絶賛コラボ中の、なちょすです。
函館ライブの当落どうでしたか?
なちょすは破滅です。うん⋯知ってました。
誤字脱字があったら教えて頂けたらありがたいです。
それではコラボ短編最終話、どうぞ!
梨子ちゃんにゾッとさせられてから部屋の片付けを始めて1時間、あらかた荷物の整理はついてきた。
すると玄関のインターホンが鳴って尋ね人が1人⋯初日に曜ちゃんを睨んでいた堕天使だ。
「ナツキー、いるー?」
「あぁ、いらっしゃい善⋯ヨハネちゃん。」
「ヨハネ?こりゃまた凄い名前だな。」
「当然でしょ?私は堕天使ヨハネ。それ以上でも以下でも無い、唯一絶対の存在なのだから⋯。で、どちら様?」
「あぁ、僕の友達だよ。章って言うんだ。」
「初めましてヨハネちゃん。」
「あ、どうも初めまして。」
こういう所はすっごい礼儀正しいんだけどなぁ⋯。
ちょっと不機嫌な顔をしてるってことは、多分この状況を快く思ってないのだろう。
「今日はどうしたの?」
「用がなきゃ来ちゃいけない?やましい事でもあんの?」
「いや⋯何にもないです。」
鋭い目つきで睨まれる。
うん、触らぬ堕天使に祟りなし。
「片付けしてるって聞いたけどもう終わってるわね。」
「あぁ、なんとかね。」
「俺は後帰るだけだからさ、ゆっくりしていったらいいんじゃない?」
「⋯ナツキはいいの?」
「うん、良いよ。」
「それじゃあ一旦帰るわ。『何かあったら連絡』、宜しくな。」
それだけ言い残して、章は帰っていった。
出来ることなら連絡するのは最後の手段として取っておきたい。果南ちゃんに使った手でもあるし、今後怪しまれない保証は無い。
今部屋には僕と善子ちゃんの2人⋯他に誰か来るかも知れないけど、これなら持ちこたえられる。
「最近調子はどうだい?」
「ん、まぁボチボチね。アンタは疲れてんの?」
「そんな顔してるかい?」
「そうね。」
「それは元々だよ。」
「ふふっ、何それ。」
「⋯ヨハネちゃんはさ⋯僕が帰ってきてどう?」
何故そんなことを聞いたのか、自分でも分からない。
「どうって⋯何がよ?」
「いや、その⋯ビックリしたーとか、嬉しかったー⋯とか?」
「まぁ⋯曜と居る時は頭に来てたけど、正直な所嬉しかったわよ。今だって若干緊張してるもの。」
「そうなの?凄い淡々としてるからそうでもないのかなって思ってた。」
「じゃあ教えてあげるわ。」
そう言って彼女は僕の手を掴み、自分の胸へと持っていった。
「ちょちょちょ!何を⋯。」
「流石にアンタでも触ったら分かるでしょ?柄にも無く結構ヤバイんだから⋯///」
善子ちゃんの胸からは、絶えず心臓の鼓動が伝わってくる。走った後のような⋯緊張してるかのような速い鼓動。
それだけで全てが繋がる。
彼女が曜ちゃんに睨みをきかせた理由も、ここに来て最初不機嫌そうな顔をしていたのも。
自分と僕の間にある全てが⋯誰もが⋯うっとおしい。
「ちょっと⋯いつまで触ってんのよ///」
「え?あ!ご、ごめん!!」
気づいた時には彼女は僕の手を離していたから僕がずっと触っている形になってしまっていた。
「⋯別に良いけど///」
「まさか手を離してたとは⋯。」
途端に携帯の着信音が鳴り響く。
電話の相手は、登録してない番号。
ここに来てから、家に来た子だったりメッセージで教えてもらった分は登録した。
ただ1人を除いて。
「出るの?」
「えっと⋯かかってきてるから取り敢えず出ようかなと⋯。」
「それ、千歌の番号よね。目の前に私がいるのに千歌なんかのがいいわけ?」
「そういうわけじゃないよ⋯。」
さっきよりも明らかに強い怒りの眼差し。
この子の沸点は、僕の予想よりも遥かに低いみたいだ。
「帰ってきて番号登録もしてないくらい会話もしてないなら良いじゃない。私を⋯私だけを見てよ、ナツキ。」
そう言って目に涙を浮かべる彼女の顔に惹き付けられてしまう。
どれだけそうしていたか分からない⋯いつの間にか、着信は止まっていた。
何をしたらいいかも分からず、どんな言葉をかければいいのかも分からず⋯ただ目の前のこの子の頭を撫でてやることしか出来なかった。
涙を浮かべたこの子の顔は、光を失った堕天使ヨハネでは無く津島 善子という女の子だったから。
「⋯ん。アンタの手、擽ったいわね。」
「そうかい?」
「でも、これが落ち着くわ⋯。」
「⋯そりゃ良かったよ。」
僕は、電話をかけてきた少女を無視して目の前の少女の為に行動した。
『してしまった』。
千歌ちゃんにも今日中に話をしに行かないといけない。
「あ〜⋯ヨハネちゃん。もう少しこうしていたいのは山々なんだけどさ、そろそろ買い物に行かなくちゃ。」
