「んじゃ、おみくじ開けてみるか」
「はいですっ!」
「ドキドキしますね」
「この中に吉とか凶とか書いてあるのよね?」
「……ここのおみくじは大凶、凶、吉、小吉、中吉、大吉の順」
「六種類じゃな」
「それじゃ僕から行くよ」
僕はおみくじの紙切れを広げ、書かれている文字を確認する。
えぇと、僕の運勢は、っと。
── 凶 ──
紙切れの上部には大きくそう書かれていた。
「…………」
「どうしたの? アキ?」
「いや……。なんか神も仏も無いんだなって思ってさ……」
「何よそれ。どういうこと?」
確かに大吉なんて高望みはしていなかったよ。
でも凶は無いよ。少なくとも吉か小吉くらいは出ると思っていたのに……。
「気にすることはないぞ島田。どうせ凶でも出たんだろ」
「ぅぐ……」
「バカなお兄ちゃん可哀想です……」
「ま、まぁ占いですし、そんなに気にしなくても……ね、明久君っ」
「そうよアキ、気にすることないわよ。大凶じゃなくて良かったって思えばいいんだから」
美波たちが慰めの言葉を掛けてくれる。
本当なら喜ぶべきなんだろうけど、慰められると余計惨めな気分になってしまうな……。
そりゃ確かに大凶よりはマシなんだけどさ。
「……私は中吉」
「中吉だと? 翔子、お前運だけは良いな」
いや、頭も容姿もいいと思う。
「……今年こそ願いが叶う」
「中吉ならば上から二番目じゃな。明久は下から二番目じゃのう」
「くっ……!」
う、羨ましくなんかないぞっ!
「ウチも中吉みたい」
「葉月のは小吉って書いてあるですっ!」
「私も小吉ですね」
美波と葉月ちゃん、それに姫路さんが次々におみくじを開ける。
でも皆、”吉”という文字が入っているようだ。
「うぅ……なんで僕だけ凶なんだよ……」
「そんなもん決まってんだろ。普段の行いが悪いからだ」
「くぅっ……! そういう雄二はどうなんだよ!」
「俺か? まだ開けていないが少なくともお前よりは良いはずだ」
「なら開けてみろよ!」
「いいだろう。俺の強運、見せてや────」
紙を開きかけた雄二の手が止まった。
「……雄二?」
霧島さんが呼び掛けても反応しない。一体どうしたというのだろう?
と思って見ていたら、あいつの余裕に溢れた顔はみるみる暗く沈んでいった。
ははぁ。さてはコイツ、大凶でも出たか。
「あの……坂本君、どうしたんでしょう?」
「大凶でも出たのかしら。坂本、ちょっと借りるわよ」
美波がそう言い、雄二の手からヒョイッと紙切れを奪う。
「なーんだ、坂本も凶じゃない。アキと同じね」
「く……なんで……この俺が……」
チッ、大凶じゃなかったか。
それは残念だけど、いい気味だ。僕を笑ったりした罰さ!
「へへっ、雄二も口ほどにもないね」
「まぁ大凶ではないだけマシではないかの?」
「くそっ! 秀吉! ムッツリーニ! お前らはどうなんだ!」
半ば
そんなことをしても”凶”の現実からは逃げられないよ?
「んむ? ワシか? ワシは────」
「…………俺は」
でも僕らは悪友四人組みだ。僕と雄二が凶なんだから、きっとこの二人も凶に違いない。
いや、凶であるべきなんだ!
