僕と新年と初詣っ!   作:mos

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part X

 僕と美波は雄二たちに追い付き、屋台の並ぶ参道に戻って来た。

 

「おう、見つけたか島田」

「うん。絵馬の前でぼーっとしてたわ」

「ったく、何をやってるんだお前は」

「おみくじを結んでたんだよ。ほら、姫路さんが言ってただろ?」

 

 『良くなかったおみくじは”おみくじ掛け”に利き手と反対の手で結ぶといいですよ』

 

「ってさ」

「あ、そうだったんですね。それなら待ってれば良かったですね……」

「いやぁ、気にしないでいいよ。僕が勝手に立ち止まってただけだし」

 

 絵馬を見て考え込んでいたのもあるからね。

 言ったらバカにされそうだから言わないけど。

 

「みくじ掛けか、そういえばそんな物があったな」

「そうだ。雄二も凶だったんだろ? 結んできたら?」

「バーカ、俺はそんなもん気にしねぇよ」

 

 ……この人を小馬鹿にした態度が無性に腹立たしい。

 フン、まぁいい。いつか思いっきり痛い目を見ればいいさ。

 

「…………油断大敵」

「そうじゃな。雄二よ、重く受け止めよとは言わぬが、あまり軽んずるべきでもないと思うぞい? 油断すれば何か大きな災いが降りかかるやもしれぬ」

「所詮占いだろ。こんなモンで一年間を決められてたまるかよ」

 

 ははぁ。さてはこいつ、おみくじの結果を気にしてるな?

 だからこんなに否定的なことを言うんだ。

 こんなことでムキになるなんて、雄二も子供っぽいところがあるんだな。

 

「むぅ、確かにそうかもしれぬが……じゃがそのように(ないがし)ろにして、悪霊なんぞに祟られても知らぬぞ?」

「なんだ秀吉、お前そんなもん信じてるのか? この世に祟りなんてあるわけねぇだろ。悪霊が憑こうが何だろうが、そんなもんは迷信なんだよ」

 

 雄二は肩をすくめ、やれやれといった感じに両手を広げながら言う。

 これ、どう見ても意固地になってるよね。

 大人気ないなぁ。意地を張ってないで素直におみくじ掛けに結んでくればいいいのに。

 なんてことを考えていたら、

 

「……悪霊……」

 

 と、霧島さんが呟いた。

 

「しょ……翔子?」

 

 すると、さっきまで得意げに吠えていた雄二の顔から血の気が引いていくのが見えた。

 それはもうザザーッと音が聞こえてきそうなくらいに一気に。

 

「……雄二に憑いた悪霊は私が祓う」

「まっ、待て翔子! 落ち着け! 悪霊が憑いたと言ったわけじゃない! 例えの話だ!」

「……そうやって誤魔化すのが憑いてる証拠」

「ンなわけあるか!」

「……じっとしてて。すぐ終わる」

「くっ……! 食われてたまるかっ!」

 

 雄二が猛烈な勢いで走り去る。

 

「……待って雄二。まだ祓ってない」

 

 霧島さんはそれにぴったりと付いて走っていった。

 こんな人ごみの中、よくぶつかりもせず走り抜けられるものだ。

 

『……雄二、どうして逃げるの』

『お前が食おうとするからだ!』

『……私は悪霊を祓うだけ』

『だから憑いてねぇって言ってンだろ!』

『……大丈夫。痛いのは最初だけ』

『人の話を聞けぇーーっ!!』

 

 人垣の向こうにそんな声が遠ざかっていく。

 雄二も霧島さんも元気だなぁ。

 

「あやつらも体力があり余っておるようじゃの」

「お姉ちゃん、おっきいお兄ちゃんどうして急に走り出したですか?」

「あれは追いかけっこよ。あの二人はああして遊んでるの」

「そうなんですか? でも────」

 

『あ゛ぁーーーっ!!』

 

 雄二の叫び声が夜の境内に響き渡る。ついに食われたようだ。

 

「あんなに叫んでるですよ?」

 

