高速道路を疾走する車内。部下たちが周囲を警戒している中、俺は助手席で胃の痛みに耐えていた。
こんな状況で隊長が不安そうな顔していたら士気にかかわるから無理やりにでも平気な顔してなきゃならんのだが、じゃあ平気か?って言われたら平気なわけない。
そもそも衛星電話が通じないってのがおかしい。アフリカとかロシアの辺境ならまだわかるが、ここは日本の高速道路。つまりこの通信障害はあの金髪の仕掛けたことだろ。
だが、何をどうやっているのかさっぱりわからん。仕組みがわからんことには対策も立てられんのだが。
いや、そもそもあの金髪、俺の顔を一目見ただけでなぜかターゲットだと確信して向かってきたよな。『見つけた』って言ってたし。
何故だ?誰かが裏切ってるのか、こりゃ。位置情報ならまだワカル。なんで顔まで割れてるのか、これがワカラナイ。
やっぱりこの聖遺物(仮)、本物なのかねぇ、と溜息を付く。今更な感想かもしれないが自分たちは囮だったらいいな、という思考が頭の中のどこかにあったんだと思う。
だってそもそも本物をこんな少人数で運ばせるか普通。せめて運ばせるにしても緒川さんとかああいう超人連中に運ばせてくれ、と声を大にして訴えたい。俺たちの隊は残念ながら皆ただの一般人。バリアも張れなきゃ分身も難しいし、隠密だってあんな風にはいかない。影縫い?それ原理どうなってるのん?出来るわきゃないでしょうよ。
まあでも、こんな愚痴は正直どうでもいい事だ。それよりも考えるべきは誰が裏切っているか、だ。
正直裏切者がいるとしたらもっと上の方だと思っている。というのもまずこれを運んでいる責任者は俺。で、俺は裏切っていない。次に部下だが、まず部下が裏切ろうとでもすればとっくに調査部にバレて処分されているだろう。
ここ最近活躍できていない調査部だが、そもそも風鳴機関は諜報組織、そこの調査部を舐めるな、って話だ。俺の部下全員奴らを出し抜けるほど有能じゃあないことは俺が一番知ってる。だから入れ替わりも激しいしな。
じゃあ、この聖遺物を俺に渡した緒川さんか?あの時に聖遺物に発信機でも取り付けて、別組織へのサポートをしてる?
無いな。まず有り得ない。確かにあの人は胡散臭い外見と雰囲気、経歴に喋り方まで胡散臭い。が、あの人が裏切るならまず自分で聖遺物をもって海外にでも逃亡するだろう。こんな誰にでも緒川さんが怪しいと思わせるような杜撰な工作をするような人じゃない。
―――ならもっと上、それこそ大臣クラスの狸どもが権益欲しさに国を売ったのか……
「不細工な顔になってますよ、隊長」
「なんだぁテメエ急に。自分がイケメンで女の子にモテモテだからって人の顔貶すことはネェだろ」
「オッサンが痛み堪える様な顔して横でプルプルされると気持ち悪いんですよ。あとイケメンとか言うのやめてください」
なんだコイツ急に突っかかってきやがって。それにまだ、まだおじさんって言われるような歳じゃあ無い筈……筈……!
「で? 何考えてたんです? まさかあの金髪美女のことでも考えてたんですか、エロオヤジですね」
「なわけねぇだろ任務の最中に。ただ――緒川さんの胡散臭さについて、ちょっとな」
お前たちの誰かが裏切ってるんじゃないかって考えてましたとは言いづらい。
無能だからそれは無いと思い返したけどネ、ってフォロー入れても反発がヤバそうだ。主に副隊長からの。
「気持ちは分かりますけど失礼でしょう。上司ですよ?」
「正直に言うと?」
「最初に会った時に『うわ、黒幕臭すっごい……』って思いました。仕方ないでしょう!?あんなの反則ですよ反則」
デスヨネー。なんであの人何もしてないのにあんなに怪しいんだろうか。
『通信が繋がらないからわざわざこの私が様子を見に来たのに、随分と余裕そうじゃない?小僧』
唐突に後部席から老婆の声が響いた。どこかエコーがかかったようなその声。とっさに振り向きその声の主を探す。もちろん後部座席にはむさくるしい男連中ばかり。老婆の姿なんてどこにも――
『小僧。鈍ったか?どうしてここら一帯に結界が貼られている。何があったのか説明しなさい』
――いや、後部座席に座る寺田の膝の上、『聖遺物イチイバル』を収めた古びた箱。ソレに張り付けられたびっしりと呪言が書き込まれた札たち。その中でもひときわ大きい札が蛍色の光を放ちながら、老婆の言葉を紡いでいた。
「神社のばあ様じゃあないですか。どうしてまたばあ様が?」
そう、普通ならば神社統括部のトップが――いや、まて。結界だと?
