僕と新年と初詣っ!   作:mos

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今回はお作法の時間です。
へ~、こんな手順があるんだね。
という感じにご覧いただければと思います。



part H

 人ごみの中を歩くこと十五分。僕たちはようやく手水舎(ちょうずや)に到着した。

 そこでは何人もの人が列を成していた。ここも他と変わらず混雑しているようだ。

 

「混んでるな。仕方ねぇ、並ぶぞ」

 

 雄二が諦め口調で言う。まぁ並ぶしかないよね。

 

「明久君、手順覚えてますか?」

「う……」

 

 困った。さっきの迷子騒動ですっかり記憶が飛んでしまった。

 

「ご、ごめん姫路さん」

 

 最初に手を洗うことくらいしか覚えてないや……。

 

「まぁ仕方ないんじゃない? アキだし」

「そうだな。明久だからな」

「んむ。明久じゃからな」

「…………明久だから」

「なんで皆して僕の名前を連呼するのさ」

 

 これってバカにされてる? されてるよね?

 

「それじゃ明久君は私の横に並んでください。一緒にやりましょう」

「あ、うん」

 

 僕はとりあえず姫路さんのちょうど横になるように並んだ。

 その後ろには美波と葉月ちゃん。続いて雄二と霧島さん、ムッツリーニと秀吉が並ぶ。

 

 列は順調に進み、次々に人が去って行く。

 皆手順を覚えているのだろうか。小さな子供までもが何の戸惑いも無く手を洗っている。

 ど、どうしよう。なんだかドキドキしてきた……。ただ手を洗うだけなのに……。

 そんな妙な緊張感に包まれていると、すぐに順番が回ってきてしまった。

 

「いいですか明久君、私の真似をしてくださいね」

「う、うん」

 

 姫路さんは柄杓(ひしゃく)を手に取り、水を掬って左手に流す。

 僕もぎこちなく柄杓を取り、湧き出ている水を掬った。

 

「違いますよ明久君」

「へ? 何が?」

「柄杓はまず右手に持って、左手を清めるんです」

 

 そういえばそんなことを聞いた気もする。

 正直どっちが先でも同じだと思うけど……でも作法なら仕方ないか。

 僕は言われた通り柄杓を持ち替え、左手、右手の順に手を洗う。

 うぅ、やっぱり冷たいなぁ……。冬の水仕事ってこれが嫌なんだよな。

 

 続けて姫路さんは手に取った水で口を濯ぎ、もう一度水を掬って左手に水を流した。

 これで手順は終わりらしい。

 なんだ、難しいことなんて何も無いじゃないか。緊張して損をした気分だ。

 

「はいっ、これでおしまいです。どうですか? 覚えましたか?」

「うん」

 

 次の参拝の時に覚えているか怪しいけどね……。

 

「次はウチらの番ね。葉月、お姉ちゃんの真似をするのよ」

「はーいですっ」

 

 僕らに続いて美波と葉月ちゃん、雄二たちと続けて手を洗う。

 うーん……。やっぱりこういう作法ってのは苦手だなぁ。

 

「…………終わった」

「終わったぞい」

「全員終わったな。じゃあ参拝に行くか」

 

 全員が手を洗い終え、僕たちは雄二を先頭にぞろぞろと境内を進む。

 その間、皆は”どんな願い事をするか”という話題で盛り上がっていた。

 

 願い事、ねぇ……。

 神様なんて本当にいるのかな。天使と悪魔はたまに出てくるけどね。

 そういえばあいつら最近出てこないな。前は事あるごとに出てきて僕の思考を邪魔したのに。

 まぁ出てこなくていいんだけどさ。

 

「明久はどんな願い事をするんですか?」

「ん? 僕の願い? そうだなぁ……」

 

 あんまり考えてなかったな。

 願い事か。何でもいいのかな? 欲しいものは沢山あるけど……。

 

「あ、でも信仰の薄い人の願いは叶えてくれないそうですから、しっかり礼儀を尽くしてくださいね。さっきの手水舎もその一つですから」

「えぇっ!? そうなの!?」

 

 しまったー! もっと真剣に洗うんだった!

 

「お前は信仰薄そうだからな。きっと何を願っても叶えてくれないだろうな」

「今から信じるよ!」

「バーカ、今更おせぇよ」

「くっ……」

「そんなことないですよ。今からだってきっと願いは聞いてくれますよ」

「ほら見ろ! 姫路さんだってああ言ってるじゃないか!」

「わかったわかった。じゃあ願うだけ願ってみるんだな」

 

 そんな話をしながら歩き、程なくして拝殿前に到着。

 そこでは沢山の人が手を合わせ、絶え間無くガラガラと鈴の音が鳴り響いていた。

 

「明久君、ここでもお作法がありますからね。まず私がやってみせますからよく見ててください」

 

 そう言うと姫路さんは軽く会釈をし、吊り下げられている紐を揺らして鈴を鳴らした。

 もう手順が始まっているようだ。

 続いて姫路さんは財布から一枚の硬貨を取り出し、賽銭箱に投げ込む。

 キラキラと放物線を描きながら賽銭箱に飛び込む硬貨。それは五十円玉のように見えた。

 

「……」

「どうした明久。なけなしの金を排水溝に落としたような顔をしているぞ?」

「いや……。願い事を聞いてもらうのにもお金がいるんだなって思ってさ……」

 

 地獄の沙汰も金次第ってやつかな。

 いや、神様だから地獄ではないか。どっちにしてもお金が要ることには変わりないんだな。

 