 葉月ちゃんはまだ雄二のことをよく知らないんだね。それじゃ、教えてあげよう。

 

「大丈夫だよ葉月ちゃん、あれは楽しくてあげてる声なんだ」

「なーんだ、そうだったんですね。それならよかったですっ!」

「…………いつも通り」

「じゃが良いのか? あやつらを見失ってしまったぞい?」

「うーん、雄二と霧島さんなら大丈夫だと思うけど……。でも一応回収しておこうか」

「そうですね。それじゃ私達も行きましょうか」

 

 僕たちは雄二の走り去って行った方向に向かって歩き出した。

 

 そして数分後、道脇のベンチにて霧島さんのひざ枕でぐったりしている雄二を発見。

 無事合流を果たした。

 

 ただその時、美波が霧島さんを見ながら『なるほど……』なんて呟いていたのが凄く気になった。

 

 

 

      ☆

 

 

 

 雄二を叩き起こし、再び僕らは出口に向かって歩く。

 

「こうして見るとずいぶん沢山のお店があるんですね」

「いい匂いね。でもさすがにもう食べられないわ」

 

 確かにいい匂いだけど、美波の言うとおり僕たちのお腹はさっきのお餅で一杯だ。

 いくら美味しそうでもこれ以上はお腹に入らないよ。

 でもせっかくの出店が勿体ない気もするなぁ……。

 

「今日は真っ直ぐ帰ろうぜ。出店は五日間出ているから今日じゃなくてもいいだろ」

「そうじゃな。仕事疲れもあるからの」

 

 そっか、この出店って今日だけじゃないんだ。

 それならどんな店があるのかだけでも見ておこうかな。

 もしかしたら美波とまた来ることになるかもしれないし。

 

 僕はそう思い、両脇に立ち並ぶ店を眺めながら雄二たちの後ろを歩いた。

 

  焼きそば、たこ焼き、イカ焼き、お好み焼き、焼きトウモロコシ

  りんご飴、ベビーカステラ、大判焼、チョコバナナ

 

 左右には様々な種類の看板が並んでいる。

 子供向けの風船や縁起物の小物を売っている店もあるが、食べ物の店が圧倒的に多い。

 うーん……。お腹が一杯で食べ物の店には興味が湧かないなぁ。

 

 ん? あれはなんだろう?

 

 右手の店の一つに何やら人集(ひとだか)りができている。

 見た感じ、十人くらいの客がいるようだ。

 こういうのを見ると覗きたくなっちゃうんだよね。

 

 僕は吸い寄せられるようにその店の前に行き、人集りの後ろから覗き込む。

 するとそれは玩具のアクセサリを売っている店だった。

 なるほど、それで振袖姿の女の子が多いのか。

 これは男の僕には場違いな店だな。退散するとしよう。

 

 ……

 

 アクセサリか。

 

 そういえば美波にクリスマスプレゼントのお返しをしてなかったな。

 美波はあんなに頑張って手袋を作ってくれたのに……。

 

 今更かもしれないけど、やっぱり何かお返しのプレゼントをしたい。

 例えばこんな指輪とかどうだろう?

 うーん……でもアクセサリは前にもあげたし、アクセサリばっかりじゃ能が無いかなぁ……。

 もっと何か────

 

「バカなお兄ちゃんっ!」

「うわぁぁああっ!?」

「ふぇっ!? ど、どうしたですか!?」

「あ……。は、葉月ちゃん?」

 

 び、びっくりしたぁー……。

 

「バカなお兄ちゃん、みんな行っちゃいますよ?」

「あ、うん。すぐ行くよ」

「? バカなお兄ちゃん、それ買うですか?」

「へ? あ……」

 

 し、しまった! アクセサリを物色しているところを目撃された!?

 

「えっとね、そうじゃなくて、綺麗だなって思って見ていただけで、決して────」

「あ! 葉月これがいいですっ!」

 

 言い訳を考えているうちに葉月ちゃんは僕を押し退け、商品台から指輪を一つ取って指にはめてしまった。

 

「へ? これがって……ど、どういうこと?」

「葉月これが欲しいですっ! 買ってくださいですっ!」

「えぇぇっ!? ぼ、僕が買うの!?」

 

 葉月ちゃんは指にはめた指輪を眺めながら満面の笑みを浮かべる。

 こういう時の笑顔も美波にそっくりだ。

 って、そんなこと言ってる場合じゃなくて、僕が買うことになってることの方が重要だ!

