ちょっと田舎で暮らしませんか?   作:なちょす

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この作品をご覧の皆さん、こんにチカ。
園田 海未と申します。さて、どうして私がこの場に居るのかと言いますと⋯私も良く分かっていません。
まぁ、OVAなので。
今回は高校を卒業したAqoursと+‪α‬で、南の島へ旅行する事になりました。それも真姫の家と、オハラグループの全面協力の元、2泊3日で島巡りをするみたいで⋯私も良く分かっていません。
まぁ、OVAなので。
それでは、『夏の陣OVA:ちょっと田舎で暮らしませんか?─そうだ、島へ行こう─』のスタートです。
⋯⋯映像でも無いのにOVAとはいかがなものでしょう?


OVA:そうだ、島へ行こう(1/3)

会社の先輩がグアムに行った時気付いたらしい。向こうは『空が高い』って。初めはどういう意味なのか分からなかったけれど、今こうして上を見上げれば、自分の身をもって実感できる。

内浦に居た頃は、手を伸ばせば雲に手が届きそうだった。勿論そんなわけは無いのだけど⋯気持ち、と言うのだろうか。全てを平等に受け入れてくれる青空が、手の届きそうな場所にあり、不安な時は心を落ち着かせてくれる感じがしたんだ。

だがここは違う。空に浮かぶ雲達は遥か遠くに浮かんでいて、どれだけ手を伸ばしても、ただ無意味に空を切るだけだった。

 

つまり、何が言いたいかというと───。

 

「スタンプラリー、1つ目ーーー!!」

「やったね千歌ちゃん!あと何個か分からないけどっ!!」

「まぁ、この調子ならすぐ終わるんじゃないの?」

「じゃあ終わったら皆で海行こうか!」

「海未は私ですが?」

「いや⋯そういうわけじゃ⋯。」

 

千歌ちゃんに曜ちゃん、果南ちゃんに善子ちゃんに海未。

僕らは今、そういう場所に居るって事。

何で⋯島に居るんだっけなぁ⋯。

 

「ナツくーんっ!」

「置いてくよーっ!!」

「夏喜。呼ばれてますよ。」

「あぁ、うん。じゃあ⋯行こうか、『奥さん』?」

「っ、で、ですからっ!!///それはやめて下さいと何度も言ってるでしょうっ!?///」

 

島に居る僕ら。スタンプラリー。『奥さん』呼びの海未。ここに居ないメンバー。そして⋯。

 

「⋯⋯。」

 

帽子を被り、サングラスをかけた謎の人物。関係者らしいけれど、ここに来るまでの間1度も声を聞いてはいない。なのにこの人物からは、結構鋭い視線を浴びている時があるんだ。主に曜ちゃんが近くに居る時。

まぁ、他にもまだまだ説明したい事は山積みなんだけれど⋯取り敢えずは状況を説明しなければならないね。

 

事の発端は、まさかの一週間前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「卒業旅行とかどうよ?」

「また随分突然じゃないか、ヒロ。」

 

環境が変わっても関係は変わらず。我が友人は伊豆半島で釣ってきたマグロをこなれた手つきで捌きながら、そう口にした。

 

「そうか?寧ろ、もうどっか行ってるもんだと思ってあったばってな。ほれ、中トロ。」

「サンキュ。まぁそんな話は出ていたけれど、結局学年毎に遊びに行った話しか聞いてないなぁ⋯。」

「じゃあ行くか。」

「どこに?」

「⋯島?」

「島?」

 

そう。今思えば、コイツのこの一言が全ての発端だったわけで。

 

「良いじゃない、Island♪」

『⋯⋯⋯。』

「良いじゃない、Islandッ!!!!」

「だぁーっ!VoiceがBIGだじゃ!!ちゃんと聞けでらっての!!」

「Oh、なら返事してくれなきゃ。」

 

一瞬、どうして鞠莉ちゃんがここに居るのか分からなかったけど⋯そう言えば、隣の部屋に全員居るんだから当然か。

 

「穂乃果っ!また貴方はそんなに食べて!」

「だってみかん美味しいんだもんっ!」

「にこっちはいつまでも可愛いな〜。」

「あったりまえでしょ〜?この超銀河宇宙No.1アイドルのにこにーに、老いなんか無いっての。」

「⋯⋯ふっ。」

「なに笑ってんのよKKE(賢さの欠片も無いエリーチカ)。」

「そんなにこにーも『人妻にこ〜♪』ってね。」

「よーし、歯ァ食いしばんなさい酔っ払い。」

 

