ちょっと田舎で暮らしませんか?   作:なちょす

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私には大切な友達が居た。

子供の頃から一緒だったその子達と、ナツと私。好きだって言う気持ちを伝えたくて、触れていたくて⋯やって来た海とひと夏の船の上。
昔見たあの光景を君と見たくて。
いつか願った想いを確かめたくて。

夢なんかじゃない。
確かにそこにあった、私達だけの時間。



IF:星屑の行進曲(果南√)

身体を包む温かさ。

私はこの温かさが好きだった。

 

海の中はキラキラして、彩り豊かで、魚達が沢山居て⋯そういうのも綺麗だし好きだけれど、私は本当の海が好きだったんだ。ほんの少し沖に出ると、そこはもう別の世界。海底の見えない暗い世界と、場所によっては複雑に入り組んだ海流。勿論危険な事も沢山あるから1人じゃ来ないし、今だって近くに船も止めてる。

 

それでもこうしてここに来るのには勿論理由があって。

 

「────。」

 

海中で目を瞑っていた私の背中や腕に、優しく擦り寄ってくる3匹のイルカ。

この子達は、大切な友達。

 

ぐるぐる回って、擦り寄って、小さな時からまるで家族のように過ごしてきた子達だ。上手く言葉に出来ないけれど、とにかくそんな大切な存在⋯嬉しい事があれば祝福してくれるかのように泳ぎ回る。嫌な事があったらそっと寄り添ってくれる。きっと、人よりも人の気持ちを汲み取るのが上手いのかもしれない。そうやってこの子達に支えられてきて、今も助けて貰っているんだ。本当はこの子達の為に何かしてあげたいけれど───『必要以上に自然には干渉しない。』

爺ちゃんから私までずっと受け継がれてきた家の家訓があるし、私もそれには肯定意見だから⋯。

 

不意に、ホイッスルの音が遠く聞こえてきた。酸素ボンベの残量も気が付けば残りわずか。そっとイルカ達の頭を撫でて、私は自分がやって来た船に戻る事にした。

 

「おかえり、果南ちゃん。」

「ん⋯ただいま。」

 

船のハシゴを登っていると、水族館のトレーナーみたいに首からホイッスルをぶら下げたナツが声を掛けてくれた。「引っ張るよ」とでも言うかのように差し伸ばしてくれた手を取り、船に上がろうとする。

 

「おもっ⋯!」

「っ⋯なに〜?///」

「あっ、ちが、違います!酸素ボンベ背負ってるから想像以上だったなって事であって、決して果南ちゃんがどうという事じゃ───!」

 

必死に言葉を続けて弁明するナツ。お構い無しに私は、彼を海へと突き落とした。だってライフジャケット着てるし。命綱も気休め程度に結んでるし。

 

「果南ちゃ〜ん⋯ごめんよ〜⋯。」

「つーん。」

「機嫌直してくれよ〜⋯あっ、ひんやりして気持ちいい。Heyそこの彼女、海に入らない?♪」

「ふふっ⋯どこから上がったと思ってるのさ。」

「ごもっとも。」

 

ヘラヘラとした笑いのまま、ちゃぷちゃぷと泳ぐナツの姿は、何処か大型犬の様にも見えた。ちゃんとナツを回収した後は、一旦船の上で休憩をすることに。水の中に入った後は、自分でも気付かないほどに体力を使っていたり喉が渇いていたりするからね。ペットボトルを取り出そうとクーラーボックスを開けた私は、そこでようやく自分がやらかしてしまった事を目の当たりにした。

 

「あっちゃー⋯そう言えば飲み切ってたなぁ。」

 

今日は日差しも強かったけど、元々はそこまで長居するつもりも無かったから、朝のランニングで飲んだやつをそのまま持ってきてたんだ。さてどうしよう?

 

「ん。」

「ん?」

「飲んでいいよ?僕の。」

 

顔の横からそう言って渡されたナツのスポーツドリンク。ナツは大丈夫なのかと聞こうとしたけど、この人は言いたいことが全部顔に出るから恐らく本当に大丈夫なんだろう。だけど1つ⋯お礼を言って受け取り蓋を開け、口に付ける寸前に気が付いた。

 

これ⋯か、関節キス?

 

重大事実発覚。

鞠莉とダイヤに足りないと常日頃言われてる私の頭だったけど気付けたもんね。えっへん。

じゃなくって!!