強くそう念じながら二人の答えを待つと、
「大吉じゃ」
「…………吉」
「「この裏切り者ォーっ!!」」
僕と雄二の叫びは正月の空に虚しく響き渡った。
結局、”吉”と付かない運勢を引いたのは二人だけ。
僕も雄二も日頃の行いが悪かったということなのだろうか。
「木下君、大吉なんて凄いじゃないですか!」
「ホント、羨ましいわ。どうやったらそんなの当てられるの?」
「いや、普通に引いただけなのじゃが……」
「お姉ちゃんすっごいですっ! 葉月も大吉がほしかったですっ!」
「んむ? 島田妹よ、ワシは男じゃぞ?」
「あ、そうでしたっ」
「これって運勢の補足が書いてあるのね。えっと、『何事にも目標を持ち、それに向かって進むべし』だって。つまり今年の目標をしっかり立てろってことかしら?」
「私は『やや低調だが復調の兆しあり。用心怠るべからず』ですね。体調に気をつけろってことでしょうか」
「……私は『想い叶わぬ事あり。誠意をもって事にあたるべし』」
「想い叶わぬ……ですか」
「翔子なら大丈夫よ。いつも精一杯やってるもの」
「……うん。頑張る」
「お姉ちゃん、これ読めないです。なんて書いてあるですか?」
「どれどれ? えっと、これはね────」
楽しそうに話し込む女性陣。
僕と雄二はその会話に入り込むことが出来ず、それを遠巻きに見守っていた。
ハァ……。
なんで僕のは凶なんだろう。これじゃ振り分け試験が思いやられるなぁ。
補足には『僅かな失敗で大切な物を失う。全てにおいて真摯にあるべし』なんて書いてあるし。
確かにこの前は大切な物を失いかけたよ。
それにこの『真摯にあるべし』ってのは真面目に生きろってことだよね。
やっぱり僕の生活って真面目じゃ無かったのかなぁ……。
「ねぇ、雄二」
「なんだ?」
「僕、今年はもっと真面目になろうと思うんだ」
「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ」
「まずは鉄人に叱られる回数を週一回に減らすよ」
「お前にしてはハードルが高いな」
「うん。でもこれくらいじゃないと”凶”という運勢をひっくり返すのは難しい気がするんだ」
「そうだな。まぁ頑張れ」
「うん」
でも叱られないようにするのってどうしたらいいんだろう。
今までだって僕は真面目に目立たないように過ごしてきたつもりだ。
それなのに何故か鉄人は僕に目を付けてくる。なんでだろう?
……
そうか、元凶がすぐ近くにいるじゃないか。
「雄二」
「あ?」
「くたばれっ!」
僕はその元凶にハイキックをお見舞いする。
「うぉっ! 何しやがる!」
だが雄二はこの不意打ちを紙一重でかわした。
「チッ! かわしたか!」
「テメェ! いきなり攻撃してくるとはどういうつもりだ!」
「頼む! 僕の未来のために命を捧げてくれ!」
「はぁ? 何をわけのわからんことを言ってるんだ?」
「真面目に生きるためには貴様の存在が邪魔なんだ!」
「何をどうしたらそういう結論に達するんだお前は……。とりあえず落ち着け。周りの客に迷惑だ。こんなところで暴れるな」
「………………それもそうだね」
僕は拳を収め、そこら辺の石に腰掛けた。
「やれやれ……。運勢が悪かったからって俺に当るんじゃねぇよ。お前を叩きのめすのは造作もないことだが、今は俺もそんな気分じゃねぇんだよ」
「そうだね。僕が悪かったよ」
ま、こいつを始末したところで状況は変わらないか。
ハァ……。無駄なことをしてしまったな。
って、あれ?
「そういえばムッツリーニは?」
美波たちの輪には加わっていない。僕らの近くにもいない。
どこに行ったんだろう?
「ほれ、あそこだ」
と雄二が面倒臭そうに指を差す。
その指の先を見ると、確かにムッツリーニはそこにいた。
あいつは少し離れたところで微動だにせず、じっと社務所の方を見つめていた。
視線の先にあるのは……そうか、工藤さんか。
しかし変な感じだな。工藤さんの巫女姿なら喜んで写真を撮りまくってると思ったのに。
「珍しいね。ムッツリーニが大人しく見ているだけなんてさ」
「あいつにもいろいろと思うところがあるんだろ」
「いろいろ……ねぇ」
いろいろとエロいことを考えてるとしか思えないんだけど。
なんてことを考えていたら、ムッツリーニがこちらに戻ってきた。
「ムッツリーニ、写真撮らなくていいの?」
「…………」
僕の問いに返事は無かった。
ただ一言、
「…………あいつらしくない」
そう言って僕の横に腰掛けた。
そんなムッツリーニの横顔はどこか不満げに見えた。
「何が?」
「…………気にするな」
聞いても明確な答えは無かった。
何かを言いたそうだけど、言いたくないようだ。
変なムッツリーニだな。