蜘蛛の男の自由気ままな物語   作:黒豆博士

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第二話 ヒソカの心配

 ――突然だがヒソカという男について話そう。

 彼はいわゆる戦闘狂や殺人狂という部類の人間だ。奇術師を自称し、強者、もしくは才能ある者のみを追い求め、戦い、殺すことを至上の喜びとしている。それ以外には全くと言っていいほど興味がなく、それは興味が失くなった人間(壊れたオモチャ)の顔や名前を次の日には綺麗さっぱり忘れてしまうほどだ。どんな人間に対しても明確な味方や敵にはならないため、昨日の敵は今日の友(殺りあった次の日に共闘する)なんて事態も余裕で起こり得る。

 髪を逆立て、左目の下に涙型・右目の下に星型のペイントを施し、奇抜な服に身を包む姿は見る者に様々な感情を抱かせる。素顔は超美形なので、知人の黒ずくめの男からは「いろんな意味で残念なやつだ」とよく言われているが。

 そんな彼に特定の友人関係なんてあるはずもなく、いたとしてもギブアンドテイクの間柄で、それだって死んだら死んだで特に気にもしない程度の付き合いである。――――はずなのだが、現在彼はデフォルトの軽薄で胡散臭い奇術師の笑みの奥に、『心配』の二文字を見え隠れさせていた。

 一ヶ月ほど前、彼は黒ずくめの奇妙な()()から【今年は俺たちも試験に参加するぜ】というメッセージを受け取った。ゆえに今年は去年よりも楽しめそうだなあ、と思っていたのだが……

 来ないのだ、その来るはずの二人が。

 化け物じみた戦闘力を有する彼らに万に一つも何かあるとは思えないので、ヒソカもそこについては何も心配していない。心配なのは時間である。先ほど髪をツンツン逆立てた少年、金髪の両性的な顔を持つ少年、丸眼鏡をかけ鞄を引っ提げたオッサンのような青年の三人が降りてきたが、それ以来エレベーターのドアが開く気配はない。時間はあと僅かだというのにあの二人は何をしているんだ、とさらに心配が募っていく。

 と、突然特徴的な髪型にダンディーなお髭を持つ紳士のような男性が上の方の足場に現れた。気配はほとんどないため、気づいているものは極少数だ。

 彼が最初の試験官だろうと当たりを付け、いよいよ時間がないことを悟る。あと十数秒あるかないかというところだろう。ここまで来てしまうと、十中八九彼らは間に合わない。感情が心配から諦め、そして少しの寂しさへとシフトしていく。

 そして――ついに試験官であろう男性が手に持っている奇怪な形をした時計が、試験開始を告げるアラームを――――

「――ジ、」

 リリリリリリリリリリリ!! と鳴り響かせると同時、エレベーターの扉が開いた。

 出てきたのは二人。和服に身を包んだ桃色の髪の美少女に、黒髪黒目に黒いコートの全身真っ黒な両性的な顔立ちの男。この二人こそが、ヒソカの待っていた者たちだ。

 ホッと息を吐きそうになるが、しかし安堵するのにはまだ早い。時間に間に合ったかどうか、それがまだ分かっていないのだから。

 試験官の男性が時計のボタンを押した途端、それまでうるさく鳴り響いていた音が嘘のようにぴたりと止んだ。

 

「ただ今をもって、受付時間を終了いたします。――――――ああ、そこのちょうど来られた御二方」

 

 男性が礼をし、降りてきたちょっと状況がよくわかっていなさそうな二人に声をかける。声をかけられた黒ずくめの男――――ニードが冷や汗を垂らして頬を掻きながら口元を引きつらせて問う。

 

「あーっと……なんかギリギリっぽいんだけど、もしかして俺ら失格?」

 

 その言葉に男性は首を振った。

 

「いいえ。時計のアラームを止めた時点が受付時間の終了ですので、鳴っている途中に来られたお二人は失格ではありません」

 

 ヒソカは今度こそホッと息を吐いた。次いで、二人の方を見る。黒衣の男はあーよかったビクったぜなどと言いながら胸を撫で下ろし、桃色の髪の美少女――――マチはひたすら俯いていた。

