僕と新年と初詣っ!   作:mos

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part C

 十分ほど歩くと商店街が終わり、一戸建の住宅が立ち並ぶ道に出た。

 正面には住宅街としては場違いなくらいに高い木が生い茂る森が見えてくる。

 その木々の合間には大きな朱色の鳥居が顔を覗かせていた。

 鳥居は神社の象徴。あれが文塚神社だ。

 

 僕たち四人は他愛のない雑談をしながら神社に続く道を進む。

 

 そして歩くこと十分。文塚神社の入り口に着いた。

 入り口の鳥居の下には雄二と霧島さんの姿が見える。どうやら彼らの方が早かったようだ。

 

「お待たせ雄二、霧島さん」

「来たか、明久」

「……あけましておめでとう」

 

 雄二はジーンズに黒いジャンパー。ずいぶんとラフな格好だ。

 それに対して霧島さんは紫色の振袖姿。綺麗な黒髪には振袖と同じ色の大きな花を添えている。

 霧島さんはこういう色がよく似合うな。

 

「あけましておめでとうじゃ」

「あけましておめでとう翔子、坂本」

 

 秀吉と美波が続けて挨拶をする。まさに正月の情景といった感じだ。

 

「あけましておめでとうですっ! おっきいお兄ちゃん!」

「おう、チビッ子も来たのか」

「チビッ子じゃないです! 葉月ですっ!」

「そうかそうか。そりゃ悪かったな」

 

 雄二が葉月ちゃんの頭を撫でながら(さわ)やかに笑う。

 普段は目にすることのない、子供に接する雄二の笑顔。

 僕の目にはそれに子供召喚獣の時の雄二がダブって映り、思わずニヤついてしまった。

 

「なんだ明久、そのいやらしい目は」

「いやぁ、なんというか、ねぇ? ……にひひ……」

「……テメェ……何を企んでやがる」

「いや? 別に何も企んでなんかいないよ?」

 

 企みなんて無くて、ただ面白いだけだし。

 

「……やっぱり雄二は子供好き」

「あ? ンなことねぇよ。普通に挨拶しただけだろうが」

「ふふ……翔子の言う通りね。坂本、見ていて微笑ましいわよ?」

 

 霧島さんや美波も僕と同じことを思ったようだ。やっぱり皆そう思うよね。

 

「なっ、なんだお前ら! 俺を陥れるつもりか!?」

「隠さなくてもいいよ? 雄二が子供好きなのは皆もう知ってるからさ。ね、秀吉」

「そうじゃな。まさか雄二があのような緩みきった顔をするとは思わなんだがの」

 

 秀吉も子供召喚獣の時を思い出しているようだ。

 いやぁ、ホントあの子煩悩っぷりは面白かったなぁ。

 あの時の光景は今でもはっきりと脳裏に焼きついてるよ。

 

「くっ……! くっそぉぉっっ! あのクソババァの口車なんかに乗ったばかりにぃぃっ!!」

 

 皆でからかっていると、雄二は頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

 ここまで悔しがる雄二も珍しい。きっとあの親バカ状態がこの上なく恥ずかしかったのだろう。

 気持ちは分からないでもないが、これは滅多にないチャンスだ。

 今まで僕を散々バカにしてきたお礼だ。思う存分からかってやるとしよう。

 

「…………待たせた」

 

 などと思っていたらムッツリーニが到着したようだ。

 

「おおっ! やっと来たかムッツリーニ!」

 

 すると悶え苦しんでいた雄二は急に立ち上がり、ムッツリーニの到着を歓迎した。

 僕には『来たか』程度の軽い挨拶なのに、ムッツリーニにはこの対応。

 さてはこいつ、自分にとって都合の悪い話題だからこれをネタに流れを変えるつもりだな?

 そうはいかな────

 

「……ムッツリーニ、何? その荷物」

 

 よく見るとムッツリーニは大きなリュックを背負っていた。

 この荷物は何だろう。初詣ってキャンプみたいなことやるんだっけ?

