僕と新年と初詣っ!   作:mos

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part I

 僕らはおみくじ販売の列の最後尾に付いた。

 ここからは窓口が見え、巫女さんが忙しそうに動き回っているのが見える。

 窓口には販売品の値段が書かれた札が張ってあるようだ。

 

「おみくじは百円ですね」

「他にお守りとかも売ってるのね」

「お姉ちゃん、あれはなんて読むですか?」

 

 葉月ちゃんが指差す先には、”破魔矢”と書かれた札が張ってある。

 ふむ。あれならゲームでよく見ていたから読み方は知っている。”はまや”だ。

 

「ごめんね葉月、お姉ちゃんにも読めないわ」

 

 美波には読めないのか。日本語に慣れてきたとはいえ、まだ読めない漢字も多いんだな。

 まてよ? これはチャンス到来なんじゃないか?

 今まで教わってばかりだったけど、ここで僕がサッと答えれば皆も僕を見直すはずだ。

 よぉし! これで名誉挽回だ!

 

「…………”はまや”と読む。男児用の縁起物。魔を打ち払うとされる」

 

 と思っていたらムッツリーニが先に答えてしまった。チッ、余計なことをしてくれる。

 というか、これって縁起物だったなのか。ゲームでは武器として使っていたんだけど……。

 

「ほう。よく知っておるのうムッツリーニ」

「…………一般常識」

 

 霧島さんの真似をしているのか、本気でそう思っているのか。

 少なくとも僕の中の常識では、これは『聖なる力』を持つ『武器』だった。

 でも皆の反応を見る限りは縁起物というのが正しいのだろう。

 ここはムッツリーニに先を越されて正解だったようだ。

 もし僕の知識で答えていたら要らぬ恥を掻いていたところだ。

 

「ふ~ん……結構いい値段するのね。えっと……瑞希、あっちは”えうま”でいいの?」

「正しくは”えま”ですね。あれに今年の目標や祈願を書いて絵馬掛けに掛けるんです」

「へぇ~、そうなのね」

 

 へぇ~……そうなんだ。

 

「そういうことらしいわよ。アキ、分かった?」

「なっ、なんで僕が知らないことを前提として話を振るのさ」

「だってアンタ、”知らなかった”って顔をしてるもの」

「ぅぐ……」

 

 見透かされているなぁ……。

 確かに絵馬が何なのか知らなかったさ。破魔矢の読み方なら知ってたんだけどな。

 

「次、お待ちの方どうぞ~」

 

 そんな話をしているうちに列は進み、いつの間にか順番が回ってきていた。

 おっと、お金を用意しないと。確かおみくじは百円だったな。

 僕は財布から百円玉を取り出し、カウンターの先にいる女性に声を掛ける。

 

「えっと、おみ────」

「あれ? 吉井君? それに代表?」

「ほぇ?」

 

 すると僕の言葉を遮るように受付の女性が話し掛けてきた。

 どうして僕の名前を知ってるんだろう。それにこの声、どこかで聞いたような?

 

「……愛子?」

 

 霧島さんが呟くようにその名を呼ぶ。そうだ、工藤さんだ。

 彼女は白衣に身を包み、裾の長い赤い袴を穿いていて、その姿はまるで巫女のようだった。

 というか巫女そのものだ。

 見慣れない格好をしていたから気付かなかったな。

 でもどうして工藤さんが巫女の格好をしておみくじなんか売ってるんだろう?

 

「……こんなところでどうしたの」

「どうしたのって、バイトみたいなものかな?」

「……そうなの」

 

 つまり巫女の仕事ということだろうか。

 そんなバイトがあるなんて初めて知ったな。

 

「愛子ちゃん、あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとう愛子。新年早々、頑張ってるわね」

「あ、瑞希ちゃんに美波ちゃん、あけましておめでとっ」

「しかし工藤も元旦からバイトとは気合入ってるな」

「何か欲しいものでもあるのかの?」

「ん~。そういうわけじゃないんだよね。ちょっと事情があってさ」

 

 ……何だろう。なんだか雰囲気がいつもの工藤さんじゃないような気がする。

 いつもならもっと軽いノリで受け答えしているような……?

 衣装のせいでそう感じるだけだろうか。

 

「実はこれ、叔父さんの手伝いなんだ」

「……叔父さん?」

「ボクの叔父さんがここで働いててね。忙しいこの時期だけ手伝いに来てるんだ」

「なるほど。確かにこの混雑だ。人手は欲しいだろうな」

「うん。でもまいっちゃったよ。ボクは明け方から昼までの予定だったんだけど、今日来る予定だった人が急に休んじゃってね。それでボクが継続してやってるんだ」

「そうなんですか? それは大変ですね……」

「しょうがないよ。今から募集しても集まらないし、募集してる余裕も無いからさ」

 

 確かに社務所の中には工藤さん一人。

 中は結構横に広くて、見たところ三つの販売口がある。

 けれどそのうち二つは閉められていて、両方とも”左へお並びください”と貼り紙がしてある。

 

『おーい! 早くしてくれよ!』

 

 窓口を眺めていたら突然後ろから催促の声が上がった。後ろに並んでいる客の声だろう。

 

「あぁはいはいっ! 皆ゴメンね、ゆっくり話したいところだけどご覧のとおり忙しくてさ」

 

 せっかく友達と話してるのに無粋なヤツだ。そんなにおみくじを引きたいのか?