 ん? と首を傾げかけて―――――気づく。ほとんど薄れてはいるものの、マチの頬にほんの少し赤みが指していることに。

 普段勝気で鋭い性格(ついでに結構キツイ口調)の彼女からすればかなり不自然なことだ。しかしそれなりに二人との付き合いが長いヒソカにはすぐに察しがついた。

 プチリ、と何かが切れる音が自分の額から聞こえたような気がした。自分があれほどまでに心配していたというのに、あの二人は、というかあの野郎(鈍感男)は何をやっているのだという至極真っ当な怒りが沸き起こる。浮かべていた笑みを一層深いものにするヒソカに周りの受験生が短い悲鳴を上げる。

 直後、ヒソカの腕が閃いた!

 

「のおおおおおおおおおっ!?」

 

 とそれまでなんか晴れ晴れとした笑みを浮かべやがっていた男が悲鳴を上げながら限界まで仰け反る。瞬間、がっ! と音をたてて背後のドアにトランプが突き刺さった。

 

「え、なにこれトランプってテメェかヒソカ何しやがががががっ!?」

 

 鉄の扉に突き立ったトランプを見て下手人を察したらしく、体を元の体勢に戻しながら叫んだ男が再度奇妙な悲鳴を上げながら海老反りの要領でまたもや飛んできたトランプを避ける。

 

「あっぶねホント何しやもうやめて―――――ッ!!」

 

 がっ、がっ、がっ、がっ、がっと次々に飛来するトランプを超人的な速度及びなんか腹立つポーズで避ける男と、無言で笑みを浮かべたままつかつかと歩み寄りながらトランプを投げ続けるヒソカに周囲が唖然とする中、パン、パン、という手を叩く音が上方から聞こえてきた。その音を聞いた受験生が全員そちらに目を向け、激しい攻防(笑)を繰り広げていた二人も一時動きを止めそちらを見る。

 

「そこまでにしてください」

「チッ」

「舌打ちしたよね今!?」

 

 何故に!? と叫ぶニードに目を向け、音の主、試験官がもう一度口を開く。

 

「お静かに。これ以上この場で何かするというなら即失格としますよ」

「……チェッ」

「……もう何も言わんぞ俺は」

「―――――ではこれよりハンター試験を開始します」

 

 心なしか疲れたような表情を浮かべた男性が、足場からフワ、と飛び降りた。

 

「こちらへどうぞ」

 

 カッ、カッ、と音を立てながら歩き始める試験官の男性。

「さて、一応確認しときますが」

 

 振り返らずに指を立てて、少し間を置いてから男性は続けた。

 

「ハンター試験には大変厳しいものもあり、運が悪かったり実力が乏しかったりすると、ケガしたり死んだりします」

 

 それから、少しため息をついて一言。

 

「――――先程のように受験生同士の争いで再起不能になる場合も多々ございます」

 

 あー、うん、と受験生全員が揃って頷いた。後ろでガクッとずっこけるバカは無視。

 

「それでも構わない。――――という方のみついて来て下さい」

 

 躊躇うものは皆無だった。

 歩き出す受験生たちの少し後ろで、マメ男が遅ればせながら二人に番号札を渡していたが、誰も気にしなかった。なんか黒衣の男が異様にはしゃいでいるような気もするが、気にしたら負けである。

 しばし進み、誰も帰らないのを確認して、男性が呟いた。

 

「……承知しました。第一次試験四百七名全員参加ですね」

 

 また、歩き出す。……同時に感じる、違和感。

 

(へェ……面白い♥)

 

 前の試験官が歩くスピードを上げたのだ。普通に歩いているように見えるが、速度としては走っている時のそれに並ぶ。

 

「申し遅れましたが、私一次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を第二次試験会場へと案内します」

「二次……? ってことは一次は?」

 

 と、先頭の方を走るハゲ頭の男が訊いた。

 

「もう始まっているのでございます」

 

 少し間を置き、振り返って、

 

「二次試験会場まで私について来ること。これが一次試験でございます」

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