僕と新年と初詣っ!   作:mos

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part Z

 全力疾走した僕たちはいつの間にか商店街を抜け、南口に出ていた。

 

「「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ……」」

 

 その南口でようやく秀吉を捕まえたわけだが、二人とも完全に息が上がっていて声も出せず、しばらくは肩で息をするのが精一杯だった。

 

「や……ぜぇ、ぜぇ……やっと捕まえたぞ秀吉……ぜぇ、ぜぇ……」

「……ぜぇ、ぜぇ……す、すまぬ明久よ。ワシの負けじゃ。許せ」

「さ……さぁ、さっき聞いたことを誰にも言わないと誓うんだ!」

「そ、そう……じゃな……。お主がもうワシを女扱いせぬと誓うなら考えても良いぞ?」

「……」

「そこは悩む所ではないじゃろ!」

「……嫌だと言ったら?」

「お主の声を真似て全校生徒に言い触らしてやるわい。放送室を借りて『僕は島田美波を嫁にしたいです』とな」

「やっ、やめてよ秀吉! そんなことされたら僕の学園生活が戦場になっちゃうじゃないか!」

「ならば迷うことはあるまい?」

「ぐ……」

「なぜ躊躇(ためら)うのじゃ……」

「……チッ、仕方ない。その条件飲もうじゃないか」

「むぅ、元々こんなことを条件にすること自体がおかしいと思うのじゃが……まぁ良いじゃろ。ともかく交渉成立じゃな」

 

 あんな恥ずかしいことを皆に言い触らされたら大変だ。

 特に須川君や清水さんの耳に入りでもしたら命がいくつあっても足りないよ。

 でもこれでさっきの話が漏れることもないだろう。

 ま、秀吉は女の子というか秀吉(性別)だし。

 

「ハァ、ハァ……やっと追い付いたわ……」

 

 秀吉との交渉が終わったところへ美波が追い付いてきた。

 そういえば夢中で秀吉を追いかけていて美波のことをすっかり忘れてた……。

 

「もう! 待ってって言ってるのに! この服、裾が絡まってうまく走れないんだからね!」

「ご、ごめん。あんまり秀吉がバカにするもんだからつい……」

「すまぬ島田よ、ワシも羽目を外し過ぎたようじゃ」

「ハァ……もういいわ。疲れちゃった。ここからはゆっくり歩きましょ」

「そうじゃな。じゃがワシはここまでじゃ。ここからは道が違うからの」

 

 あ、そうか。ここは昼間に秀吉と合流した場所か。

 

「では明久よ、この(むすめ)っ子を頼むぞい」

「りょーかい。美波、葉月ちゃんを乗せ替えてくれる?」

「うん」

 

 僕は後ろで手を組み、屈んで乗せやすい体勢を作る。

 

「よい……しょっと……。まったく世話が焼ける……わねっ……」

 

 そのまま待っていると、背中に”のしっ”と何かが乗せられた。

 もちろん葉月ちゃんだけど。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 耳元で静かな寝息が聞こえる。

 葉月ちゃんは乗せ替えられても目を覚ます様子は無い。

 すっかり寝入ってしまったようだ。

 

「悪いわね。アキ」

「これくらいどうってことないよ」

「さて、ワシは帰るとするかの。ではまたの」

 

 そう言いながら秀吉は手を振り、一人で脇道へ入って行く。

 

「お疲れ、秀吉」

 

 僕も手を振り返し、秀吉を見送った。

 

 ……しかし結構暗い道だな。一人で大丈夫かな。

 と思っていたら秀吉はピタリと立ち止まり、妙なことを言ってきた。

 

「そうじゃ。一つ言い忘れておった」

「ん? 何?」

「明久よ」

「うん」

「…………その手、二度と放すでないぞ」

「手?」

 

 手って、葉月ちゃんを放すなってこと?

 

「当たり前じゃないか。そんなことをしたら葉月ちゃんを落としちゃうだろ?」

「フ……やはりお主は明久じゃな。気にするでない。じゃあ、またの」

 

 そう言って秀吉は再び手を振り、夜道の中へ消えて行った。

 秀吉も時々変なことを言うなぁ。

 

「……僕たちも帰ろうか」

「うんっ」

 

 僕は葉月ちゃんを背負い、美波の家に向かって歩き出した。

 

 ……ん? ”二度と”?

