僕と新年と初詣っ!   作:mos

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司さんの正体が今、明らかに……!


part T

 僕は美波たちの後に続いて社務所を出た。

 そして最初に仕事の説明を受けた部屋に向かって廊下を歩き出す。

 

 だが……。

 

「……」

 

 数歩歩いたところで僕は足を止める。

 

「あの、司さん、ちょっとお話ししたいことがあるんですけど……今時間ありますか?」

「私にかい? 構わないよ」

 

 一つ気がかりが残っている。

 

「アキ? どうしたの?」

「ごめん美波、ちょっと司さんと話したいことがあってさ。皆と先に部屋に戻っててくれる?」

「それはいいけど……でも何の話?」

 

 ……この件は皆を巻き込まない方がいいだろう。僕だけで話すべきだ。

 

「ちょっと気になることがあってね」

「気になること?」

「大したことない話だからすぐ終わるよ」

 

 本当に大したことない話だといいな……。

 

「ふ~ん……。まぁいいわ。それじゃ先に戻ってるわね」

「お茶の用意をして待ってますね。明久君」

「葉月もお手伝いするですっ」

「うん。ありがとう姫路さん、葉月ちゃん」

 

 美波たち三人は僕と司さんを残して廊下を進んで行く。

 やがて彼女らが部屋に入り、見えなくなったのを確認したところで僕は180度向きを変えた。

 

「それで話とは何だい?」

「はい、実は聞いておきたいことがありまして」

 

 司さんに確認しておかなければならないことがある。

 それは拝殿前で司さんが見せた行動や声。

 

 司さんは今まで会ってきた人の中でも数少ない、”常識を持った”大人だ。

 その司さんが悪戯であんな声を出したりするとは考えにくい。

 それに百円玉をどこからともなく出したのは手品だとしても、一瞬にして煙のように姿を消したことの説明がつかない。

 

 あれは本当に司さんだったのだろうか?

 もしかして悪魔のようなものが化けていたのではないだろうか……?

 

「ふむ。釣り銭回収の時のアレのことかな? やっぱり気になるかい?」

「えっ? えぇ、まぁ……」

 

 あんなものを見せられて気にならない方がおかしいと思う。

 ん? あのことを知っている? ということはやっぱり司さん本人だったのか?

 

「そうか、それじゃ君にだけ特別に教えよう。でも絶対に誰にも言ってはいけないよ?」

「は、はいっ!」

「もし誰かに言ったりしたら、その時は…………分かってるだろうね」

 

 話しているうちに司さんの声は徐々にさっきの低い声になっていく。

 うわわわ……! や、やっぱりあれは司さんだったんだ……!

 

「────!!(コクコクコク)」

 

 僕は怖くなってきて、夢中で首を縦に振った。

 その様子を見ていた司さんは口元に笑みを浮かべ、もったいぶるようにゆっくりと口を開く。

 

「実は……私はね」

 

 司さんはそこで言葉を止めると口角を更に吊り上げ、笑みを深める。

 口元だけ見れば、実に楽しげな笑顔だ。

 だがその目は”くわっ”と大きく見開き、決して笑っているものではなかった。

 

 こ、怖いっ!!

 この沈黙と赤く光るような眼光が異様に怖い!

 逃げたい……! でっ、でもっ……あ、足が……動かないっ……!

 

 まさにカエルに睨まれた蛇だった。

 逆だったような気もするけど、今はそんなことはどうでもいい。

 とにかくこの異様な視線から逃れたかった。

 

「じ つ は ね……!!」

 

 全身から凄まじい殺気を放ちながら司さんは語気を強める。

 く、食われる!? このままじゃ命を取られるっ!?

 

「ごっ……! ごめんなさい! ごめんなさいっ!」

「おっと、また癖が出てしまった。ごめんごめん。実はね、私は趣味で忍術を習ってるんだ」

「何でもしますから許して────はい?」

 

 い、今なんて言った? 趣味で忍術?

