僕たちは境内を歩き進む。姫路さんの言う拝殿までは結構距離があるようだ。
混んでいて思うように歩けないこともその距離を長く感じさせているのかもしれない。
「それにしてもすっごい混んでるわね」
「そうか? 今年はまだ少ない方だぞ?」
「これで少ないって言うの? これ以上の混雑って言ったら満員電車みたいじゃない」
「……迷子にならないように」
「そうね。葉月、しっかり手を……あ、あれ?」
「ん? どうしたの? 美波」
「ねぇアキ、葉月どこに行ったか知らない?」
「うん? 葉月ちゃんならすぐ後ろに────って、あれ? いない?」
「どうした島田、チビッ子がいないのか?」
「う、うん。後ろについて来てると思ってたんだけど、今見たらいないのよ」
美波が心配そうに辺りを見回しながら言う。
確かさっきまで後ろで姫路さんと話していたはずだけど……。
「…………姫路もいない」
「んむ? 確かにおらぬな」
「なんだと? ったく、しょうがねぇな。早速迷子かよ」
「……女の子二人は危険」
「だな。よし明久、姫路に電話してみろ」
「いいけど……でもなんで僕の携帯なのさ。雄二だって携帯持ってるじゃないか。まさか電話代が勿体ないとかそういった理由じゃないだろうね」
「俺の携帯には翔子の番号しか入ってねぇんだよ……」
そういえばそうだった。こいつも苦労してるんだな。
「……浮気は許さない」
すぐ横では霧島さんが静かに、それでいて凄まじい殺気を放ちながら雄二の肩を握っている。
「お主らも仲睦まじいのう」
「…………妬ましい」
「お前ら……この状況を見てもまだそういうことを言うか……」
それだけ霧島さんの気持ちが強いってことだよね。雄二もそろそろ覚悟を決めればいいのに。
なんてことを考えていると、
「アキ! そんなことより早く電話しなさい! 葉月も一緒にいるかもしれないんだから!」
美波に怒鳴られてしまった。
「あっ、そ、そうだね」
雄二をからかってる場合じゃなかった。
僕は携帯を取り出し、アドレス帳から姫路さんを選択。通話ボタンを押して耳に当てた。
すると、
Prrrrrr……
すぐ近くから携帯の着信音が聞こえてきた。
もしかして姫路さん、すぐ近くにいるのか?
僕は周囲を注意深くゆっくりと見渡し、青い振袖のポニーテールを捜す。
Prrrrrr……
携帯は近くで鳴り続けているが、それらしい姿は見当たらない。
ということは他人の携帯か。紛らわしいな。
僕は携帯を耳に当てたまま、姫路さんが電話に出るのを待った。
Prrrrrr……
姫路さん出てくれないなぁ……。
Prrrrrr……
うるさいな。誰の携帯だ? 早く出ればいいのに。
って……。
「ねぇ美波」
「瑞希、出ないの?」
「うん。そうなんだけどさ。なんか美波の携帯も鳴ってない?」
「えっ? ウチの?」
「んむ。その巾着の中で鳴っておるようじゃな」
「でもこれってウチの携帯の音じゃ……あ!」
美波が何かを思い出したように手提げの巾着に手を入れる。
そしてそこから振動しているピンク色の携帯を取り出した。
Prrrrrr……
表側のディスプレイには”明久君”と僕の名前が表示されている。
「美波、それって……」
「……瑞希の携帯」
「そういえばウチが預かったのを忘れてたわ……」
「えぇっ!? そうなの!? それじゃ姫路さんに連絡が取れないじゃないか!」
なんてことだ! こうしちゃいられない! 二人に何かあったら大変だ!
「僕ちょっと捜してくる!」
こういう人が集まる場所は悪い人が出ることも多いと聞く。とにかく急いで捜さないと!
僕は心配で居ても立ってもいられなくなり、行き先も考えずに走り出した。
「ウチも捜してくる!」
後ろからそんな美波の声が聞こえてくる。
そうだ、手分けして捜せばきっとすぐに見つかるはずだ!