 

 どういうことだろう。

 葉月ちゃんを背負ったことはあるけど、落としたことなんて一度も無いのに。

 ただの言葉の綾ってやつかな。

 

 まぁいいか。それにしても疲れたなぁ……。

 秀吉にからかわれたからってあんなに走るんじゃなかった。

 

「なんか疲れちゃったね」

「そうね。まさか働くことになるなんて思ってもみなかったわ」

 

 確かに働いたことによる疲労もあるけど、むしろ走ったことの方が大きかったりする。

 

「なんか今日一日で色々あったよね。今年こそ平穏無事に過ごせますようにって願かけしたのに」

「アンタそんなお願いしたの? あっ、葉月ウチが背負うわよ」

「ん。あぁいいよ。全然重くないしさ」

「そう? なんか悪いわね」

「ううん。気にしなくていいよ」

 

 僕たちは歩きながら話を続ける。

 

「ねぇアキ」

「うん?」

「神様にお願いしたのって、今言ったことだけなの?」

「いや、他にも色々とお願いしてきたよ」

「どんなことお願いしたの?」

「んーっと……。『この前応募した懸賞が当たりますように』とか、『雄二との百番勝負に勝ち越せますように』とか、『秀吉がちゃんと女の子として自覚しますように』とか……。他にもあったけど忘れちゃったな」

「……ハァ……」

「えっ!? なんでそんな残念そうな顔をするの!? 僕、何かおかしいこと言った!?」

「アンタ神様に何をお願いしてるのよ……」

「何をって、願望?」

「そうかもしれないけど、もっとこう……あぁもうっ! アンタに聞いたウチがバカだったわ!」

「へ? 美波もバカだったの?」

「バカっ! そういう意味じゃないわよ!」

「おわっ! 待った待った! 葉月ちゃん背負ってるんだから乱暴はだめだよ!」

 

 美波の振りかぶる腕を見た僕は反射的に身をよじる。

 すると、

 

  キンッ──

 

 と金属音がして、道路に何かが転がった。

 今の音はひょっとして……。

 

「? 何よこれ」

 

 美波はその小さな銀色の輪っかを拾い、まじまじと見つめている。

 あれは葉月ちゃんに買わされたガラス玉の指輪だ

 

「あぁ、それはね────」

 

 って……何て答えればいいんだろう。

 素直に葉月ちゃんに買わされたって言うべきなのかな。

 でも美波にあげてほしいって葉月ちゃん言ってたよね。

 これはどう判断したらいいんだろう。

 つまり”美波に買ってあげた”ということになるんだろうか?

 

「どうしてアキのポケットからこんなものが出てくるの?」

 

 そりゃ疑問に思うよね。男の僕が指輪なんてものを持ってたりしたらさ。

 こうして悩んでいてもしょうがないか。正直に答えよう。

 

「実はそれ、葉月ちゃんに買ってほしいって言われて買ったものなんだ」

「えっ? 葉月ったらアキにこんなものを買わせたの?」

「うん。でもサイズが合わないから美波にあげてほしいって言ってさ」

「ウチに?」

「うん。なんか他の人にあげちゃダメだって何度も念押しされたよ」

「そうなのね……。まったく、葉月ったら嘘をついたのね? 起きたら叱ってやらなくちゃ」

 

 美波が険しい顔をして言う。

 相変わらず美波は厳しいなぁ。

 

「あんまり叱らないでよ。実は僕もあそこで何か買おうかと思ってたんだ。まだ美波にクリスマスプレゼントのお礼をしてなかったからさ」

「えっ? そ、そんな、お礼なんていいわよ……。あの時も言ったでしょ?」

「でもやっぱりそれじゃ僕の気が済まないんだ。だからそれ、受け取ってくれないかな。美波の苦労に比べたら安っぽくて釣り合わないくらいの物だけどさ」

「……しょ……しょーがないわねっ。そんなに言うなら貰ってあげてもいいわよ?」

「うん。ありがとう美波」

「……でも」

 

 急に言葉を詰まらせた美波は、何か思い詰めたような目をしていた。

 そして、

 

「……ちゃんとアキの手で渡して」

 

 そう言って指輪を突き出してきた。

 

「別に手渡ししなくても同じだと思うけど……」

「ううん。全然違うわ。だからお願い」

 

 美波の目は真剣だった。とても真剣に、大きな瞳で僕を見つめていた。

 よく分からないけど、美波がそう望んでいるのならその願い、叶えてあげたい。

 