 

「えっと……しゅ、趣味……ですか?」

「そうだよ?」

 

 忍術って趣味で習うものなの!?

 それに忍術って手裏剣投げたり水の上を歩いたり火を吹いたり雷落としたりするものなんじゃないの?

 (※明久は現実とゲームがごっちゃになってます)

 

「あ、あの……百円玉を出したのが忍術なんですか?」

「あぁ、あれは出したわけじゃなくて、本当に取ってきたんだよ」

「え……でもあの時まったく動かなかったじゃないですか」

「…………クックックッ…………」

 

 ビクッ!!

 

「あぁ、また出てしまった。すまないね」

「い、いえ……」

 

 ほ、本当に怖いんですけど……。

 

「あれは夢幻流踏(むげんりゅうぶ)と言ってね。相手に幻覚を見せてその隙に行動する技なんだ」

「む……ムゲンリュウブ……?」

「そうだよ。コツはまず相手に自分の姿を焼き付けること。石のように微動だにしないことが大事なんだ」

「は、はぁ……」

「そうしている間に幻覚作用のある香を相手に嗅がせて、あたかもこちらが動いていないような幻覚を見せる。相手にその症状が現れはじめたら、その隙に流れる様に相手の懐に──! という技なんだよ」

 

 ……司さん、嬉しそうだな。言ってることは暗殺術に等しいけど……。

 

「えっと……それじゃあ、その地獄の底から聞こえてくるような声は? どう聞いても司さんの声じゃないと思うんですけど……」

「いやー、気分が乗ってくるとどうしても声質(せいしつ)が変わってしまってね。家内からも『凄く怖いから人前では絶対にやるな』と何度も言われているのだけど、無意識にやってしまっていることも多くてね。我ながら困ったものだよ。ははは」

「そ……そうですか……」

 

 なんだ、悪魔が化けているとかじゃなかったのか……。

 

「う~ん……でもそんなに怖いかい?」

「はい、それはもう魔界の刺客か地獄からの使者かと思いました」

 

 って、何を正直に言ってるんだ。

 

「す、すみません……!」

「いや、いいんだ。素直に言ってくれてありがとう。でもやっぱり人には見せられないなぁ……」

 

 僕の正直な意見に司さんはがっくりと肩を落とし、すっかり落ち込んでしまった。

 先程の殺気が嘘のようだ。

 こんなに落ち込むということは、余程この技を誰かに見てもらいたいのだろう。

 きっと忍術が何より好きなんだろうな。

 

「えっと……すみません司さん。でも大丈夫です。最初はびっくりしましたけど、慣れれば平気ですから」

「本当かい?」

「はい、……多分」

 

 ”もちろんです”と言い切れない所がちょっと辛い……。

 

 でもちょっと気の毒だな。好きなことを思う存分できないなんてさ。

 せめて気の合う仲間でもいればいいのだけど。

 

 あ。

 

 そういえば知り合いに一人、忍者みたいなやつがいたっけ。

 あいつなら喜んで弟子になりそうだな。

 このことを教えてやったら司さんも喜んで────

 

 ……

 

 いや、やめておこう。

 あいつのエロを増長させるだけだし、ムッツリーニの口からあんな低い声を聞きたくは無い。

 あぁ……司さんと二人で笑っている所を想像したら寒気がしてきた……。

 

「気を遣ってくれてありがとう。でもこのことは皆には内緒にしておいてくれるかい? やっぱり怖がられたくはないからね」

「そうですね。分かりました」

 

 結局、司さんも普通じゃなかったな。

 でもちょっと変わった趣味を持っているだけで、それ以外は常識的でとてもいい人だ。

 うちの姉も少しは見習ってほしいものだ。

 

「それじゃ君も戻って休むといい。きっとお友達も君の帰りを待ってるよ」

「はい。忙しいところ、お時間ありがとうございました」

 

 僕は司さんに深く礼をし、皆の待つ部屋へ向かった。

 

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