 

「…………気にする程の物じゃない」

「いや、普通気になるだろ。初詣で何をするつもりだお前は……」

 

 雄二が呆れ顔で言う。さすがに雄二もツッコミを入れたくなったか。

 どう見ても一泊しそうな荷物にしか見えないよね。

 

「…………撮影会」

 

 ……なるほど。この荷物は撮影器具か。目的は巫女のお姉さんだな?

 確かにこんな時じゃないとなかなかお目にかかれない。

 

 しかしムッツリーニは年が明けても変わらないな。

 確か除夜の鐘って人間の煩悩を消し去るために鳴らしているんだったよね?

 人間には百八つの煩悩があるから百八回鳴らすんだとか。

 ということはムッツリーニの煩悩は百八つを超えるのか、そもそも効いていないのか。

 どちらにしてもこいつの欲望は未来永劫、変わることはないのだろう。

 

「ムッツリーニよ、あけましておめでとうじゃ」

 

 そんなムッツリーニを屈託のない笑顔で迎え入れる秀吉。

 

「…………っっ!!」

 

 だがその秀吉の姿を見た瞬間、ムッツリーニは目を見開いて怒りを(あらわ)にした。

 

「…………何故、振袖を着ていないっ!!」

 

 あ、それさっき僕が言ったから。

 

「やれやれ……。明久といいムッツリーニといい、何故ワシが女の格好をすることを当然と考えるのじゃ?」

「…………似合うから」

「ちっとも似合わんじゃろうが!」

 

 いや、そう思っているのは秀吉だけだと思う。

 というか、秀吉は性別を間違えて生まれて来たんだよ。きっと。

 なんてことを考えていると、横でムッツリーニがギラリと目を光らせた。

 

「…………問題ない」

 

 ムッツリーニはそう言いながら背負っていた荷物を降ろし、中から赤い布を引きずり出すと、

 

「…………準備してきた」

 

 鼻息荒くこう言って、秀吉にその服らしき赤い布を突き出した。

 この赤いのは……文月学園の女子用スカート? いや、それにしては布が大きい。

 

「なんじゃ? これは」

 

 秀吉が問うと、ムッツリーニは意気揚々をその服を広げて見せた。

 

「…………巫女装束」

 

 ……

 

 なんでこいつはこんな服を持っているんだろう。

 一瞬そんな疑問が湧いたが、なんとなく理解してしまった自分がいた。

 そう。ムッツリーニの煩悩は無限なのだと。

 

「嫌じゃ! 何故ワシがそのような格好をせねばならぬのじゃ!」

「いいんじゃない? 秀吉ならきっと似合うと思うよ?」

 

 思わずムッツリーニに賛同する僕。

 美波の振袖もよく似合っているけど、秀吉の巫女姿も同じくらいよく似合うと思うんだよね。

 

「…………明久」

「ん? 何?」

「…………お前の分もある」

 

 ……なんかムッツリーニがおかしなことを言った気がする。僕の気のせいだろうか。

 

「えっと……。何?」

 

 もう一度聞き直そうとすると、ヤツの手にはもう一着の赤い服があった。

 

 ……気のせいではないらしい。

 

「なんでそんなもの二着も持ってるのさ……。って言うかどうして僕の分なんだよ」

「…………ウィッグを忘れて来たが妥協する」

「何を妥協するんだよ!!」

「…………需要はある」

「無いよ!」

「…………安心しろ。二次配布は禁止する」

「そういう問題じゃないよ!?」

「いいじゃないアキ、着てあげれば? きっと可愛いわよ?」

「助長するような発言はやめてよ美波! あれは秀吉用なんだから!」

「待つのじゃ明久! ワシとてあのようなものを着たりはせぬぞ!」

「…………大丈夫。二人のサイズに合わせてある」

「「いつサイズを計ったの(じゃ)(さ)!!」」

 

 あぁ……なんかもう疲れてきた……。なんで元旦からこんなに大騒ぎしてるんだろう。

 もうさっさとお参りに行こうよ……。

 

 って、そういえば姫路さんがまだ来てないのか。

 遅いな……。待ち合わせ時間はもう過ぎているのに。どうしたんだろう?

