さて、仕事の分担を決めないとね。
えぇと、仕事の内容は社務所でのおみくじやお守りの販売、餅つき担当に駐車場の案内役か。
ふむ。それならまず──
「ねぇ皆、僕は社務所には女子が入るべきだと思うんだけど、どうかな?」
「…………当然」
ムッツリーニが間髪入れずに同意した。
恐らくこいつの目的は女子の巫女姿だだろう。
でも僕が提案したのはムッツリーニのように
販売以外が動き回ったり力を使ったりする仕事だと思ったからだ。
「いいんじゃねぇか?」
「そうじゃな。接客は女子の方が映えるしの」
雄二と秀吉も同意してくれた。これで話が進めやすくなった。
「うん。だから社務所担当は美波と姫路さんと霧島さんが適任だと思うんだ」
「そうね。ウチらには餅つきなんてできそうにないし」
「私もそうしてもらえると助かります。私は体力がありませんので……」
「んじゃ餅つきは俺の仕事だな。明久、お前も手伝え」
「オッケー」
これであとは秀吉とムッツリーニと葉月ちゃんか。
葉月ちゃんは美波と一緒の方がいいだろうから、社務所の手伝いがいいかな。
そうなると残る二人は必然的に駐車場案内になるか。
なんだ、あっさり分担が決まったな。
と思っていたら、
「……私も餅つき担当がいい」
霧島さんがそんなことを言い出した。
「霧島さん、餅つきって力仕事だよ? いいの?」
「……餅つきは返し手との相性が大事。だから雄二の相手は私じゃないとダメ」
「いやまぁ、そうかもしれないけど……」
「アキ、いいんじゃない? 翔子もああ言ってるんだし」
「そうですね。坂本君のお相手は翔子ちゃんですよね」
「う、うん」
うーん……。でも女の子に力仕事なんか任せちゃっていいのかなぁ……。
「……吉井に雄二は渡さない」
「いや、こんなのいらないです」
相変わらず霧島さんは僕と雄二の仲を疑っているようだ。
やれやれ。いつものことだけど、どうしてそういう発想になるのだろう。
霧島さんだって僕が美波と付き合ってるのは知ってるはずだし、
そもそもこんな
ハァ……まぁいいか。今に始まったことじゃないし。
それに霧島さんが雄二と一緒がいいって言う気持ちも分かるからね。
「分かったよ。それじゃ霧島さんは雄二と餅つき担当で」
「……ありがとう吉井」
「ならば残るはワシと明久とムッツリーニ、それに島田妹じゃな。島田妹は姉と共に社務所の仕事がよかろう?」
「ウチもその方がありがたいけど……。でもさすがに葉月を一人分と数えるのは厳しいわね。誰かもう一人社務所に入れない?」
「…………社務所には女子」
「それならもう決まってるよね」
残っているメンバーで考えたらそれは一人しかいない。
「ね、ひでよ──」
「ワシは駐車場の案内に行かせてもらうぞい」
僕が話を振ろうとしたら、秀吉が遮るように言い出した。
「な、なんでさ! 秀吉が入ってくれなきゃ困るじゃないか」
「嫌じゃ! そう言ってワシに女子の格好をさせるつもりじゃろう!」
「さて? なんのことやらさっぱり分からないね」
「………予定調和」
「とにかくワシは駐車場案内をやりたいのじゃ! 誰が何と言おうと譲らぬぞい!」
むう、ここまで
しかし秀吉がダメとなると僕かムッツリーニということになる。
さて、どうするかな。
「アキ、社務所にはアンタが入りなさいよ」
「ほぇ? 僕が? なんで?」
「接客っていうのは愛想が大切なのよ。土屋にそれを求めるのは無理ってもんでしょ?」
「うん、まぁ……そう……かな?」
チラリとムッツリーニを見ると、あいつは腕組みをして、うんうんと頷いていた。
自ら認めるのかよ。
「それじゃあ社務所には僕が入るとして、ムッツリーニはどうするの?」
「明久、秀吉を一人で駐車場案内に行かせるわけにいかないだろ。当然ムッツリーニも駐車場案内だ」
なるほど。それもそうか。
「ムッツリーニ、駐車場案内の仕事でいい?」
「…………構わない。社務所はお前に任せる」
「そっか。それじゃ決まりかな」
「…………巫女姿でよろしく」
「無理です」
僕が断るとムッツリーニは口を歪ませ、泣きそうな顔をした。
何もそんなに悲しまなくたっていいじゃないか……。
「ともかくこれで決まりじゃな」
「よし、整理するぞ。まず社務所には姫路、島田、明久、それとチビッ子。餅つきには俺と翔子。駐車場案内には秀吉とムッツリーニだ。皆いいな?」
「うん」
僕は美波たちと社務所か。さっきの工藤さんの真似をすればいいんだよな。
大丈夫。喫茶店でウェイターをやったこともあるし、きっとなんとかなるさ。
よし、頑張るぞ!!