⋯⋯全員、ね。

嗚呼⋯未成年も居るのにあんなに酒瓶を転がしてしまって⋯人の事言えないか。

 

「折角だから皆で行っちゃいましょうよ!何かイベントとか開いて島を回ったりとか〜、チーム対抗戦みたいなのとか〜!!」

「楽しそうだけど⋯流石に僕らを入れて20人の予定をぴったり合わせるのは厳しいんじゃないかい?」

「心配無いわ。」

 

大盛り上がりのパーティールームから出てきたのは、後ろで結んでいるにも関わらず最早癖になった動きで髪の毛をクルクルしている、女医さんだった。

 

「西野先生⋯。」

「喧嘩売ってるの?」

「すみません。」

「心配無いってどういうこったい、マッキー。」

「元々、Aqoursの卒業旅行に私達がついて行くつもりは無いってことよ。マッキーって言わないで。」

「わりっす。」

「えっと⋯じゃあつまり、僕とヒロとAqoursの皆でって事になるのかな?」

「まぁ、そういう事ね。あの子達が誰か連れて行きたいって言うかもしれないけどその辺も問題無いし。」

「って言うと⋯?」

 

こちらの疑問に答える代わりに、彼女は1枚の紙を懐から取り出した。

大きく書かれていたのは、『南の島で遊ぼうっ!』と言うシンプルかつ分かりやすい文字。噛み砕いて説明すると、海辺のロッジで宿泊しながら様々なアクティビティを体験する企画案のようなものだった。うーん、実に魅力的である。

 

「このロッジ、元はウチの別荘だった場所を改良してあるのよ。15人くらいなら平気で泊まれるし、場所も不自由はしないと思うわ。」

「なるほどなぁ⋯。流石マッキーの所は何でもありというか⋯。」

「そんなのじゃないわよ。マッキーって言わないで。」

「わりっす。」

「でもいいのかい?そんなにまでして貰って⋯。」

「私なりの恩返しってとこよ。」

「えっ。何かしたっけ?」

「⋯充分すぎるほどにね。」

 

そう言って微笑む彼女は、いつだったか音楽室で見た幼げの残る表情では無く、素敵な女性の頬笑みを浮かべていた。成長というのは、つくづく早いものだ。色んな事を経験して、置いていかれないように必死になって走り続ければ、必然的に大人になるのかもしれないけど⋯一体どれほどの出来事を重ねれば、彼女の様に強くなれるのだろうか。

そんな彼女は、『どうするのか』と目で尋ねていた。なら、決まってる。

 

「それじゃあ、有難く受け取らせてもらうよ。ありがとね、真姫ちゃん。」

「⋯いつまでも子供じゃないんですけど?」

 

頭を撫でれば、どこか呆れたように、擽ったそうに笑う彼女。

そんな状況を前にして、我が友人は無謀にも口を開いたのだ。

 

「分かってねーな、ナツ君よ。」

「何がだよ?」

「もう子供じゃないって事は、そろそろ───。」

「大人になったらメスを振るって、君の頭の中をさばいてあげる♡」

「すんませんっした!!マジ、調子乗ってました!!」

 

ヒロ⋯土下座は見慣れたけど、マグロの兜を持ったままというのはどうだろうか。それと、もう少しにこちゃんの立場も考えてあげてくれ。好きなアイドルのライブに落選した時でも、あんな顔は見た事ない。

 

「まぁアクティビティは何も決まってないに等しいから、そこは任せるわ。意見があればこっちで取り入れておくし。」

「それなら心配ありまセーン!マリーにお任せよ!☆」

『⋯⋯⋯⋯。』

「マリーにっ!お任せよっ!!」

「聞けでらっての!!」

「あははっ⋯。」

 

いけないいけない、やはり彼女の事を忘れてしまっている。どうやら飲みすぎたようだ。ここらでお酒をセーブしておかないと、本当に記憶が無くなってしまう。

 

「どうするの?鞠莉ちゃん。」

「私が幾つかピックアップしておくわ。オハラグループとマッキーの全面協力なんて夢のようじゃない?♪」

「あぁ、そうだね。じゃあそれで行こうか。皆にも話を───。」

 

