蜘蛛の男の自由気ままな物語   作:黒豆博士

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第七話 知人集合

 世界一の殺し屋一家と名高いゾルディック家。そのゾルディック家の歴史上最高の才能を持つとされる天才少年・ゾルディック家三男キルア=ゾルディックは戦慄していた。

 

(馬鹿か俺は……!! あいつを……あいつを殺す!? 俺が!? どうやって!?)

 

 先の人面猿オーバーキル事件。そこで見せつけられた黒衣の男――ニードの実力。

 

(見えなかった!! 全く!! 気づいたら……気づいたら、もう近くにいた!!)

 

 キルアは先述の通りゾルディック家史上でも他に類を見ない天才だ。幼い頃から家族たちにありとあらゆる教育を施されて育った彼は、そんじょそこらの人間では敵うどころか姿すら見ることはできないほどの戦闘力を持つ。

 そんな自分が、全く目で追えなかった。視認できなかった。感知できなかった。それはつまり、自分が殺すと誓ったあの黒衣の男は、自分など到底及ばない化物であるということだ。

 先程去っていってしまったつんつん頭の少年のことも気になるが、この霧だ、もう今試験中に会うことは叶わないだろうと諦め、全思考能力を黒衣の男についての考察に向ける。

 

(くっそ、こうなるとあの時の殺気も気づかれてる可能性がある!! ……いや、大丈夫か。もし気づいてても誰に向けたかまでは分からないはずだ。というか、あれだけ実力持ってるならウチの情報持ってることにも頷ける。推測からして間違っているのか?)

 

 キルアは考える。自身の体を機械的に動かし続けながら、仮説の間違いを探していく。

 

(まず、だ。よくよく考えてみれば、マチを操る必要性がそもそもない。この程度の試験なら俺ですらアクビが出るほど簡単に突破できる。あいつなら毛ほどにも感じないはずだ)

 

 ということは、とキルアは考える。これまでの黒衣の男の行動及び言動から推測される奴の性格を考慮しつつ、真実を導き出すために頭をフル回転させる。

 

(ということは、一番可能性が高いのはあいつが言った通りウチとあいつが昔からの知り合いだっていう線だろうな。この試験の前に別の理由で操った可能性もあるけど、それならすぐに開放するなり殺すなりしたほうが早いし、ここまで連れてくる必要もないだろ)

 

 うーん、と唸って、腕を組んで考える。

 

(実力からして、オヤジにジイちゃんに兄貴……まさかとは思ってたけど、ひいジイちゃんも含めて、ウチの人間大体と殺しあったってのもあながち嘘じゃなさそうだしな……)

 

 考えて考えて、ようやく『あいつの言ったことは全部真実なんじゃないか』と思えてきたキルアは、

 

「でもなぁ……カルトはストーキングなんてしないと思うしなぁ……」

 

 カルトについてだけは信じたくなかった。

 

 

 

「で? 何しに来たのニード? 俺としては君が俺の半径一メートル以内に入るだけでも吐き気がするんだけど? できればすぐ用件を済ませて一分一秒でも早く消えてくれないかな?」

「ひでーなオイ!! ただちょっと話したくて来ただけなのになんでそんなに散々言われなきゃいけねーんだコラ!! あれ俺結構お前と仲いいと思ってたんだけど? え、なに? 俺の思い込みだったわけ? 泣くよ? 真面目に俺泣くよ?」

「冗談だよクソ虫。俺が君に本気で消えて欲しいと思ってるハズがないだろ? ジョークだよ、挨拶がわりの軽いジョーク。そんな真剣に泣きそうにならなくても」

「無表情のままで言われても説得力ないしジョークにしてもアレはないしそれ以前に俺クソ虫呼ばわりされた気がするんだけど!?」

「…………」

「……いや、そこは何か言えよ」

 

 はぁあああ、と長い溜め息をついて、ニードは再度左隣を走っている体中に針をブッ刺したモヒカンヘアーのイカれた男を見やった。

 男の名はイルミ。イルミ=ゾルディック。超有名暗殺一家ゾルディック家の長男である。ニードとは結構長い付き合いになる男だ。

 ニードは薄い笑みを浮かべながら話しかける。

 

「何て呼べばいい?」

「ギタラクル」

「そーか。んじゃギタラクル、率直に訊くぜ。ここには何しに来たんだ?」

 