「お主らしいのう。じゃがタダで願い事を聞いてもらおうなど虫が良すぎるのではないかの?」

「そうかもしれないけどさぁ……」

「……お賽銭は神様へのお供え物」

「翔子、お前よくそんなこと知ってるな」

「……一般常識」

「だそうだ。明久、つまりお前は一般常識が無いってことだな」

「雄二だって知らなかったんだろ!」

「明久よ、そんなことより姫路を見ておらんで良いのか?」

「あ……」

 

 一般常識がどうこう言ってる場合じゃなかった。見ていないと手順が分からないじゃないか。

 えっと、お賽銭を入れた後は……。

 

 お辞儀を二回して、手を二回打って……。

 それから手を合わせて念じる……と。

 それでもう一度お辞儀をして……。

 

「はいっ、これでおしまいです。覚えましたか?」

 

 なるほど。それほど難しくはないな。これなら僕にだって覚えられる。

 

「うん。バッチリさ」

「それじゃアキ、ウチと一緒にやりましょ。葉月もよ」

「はいですっ」

 

 僕らは賽銭箱の前に立ち、姫路さんの示した通りに二回礼をする。

 そういえば賽銭っていくら入れればいいんだろう?

 さっき姫路さんは五十円玉を入れていたみたいだけど……。

 

 横を見ると、美波が五十円玉を葉月ちゃんに手渡しているのが見えた。

 美波たちも五十円か。じゃあ僕も同じにしておくかな。

 僕も財布から五十円玉を取り出し、美波たちに続いて賽銭箱に投げ入れた。

 そして三人揃って鈴をガラガラガラと鳴らす。

 

 さぁ願い事だ。美波と葉月ちゃんは既に手を合わせて祈っている。

 僕も手を合わせ、願い事を強く念じた。

 

「「「……」」」

 

 どうせ願うなら一つも二つも同じだろう。この際色々と頼んでしまおう。

 

「ふぅ。ウチは終わったわよ」

「葉月も終わりましたっ」

「アキはまだなの?」

「うん、もうちょっと……」

 

 あれとこれと……。あと、ついでに……。

 

「………………」

 

 よし、こんなところかな。

 

「お待たせ」

「ずいぶん長かったわね」

「まぁね。色々とお願いしてきたよ」

「あはは……。明久君らしいですね……」

「欲望の塊かお前は……」

「そんなに欲張っても叶えてはくれぬぞい?」

「いいじゃないか。せっかくお賽銭入れたんだしさ」

 

 沢山の願い事のうち、どれか一つでも叶えてくれれば十分さ。

 

「欲望と言えばムッツリーニよ。お主の願いは多そうじゃな」

「…………数え切れない」

 

 だろうなぁ。あいつの煩悩は除夜の鐘にも屈しなかったくらいだし。

 

「んじゃ俺達の番だな。行くか」

「……うん」

 

 霧島さんと雄二、それに秀吉とムッツリーニが賽銭箱の前に進み、次々に硬貨を投げ入れる。

 そして四人揃って手を打つと、手を合わせて祈りはじめた。

 僕らはその様子を静かに見守る。

 

 皆、真剣に祈っているみたいだ。

 見たところ特にムッツリーニが真剣になっているように思える。

 程なくして皆は参拝を終えて戻ってきた。

 

 ……ただし、ムッツリーニを除いて。

 

「翔子は何をお願いしたの?」

「……三十九人の子供が健やかに育ちますように」

 

 美波が尋ねると、霧島さんは頬に手を当てて恥じらいながら答えた。

 僕はそんな彼女をとても可愛いと思った。

 

 霧島さんははっきりと将来の夢を持っているんだな。

 僕の願い事なんて遊びばかりだ。なんだか子供っぽい自分が恥ずかしい気がしてきた……。

 三十九人の子供というのが現実的かどうか分からないけどさ。

 

「さすが翔子ちゃんですね。素敵な願い事ですっ」

「ホント、将来が楽しみね」

「……頑張る」

「姫路に島田、助長するのはやめてくれ……。こいつの場合マジで洒落にならねぇんだよ……」

 

 美波たちの言葉に嬉しそうな霧島さんに対し、雄二は心底困り果てた顔をしていた。

 こいつのこういう顔を見るのは愉快だな。

 いつも僕をバカにしている報いだ。存分に苦しむがいいさ!

 

「…………待たせた」

 

 そんな話をしているうちにムッツリーニが戻って来た。

 僕より時間を掛けていたな。きっと山ほど願い事を言ってきたのだろう。

 

「よし、それじゃあ出店を見て回るか」

「……雄二、その前におみくじ」

「あぁ、そうだったな」

 

 おみくじか。あの吉とか凶とかが書いてある札のことだよね。

 いわゆる運試しってやつかな。

 

「おみくじは今年一年の運勢を占うんですよ」

「星占いみたいなものかしら」

「ちょっと違いますけど……。とにかく行きましょうか。やってみれば分かりますし」

「……社務所(しゃむしょ)はあっち」

「ずいぶん混んでおるようじゃな」

 

 霧島さんが指を差す先には木造の建物があり、その前には行列ができていた。

 ところで”しゃむしょ”ってなんだろう?

 

「ねぇ霧島さん、社務所って何?」

「……お守りやおみくじを売っている所。一般に言う売店のこと」

「あぁ、なるほど」

 

 さすが霧島さん。難しい言葉を知っている。

 

「ま、とにかく行くか」

 

 僕たちはその”社務所”へと向かい、行列に並ぶことにした。

 

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