振り返り部屋に戻ろうとした時、ひしりと誰かが体に抱きついてきた。

 

「どうしたの?ことり。」

「⋯⋯⋯。」

「ことり?」

 

抱きついてきた彼女は何も言わない。ただ、抱きつく力を少し強めただけだ。

 

そして、部屋には1人の少女の叫びが木霊した。

 

「ナッツん、ことりちゃんを止めてぇえええっ!!」

「穂乃果?何の話───。」

「夏喜く〜ん♡」

 

⋯⋯Oops。

 

「えへへぇ⋯夏喜くんだぁ♡ぽかぽかして気持ちいいなぁ⋯♡」

「急にどうし⋯あぁ、お酒臭っ⋯。」

「臭くないもんっ!ことり酔っ払ってないもん!」

「誰ですか〜、飲めないチュンチュンにお酒ついだのは〜。」

「⋯こうなるとは思って無かったのよ。」

 

どうやら犯人は、一つ年上のロシアンクォーター先輩らしい。μ's元3年生と鞠莉ちゃん、真姫ちゃん、穂乃果は無事だとしても、それ以外のメンバーは皆ふにゃけた顔で倒れてしまっている。

 

分かっている。

きっとオヤツにされたのだろう。

 

ことりは元々飲めない体質では無い。けどこうして誰彼構わずオヤツにしたり、自覚してるのに大胆な行動に出てしまうのが自分でも恥ずかしいからと言って飲む量は抑えていたはずなんだ。

もうこの状態のことりを止められるのは、恐らく枕先輩だけだ。なら僕に出来る事は、彼女の言葉と『お願ぁい♡』を聞かないように立ち回る事だ。あれは喰らったらタダでは済まない彼女の必殺技⋯何度あれにやられた事か。

 

「あのね?Aqoursの子達は皆可愛いの!ぽかぽかでふわっとしててね?」

「そうだね。僕もそう思うよ。」

「でね?皆に『夏喜くんとこういう事しないの?』って聞いたらね、真っ赤になったの!」

「そうだね。僕もそう思うよ。」

「皆夏喜くんの事大好きなんだなぁって思ったらね、ちょっとヤキモチ妬いちゃったから⋯夏喜くんにぎゅってされに来たんだぁ♡」

「そうだね。僕もそう思うよ。」

「⋯夏喜くん、同じ事ばっかり。聞いてますか〜?」

「そうだね。僕もそう思うよ。」

 

無。無。無。今の僕は無だ。

そして穂乃果。ありがとう。さぁ、その手に持ったことり愛用の『眠れない夜もバッチリ、貴方の恋人ふわふわ低反発枕』をこっちに───。

 

「ちゅっ♡」

『っ!!///』

 

頬に柔らかいものが当たった。同時に、倒れていたAqoursメンバーが全員起き上がってしまった。

何より不味かったのは、動揺した穂乃果が枕を落としてしまったこと。

それが意味するのはつまり───死だ。

 

「夏喜くん⋯ことりの話、聞いて?」

「ふぅ〜〜〜〜〜⋯⋯よし。ごめん、ちゃんと聞くよ。」

「じゃあキスしよ?♡」

『ちょっ!?///』

 

何という爆弾発言。

普段こんな事は言わないし、お酒を飲んだとしてもここまで言われるのは初めてだ。

 

「どの流れで『じゃあ』が出てきたのかまるで分からないよ。一旦水飲んで落ち着こう、こと───。」

「お願ぁいっ♡」

「⋯⋯⋯ゲホッ。」

「ナッツーーーん!!!」

 

初めてだ⋯こんな至近距離で喰らったのは⋯。あぁ、駿河湾が輝いて見える。そうか、僕はここで死ぬのか⋯脳みそをぷわぷわにされて、彼女のオヤツとして生涯を終えてしまうんだな。

 