「そうなの?なら私も行くわ。」
「はは、ありがとう。でもそんな大したことじゃないし、章の家にお土産も持っていかないといけないからさ。それだと暇だし面白くないでしょ??」
「ん⋯まぁ⋯。」
「それにひょっとしたら夜も遅くなっちゃうからさ、また遊びに来てくれたら嬉しいな。」
「⋯ナツキが言うんだったら⋯そうする。」
ヤンデレ化して人格は変わっていても本質は変わっていない。
この子は本当に善い子だと思う。
「じゃあ途中まで一緒に行こうか。それなら大丈夫じゃない?」
「うん、そうする。」
素敵な笑顔の彼女。
その目は、再び光を失っていた。
◇
「ふー⋯なんとかここまで来れたな。」
あれから善子ちゃんを途中のバス停まで送ろうとしたが、今日は梨子ちゃんの家に行くということで近くで別れた。途中で視線を感じたが、気のせいだと信じたい。
「あら、夏喜さんじゃないですか♪」
「⋯はは。ダイヤちゃん、こんにちは。」
この2日間、こんなに誰かに会うのは初めてだ。素直に喜びたいけど、この状況じゃ厳しいかな。
「どうされたんですの?」
「ちょっと買い物をしに行こうかとね。じゃなきゃ僕の夕飯はカップラーメンになってしまうから。」
「あらあら、大変ですわね⋯。なんだったら私が作りに行きましょうか?」
「いや、それは君も大変だし気持ちだけ頂いておくよ。」
「ならお買い物のお手伝いなどは⋯。」
「うーん⋯大したもの買わないし大丈夫かな。ありがとう。」
「で、でしたら家に来るというのはどうでしょう!それでしたら全然構いませんし、両親も喜びますわ!!」
「はは、いきなり行ったら流石に大変だろうしね⋯時間がある時にお邪魔するよ。」
すると彼女は、終始崩さなかった笑顔を初めて崩した。
泣きそうな⋯まるで好きなものを全部取られてしまった子供のように。
「私は⋯必要の無い存在ですか?」
「え?」
「私は⋯!あなたにとって全く必要とされてない人間なのですか!?」
「ちょ、ダイヤちゃん?」
「夏喜さん⋯貴方は私が居ないとダメなのですわ。私は貴方が戻ってきた時の為に家事も勉強も全力でやってきました!私の存在は貴方の為にあるんですのよ?それで必要無いと言われたら、私は何の為に生きてるんですか!?」
「落ち着いて!」
言ってる事が滅茶苦茶だ⋯!
僕が彼女無しでは生きられないと言いながら、これじゃあまるで『彼女が僕無しでは生きられない』って言ってるのと同じじゃないか⋯。
「分かったから!僕が悪かったよ⋯それじゃあちょっとだけ手伝ってくれるかい?」
「⋯!勿論ですわ!」
いつものニコニコとした笑顔に戻る彼女。
間違いない。この子は僕に依存している。
朝ルビィちゃんと僕の3人で居た時にずっと笑っていたのは、僕に手伝いをお願いされたから。
自分に『価値』を見出されたからだ。
ヤンデレって、こんなに色んなパターンになるんだなぁ⋯今なら論文に纏めて発表できそうな気すらしてくるよ。
「夏喜さん?私は何をすれば?」
「え?あぁ、ごめん。ちょっと買い物を手伝って欲しいんだ。友達に買っていくおみやげをね。そしたらそいつがいる所教えるからさ、僕の代わりに届けてくれるかい?」
「お安い御用ですわ。」
章は明日には東京へ帰る。ならこれから被害にあうことは無いはずだ。一応あいつにも連絡しておこう。
「それじゃ、行こっか。」
「はい!」
暫くしてダイヤちゃんと買い物をして、章のお世話になっている家を教えた。
結構歩いちゃったからなぁ⋯もうすっかり夕方になってしまった。
これからもうひと仕事待ってる。ずっと会いに行けてなかった少女の元へ。
携帯に着信がかかる。相手は非登録の番号。
⋯彼女だ。
「はい、もしもし。」
『あ、ナツ君⋯。久しぶり。』
「うん、久しぶり千歌ちゃん。」
初日に再会した時よりも、声に元気は無い。
「ごめんね、なかなか話したりする機会がなくて⋯。」
『いいのいいの。ナツ君いつもの事だし、私も会いに行けなかったから⋯。それでね?今日家に誰も居ないからちょっとお願いがあるんだ。』
「僕に出来ることなら何でもいいよ?」
『そっか⋯ねぇ、ナツ君なら私を助けてくれる?』
「え?」
『私⋯ナツ君と再会してから、ナツ君に会いたかった。声を聞きたかった。でも出来なかったの。そしたらね⋯頭の中で声が聞こえるんだ⋯ずっと、ずっと⋯煩くて聞きたくないのにどうやっても響いてきて、頭が痛いの。』
「ち、千歌ちゃん⋯?」
『ねぇナツ君⋯お願い。私を殺して。』
「⋯は?」
殺して⋯?今、そう言ったのか?