『本気で言ってるなら、降格させるわよ。寝ぼけたこと言ってるんじゃないわよ』
怒気を声に滲ませるばあ様。短気なのは風鳴の血だろうか、なんて思いながら事の事情をばあ様に説明するのであった。
「で、大戦時には似たような人物はいたものの、その人物はすでに死亡。他には該当するような人物はとりあえずリストには引っかかっていない、と」
『それよりも私はそのばりあ?とか言うのが気になるのだけれども。要は結界と同じでしょう?ならばこの結界を張って周囲数十キロの通信を遮断しているのも恐らくその女ね』
「待ってください!そんなことできるなんて人間業じゃ……人間……まあ、そんなヒトも偶にはいるか。世界は広いしな」
なにか言いたげな顔の副隊長を横目に、次を考える。結界、ねぇ。あのバリアと同じ、か。ん?それってつまり……
「隊長!」
「どうしたぁ!」
「急速に接近する車両が一台!赤のスポーツカーです!凄い美女が乗ってます!」
「金髪巨乳か!」
「はい!金髪巨乳です!」
「バカばっかり……」
急速に目が死んでいく副隊長。それにしても、珍しくくばあ様が静かだ。大抵こういう時には茶々を入れるのがあの人の性格なんだが…!?
ふ、と。世界が紫に染まったと錯覚した。いや、正確には降り注ぐ光が紫色に変わった。
思わず空を見上げる。つい先ほどまで晴天だった空は見渡す限り紫色の結界に覆われている。
「また趣味の悪い。これでハッキリした、アレはあの女が身を守るために使ってたバリアの光と同じ色だ」
「銃弾を防いだっていう奴ですか……?」
流石の副隊長も質問する声が硬い。それも仕方のないことだろう。つまり俺たちはあの結界を突き破ることが出来ない。おまけに今いる場所は高速道路の上、脇に逃げようにも逃げ場がない。おまけに結界の強度か厚みが増したせいか、ばあ様との通信も切れてしまった。
「あんな広範囲にバリア張ってるとかどんな出力してやがる、超人かよ……!」
「そこは化け物じゃないんです?」
「バッカおまえ、化け物ってのはこう、触手とかがウジャ~って生えてる奴とかだろ」
あれは生えてないからノーカン、なんて軽口を叩きながら後部座席に歩いて行き、とりあえず後方のスポーツカーに5.56mm弾を弾倉一個分叩き込む。
まさか銃撃を食らうとは思っていなかったようで、最初の5,6発はモロに食らっていたが途中からバリアを出して防いでいく。やはり大結界の方にリソースを割いているようで、パーキングエリアの時ほど硬い印象はない。まぁ、サイドアームとメインアームの貫通力の差ってのもあるだろうが。
「よし、お前ら。交代挟みながら途切れることなく弾幕を張り続けろ。あの女超人ではあるが戦う者じゃない。戦闘屋ならあんなに甘くないわな」
指示に従って部下たちが弾幕を張り続けてから、400発ほど撃っただろうか、唐突にバリアが消失する。と同時に、スポーツカーが小気味よい音を立ててハチの巣になり、そのまま道路の中央分離帯に激突して大破炎上する。
流石に戦闘したことの無い異能力者との戦いでストレスが溜まっていたんだろう。
「やったか!?」
だが・それを考慮してもこのセリフを吐いたやつを縛り首にしてやりたい。
「「「「「おい、誰だ今の」」」」」
???「アイツマジで許さん。お気に入りの車だったのに……」