「いい加減にしなさい。やり過ぎだぞチュンチュン。」

「やぁっ!夏喜くんとちゅーする!」

「いつまで駄々こねてんのよ。枕持ってきたからそろそろ寝なさい。」

「新婚さんにはこの気持ちが分からないもん!」

「同じ気持ちの子達が向こうでヒヤヒヤしてんだから落ち着けって言ってんのよ、酔っ払い。」

「ほ〜れ、枕さんが待ってるぞ〜?ふかふかだぞ〜?あー、眠くなってきたから俺が寝ちゃおっかな〜?」

「ダメっ!ヒロくんに使われたらことりの枕が泣いちゃうから私が使うっ!」

「やべ、泣きそ。」

「これは⋯ことりの⋯⋯枕⋯だもん⋯⋯。」

「はぁ⋯生きてますか〜、夏喜く〜ん。」

「ぷわぷ⋯Wao⋯ガクッ。」

「ダメだこりゃ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

と、ここまでが出来事。つまり、これは彼女達の卒業旅行のようなもので、島に居るのはお酒のノリで決まったのだ。

⋯いいのか、これで。

 

因みにここに居ないメンバーは、山沿いにある小さな集落へと向かっている(はず)。海沿いと山沿い、2手に別れてスタンプを集めていこうという作戦なのだ。全部で何個あるかは、鞠莉ちゃんしか知らない。何でも全て集め終わると、小原家特性スタンプラリーカードが教えてくれるのだという。どういう技術だろうか。そして、何故このスタンプラリーに力を注いだのだろうか。

 

「夏喜、段差が───」

「あぶなっ!?」

「だから言ったではないですか。考え事も良いですが、あまり足元を疎かにしては⋯きゃっ!」

 

隣でつまづいている海未に手を貸し、自分の方へと引き寄せた。

 

「⋯足元を⋯何だっけ?奥さん。」

「な、なんでもないですっ!!///」

 

そっぽを向いてしまった。

海未は真面目なイメージがあるが、実は意外とおっちょこちょいである。そして大胆だ。だがそのおっちょこちょいで大胆な事すら真面目にやり切ろうとするから、関わりの浅い人からしたらボケなのか本気なのか分かりづらいと言われる事もある。

なんて事はない。彼女はいつだって全力投球なだけなんだよ。山登りとか⋯うっ、頭がっ!!

 

因みに僕がこうして『奥さん』と呼んでいるのにも、なんて事ない理由がある。

それは、Aqoursの保護者であると言うこと。勿論皆も高校卒業してるし、そんな小さな子供じゃないことは分かってるんだけど⋯。もう一方のチームで保護者をしているヒロとにこちゃんにそうしてやれと言われたのだ。

海未に穂乃果、ことりと真姫ちゃんがあみだくじをして決まった事らしいけど⋯何の事やら僕にはさっぱりです。教えてくれなかったし⋯。

 

『む〜⋯。』

 

おや。

おやおやおや。ちかなんの2人がおこじゃないか。拗ねてはいるものの、その目はさながら肉食動物のような───そう。獲物を目の前にした子供の虎の様な鋭くも可愛らしい眼光である。

因みに沼津コンビも呆れた目をしているじゃあないか。

 

「海未さんばっかりズルいぞー!」

「そーだそーだ!」

「な、何がですかっ!」

「千歌はまだしも、私だってナツにかまって欲しいぞー!」

「そーだそーだ!えっ、何で?」

「そんなつもりはありませんっ!」

「本当ですか〜?そのわりに嬉しそうですよ、お・く・さ・ん♪」

「なっ!?///」

「果南ちゃん、何で千歌はまだしもなの?」

 

やぁやぁ困った事になった。

果南ちゃんが、完全にからかいモードに入ってしまっている。本人には恥ずかしいから言ってないらしいけど、果南ちゃんにとっての海未はお姉さんの様な存在なのだとか。元々しっかり者の2人だし、果南ちゃんは後輩から頼られる存在である反面、ひょっとしたら誰かに甘えたり頼ったりしたかったのかもしれない。

そんな中現れた海未の存在は、彼女にとって大きなものだったのだろう。そして海未も、きっとそれを分かった上で付き合っているんだ。

 

「海未さんムッツリなとこあるもんね〜♪って、善子が言ってた。」

「はっ!?」

「ムッツ⋯!///いい加減にしなさい果南っ!善子っ!!///」

「照れた照れた〜!逃げるよ、2人共っ♪」

「待ちなさいっ!!」

「ねぇ!何で千歌はまだしもなのーーー!?果南ちゃーーーん!!」

「私何も言ってないじゃなーーーーーいっ!!」

 

⋯行ってしまった。

 

「あっはは⋯元気だね、4人とも⋯。」

 