ど、どうしよう⋯いや何も知らない感じで貰っちゃったから飲むしかないんだけどさ⋯///てか、何でそんなマジマジと見てくるのさナツの馬鹿っ!///

 

「どうかしたかい?」

「ゔっ⋯な、なんでもないっ!!///」

 

勢いのままに赴くままに。

口を付けて飲んだは良いものの、ゴクリと喉がなる度顔が熱くなっていく。熱湯を汲んだポンプが、私の顔に熱を循環させていくみたいに⋯きっと私は今真っ赤なんだろう。

 

「⋯果南ちゃんってさ。」

「んむ?」

「関節キスとか気にしないんだね。」

「ぶっ!!///」

 

本当に⋯ホンッッッットにデリカシーのデの字も無い!///

手でゴシゴシと口を拭って軽く睨みつけると、デリカシーの無い男はまたいつもの様にヘラヘラと笑っていた⋯⋯ムカつく。

 

「あーっ!あーーっ!!ごめん果南ちゃんっ!!謝るから落とそうとしないでっ!!」

「うるっさいっ!///もう1回落ちてくればいいんだバカッ!!///」

 

そんなやり取りを、何処か不思議そうに私の友人達は水面から覗いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

星は、願いを蓄える。

 

いつの日か、祖父から言われた事だ。真っ暗な頭上に広がる幾つもの光は、それだけ人の願いが込められた物だと教えられた。流れ星が落ちるのは、誰かの叶った願い事が新しい願い事に生まれ変わるからなのだとも。今も昔も、私の祖父はそういう所でロマンチストだったりする。

 

この歳になってそんな事は無いでしょって私も思うけれど、子供の頃はそれを本気で信じていたし今だって時間が空けば天体観測もしてたりする位には影響を受けている。けど、その中でずっと気になっていた事があったんだ。

 

叶った誰かの願いは、どこへ落ちていくんだろうって⋯。

 

昔、それも祖父に聞いては見たけれど、「探してみな」の一点張り。あぁ、知らないんだって思ったりもしたっけ。どうしても気になって、千歌や曜、ダイヤに鞠莉にナツと、誰かと遊ぶ度に夕方よく砂浜を探し歩いたりもして⋯。どうしてだろ⋯その時の私は、何処かそういう不思議な、形の無いキラキラしたものを見つけたかったんだ。小学生の頃だったかな?まだナツが引っ越す前で家に泊まりに来ていた時、私達は夜の桟橋で夜風を浴びていた。2人でなんてことない話もして⋯確か、雲一つ無くて月がよく見えていたと思う。普段は昼間にしか遊びに来なかったイルカ達が浅瀬にやって来て、鳴いたんだ。

 

───エコーロケーション。

 

父さんから教わったイルカの鳴き声で、反響定位?って言うらしい。なんだか難しい話をたくさんされたけど、簡単に言えば超音波を飛ばして物までの距離や形の認識をするんだとか。どうしてこのタイミングで鳴いたのか、私とナツの頭には?がたくさん並んでいて、子供ながらに色々な理由を考えていたりもしたけれど⋯一際大きな声でイルカが鳴いた時、星が落ちた。

 

一つ、二つ。

一瞬だったけれど、頭にいつまでも焼き付く光景だった。ふと、足元に目をやるとイルカ達は嘘みたいに居なくなってて、夢を見ていたのかなって2人で笑って話をした。

 

でもそんな時、海の中がキラキラと光って見えたんだ。ううん⋯多分、本当に光っていたんだと思う。その時ようやく分かった。

落ちていった誰かの願いが、どこへ行くのか。

どこへ帰っていくのか。

 

 

 

だから私はお願いしたんだ。

 

これから先、ずっとこの人の隣でこの景色を見れますようにって。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウミネコが陽気に歌っている。昼が回って私達は、2人大の字になって空を仰ぎ見ていた。幾度目かの休日。幾度目かの船の上。天気の良い日にこうして寝そべるのは、ナツが大好きなことの一つだ。私が彼を誘うのは決まって雲一つない快晴の日で、そんな日を何度過ごしてきただろう。普段過ごしているとき。一緒に居る時は、変に緊張して中々うまく話せなかったりしてしまうけれど⋯こうしている間だけは、何も考えずに過ごす事が出来る。だからこの時間は私にとっても大切なもので。

 

「ナツー、これからどうしよっか?」

 

何気なく話しかけてみたが、彼からの返事は無かった。ひょこっと顔を覗き込めば、すっかり夢の世界へ落ちていて⋯何とも子供らしい表情で眠っていた。

少し胸が痛んだ。自分がこの人に対しての気持ちを知った時、たびたび襲われている痛み。そんなこちらの気持ちなどお構いなく、なんて穏やかな顔で寝ているんだろうと思った時⋯ちょっとしたイタズラごころが芽生えてた。

 

「おーい⋯。」

「⋯⋯⋯。」

「ふふっ⋯やわっこいほっぺだね⋯⋯つん。」

「むにゃ⋯。」

「⋯⋯///」

 

こういうふっとした時、現実に引き戻されるのは何でだろう。お陰様で気恥ずかしさだけが残ったんだけど⋯///

あーもういい、寝よっ!