 

「あ、あのね葉月ちゃん、それはお姉ちゃんと相談してからのほうがいいんじゃないかな?」

 

 僕は葉月ちゃんに言い聞かせ、この場を逃れようとした。

 せっかく給料を貰ったのに、ここで使ってしまったらゲームが買えなくなってしまう。

 なんとか結論を先延ばしにして財布を守らなくては……!

 

「ダメですか……?」

 

 ぅぐっ……そ、そんな涙目で見られたら……。

 くぅぅっ! だ、ダメだっ! ここはしっかりと美波のように厳しくするんだっ!

 

「妹さんにプレゼントですか? お買い上げありがとうございます。そちら、千円になります」

「……はい」

 

 女性店員の『買え』と言わんばかりの笑顔に僕の心は折れてしまった。

 ハァ……仕方ない。もう指にはめちゃってるし、買ってあげるとするか。

 僕は給料袋から五千円札を取り出し、店員さんに渡す。

 

「五千円お預かりします」

 

 あぁ……僕の給料……。

 

「四千円のお返しになります」

 

 しょうがない、僕も男だ。覚悟を決めよう。

 なぁに、千円くらいなら食費を切り詰めればなんとかなるさ。

 

「バカなお兄ちゃん、ありがとうですっ!」

 

 ……それにさっきまで機嫌が悪かった葉月ちゃんがこんなに喜んでるし。

 

「どういたしまして。それじゃ行こうか」

「はいですっ!」

 

 僕は葉月ちゃんの手を引いて歩き出した。

 ところが歩き出してすぐに、葉月ちゃんがこんなことを言い出した。

 

「あぅ……」

「ん? どうしたの? 葉月ちゃん」

「この指輪、おっきくて葉月の指にひっかからないです」

 

 本当だ。よく見たら葉月ちゃんの指は細くて指輪がスカスカだ。

 

「バカなお兄ちゃん、これはお姉ちゃんにあげてくださいです」

「へ? お姉ちゃん? 美波に?」

「これ、葉月にはまだ大きいみたいです。だからお姉ちゃんに譲ってあげるです」

 

 葉月ちゃんはそう言って指輪を外し、僕に差し出す。

 

「えっ? でもさっきはこれがいいって────」

「葉月にはおっきくなったら別のを買ってくださいですっ!」

 

 葉月ちゃんが僕の言葉を遮るように強引に指輪を突き出す。

 

「う、うん……」

 

 それならさっき買う前に言ってくれれば良かったのに……。

 もう指にはめちゃったし、今更返品するわけにもいかないよ。

 ハァ……。さっきから溜め息ばかりだな。

 

 僕は仕方なくそれを受け取り、上着のポケットに入れた。

 こんなことなら人集りに興味を持ったりするんじゃなかったな。

 おみくじは結んで来たけど、やっぱり運気は戻らないのかなぁ……。

 

(……ちょうどいいのが見つかって良かったですっ。まったく世話の焼けるお姉ちゃんです……)

 

 うん? 今、葉月ちゃんが何か呟いたような?

 

「葉月ちゃん? 何か言った?」

「なーんにも言ってないでーすっ」

 

 なんだ? ずいぶんご機嫌じゃないか。

 指輪が合わなかったのにどうしてこんなに嬉しそうなんだろう?

 

「それよりお姉ちゃんたちを追いかけるですっ。早くしないと置いて行かれちゃうですよ?」

「あ、うん。そうだね」

 

 なんか誤魔化されたような気もするけど、まぁいいか。

 

 ……お姉ちゃんに……か。

 僕が持っていても何の役にも立たないし、葉月ちゃんの言うとおり美波にあげるとするか。

 でもこんな安物の指輪で喜んでくれるかなぁ……。

 

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