ここに取り残されたのは、曜ちゃんと僕。それから謎の人物である。目の前に居る曜ちゃんは、少し前に比べたら大人びた印象を持っていた。浦の星女学院が統廃合化し、静真高校という沼津の高校で残りの学校生活を過ごしたらしい。

そんな彼女も、今では専門学生である。昔からお父さんの姿を見てきた彼女は、やはり船乗りの夢を捨てきれなかったようで⋯。水泳や飛び込みをを個人でやりながらも、海技士の資格を取る為に勉強を続ける毎日。

女の子でって言うのも珍しい気はするけど⋯きっと、彼女なら大丈夫だろう。

 

なんて、無責任すぎるかな?

 

因みに、彼女はモテモテだったらしいよ。曜ちゃんに限った事では無いが、スクールアイドル関係無しに皆の性格やその容姿に心奪われた男子は数知れずとの事(千歌ちゃん談である)。

だが皆が告白にOKした事は無いのだとか。

何でも昔から好きな男の子がいるのだとか。

しかもその子は皆からの気持ちに気づいてないのだとか。

 

あんなに素敵な子達の気持ちに気づかないとは、凄い男の子もいたものだね⋯。

 

まぁそれはさておき!遠くへ行ってしまう前に、僕らも3人を追いかけなきゃ。

 

「私達も行こっか、ナツ君♪」

「そうだね───うぉっ!?」

 

走り出した彼女の後を追いかけようとした時───後ろから手を掴まれ、近くの茂みへと連れ込まれてしまった。

 

「な、何!?何!?」

「しーーーっ。曜ちゃんに気付かれちゃうから。」

 

帽子を目深に被りサングラスをかけた人物は、人差し指を僕の口に当て、そう注意してきた。

 

「えっと⋯⋯?」

「⋯ほら、見てごらん?」

 

声からして女の子だろう。彼女が指さした先では、少し走ってからこちらへ戻ってきた曜ちゃんの姿があった。何やら不安そうな顔でキョロキョロしている。

 

「どうしたのかな?」

「勿論⋯貴方を探してるんだよ。島原 夏喜さん♪」

「えっ⋯じゃあ行かないと⋯。」

「まだです。」

「どうして?」

「だって───。」

 

頬に手を当て口を開いた彼女は、サングラスの奥で恍惚の笑みを浮かべていた。

 

 

「甘えられる人が居なくなってオロオロしてる可愛い曜ちゃんが見れないじゃないですか♡」

「えぇ⋯⋯。」

 

これは⋯事案かな?

 

「ナツ君⋯?ど、どこ行ったの⋯?」

「ほら!見て夏喜さん!あの困った顔!あの狼狽えた姿!普段の元気一杯、全速前進ヨーソロー少女からは想像出来ない弱々しさ!可愛いよねぇ⋯♡」

「可愛いけど、流石に可哀想な気が⋯うわっ!」

 

こちらの言葉など聞く耳持たず、彼女は草むらの中で押し倒してきた。

 

「夏喜さん⋯もし、ここで音を立てて今の状況を曜ちゃんに見られたら⋯どうなるかな♪」

「いやいやいやいやいやいや。と言うより、何で僕の名前を知ってるのさ!」

「あぁ、すみません。僕は───。」

 

その時だった。横の草むらが大きく動いたのは。

 

『あ。』

「何⋯してるの⋯。」

「いや、あの⋯不可抗力と言いますか⋯。」

「やぁ、曜ちゃん。バレちゃった?♪」

 

ケロッとした顔で笑う彼女の帽子を剥ぎ取った曜ちゃん。帽子の中から現れた黒いショートヘアーは曜ちゃんのように毛先が遊んだりしておらず、真っ直ぐ首元まで伸びている。タイプは全然違えど全体的には曜ちゃんに近いイメージの女の子だったらしい。

そしてそんな子を目の前に、曜ちゃんは大きく雄叫びを上げるのだった。

 

「月ちゃんのバカーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

「いや〜ごめんね曜ちゃん!曜ちゃんが余りにも可愛いからついね、つい♪」

「やって良い事と悪い事ぐらいあるじゃん!ばかっ!」

「今の『ばかっ!』ってやつ、もう1回貰っていい?」

「ばかっ!!じゃなくてっ、何考えてんのさ!///」

 

はい、夏喜です。

置いてきぼりです。

 

