当の門には鍵はかかっていない。守衛改め掃除夫の男性はそう言った。

 レオリオが押すのはその真の門。重厚な大扉。一見、一と大きく書かれている以外には特に特筆すべきところはなさそうに見える。

 ――しかし、真に驚くべきはそんなことではなく、

 

「ハッ、ゼーッ、ハッ……。おい、押しても引いても左右にも開かねーじゃねーかよ!」

「上に上げるんだったりして」

「単純に力が足りないんですよ」

「アホかァ!! 全力でやってるってんだよ!」

 

 ――その常軌を逸した重量である。

 

「まぁごらんなさい」

 

 守衛服……否、掃除服を脱ぎ捨て上半身をランニングシャツ一枚にした掃除夫ゼブロは、そう言いながらレオリオではビクともしなかった大扉に、ゾルディック家の真の正門に歩み寄った。

 

「この門の正式名称は“試しの門”。この門さえ開けられないような輩は――」

 

 ヒュー、ヒュー、という静かな呼気が、やけに大きく聞こえた。

 ゼブロの姿は豹変していた。丸太のような腕は筋肉の塊そのもので、その隆々とした筋肉の上にはいくつもの血管が太く浮き出ている。逞しきその肉体は、到底その顔より受け取れる年齢とは似つかわしくなかった。

 

「――ゾルディック家に入る資格なしってことです」

 

 はっ!! と。短い掛け声と同時、勢いよく前進。――足を踏み出した。

 ギィゴォォン、という重々しい音を立てながら、不動と思われた“試しの門”はその身を動かしていた。

 

「「「…………ッ!!」」」

 

 驚愕し硬直する三人の前で、しかしゼブロはすぐにその身を引いた。ゴォォォンと再度重々しい音を立てて門が閉まる。

 

「ごらんの通り扉は自動で閉まるから、開けたらすぐ中に入ることだね」

 

 言い終えたゼブロは大量の汗をかいていた。

 老年の掃除夫は脱ぎ捨てた掃除服を着ながら言う。

 

「年々これがしんどくなってきてねぇ。でも開けられなくなったらクビだから必死ですよ。――“試しの門を開けて入ってきた奴は攻撃するな”、ミケはそう命令されてもいるんです。一の扉は片方二トンあります」

「二ト……ッ!?」

 

 ゼブロがそこまで言ったところで、硬直していたレオリオがようやく反応した。

 

「そんなもん動かせねーぞ普通……」

 

 と、そこまで言いかけて“試しの門”に敗北した自称凡人は口をつぐんだ。上唇を突き出しながらジト目で“試しの門”の勝者に問う。

 

「一の扉は……だと?」

「ええ」

 

 なんでもないことのようにゼブロは首肯した。

 

「ごらんなさい、七まで扉があるでしょう?」

「ああ」

 

 見上げ、ゼブロ除く三人は改めてほうと嘆息した。

 一と書かれた門の周りを覆うようにして、一の門より一回りほど大きい二と書かれた門が重なっており、その上にはさらに一回り大きい三の門が、そしてその上にはさらに一回り大きな四の門が、とそれが七まで続いているため、総合的な横幅は三十メートル近くで、高層ビルと同等程度の高さになっている。巨大、雄大、そんな言葉が思い浮かぶ。

 

「ひとつ数が増えるごとに重さが倍になっているんですよ」

「倍!?」

 

 ズガビーン、とそんな擬音が似合う反応をしたレオリオには応じず、ゼブロは目を細めながら説明を続けた。

 

「力を入れればその力に応じて大きい扉が開く仕組みです。ちなみにキルア坊っちゃんが戻ってきたときは三の扉まで開きましたよ」

「三……ってことは」

 

 ゴンは冷や汗を流して呟いた。

 

「……十二トン!!」

「………………十六トンだよ、ゴン」

 

 呆れたようにため息をつきながらクラピカが訂正した。この場合、四×三ではなく四×二×二の方が正しい。

 

「ああ、もうひとつ付け加えときますと、ニードさんは涼しい顔して七の門まで開けましたよ」

「………………二五六トン!!」

 

 頭から少し湯気を出しながら、ゴンが正解を弾き出した。

 クラピカは再度嘆息して、

 

「二十八トンだよ、ゴン」

「クラピカ、ゴンの方であってるぞ」

「…………」

 

 涙目になって沈黙した。

 

 

※ゾルディック家その四 執事

 

 

「……はい! すいません、はい! はい! ええ、ええ。わかります。すいません。はい! はい! 失礼します」

 