 双眸に剣呑な光を宿しながらもあくまでのんびりとした口調で問うニードをチラリと一瞥し、イルミ/ギタラクルは簡潔に答えを返す。

 

「仕事に必要だったんでね」

「ヒソカとはいつ?」

「前に連絡取りあった時にちょっとね。揃って受けんだからどうかって話になった」

「へぇ……。オーケー、大体わかった。ところで質問なんだけど、キルちゃんはどうしてここにいるんだ?」

「家出。母さんとミルキを刺したらしい」

「ヘェ。ミル君はともかくキキョウさんは狂喜しただろ、それ」

「そりゃもう。ニードたちはなんでここに?」

「好奇心からと、ハンター専用サイトってのに興味があったからと、単純に便利だから欲しくてさ」

「ふーん、そっか」

 

 終始素っ気なく行われた一連の会話は、その実ニードやイルミたち“闇”に生きるものにとって最も重要なものである。すなわち、“情報の入手”。

 どんな猛者でも、“情報”を全く持っていなかったらアッサリ殺られる。だからこそ、それを知っているからこそ、どれだけ親しい者でも彼らは警戒を怠らない。

 まぁこの場合言ってしまえばただの確認であるため、ニードはすぐに打って変わって親しげに笑いかけた。

 

「来てるとわかった時には驚いたぜ。なぁマチ?」

「ああ。正直これだけ知り合いが集まるとは思いもしなかった」

 

 これまでの話に参加しなかったニードの右隣を走る桃色の髪の美少女も、素っ気なくはあるが会話を拒みはしない。

 

 針だらけの男は無表情のまま、声にだけ感情を表しながら話す。

 

「俺はヒソカに教えてもらってたからあまり驚かないで済んだけど、さすがにキルがいたのにはびっくりしたよ」

「俺らからしたらヒソカ以外は来ること知らなかったんだぜ。驚きまくりだよ、ったく」

 

 けっ、とふてくされたように吐き捨てるニードに向かって、イルミは無表情のまま手を合わせた。

 

「ごめんごめん。メールくらいしときゃよかったね」

「ほんと頼むぜ。その方がわざわざ接触する必要もなくなるんだし。ま、今回はこんな都合のいい場所があったから良かったけど」

「悪かったって」

 

 周囲の頑張る受験生たちを尻目に、彼らは涼しい顔のまま雑談を続けた。

 そして。

 

「そういや最初の焼肉美味かったな……ひと切れしか食えなかったけど」

「あれは全面的にニードが悪い」

「ん? 焼肉? まさか、生肉から焼いて食べたの?」

「「? そうだけど?」」

「俺の時は最初から焼かれてたけど」

「え? い、いやいやいや、え、だって、え? あ、アレだろ? ステーキ定食っつったらお前、ステーキ焼いて食うようになってたろ?」

「そ、そうそう。あ、あたしたち、それで焼いて食べたんだけど……?」

「いや、俺の時は最初から焼いてあった。おかしいと思わなかったの? 定食と言ったら普通そうでしょ」

「…………(汗)」

「…………(汗)」

「気づかなかったの?」

「…………(泣)」

「…………(黙)」

「はぁ……」

「…………(怒)」

「…………(怒)」

 とりあえず試験が終わったら店長(アイツ)殺そう。

 ニードとマチは固く誓った。

 

 

 

 走って走って走り続けること、どれくらいの時間走ったかわからなくなるまで。

 受験生一同はようやく二次試験会場に到着した。

 多くの受験生たちが荒い息をついている中、ハンター試験第一次試験官サトツは涼しい顔をして告げた。

 

「みなさんお疲れ様です。無事湿原を抜けました。ここ、ビスカ森林公園が二次試験会場となります」

 

 彼はそのまま離れていき、歩きながらに受験生たちに言葉をかける。

 

「それじゃ私はここで。健闘を祈ります」

 

 

 グオオオオオオ、ゴオオオオオオオ、という大きな音が断続的に響く中、既にイルミと離れたニードは、引き攣った笑みを浮かべながら隣のマチに問いかけた。

 

「なぁ……俺さ、果てしなく嫌な予感がするんだけど……?」

「奇遇だね。あたしも」

 

 揃って頬をピクつかせる二人に、面白そうな顔をしたヒソカが近づいた。

 

