僕と新年と初詣っ!   作:mos

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part O

 司さんの指示により、工藤さんが一人で切り盛りしていた窓口は三つに分けることになった。

 この三つのうち、二つをおみくじ販売窓口として美波と姫路さんが担当。

 残る一つを絵馬やお守り、破魔矢を販売する窓口として僕が担当し、

 葉月ちゃんは僕の売った商品を袋に詰める役を担うことになった。

 

「三十二番ですね。こちらをどうぞ」

「二十五番、こちらになります」

 

 それぞれの役割が決まり、美波と姫路さんは順調にお客さんを(さばい)いていく。

 これに対し、僕はやや苦戦気味であった。

 

「えぇと、合わせて八百五十円になります」

 

 絵馬やお守りは複数を合わせて買っていく人も多い。

 これら商品はそれぞれ値段が異なり、百円であるおみくじと違って計算が必要になる。

 だがここにレジスターなんて便利な物は無く、大きめの電卓が置いてあるだけ。

 僕はこれを頼りになんとか仕事を進めていた。

 

 ところが────

 

「あ、あれ? 電卓が……」

「どうしたの? アキ」

「それが電卓の表示が急に消えちゃって……」

 

 おかしいな。今まで問題なく使えていたのに……。

 

「電池切れですか?」

「うーん……でもこの電卓って太陽電池式だから電池切れなんて起こさないと思うけど……」

 

 く……ダメだ。何をいじっても電源が入らない。

 

「明るい所に持って行ってもダメですか?」

「それが日の光に当ててもまったく反応しないんだ」

「アキが無茶な使い方するから壊れちゃったんじゃない? 諦めて暗算したら?」

「えぇ~……そんなぁ……」

 

 でも電卓が復活しない以上、美波の言うとおり暗算するしかないか。

 うぅ……あと三時間も頭を使い続けられるかなぁ……。

 

「えぇと、小さいお守りが二つに大きいのが一つだから、えぇと……」

 

 幸いなことにお客さんはのんびりとした感じの白髪(しらが)のお爺さん。

 僕がモタついていても、じっと待ってくれていた。

 けれど、それが僕を余計に慌てさせ、頭の回転を鈍らせてしまう。

 

 うぅっ、ど、どうしよう、焦ってしまって……頭が回らないっ……!

 

「七百五十円ですっ!」

 

 僕が冷や汗を垂らしながら頭を抱えていたら、代わりに葉月ちゃんが答えてくれた。

 

「おや、小さな巫女さんだね。お兄ちゃんのお手伝いかい?」

「そうなんですっ」

「そうかそうか、頑張ってね」

「はいですっ! 葉月がんばるですっ!」

「お兄ちゃんもしっかりね」

「あ、は、はい……」

 

 白髪のお爺さんは商品を受け取ると優しく微笑み、手を振って帰っていった。

 た……助かったぁ……。

 

「葉月ちゃん、ありがとうね」

「バカなお兄ちゃん、葉月を使ってほしいです。葉月が計算機の代わりですっ」

「ほぇ? 計算機?」

 

 ……あぁ、なるほど。

 僕が接客して欲しい商品を聞けば、それを葉月ちゃんが計算してくれるということか。

 確かにこれなら僕もお客さんの対応に集中できるな。

 

「そっか、それじゃあお願いしようかな」

「アンタね……小学生に計算してもらってんじゃないわよ……」

「うっ……。だ、だってほら、葉月ちゃんがせっかくこう言ってくれてるわけだし、厚意は無駄にできないだろう?」

「……まぁ、そういうことにしておくわ」

 

 そう。これは葉月ちゃんの働きたいという気持ちを尊重しただけなんだ。

 決して僕に暗算ができないわけではないのだ。

 それだけは心に留め置いてほしい。

 

「すみません、絵馬を一つお願いします」

 

 おっと、お客さんだ。

 

「はーい、ただいま!」

 

 と振り向くと、そこに居たのはキリッとした眼鏡を光らせた好青年。

 あれ? この人は──

 

「……久保君?」

「えっ!? よ、吉井君!? ど、どうして君がこんな所にいるんだ!!」

「いや、どうしてって言われても……」

 

 そうだなぁ、工藤さんの言葉を借りるなら、

 

「バイトみたいなもの、かな」

「バ、バイト? そ、そうか、そんなバイトがあるなんて知らなかったよ……」

「?」

 

 久保君どうしたんだろう。なんか急にそわそわしだしちゃったけど……。

 

(あぁ……僕はなんて幸運なんだ。元日から吉井君のこんな姿が拝めるなんて……)

 

 えっと……どうしよう。今度は何かブツブツ言い始めちゃったよ?

 

「あ、あの、久保君?」

 

(……そうだ、この貴重な姿を写真に……! いや、でも今僕はカメラなんて持っていない。でもこの機会を逃せばもうチャンスは無いかもしれない……。あぁっ! 僕はどうすればいいんだ! こんな大事な時に────そっ、そうだ、土屋君だ! 彼ならきっとこの貴重な姿を写真に納めているはず! 彼は! 土屋君は今どこに!?)