 

またナツと向き合うように仰向けになった私は、無意識に左手を顔の横に置いた。

その時、指が何かに触れるのを感じた私はまるで魔法にでもかけられたかのように動けなくなった。だって⋯今触れたのは間違いなくこの人の指で。

その指が、私の指先をきゅっと掴んできたから。

 

寝ぼけてるのか起きてるのか、赤ちゃんがお母さんの指をつかむように優しく握られたその状況に声を出せる筈も無く⋯結局、ナツが起きるまでそのまま悶々と過ごすことになってしまった。

 

そこから一時間後、ようやく起きてくれたナツは何事も無かったかのように伸びをして「そろそろ帰ろうか」、なんて言って⋯私は帰る前にもう一回だけ、ナツを海に落とした。1時間も身動き出来なかったんだから許してね?

船着き場に停泊する頃にはすっかり日が傾き始めていて、荷物を下ろしたり片付けてシャワーを浴びる頃にはすっかり夜の帳は降りてしまっていた。元々今日はナツが泊まる予定だったし何の問題は無いんだけど⋯指の感触がいつまでも離れなくて、気持ちはどこか落ちつかないままだった。

 

「風、浴びに行かないかい?」

 

ナツがそう言ったのは22:00を回ったころだった。明日も休みだし、やることと言えば日課のランニングくらいだったから私は頷いて、一緒に桟橋へと向かうことにした。

 

今日は雲一つ無い快晴。水平線の向こうで登り切った満月が海に反射して⋯洗面台の鏡で顔を覗き込んでいるみたいだった。心の中に留めて置こうとしていた言葉だったけれど、口に出ていたみたいでナツに笑われてしまった。「じゃあ果南ちゃんの顔はお月さまだ」って、いつも通りの軽口が返って来て、私もそれに反応して言葉を返して⋯何でもない会話なのに、とても楽しかった。ここに居るのは、私とナツだけで。それを星空が上から見下ろしていて。

好きなものに囲まれて過ごす穏やかな時間は、さっきまでのそわそわした気持ちが嘘のようだった。

 

「ん⋯果南ちゃん、あれ⋯。」

「何?あっ⋯。」

 

会話の最中、ナツが何かに気づいたようで、海の方へと指を向けた。彼が見ている視線の先。ちゃぷちゃぷとした音と一緒に、私の友達がやって来た。

 

「こんな浅場に来るなんて⋯なんかあったのかな。」

「⋯⋯⋯。」

「ナツ?」

 

ほんの少し考えこんだナツは何かに気づいたように笑い、家の方へと駆けだして行った。彼が次に帰って来た時、その手には2つのシュノーケリングマスクがしっかりと掴まれていた。

 

「ねぇ果南ちゃん、この辺の水深って確か首ぐらいまでの深さだったよね?」

「そうだけど⋯潜るの?夜は危ないよ?」

「まぁまぁ。もう少し待ってから、ね?」

 

ニコニコと笑みを絶やさないナツだったけど、イルカ達が泳ぎを止めた時、ようやくその意味が分かった。

 

『───────。』

 

高い音が夜の海に響き渡った。

 

「これ⋯エコーロケーション⋯!」

「行こう、果南ちゃん!今度はしっかり、僕らも混ざらなくちゃっ!」

 

無邪気に笑うナツが、マスクを差し出して来た。頷いてマスクを着けるや否や、ナツは途端にお姫様抱っこをしてきた。

 

「ちょ、ちょっとナツっ!?///」

「ん?」

「自分でいけるから良いって!///大体、私重いでしょっ!///」

「あっはは!僕は言ったよ?あれは酸素ボンベのせいだって!さぁ⋯⋯飛びこめぇ!!」

 

ナツが見ていたかは分からない。

彼が桟橋から飛び跳ねた直後───。

 

 

「⋯⋯あっ。」

 

 

流れ星が、2つ落ちた。

 

大きな水飛沫とともに視界がその景色を変える。

耳から聞こえる音が、ゴボゴボとした泡の様な音に変わる。

 

 

ゆっくり眼を開いた私の視界に広がったのは、あの日、桟橋の上からしか見れなかった光景。

私が焦がれていた世界だった。

 

 