「待て! 島田! 明久!」
ところがその走り出した僕らを雄二が呼び止めた。
「なんだよ雄二! 急がないと二人が巻き込まれたら犯罪が危ないんだぞ!」
「島田、明久を一人にするな。今のこいつは日本語が不自由なくらいに気が動転している。これ以上迷子を増やすな」
「なんだとっ!」
雄二の言葉にカチンと来た僕は発言の撤回を求めようと身を乗り出す。
「何言ってんだよ! 僕のどこが────」
「分かったわ! 行くわよアキ!」
「────おわっ!」
しかし文句を言う前に僕は襟首を掴まれ、もの凄い力で引きずられた。
「ちょっ、ちょっと待って美波! 後ろ向きに引っ張らないで! せめて前向きに歩かせて!」
「いいから早くしなさい!」
「だから後ろ向きだってばぁ!」
僕の訴えを聞こうともせず、ずんずんと歩き出す美波。
体勢を変えようにも襟首をがっちりと掴まれていて、身を反転することもままならない。
できることと言えば、なんとか転ばないように足を運ぶことだけだった。
仕方ないのでとりあえず足元に注意しながら後ろ向きに歩き始める僕。
すると、雄二が皆に指示を出しているのが見えた。
「俺たちも捜すぞ。だがバラバラに行動するとミイラ取りがミイラになっちまう。二人一組で行動しろ。秀吉はムッツリーニと行け。見つけたら俺にすぐ連絡しろ」
「んむ。了解じゃ」
「…………了解」
つまり僕と美波、雄二と霧島さん、秀吉とムッツリーニの三組で捜すということらしい。
なるほど。クラス代表を一年近くやっているだけあって、こういう時の統率力はさすがだ。
というかそんなことより、
「美波、ちょっと落ち着いてよ」
「これが落ち着いていられるわけないでしょ!」
「大丈夫だよ。葉月ちゃんならきっと姫路さんと一緒さ」
「だから心配なのよ! 瑞希だって危ないのよ? あの子、しっかりしてるようでどこか抜けてるところがあるんだから!」
「そうかもしれないけど……。とりあえずさ」
「なによ!」
「襟、放してくれないかな」
「あ……。そ、そうね」
会話をしたことで少し落ち着きを取り戻したのだろう。
僕はようやく前を向いて歩くことを許された。やれやれ。やっと人間らしい歩き方ができる。
よし、それじゃ二人を捜さなくちゃ。
でも手当たり次第に捜してもこの混雑じゃ時間ばかり掛かってしまいそうだ。
まずは二人がいなくなった時の状況の確認だ。
姫路さんと葉月ちゃんを最後に見たのは大体五分ほど前。
一番後ろを楽しそうに話しながら歩いていた。
その時も葉月ちゃんはあちこちを指差しては、あれは何これは何と姫路さんに怒涛の質問攻撃をしていた。このことから察するに、恐らく二人がいなくなった原因は葉月ちゃんだ。
葉月ちゃんが一人で行ってしまいそうになったのを姫路さんが追ったか、もしくは葉月ちゃんが何かに興味を持って姫路さんを連れて行ってしまったか。
どちらにしても考えるべきは葉月ちゃんの行きそうな場所だ。
「美波、葉月ちゃんが行きそうなところに心当たりは無い?」
「うーん……。葉月も初詣なんて初めてだから珍しいものだらけだろうし……。見当もつかないわね……」
「そっか……」
困ったな。こうなるともう地道に捜すしかない。
でも境内は人が多くて道幅もかなり広いから、下手に動くとすれ違ってしまう可能性もある。
雄二たちはどこを捜してるんだろう? 聞いてみるか。
「ちょっと雄二と相談してみるよ」
「うん」
僕は携帯を取り出し、雄二を呼び出す。
『明久か。見つかったか?』
こういう聞き方をするってことは雄二もまだ見つけていないんだな。
「いや、まだなんだ。雄二はどこを捜してる?」
『俺たちは左の出店側だ。秀吉とムッツリーニは右側を集中的に捜している』
なるほど。広いとはいえ、ここまで一本道だ。
皆でカバーし合って満遍なく捜せば必ずどこかで見つかるというわけか。
『どうせお前は道の真ん中ばかり捜してるんだろ?』
「なっ……! なぜ分かった……」
『それなりに長い付き合いだからな。いいからもお前はそのまま道の中央付近を捜せ。見つけたら俺に連絡しろ』
「分かった」
Pi
「坂本なんだって?」
「雄二たちは道の両端を捜してるって。僕らはこのまま真ん中を捜すよ」
「分かったわ」