「自分でナツ君に挨拶するから内緒にしておいてって皆に言ってたと思ったら⋯本当に何してるの⋯。」

「やだなぁ曜ちゃんってば。僕もちゃんと挨拶するつもりだったんだよ?でもほら、曜ちゃんがようやく夏喜さんと2人きりになったからさ。今しか無いなって思って♪」

「えっと⋯話の途中でごめんね、曜ちゃん。この子は?」

 

心底疲れ切った顔で、彼女はゆっくりと僕の方を振り返った。

 

「⋯⋯従姉妹の渡辺 月ちゃん。」

「初めまして、夏喜さん。静真高校元生徒会長の、渡辺 月です。」

「えっ⋯えぇぇええええええっ!?!?」

「お〜⋯ナイスリアクションですね!」

 

そりゃ誰だって驚くだろう。あの加虐心たっぷりな行動を連発してくれた子が生徒会長と言われたら。ダイヤちゃんとも絵里ちゃんとも違うタイプの子だし、もっとこう⋯なんか、こう⋯ね?

 

「因みに曜ちゃん大好きなので。曜ちゃん一筋。待ち受けは曜ちゃんの恥ずかしい写真にしてるよ♡」

「良いよ言わなくて⋯。」

「これなんだけど───」

「今すぐ消してっ!!///」

 

月ちゃんが見せようとしたスマホは、曜ちゃんに取り上げられてしまった。実は少し気になってるけど、流石にプライバシーがあるから詮索はやめておこう。

 

「あー⋯折角のキスショットが⋯。」

「何でこんなの持ってるのさ!?///」

「え?だって夏喜さんも来るって聞いてたし、千歌ちゃんが送ってくれたから使わなきゃ勿体ないよ♪」

「ぐぬぬぬぬ⋯///」

「相変わらず千歌ちゃんと夏喜さんには弱いねぇ⋯。」

「うるさいうるさーいっ!!///月ちゃんのばかっ!えっと⋯ばかっ!!///」

「必死になるとボキャ貧になる所も可愛いね、曜ちゃんは♡」

「うわーーーーーーーんっ!!///」

 

⋯行ってしまった。

どうすればいいんだ、この状況。あの⋯えぇ⋯⋯?

 

「じゃあ僕達も行こっか、夏喜さん。」

「あっ、うん⋯そうだね⋯。取り敢えずよろしく、月ちゃん。」

「はい、こちらこそ♪」

 

曜ちゃんの従姉妹、渡辺 月ちゃん。知り合ったばかりで分からない所が多いけれど、一つだけ確かなことがある。

 

 

「ふふっ⋯次はどうやって曜ちゃんを恥ずかしがらせようかな〜♡」

 

 

彼女は、(曜ちゃんにだけ)ドSであるという事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさっきの待ち受けって⋯?」

「寝てる誰かさんのほっぺたにちゅーしてるとこだよ〜♡」

「⋯お父さんとか?」

「さぁね♪」




皆さん、こんにチカ。なちょすです。
島巡りとか言って、殆ど導入で終わりましたね。
ウケる。
月ちゃん、ぶっ飛んでますね。
ウケる。
さて⋯この作品を読んで下さっている皆様に少々お話がございます。

なちょすこと私⋯どうやら体調を崩したようです。

風邪だー、熱だー、インフルだー、胃腸炎だーならまだ良いものの、そうもいかず⋯。ちょっと汚いですが、かれこれ1週間以上お腹の張りや腹痛、血の混じった便が続いている状態で、大分グロッキーになっております。そりゃね⋯飯も食えず眠れもしなかったらグロッキーになりますね⋯。
いよいよGo to hospitalの可能性もある為に、少しだけ投稿が遅くなるかもしれないということを伝えたかったわけであります。普段から遅いですけど。
まぁ⋯大丈夫、じゃないですかね。笑
何だかんだ、頑丈ですし。お寿司。

では次回、(2/3)をご期待くださーい!!

⋯⋯さ、お医者さん行こ。

※アンケート投票は、2020/03/20〆切とします。

最終話の1個前、何を期待しますか?

  • μ's妹勢+サブキャラとの絡み
  • ヒロにこの馴れ初め+Aqours
  • 理亜ちゃんとのまさかのイチャコラ
  • 作者が1から考えるヤンデレもどき
  • 最終話に繋がる何か

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