手が繋がれ、ナツがこちらを振り向きながら前方を指さす。3匹のイルカ達が楽しそうに透明な青の世界を飛び回り、水流に乗った光の粒がキラキラと舞っている。その光景から目が離せなかった。夢を見ているようだと思ったあの日も、きっとこうして海の中では輝いていたのだろう。ナツはそれを知っていた。というより、覚えていたんだ。

ほんの少しだけ浅い場所に来た私達は、息継ぎも兼ねて立ち上がった。けど何よりその光景に魅せられ舞い上がっていた私は、マスクをはぎ取るようにして声を出した。

 

「ナツ!見た!?見たっ!?」

「あぁ!とっても綺麗だった!」

「間近で見るとあんな風に⋯あぁーもう泣きそう⋯!」

 

目元が熱くなるのを感じながらふとナツの方を見ると、彼は優しく微笑みながら私の方を見ていた。月の光に照らされるいつもとは違う表情に、言葉を失ってしまう。

 

「僕は、願ったんだ。」

 

独り言を呟くように、静かにナツは呟いた。

 

「あの日見た輝きはとても綺麗だったけれど、どうしてか足りなかった。ほんの少しだけ足りなかったんだ。それが悔しくて、また機会があるなら⋯今度はちゃんと、近い所で⋯果南ちゃんと一緒に見たいって。願いが叶って良かった!」

 

胸の奥がきゅっと掴まれる感覚。痛みとはまた違う、言葉にするのが難しい気持ちが私のなかを埋め尽くしていく。ナツは⋯ナツも、願ってくれていた。一緒にまた見たいって。その言葉が、何よりも嬉しかった。その言葉が、私にナツの手を掴ませた。

 

「私も⋯お願いしたんだ。どれだけかかってもいい⋯あの日見た輝きをナツと見ていたい、これから先もずっとって見ていきたいって⋯ナツ。」

 

顔を上げ、目を見て、優しく笑ってくれる彼に向けて、私は言った。

 

 

「好き、だよ⋯。」

 

 

何て言われるか分からなかった。

怖くて言う事が出来なかった私の気持ちは驚くほど簡単に喉を通り、止まない波音にかき消されるんじゃないかってくらい小さな声だったけれど。

濡れたTシャツの上からでも分かる暖かな体温が私を包んでくれた。

 

「⋯ありがとう。それじゃあ、これからも一緒に、隣に居てくれるかな?」

「え?それって───」

 

唇に、優しい感触が伝わった。

きゅっとナツの服を掴んでしまったけれど、すぐに背中へと手を回した。

 

多分、そんなに長くは無かったとは思う。2人ともそんなに余裕が無かったし、何より足元をぐるぐる回っている私の友達が落ち着き無かったから。

 

「あはは⋯ゆっくりさせてくれないみたいだね。」

「ふふっ⋯だね?」

「よーし、ならこの子達が戻るまでは目一杯楽しんじゃおうっ!せーのっ!!」

 

ポケットからホイッスルを取り出したナツは、力いっぱい笛を吹いた。3匹のイルカが水面から飛び出し、月明かりを浴びた水飛沫はその輝きを一層増している。

 

それから私達は、あの子達とたくさん遊んだ。一緒に泳いで、じゃれついて、芸もしたりして。

 

あの日私達が見た光は、誰かの願いが海に還ったものだったのかもしれない。

けれど、今こうして私達を包む輝きは、きっとこの子達が運んできてくれた私達の願いなのだろう。

 

いつまでも、こんな時間が続いていけばいい⋯ううん。

今度は願いじゃなくて、私達の意思で続けていきたい。

 

 

 

繋いだ掌は、暖かく輝いていた。

 

 

 

 

 

 

─C√ End.─

 

 




皆さん、こんにチカ。あ、これ久しぶり⋯。
投稿が遅くなりました、なちょすと申します。

仕事とプライベートで沢山の出来事がありました。別に良いかなって事と何もかも投げ出したくなるほど嫌な事や分からない事⋯はぁ⋯⋯。
取り敢えず、何とか頑張っていこうと思います。

次回、鞠莉編。

あなたも、ちょっと田舎で暮らしませんか?


P.S.グラブル海未ちゃん見ました?ハレンチが過ぎてすこすこのスコティッシュフォールドです。

※アンケート投票は、2020/03/20〆切とします。

最終話の1個前、何を期待しますか?

  • μ's妹勢+サブキャラとの絡み
  • ヒロにこの馴れ初め+Aqours
  • 理亜ちゃんとのまさかのイチャコラ
  • 作者が1から考えるヤンデレもどき
  • 最終話に繋がる何か

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