 友達に会いに来たのに試されるなんてヤだから俺は侵入者でいいよ。だから侵入者用の鍵ください。

 テメェ何言ってんだゴラ俺の話聞いてなかったのかミケの腕見ただろあ゛ぁ!? と普通ならブチ切れられそうなことをのたまったゴンに、ゼブロは困った顔をして鍵はどうしても渡せないと頭を掻いて、それから少し待っているように三人に言って守衛室の電話を手にとった。

 ――その結果がこれである。

 

「「「……、」」」

 

 身を縮こまらせて電話越しだというのに相手にペコペコと頭を下げるゼブロには先ほど“試しの門”を開けた時の強者の風格は少しもなく、本当に雇われの身のさらに末端の一介の掃除夫でしかないのだと改めて認識させられて、三人はどう反応していいのか分からずに沈黙していた。

 と、ガチャ、と受話器をおく音が守衛室に響いた。

 

「いや~、やっぱり叱られちゃったか」

「屋敷に電話してくれたの?」

「いや、ゾルディック家の執事にですがね」

 

 屋敷への連絡は全て執事を通すんですよ、とゼブロは言った。

 

「家族まではめったにつながらないんです」

「……、もう一度かけてくれる? 今度は俺がでるから」

「ええ、いいですけど……嫌な思いさせちゃいますよ」

 

 プルルルルルルル、プルルルルルルル、という呼び出し音のあと、まるで機械のように無機質な声が聞こえてきた。

 

『はい、ゾルディック家執事室』

「あ、もしもし。ぼくキルアくんの友達でゴンといいます。あの、キルアくんいますか?」

『キルア様に友達などおりません』

 

 即座に帰ってきた返答とともに、ガチャ、と通信は切られた。プー、プー、という電子音が虚しく響く。

 ゴンは無言で指を動かし、再度執事へと電話をかけた。

 

『はい、ゾルディック家執事室』

「なんでお前にそんなことわかるんだ!! いいからキルアを出せ!!」

 

 開口一番、ゴンは叫んだ。

 しばしの無言のあと、冷徹で冷然とした無機質で感情の込められていない声が返ってきた。

 

『……、君……ゴン君といったかな?』

「ああ」

『仮にキルア様にゴンという名の友人がいるとして、君がゴンだという保証はどこにもない』

「キルアを出してくれればわかる!!」

『「声でわかる」と? あてにはならないね』

 

 受話器から聞こえてくる声には、なにも感情が込められていない。

 と、

 

『キルアを出してくれればわかる!!』

 

 突然、受話器からゴンの声が聞こえてきた(、、、、、、、、、、、)

 

「……!」

『今のはただのテープだが、声を似せるだけでいいなら方法はいろいろある。次は「あえばわかる」かな?』

 

 執事の声は抜き身の刀のように冷たい。

 

『たしかに全身そっくりのニセ者を用意する方法は限られてくるが……それでも不可能ではないし、キルア様を狙う人物がゴン本人を脅して利用するという方法も考えられる。可能性がある限りキルア様は出せない』

 

 ゴンの執事の言葉に対する反応は、ない。

 

『ゾルディック家は暗殺を生業にしている。自然、敵も増える。余計な外敵から主を守るのは我々の勤め。悪いがお引き取り願おう』

 

 ガチャ、ともうこの短時間で何度も聞いた通信が切れる音が室内に虚しく響いた。

 ゴンは額に青筋を浮かべながら、無言でもう一度だけ電話をかける。

 

『はい、ゾルディック家執事室』

 

 無機質な声が聞こえてくる。

 ――ゴンは深く息を吸い、吐いてから、静かに言った。

 

「……あの、ぼくニードの友達なんですけど」

『えっマジ!? えっアイツ来てんの!? うっわマジかよやっべー!! っべー!! んだよ、ここ数年来てねーなよかったよかったとか思ってたのに来ちまったのかよアイツ!! あーくっそどうすんだよどう報告すんだよどう言や正解なんだよどう報告しても面倒なことになんだよなつーかあいつここに影響及ぼしすぎだろしかもほとんど悪影響じゃねーかくそ追い返してーけどあーもうでもなんかウチ妙にあいつ気に入ってるし結局引き入れちまってまた俺らが胃痛に悩まされんだろーなこのクソッたれがァァァ!!』

 

 うぎゃあ!! とでも言いそうな執事の突然の豹変ぶりに、原因であるゴンは目を白黒させながら言った。所々被害妄想入っている上に先ほどまでの徹底的な情報不開示っぷりが嘘のような衝撃的カミングアウトの連続である。

 

「……あの、ニードは来てませんけど」

『……、悪いがお引き取り願おう』

 

 ガチャ、と今度はゴンの方から電話を切った。

 気まずい沈黙が守衛室内を支配した。

 

 なんというか、台無しだった。

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