「これはこれは♥偶然は重なるものだねェ♣」

 

 奇術師は心底面白そうにくつくつと笑う。ぎぎぎ、と壊れたブリキのおもちゃのような動きでヒソカの方を見たニードは、別れた時にはなかった、ヒソカの左こめかみの傷を見て首をかしげた。

 

「ヒソカ、それどうした?」

「あぁ、これかい? くくくく、いや、いいオモチャを見つけてね♦」

 

 言いながらヒソカが視線を向けた場所では、つんつん頭の少年――ゴンが、銀髪猫目の少年――キルアと何かを話していた。

 

「ふーん。まぁあの歳であの身体能力だしわからなくはないけど、ゴンもお気の毒だなぁ。お前に目をつけられるなんて」

「くくく、いいだろ♥これからがとても楽しみだよ♠」

 

 話を終え、ニードは再度頬をピクつかせる。

 

「しっかし……ホントに偶然ってーのは重なるもんだ」

「まったく同意するよ」

 

 はぁ、と完璧に同期した動きで溜め息をつくマチとニードの傍らで、奇術師はなおもくつくつと笑いながら手の中でトランプを高速移動させる。

 右手から左手、左手から右手へと流れるトランプを目を細めて見つめ、何を思ったのか僅かに首を動かし一枚だけを口で抜き取る。

 

「ボク流の占い♥ハート、スペード、クラブ、ダイヤ、ジョーカー、カードによって運勢がわかる♣」

 

 奇術師は抜き取ったトランプを見て、―――爆笑した。ぶっ、と吹き出し顔を背け肩を震わせているその姿にとてつもない不安を感じながら、恐る恐るヒソカの差し出したトランプを見る。

 描かれていたのは――ジョーカー。

 ヒソカはプルプルと震えながら言う。

 

「運勢は最高に最悪♠とってもいい結果につながる悪いことか(かていがわるいか)とっても悪い結果につながるいい(けっかがわるい)ことが起きる♦」

 

 今回の場合はどっちかわからないけどね♣とシャレにならない言葉を残して、奇術師は肩を震わせながら離れていった。

 

 

 直後。正午になったことを知らせる時計の音が鳴り、大扉がギギと音を立てて開いた。

 現れた二人の人物をチラ見して、ニードとマチは一秒後に顔をそらした。そのまま人の背後に隠れ、こそこそと話す。

 

「どうしよう俺嫌な予感が嫌な確信になっちゃったんだけど」

「安心しないほうがいいよ。あたしもだから幻覚じゃない」

 

 もう一度、そろりと試験官たちの姿を見る。ソファに座った女と、その背後の地べたに直接座った超でけぇ男が、ちょうど会話を終え二次試験の内容を話しているところだった。

 女曰く二次試験は料理。まず男が指定する料理を作り、次に女が指定する料理を作る。二人が“おいしい”と言えば晴れて合格。

 男曰くメニューは豚の丸焼き。森林公園に生息する豚なら種類は自由。

 

「OK、じゃあ俺があいつらと話してくるから、マチは豚よろしく」

「何か言い方嫌だけどわかった」

 

 会話を終えたと同時、二次試験がスタートし、マチとニードの姿は掻き消えた。

 

 

 受験生たちが去ったあと、試験官の女と男はニヤリと笑って会話する。

 

「豚の種類は自由……だって? あんたも性格悪いわね。ビスカの森に生息する豚は、たった一種類だけでしょ?」

 

 女の言葉に、男はくくく、と笑いながら言った。

 

「世界で最も凶暴な豚、グレイトスタンプ。大きくて頑丈な鼻で敵を押し潰す!! 逃げ遅れれば自分が豚の食料になっちまうぜ!!」

「いやホント性格悪いっつーか変わってねーなブハラお前」

「「!?」」

 

 突然降ってきた声に驚き、試験官の女と男は声の主の方を向く。視線の先には――黒。黒衣の男が壁に寄りかかりながらそこにいた。

 黒衣の男は手を振って笑いながら言う。

 

「よぉ、メンチ、ブハラ。久しぶりだな」

 

 驚きの表情を浮かべて固まった試験官の女と男を見て、まぁそりゃそうなるわなとニードは苦笑した。

 

 メンチとブハラ。紛れもないニードの弟子たちである。

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