『お願いナツ君。ナツ君がやってくれないなら⋯私は自分で終わらせるよ。』
「今行くから絶対ダメだ!待っててくれ!!」
電話を切り、全速力で駆け出した。
彼女の家へ。彼女の元へ。
僕は大きなミスを犯した。章から話を聞いた時に気付けば良かったんだ⋯!
他の子達は、皆独占欲が強くて周りを目の敵にしていた。それはAqoursメンバーだって例外じゃない。
なのに千歌ちゃんは、一度も自分から来なかった。電話は掛けてきても、会いに来たり街中で出会うことも無かった。
向こうから来ないから大丈夫なんて思ってたさっきまでの自分が憎い。
千歌ちゃんの心は、もう⋯壊れている⋯!
「早まるな⋯千歌ちゃん!」
幸い彼女の家へ向かう途中だったから、それほど時間はかからなかった。
家の前には、彼女の家で飼っている愛犬のしいたけが玄関前で座っていた。
「わうっ!!」
「⋯案内、してくれるのかい?」
しいたけは家の中に入り器用に階段を登っていく。
僕はその後を黙って付いていき、やがて突き当たりの部屋の前に来た。
「ありがとうしいたけ。」
中に彼女が居る。
ずっと想いを溜め込んで、1人で塞ぎ込んでしまったか弱い少女。
ノックをして扉を開ける。
「千歌ちゃん。入る⋯よ⋯。」
「⋯ありがとうナツ君。やっぱり、来てくれるって信じてた。」
覚悟はしてきた。
現実を見て、僕が変えてしまった彼女達と向き合おうと思った。
けど目の前の光景は、そんなちっぽけな覚悟じゃ足りない事を表している。
大暴れしたかのような、物が散乱した部屋。
髪を下ろして着ている服も乱れてしまっている彼女。
もう何度見たか分からない、光を失った瞳。
その目元には深い隈が出来ている。
「千歌ちゃん⋯。」
「えっへへ⋯汚くてごめんね。煩いんだ、声が。今もずーっと聞こえてる。騒いでる。私がダメな子だって皆で言うんだよ。ねぇナツ君⋯隣、来て?」
「⋯あぁ。」
呼ばれるがままに彼女の隣へ座る。
すると彼女は、ポツリポツリと、絞り出すように言葉を吐いた。
「皆、変わっちゃった⋯。ナツ君が居なくなってから⋯曜ちゃんも、果南ちゃんも。Aqoursの皆と幼馴染みって言うのは初めて知ったけど、皆変わったんだと思う。グループトークも変な空気になっちゃうし⋯。」
「そう⋯だね。他の皆に出会って、僕も感じたよ。」
「⋯どこでこうなっちゃったのかな⋯私は⋯ただ皆で輝きたかっただけなのに⋯。」
彼女の言葉が突き刺さる。
「私、ナツ君の事大好きだよ。」
「⋯ありがとう。」
「曜ちゃんとか果南ちゃんとか⋯皆に負けないくらい大好き。でも分かんないんだよ⋯もう頭がぐちゃぐちゃなの。何をどうしたら良いとか、考えても分かんなくて、ずっと煩い声だけ聞こえてきて⋯。だからナツ君。」
『私を終わらせて?』
目でそう訴えてくる。
千歌ちゃんの手が僕の手を掴み、彼女の細い首元へ持っていかれる。
「ナツ君になら⋯良いよ。このまま⋯力を入れてくれるだけで。そうしたらナツ君も私を忘れないし、私の事だけをずっと見ててくれるでしょ⋯?」
触れてる指からは彼女の体温が。
その首からは生きている鼓動が伝わってくる。
この子は殺して欲しいと言った。
他でもない僕に。
「───出来ない。」
「なんで?」
「僕には無理だ、千歌ちゃん。」
「なんで⋯なんでなんでなんで!!終わらせてよナツ君!もう嫌なの!私が!皆が!全部嫌なのっ!!」
泣き叫ぶ子供のように、自分の気持ちを吐き出すように⋯ただただ彼女は叫ぶ。
同時に、僕を突き飛ばして千歌ちゃんが馬乗りになってきた。
「ナツ君が終わらせてくれないなら、私がナツ君を終わらせる!そして私が死ねば、ずっと一緒だよ⋯!」
