僕と新年と初詣っ!   作:mos

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part B

 翌日。

 

 僕は自分の部屋で服装に悩んでいた。

 

 初詣ってどんな格好で行けばいいんだろう?

 昨日テレビで見た司会者なんかは紋付羽織に袴だった。でも僕はそんなものは持っていない。

 そういえばテレビに映っていた参拝客は普通の洋服の人が多かったような気がする。

 ということは服装はあまり気にしなくていいのかな?

 でもあんまりラフな格好だと振袖の美波に悪いよな……。

 

 う~ん……。

 まぁいいか。悩んだところで着るものはそんなに沢山持っているわけでもないし。

 悩んだ末、僕は普通のカジュアルスタイルで行くことにした。

 

 いつもならこういうことは手っ取り早く姉さんに聞いていただろう。

 けれど、今日はそれができない。

 

 実は今、姉さんは海外の母さんの所に行っている。

 新年を母さんたちと迎えるためだという。

 一昨日の朝、姉さんはこのことを僕に告げるとキャリアバッグを引き、一人で行ってしまった。

 なぜ家族の中で僕が一人が除け者にされるのか。まったくもって理解に苦しむ。

 

 ……でも……。

 

 もし姉さんが一緒に行こうと言ったとしても、僕は断っていただろう。

 だってこの日本には僕の大切な人がいるのだから。

 

  PiPiPiPiPi

 

 クローゼットを前にそんな思いに耽っていたら、携帯のメール着信音が鳴り響いた。

 

【準備オッケー。今から待ち合わせ場所に行くね】

 

 その大切な人からのメールだ。

 そろそろ僕も出なくちゃ。

 

 僕は手早く着替え、待ち合わせ場所に向かった。

 

 

 

      ☆

 

 

 

 僕は商店街の入り口に到着した。

 まだ美波は来ていないようだ。

 

『アキ~っ!』

 

 と思ったら後ろから美波の声が聞こえて来た。ほとんど同時に到着したようだ。

 今日は振袖を来てくると言っていた。一体どんな振袖なんだろう。

 期待に胸を膨らませながら振り向くと────

 

「バカなお兄ちゃんっ!」

「ごふっ……!」

 

 胸骨に”ズシン”という重い衝撃を受けた。

 ぐおぉぉ……!

 

「あけましておめでとうですっ!」

 

 僕の腰に抱きつきながら元気に挨拶する葉月ちゃん。

 うぐぐ……ゆ、油断してた……。一瞬息が止まったぞ……。

 

「あ……あけましておめでとう。葉月ちゃん」

 

 僕は胸の痛みを堪えながら新年の挨拶をする。

 それにしても葉月ちゃんの頭突き、会う度に破壊力が増している気がする。

 これも成長の証ということだろうか。

 

「バカなお兄ちゃん、見てくださいっ! 葉月の振袖どうですか?」

「ん? どれどれ?」

 

 改めて葉月ちゃんをよく見てみる。

 

 黄色を基調とした和服。青色の帯。髪はいつものツインテールに白い花飾りの髪留め。

 少しダブついた感じがなんとも可愛らしい。

 

「うん。よく似合ってるよ、葉月ちゃん」

「ほんとですか! 葉月、うれしいですっ!」

 

 飛び上がって喜ぶ葉月ちゃん。相変わらず元気な子だ。

 

「ハァ、ハァ……。もう、葉月ったら。今日は振袖を着てるんだから走ったら危ないでしょ?」

 

 美波が追いついて来たようだ。

 きっと葉月ちゃんを追って走って来たのだろう。少し息が上がっているみたいだ。

 

「えへへ~。お姉ちゃんより先に葉月を見てほしかったですっ」

 

 葉月ちゃんはくるくると回りながら喜びを身体全体で表現する。

 ホント、可愛らしい子だ。こんな姿を見るとこっちまで元気になってくるよ。

 

「まったくこの子は……。アキ、あけましておめでとう」

 

 微笑ましい葉月ちゃんの姿に心和ませていると、美波が新年の挨拶をしてきた。

 僕は挨拶を返そうと目を上げる。

 

 すると、華やかな振袖に身を包んだ美波の姿が目に飛び込んできた。

 それは思っていた通り──いや、それ以上の艶やかな姿であった。

 

 彼女の振袖は全体的にクリーム色に近い白で、肩から袖、それに裾が桃色に染めてあった。

 更に左の肩口から裾にかけては赤やピンクの花が沢山描かれていて、見る者に華やかな印象を与える。

 これに対して、髪はいつものポニーテール。今日のリボンの色は赤だった。

 