「分かったよ。美波がそう言うならそうする。でも今は葉月ちゃんを背負ってるから家に着いてからでもいい?」

「うん、いいわよ」

「それじゃそれ、上着のポケットに入れてくれる?」

「落とさないようにしっかり持っててよ? 落としたら傷付いちゃうんだから」

 

 そう言って美波は僕のポケットにそっと指輪を入れた。

 落とすなって言われても……。そもそも美波が殴り掛かってこなければ落とさなかったんだけどな。

 でも反論して怒らせるとまた落としてしまいそうだ。逆らうのはやめておこう。

 

「へいへいっと」

 

 僕はあまり体を揺らさないよう、ゆっくりと歩き出した。

 

 夜道は美波の表情がよく見えないくらい暗かった。

 だが真っ暗というわけでもなく、道の左右には等間隔に街灯が立ち、道を照らしている。

 その明かりは下を通る度に美波の嬉しそうな笑顔を照らし出す。

 

 ”貰ってあげる”なんて言ってたけど、喜んでくれてるみたいだな。良かった。

 

「そういえば美波は何をお願いしてきたの?」

「えっ? ウ、ウチ? ウチはその……ほら、将来のことよ」

「将来? どんな?」

「そっ、それはその……アキの…………(ゴニョゴニョ)……」

「ん? 僕の何?」

「……だから……(ゴニョゴニョ(およめさんに))……」

「ごめん、やっぱり聞こえないや。僕の何だって?」

「う~っ! ……な、ナイショっ!」

「え~……そこまで言っておいてそれはないよ。気になっちゃうじゃないか」

「そ、それよりアンタこそ他にお願いしたことを思い出しなさいよっ!」

「う……」

 

 実はもう一つお願いしてきたことがあるんだけど、言うのはちょっと照れくさいんだよね。

 皆に聞かれたら絶対に冷やかされるし……。

 でも今なら秀吉もいないし、葉月ちゃんも眠ってるから聞いてるのは美波だけか。

 よし、今なら言えそうだ。

 今更だから、ここは思い出したことにして……。

 

「あ、そうだ。思い出したよ」

「ホント? それで何をお願いしたの?」

「うん、えっとね、三年になっても、み────」

「んにゅっ」

「────みんなと一緒に居られますようにって!」

 

 あ、危なかった……。危うく葉月ちゃんに聞かれるところだった……。

 

「すぅ、すぅ……」

 

 って……あれ? 眠ってる? もしかして今のは寝言だったのか?

 なんだ、咄嗟に誤魔化しちゃったじゃないか。

 本当は”美波と”だったのに……。

 

「……ふ~ん……。そうなんだ」

「う、うん」

 

 ”うん”じゃないだろ僕。訂正しろよ。

 

(……ウチとじゃなくて皆なのね……)

「ん? 何?」

「ううん! なんでもないわ! それより観察処分のことはお願いしなかったの?」

「うん。それはしなかったよ」

「どうして? アンタの頭じゃ神様に頼みでもしないと無理だと思うわよ?」

 

 酷い言われようだ。

 

「そんなことないよ! 僕だってやる時はやるんだ!」

「ふ~ん、言うじゃない。それじゃ次のテストは瑞希並の点数を期待してるわよ」

「お、おうっ! 任せてよ……」

「どうして泣きそうな顔をするのよ」

「なんかもう無理な気がしてきた……」

「まぁそうでしょうね。安心してアキ。瑞希並っていうのは冗談よ。でもせめて瑞希の二分の一……三分の一? うーん……。五分の一でもいいわ。それくらいの点数は取りなさいよね」

「なんか一気にハードルを下げたね」

「だってアンタの実力じゃこの位の目標が妥当でしょ?」

 

 これってバカにされてるのかな。

 それとも理解してくれていると喜ぶべきなんだろうか。

 反応に困るな……。

 

「えっと……善処します」

「努力しなさいっ!」

「あははっ、冗談冗談、分かってるよ」

「ホントに分かってるのかしら」

「あぁ、もちろんさ」

 

 神様が僕の頭を良くしてくれないなんてことは分かってる。

 自分の努力がすべてであるということも分かってるさ。

 

 観察処分返上。

 これは神頼みでは叶えられない。自分の力で実現しなくちゃいけないことなんだ。

 




次回、最終話。
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