「がはっ⋯!千歌⋯ちゃん⋯!!」
彼女の小さな手が、僕の首を絞めていく。
「私はただ輝きたかった⋯皆と一緒に駆け抜けたかった!ナツ君に振り向いて欲しかった!名前を呼んで欲しかった!でも皆がナツ君の所へ行って、私が入る場所なんて無くて⋯ナツ君と皆が幸せならそれでもいいって思ってた!!ねぇナツ君⋯。」
大粒の涙が、僕の顔を濡らしていく。
「どうして⋯戻ってきたの⋯?」
絞り出すように出たその声は、僕の覚悟を砕くには充分だった。
何を勘違いしていたんだろう⋯元々選択肢なんて1つしか無かったじゃないか。
Aqoursの未来も可能性も僕が奪った⋯僕という存在の介入が、たった1人の少女の『憧れ』を潰してしまった。
だったら、何を犠牲にしたって構わない。誰が壊れて誰が歪んでしまっているのかなんて問題じゃない。
これは僕の責任⋯僕の罪だ。
「千歌⋯ちゃん⋯⋯良いよ⋯。」
「えっ⋯。」
「終わりに⋯しよう⋯。」
掠れる声で話しかける。
こんな形でしか責任を取る方法は思いつかなかった。
朦朧としてきた意識の中、抵抗していた手を床に投げ出す。
最低だ、と言われるだろうか。
そんなの逃げだ、と言われるだろうか。
分かったと言って、この首を絞めるだろうか⋯。
けどいつまで待ってもその答えは示されない。
それどころか絞める力は徐々に緩んでいき、首にかかる手は震えだしている。
「げほっ!!ごほっ!!」
「⋯⋯バカ⋯。」
「千歌⋯ちゃん⋯⋯?」
「ナツ君の⋯バカぁ⋯!バカっ!バカっ!!ナツ君に出来なかったのに、私に出来るわけないじゃん!!」
「千歌ちゃん⋯。」
「大好きなの⋯ナツ君もAqoursも⋯!終わらせたく無い!終わりたくない!!」
泣き叫ぶ彼女を抱きしめる。
壊れてしまった彼女を⋯優しく、強く。
視界に懐かしいものが写った。僕が引っ越す時に彼女と撮った写真。
荒れてる部屋の中で、それだけは枕元に立っていた。
「千歌ちゃん。これ⋯。」
「なに⋯?あ⋯。」
さっき床で掴んだ三つ葉のヘアピン。僕がプレゼントした物だ。
それを彼女の頭に付ける。
「⋯やっぱり似合ってるよ、千歌ちゃん。」
「ナツ君⋯ありがと⋯。」
目を真っ赤に腫らして、それでも笑う彼女が可愛らしい。
千歌ちゃんだけじゃない⋯僕が変えてしまった皆だって、ただ自分だけを見ていて欲しいと言ってくれた。
僕の事が好きなのだから、と。
そう考えると昨日とは違う感情が胸の中に湧き上がる。
皆が、愛おしい。
この子が⋯Aqoursの皆が喜んでくれるなら僕は何だってやろう。
どれだけかかっても良い。
これからは僕の時間も⋯心も体も⋯。
『全部』皆のものだから。
以上をもちまして、ちょ田舎コラボ短編『幼馴染みと変わった夏』は終了となります。
誰が歪んでしまっているのか⋯この世界線の10人がどうなっていくのかは読んでくださった皆様のご想像にお任せします。
ヤンデレ⋯なってたかなぁ。
心配な面もありますが、個人的には楽しかったです。笑
『俺がヤンデレを1から教えてやるよ、なちょ公⋯』とか、『もっとやってみろよ!新しい扉開けよ、なちょ公!』とかありましたら、感想・メッセージにてお待ちしております。
また機会があれば誰かとコラボとか面白いかもしれないですね。
長くなりましたが、最後にヤンデレ設定を下さったマリオタ様、『ヤンオタ君』制作陣の皆様。
お忙しい中貴重な機会を与えていただき本当にありがとうございました。
独立コラボ短編、ちゃっかり見てるので頑張ってください!
P.S.次からは本編に戻ります。次回のちょ田舎はタイトル未定!でもミカン大好き3人娘とタエ婆ちゃんが出てきます。