 いつも見ていた制服や動きやすそうな服と違った、清楚な感じ。

 いつもと変わらないポニーテール。

 この二つが相まって、僕の胸に強く突き刺すような感覚を与える。

 

「うん。あけましておめでとう」

「着替えてたら葉月に見つかっちゃってね、一緒に行きたいって聞かなかったのよ。それで仕方なく連れてきたんだけど……。大丈夫よね?」

「うん。葉月ちゃんなら皆顔見知りだし、問題ないんじゃないかな」

「ホント? 良かった」

 

 なんとか心を落ち着かせて返事をしたものの、僕の鼓動は早かった。

 去年の夏に海水浴に行った時も浴衣姿を見ているけど、やっぱり和服の美波は、なんというか……。

 

「? な、何よ、そんなにじろじろ見て……。どこかおかしい?」

 

 美波が少し身をよじり、恥じらうように言う。

 気付かないうちに僕はじっと見つめてしまっていたらしい。

 

「あ……。い、いや、そんなことないよ?」

「怪しいわね。ホントはウチには似合わないとか言いたいんじゃないの?」

「いや、そうじゃなくて、その……いつも動きやすそうな格好してるから、こういうのが新鮮というかなんというか……」

「なんというか、何よ」

 

 うぅっ、突っ込んで聞かないでよ。

 ただでさえ答え辛いのに、今日は葉月ちゃんまでいるんだから恥ずかしいじゃないか……。

 

「答えられないってことは、やっぱりウチに聞かれちゃ困るようなことなのね?」

「そ、そんなことないってば」

「じゃあ答えなさいっ!」

 

 美波が腕をまくりながら迫ってくる。

 まずい、このままでは力づくで吐かされる。

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてよ美波」

「いいから答えなさいっ!」

「うわわ分かった! 言う! 言いますっ! 綺麗だなって思ってただけです!」

「えっ……?」

 

 迫り来る美波の勢いに堪らず、ついに僕は本音を言ってしまった。

 うぅ……、少しは慣れたつもりだったけど、やっぱりこういうことを面と向かって言うのは恥ずかしい……。

 

「そ、そう……かな……?」

 

 さっきまでの迫力が嘘のように急にしおらしくなる美波。

 頬をほのかに赤く染めてモジモジと指をもじらせる。

 その仕草がなんとも可愛くて……その……。

 

「えへ……ありがと、アキ」

 

 美波が嬉しそうに目を細めながら僕に向かって微笑む。

 うわぁぁ……。か、顔が熱い……!

 な、なんでだろう。いつもの数倍ドキドキする……!

 

「お姉ちゃんずるいですっ! バカなお兄ちゃん、葉月は? 葉月はどうですか?」

 

 葉月ちゃんが期待に満ちた大きな目で僕の顔を見上げる。

 一難去ってまた一難。どう? と聞かれて、どう答えればいいんだろう……。

 

「そ、そうよアキ、ほら葉月だって可愛いでしょ?」

「あっ、そ、そうだねっ。葉月ちゃんもとっても可愛いよ?」

「ほんとですか!? 葉月誉められちゃいましたっ! すっごくうれしいですっ!」

 

 葉月ちゃんがぴょんぴょんと飛び上がって喜ぶ。良かった……この程度で済んで……。

 でも今ので僕も少し落ちついた。

 それじゃあこれ以上無理難題をふっかけられる前に────

 

「バカなお兄ちゃん、それじゃあ」

「うん? 何かな?」

「お姉ちゃんと葉月、どっちが可愛いですか?」

「んがっ……」

 

 無理難題ふっかけられちゃったよ……。

 ど、どうしよう……。これ、答えないとダメなのか?

 僕は美波のフォローに期待し、助けを求めるように眼差しを向けてみた。

 しかし彼女は僕の視線に気付いても尚、ニコニコと笑顔を振りまくのみであった。

 

 ──答えろってこと?

 

 くぅ……仕方ない、考えるか……。

 えっと……ぱっと思いついた選択肢は三つ。

 

 答1.『もちろん葉月ちゃんだよ』

 

  確かに葉月ちゃんを喜ばせるならこの答えがいいだろう。

  でもこんなことを言えばきっと美波が()ねて口をきいてくれなくなってしまう。

  この答えはダメだ。

 

 答2.『どちらかというと美波の方が……』

 

  これなら美波の機嫌を損ねることは無いだろう。

  だけど、これじゃ今度は葉月ちゃんを悲しませてしまう。

  これもダメだ。

 

 答3.『どっちも同じくらい可愛いよ』

 

  一見正解に思える。

  けど、捉え方によってはどっち付かずの優柔不断な男に見えてしまう。

  こんなことを言えばどちらかハッキリしろと言われるに決まっている。

  やっぱりこれもダメだ!