 

 ダメだ。完全に別の世界に行っちゃってるよこの人。

 それに……何だろう。何故か背筋に悪寒のようなものを感じる。

 僕の本能が深く関わってはいけないと警鐘を鳴らしている気がする……。

 

 でもそうは言ってもこのまま放っておくわけにもいかないか。

 他のお客さんが待ってるから迷惑掛かっちゃうし。仕方ない。

 

「久保君ってば!!」

 

「(それで枕カバーに)……ハッ! ……すまない。取り乱していたようだ」

 

 ……今の会話のどこに取り乱す要素があるんだろう。

 久保君って頭はいいけど、時々こんな風によく分からない状態に陥るんだよね……。

 そういえば霧島さんも姫路さんも似た感じになることがあるような気がする。

 ということは、これは頭のいい人が起こす発作のようなものなんだろうか。

 

 それに今なんか気になるキーワードを口にしていたよね?

 『枕カバー』とかなんとか……。

 

「バカなお兄ちゃん、お友達ですか?」

「あ、うん、そうだよ」

「ん? 吉井君、その子は?」

 

 あれ? そうか、久保君と葉月ちゃんは初対面だっけ。

 それなら紹介しないといけないね。

 

「えっと、この子は──」

「島田葉月ですっ! よろしくお願いしますですっ!」

 

 僕が答えるより先に葉月ちゃんが元気に自己紹介をする。本当によくできた子だ。

 だが──

 

「しっ、島田!?」

 

 葉月ちゃんの名前を聞いた久保君はそう叫ぶと、急にガクガクと震え出した。

 何をそんなに驚いているんだろう?

 

「よ、吉井君! 君はいつの間に婿入りなんかしたんだ!? それにもうそんなに大きな子供までいるなんて!!」

「……は?」

 

 久保君は何を言っているんだ? もうさっぱり分からないよ……。

 なんだか僕の理解を超越した存在になりつつある気がする……。

 

 ……

 

 って!! 婿入り!? 子供!?

 まっ、まさか僕が美波と結婚したとでも思っているのか!?

 

「ちょっ、ちょっと待って久保君! 落ち着いて常識的に判断してよ! 葉月ちゃんは美波の妹だからね!?」

「え……? い、妹?」

「そうだよ! 葉月ちゃんは美波の妹! だから島田葉月!」

「な、なんだ、そうだったのか……。それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」

 

 いや、早くって言うか突然変なことを言い出したのは久保君の方じゃないか。

 そもそも僕も美波もまだ十七才だし、け、けけけ結婚だなんてまままだそんな……!

 

「あれ? 久保じゃない。明けましておめでとう。アンタも初詣?」

「あ、久保君、明けましておめでとうございます」

「うん? あぁ、姫路さんに島田さん、明けましておめでとう」

 

 美波と姫路さんが久保君の存在に気付き、挨拶を交わす。

 その間にも僕の頭はどんどん熱くなってきて、変な汗が噴き出てくる。

 

「? どうしたのよアキ、真っ赤な顔して」

「ふぁっ!? な、なんでもない! なんでもないんだ!!」

 

 うわわ……! か、顔が熱い……!

 久保君が変なこと言うから意識しちゃうじゃないか……!

 

「眼鏡のお兄ちゃん、絵馬いらないですか?」

「ん? あぁそうだったね、すっかり忘れていたよ。それじゃ葉月君、一つ貰えるかい?」

「はいですっ! 五百円になりますですっ!」

「五百円だね。じゃあこれで」

 

 久保君は財布から五百円玉を取り出し、葉月ちゃんに手渡す。

 その横で僕は顔から火を噴きそうになりながら悶えている。

 ふぉぉぉ……! お、落ち着け……! 深呼吸だ……! 平常心だ……!

 

「それじゃ、こちらをどうぞですっ」

 

 代金を受け取ると、葉月ちゃんは笑顔で久保君に絵馬を渡した。

 その間に僕は深呼吸をして心を落ち着かせる。

 すーはー、すーはー……。

 よ、よし……。まだドキドキしてるけど、だいぶ落ち着いてきたぞ……。

 

「ありがとう。早速これに今年の目標を書くよ。それじゃ吉井君、僕はこれで」

「へ? あ、うん、また学校で」

「あ、そうそう。一つ言い忘れていたよ」

 

 うっ……。まさかまた変なことを言い出すつもりじゃ……。

 

「明けましておめでとう。今年もよろしく」

 

 ……普通だった。

 

「う、うん、明けましておめでとう。こちらこそよろしく」

 

 僕がそう返事を返すと、久保君はパァッと笑顔を咲かせ、そのまま去って行った。

 久保君……? なんか……恐いよ?

 

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