分担も決まり、給料も貰えるということで僕は気勢を上げていた。
するとその時、
「分担は決まったかい?」
「ひぁっ!?」
突然背後から声がして、思わず飛び上がってしまった。
「? どうかしたかい?」
「えっ? あ、いえ、なんでもないです……」
び、びっくりしたぁ……。いつの間に後ろに────って、あれ?
司さん、今どこから来た? 僕の後ろは壁なんだけど……。
話に夢中になって入って来たのに気付かなかったのか?
「あ、はい。ちょうど今決まったところです」
「それは良かった。それじゃ皆これに着替えてくれるかい? 隣に更衣室があるからそこでね」
姫路さんが答えると、司さんはそう言って一人ずつ装束を手渡していった。
渡されたのは白衣と薄緑色の袴。
美波や姫路さんには赤い袴が渡されているようだ。
「もしサイズが合わなかったら言っておくれ。それと、仕事が終わったら回収するからね」
……
「? どうした明久」
「いや……なんかこう……」
なんだろう。この既視感。確か前にもこんな台詞を聞いた気が……?
う~ん……?
と、記憶を辿っていると、
「まぁ、そう来ると思っておったがの……」
秀吉が疲れたように呟くのが聞こえた。
あぁそうだ、思い出した。前に喫茶店でバイトした時と同じなんだ。
「司殿。すまぬがワシにも緑色の袴をくれぬか?」
「うん? だって君は────」
「ワシは男なのじゃ!」
秀吉が背伸びをして司さんに詰め寄る。
司さんの身長は意外に高く、雄二とほぼ同じだ。
だから背伸びをしても頭一つ分ほど低い秀吉は十分女の子に見える。
というか、そもそも容姿からして女の子にしか見えないし、しょうがないと思う。
「それはすまなかった。てっきり女の子だと思っていたよ」
「うぅ……容姿で判断しろとは言わぬ。じゃがせめて名前で気付いてほしいのじゃ……」
「いやぁ悪かった。それじゃ、男性用を持ってくるからちょっと待ってておくれ」
司さんはそういうと再び足音ひとつ立てずに部屋を出て行った。
うーん……。
秀吉は赤でいいのにな。そっちの方が絶対似合うし。
などと考えていたら今度は美波が、
「別に色なんてどっちでもいいじゃない。いっそ全員赤にしちゃったら?」
なんてことを言い出した。
おかしい。何か聞こえちゃいけない台詞が聞こえた気がする。
「ね、ねぇ美波、今なんて言ったの?」
「お兄ちゃんたちも赤いの着るですか?」
「そうよ。皆同じ衣装よ」
「ほんとですかっ! お揃い嬉しいですっ!」
いや……。勝手に話を進めないでほしい……。
「……雄二には似合わない」
「似合わなくて結構だ!」
「そうですか? 坂本君に赤は結構似合うと思いますよ?」
「それはTシャツとかの類いの話だろ!?」
「雄二よ、そんなことより早く着替えるのじゃ。あまり工藤を待たせるわけにもいくまい」
「おっと、そうだったな」
「ワシは司殿を待つ。お主らは先に行ってくれ」
確かに僕らまで司さんを待っていることは無いか。
秀吉は早着替えができるし、きっと僕らより後から着替えてもすぐ追い付くだろう。
「それじゃ着替えてきますね」
「アキ、覗いたりしたら承知しないわよ」
「そんなことしないよ!」
そんなことをすれば地獄を見るのは火を見るより明らかだ。
というか、なんで僕に言うんだ? 他に言うべき人がいるだろう?
「……雄二は私だけなら見てもいい」
「だっ……! 誰がお前の着替えなんか覗くか!」
と、雄二が言うが早いか、霧島さんの細い手は雄二の顔面を捕らえていた。
やれやれ。雄二も素直になればいいのに。
そんなことをやっているうちに司さんが戻り、僕らは結局全員同時に着替えることになった。
──もちろん秀吉だけ個室で。