 

 だーっ! 正解が分からない! 僕はどうすればいいんだ!! 誰か教えてくれぇーっ!!

 

「なんじゃ? 何を一人で悶えておるのじゃ?」

 

 その時、突然後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

 こ、この声は……!

 

「あ、木下。あけましておめでとう」

「んむ。おめでとうなのじゃ」

 

 頭を抱えてしゃがみこむ僕の頭上で正月の挨拶が交わされる。

 この声は秀吉! 秀吉が助けに来てくれたんだね!

 

「木下もここで待ち合わせ?」

「いや、ワシは神社に向かう途中に通りかかっただけじゃ」

 

 そうだ、きっと可愛い振袖姿を披露しに来てくれたんだ! そうに違いない!

 救いの女神の登場に僕は胸が踊り、嬉々として振り向いた。

 

「ひでよ……!」

 

 だが──

 

「……」

「どうしたのじゃ? 明久よ」

 

 振り向いた先にあったのは、青いスラックスに茶色いジャンパーを羽織った秀吉の姿だった。

 完全に期待を裏切られた……。

 

「なんで……」

「んむ?」

「なんで振袖じゃないんだよ!!」

「言うと思ったわい……。そんなものを着てくるわけがなかろう? ワシは男じゃからな」

「何を言ってるのさ! 今振袖を着なかったらいつ着るって言うのさ!」

「お主こそ何を言っておるのじゃ! ワシは男じゃと言っておろう! そもそもワシは振袖なぞ持っておらん!」

「くそっ! 僕の純情を返せ!」

「もう何を言っているのかさっぱり分からんのじゃが……」

 

 あぁ……秀吉の振袖姿が……。楽しみの一つが無くなっちゃったよ……。

 

「バカなお兄ちゃんっ、お返事がまだですっ!」

 

 がっくりと項垂れていると、葉月ちゃんが追い打ちをかけてきた。

 そういえばこっちの問題もまだ残っていたか。困ったな……。

 

「んむ? 島田妹よ、返事とはなんじゃ?」

「バカなお兄ちゃんに葉月とお姉ちゃんのどっちが可愛いかって聞いたです! それのお返事ですっ」

「ほほう。そうであったか。明久よ、モテる男は辛いのう」

 

 楽しげに笑う秀吉はやっぱり可愛いと思う。

 でも今はそんなこと言ってる場合じゃなくて、

 

「笑ってないで助けてよ秀吉……」

「何を助けるというのじゃ?」

「いや、だからこの最大級に難しい問題をだね」

「難しいことなどあるまい。いつものように思ったことをそのまま言えばよかろう?」

「えぇ~……そんなぁ……」

 

 そんなこと言ったって、こんなの答えられないよ……。

 

「それにその答え、ワシも聞いておきたいしの」

 

 秀吉がニヤニヤと悪意に満ちた顔で僕を見下ろす。

 まずい……。秀吉も向こう側に加わろうとしている。そうなったらもう逃げ場は無い……!

 ど、どうしよう……! 吉井明久、人生最大のピンチだ!

 

「ふふ……。こら葉月、あんまりアキを困らせるんじゃないの」

 

 頭を抱え込んでいたら、やっと美波が助け船を出してくれた。

 このからかうような笑い方……。ひょっとして今まで僕の反応を楽しんでいたのか?

 美波も意地悪だなぁ……。でも助かった。

 

「木下、アンタもよ」

「むぅ。じゃがお主も聞いておきたいことではないのか?」

「そうですっ! お姉ちゃんも聞きたいはずですっ!」

「えっ? ウチは、その……」

 

 口篭る美波がチラリと僕の方に視線を向ける。美波も困っているようだ。

 よし、味方が一人できた。今なら二対二。

 ここは待ち合わせ時間をネタにこの話を切り上げよう!

 

「あっ! そろそろ行かないと待ち合わせの時間に遅れちゃいそうだよ!」

「そ、そうね! 急ぎましょ!」

 

 僕の話に美波が同調してくれる。

 

「葉月、ほら行くわよ!」

「ほらほら、秀吉も行こうよ!」

 

 美波が葉月ちゃんの手を引っ張り、僕は秀吉の背中を押して、半ば強引に足を進めさせる。

 

「明久よ、お主逃げよったな?」

「な、なんのことかな?」

「まぁよい。島田妹よ、この件は後でゆっくり聞き出すとしようかの」

「はいですっ!」

 

 ……二人にはなんとかこの件を忘れてもらわないといけないな。

 

 

 こうして僕らは商店街に入り、神社に向かった。

 

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