 と少し心配になったところで、

 

「……瑞希」

 

 霧島さんが静かに呟いた。姫路さんが到着したようだ。

 その言葉に全員が道路に目を向ける。

 

『すみませ~ん! おまたせしました~っ!』

 

 道路の向こうから姫路さんがパタパタと走ってくるのが見える。

 次第に近付いてくる彼女は青を基調とした振袖がよく似合っていた。

 髪はいつもと違ってまとめ上げ、ポニーテールにしているようだ。

 それから……霧島さんに連絡していたのだろうか。

 手には携帯電話を持ち、その手を振りながら一生懸命に走っている。

 

 それにしても裾が足にまとわり付いていて、なんだかとっても走り辛そうだ。

 あんなに走って転ばなきゃいいけど……。

 

 と思っていたら、

 

『きゃっ!』

 

 やっぱり(つまず)いて転んでしまった。

 まずい! 道路には車も通っている! このままじゃ姫路さんが()かれてしまう!

 

「姫路さん!」

 

 僕は咄嗟に飛び出し、道路で(うずくま)る彼女に駆け寄った。

 

「大丈夫? 姫路さん。怪我はない?」

「いったたぁ……。あ……ありがとうございます明久君。大丈夫です……」

 

 姫路さんはそう言ってゆっくりと立ち上がる。

 よかった。どこも怪我はしていないようだ。

 

「瑞希、大丈夫? もう、携帯を放り出しちゃって……。壊れちゃうわよ?」

 

 美波がそう言ってピンク色の携帯を拾い、手に取って眺める。

 

「ちょっと傷が付いたみたいだけど問題ないみたいね。はい、って……ちょっと瑞希、アンタ帯が回っちゃってるわよ?」

「えっ? ……あ、本当ですね。美波ちゃん、ちょっと携帯持っていてもらえますか?」

「いいわよ」

 

 姫路さんは帯に手を掛けると、ゆっくりとズレを直していく。

 僕と美波はその様子を見守っていたわけなのだが……。

 

 うーん……。胸が窮屈そうに見えるのは僕だけだろうか……。

 

「あっ! 裾が汚れちゃってるじゃない! もう、しょうがないわね。瑞希、ちょっと後ろ向いて」

「えっ? こうですか?」

 

 姫路さんがくるりと後ろを向くと、美波はパタパタと裾や袖をはたき、付いた砂を落としていく。

 やっぱり美波は面倒見がいいな。

 

「まったく。慌てて走ったりするからよ?」

「すみません……。髪をまとめるのに時間が掛かってしまって……」

 

 ……それにしても……。

 

(絵になるなぁ……)

 

 いつもと違う着物の女の子二人を前に僕は至福を感じ、一人呟いていた。

 その直後、

 

  トントン

 

 と、誰かに後ろから肩をつつかれた。

 

 振り向くとそこには真顔のムッツリーニがいて、

 

「…………更に絵になる」

 

 などと言って赤い袴を差し出してきた。

 どこまで本気なんだこいつは……。

 いや、最初から全力で本気か。でなきゃ衣装なんて持ってくるわけないもんな。

 

『おーい、全員揃ったから行くぞー』

 

 いつの間にかいつもの調子を取り戻していた雄二が皆に指示する。

 あいつに助けられるのは不本意だけど、この際仕方ない。

 ここで巫女にされるよりはマシだ。

 

『ムッツリーニ、後でしっかり撮影会の時間を取るから今は我慢しろ』

 

 はいぃ!?

 

「ゆ、雄二ぃぃっ! そんなこと勝手に決めるなよ!!」

「…………了解」

「いや、了解じゃなくて着ないからね?」

 

 ムッツリーニは僕の言葉に耳を貸す様子も無く、まるでスキップでもするかのように境内(けいだい)に入って行く。

 おのれ雄二……。余計なことを言ってくれる……。

 

「明久君? どうしたんですか?」

「ほらアキ、行くわよ」

「あ、うん」

 

 ……雄二の思いどおりになんかさせるもんか。

 お参りが終わったらさっさと逃げてやる。

 

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