 と思って後ろを見ると、僕らの後ろには十人を超える人が列を成していた。

 いつの間にこんなに……。さすがにこれは話し込んでいる僕らの方が悪いか。

 

「なんか私達お仕事のお邪魔みたいですね」

「そうね。邪魔しちゃ悪いし、ウチらはおみくじを買って行きましょ。アキ、さっさと買うわよ」

「うん。というわけで工藤さん、おみくじを一回ずつ頼むよ」

「おみくじだね、一回百円だよ。そこの筒をひっくり返して出てきた棒に書かれてる番号を言ってね」

 

 筒? と思ってカウンターの上を見ると、脇に六角形の筒が置いてあった。これがそうか。

 僕は百円玉を工藤さんに渡し、筒を手に取る。

 よく見ると筒の上部に小さな穴が一つだけ開いているようだ。この穴から棒が出てくるのか。

 福引みたいなものかな。よし、まずはよくシャッフルして……。

 

 僕は筒を前後に景気よく振り回した。

 筒は動きに合わせてジャラジャラと小気味良い音を立てる。

 なんだかバーテンダーになった気分だ。

 

 さて、これくらいでいいかな。

 頃合いを見て筒をひっくり返すと、中から一本の棒が出てきた。

 その黒い棒には漢数字で赤く、『六』と書かれていた。

 

「工藤さん、六番だって」

「六番ね、じゃあこれだね」

 

 そう言って工藤さんは折り畳まれた紙を差し出してきた。

 なるほど。番号に応じた紙が渡されるのか。

 

「明久、とりあえず脇によけろ。他の客の邪魔になる」

「うん」

 

 僕は少し離れた人の通らない場所に移動し、皆を待った。

 

 ……

 

 今年の運勢……か。

 

 手元の紙切れを眺めながら、僕は思った。

 

 あと二ヶ月もすれば再び振り分け試験だ。

 前回は自分では良い出来だと思ったのに、結果はFクラスだった。

 やはり勉強不足であったことは否めない。

 

 でも今年は違う。

 姫路さんが同じクラスになり、Aクラスとの試召戦争に勝ちたいという思いもあって、

 勉強する時間も格段に増えている。

 おかげで僕にも世界史という得意科目ができて、点も取れるようになってきた。

 今度こそDクラス以上は目指せるはずだ。

 

 ただ、去年と違うことがもう一つある。

 それは美波の存在。

 今の僕にとって美波はかけがえの無い、なくてはならない存在となっている。

 

 ……僕は美波と離れたくない。また一緒のクラスで楽しく過ごしたい。

 きっと美波もそう思ってくれていると思う。

 

 確かに振り分け試験で意図的に同じクラスになる方法はある。

 途中退場するか、答案を白紙で出せばいい。そうすれば確実にFクラスだ。

 けれど、たとえ僕がこの話を持ち掛けたとしても美波は拒むだろう。

 美波は真面目だ。私欲のためにわざと0点を取るような真似は彼女の性格が許さないと思う。

 

 ……でも……。

 

 もし振り分け試験の結果が離れていれば別のクラスになってしまう。

 

 ……

 

 このおみくじに振り分け試験の結果を占うようなことが書かれているのだろうか……。

 

「バカなお兄ちゃん? どこか痛いですか?」

 

 気付くといつの間にか目の前に葉月ちゃんがいて、僕の顔を見上げていた。

 そんなに痛そうな顔をしていたのだろうか。

 

「ううん、大丈夫だよ。ちょっと考え事をしてたんだ」

 

 ……こんなことを悩んでいてもしょうがない。

 

「そうですか? それならよかったですっ!」

「うん。心配してくれてありがとうね」

 

 おみくじの結果に関係なく、僕が頑張るしかないんだ。

 美波と同じくらいの点数を取れるくらいにね。

 

「お待たせしました~」

「これに運勢が書いてあるのね」

「そういうことだ。開けるのは皆揃ってからにしようぜ」

「……楽しみ」

 

 そうしているうちに皆は紙切れを手に続々と集まって来ていた。

 

「待たせたのう」

「…………買ってきた」

 

 最後のムッツリーニがおみくじを手に戻ってきた。これで全員かな。

 

「よし、全員揃ったな。じゃあここは通行人の邪魔になるから少し移動するぞ」

 

 雄二の指示で皆が移動を始める。

 

「……愛子、がんばって」

「あ、うん。ありがと代表」

 

 霧島さんの言葉に工藤さんはいつものように明るい笑顔で返した。

 だがすぐに真剣な表情に変わり、客の対応に追われはじめた。

 本当に忙しそうだ。

 

 そういえば明け方から働いているって言ってたな……。

 

「…………」

「どうした明久。行くぞ」

「あ、うん」

 

 なんか……ちょっと気の毒だな……。

 

 僕はそう思いながら皆について歩いた。

 

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