歌う少女たちの裏側で。   作:さんらいん

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筆が乗ったので。


追撃戦

輸送作戦は途中まではうまく進んでいた。問題が起きたのは作戦開始から30分後。それはビルの立ち並ぶオフィス街の中ほどで唐突に始まった。

 

曇天に爆音が響き渡る。戦闘の警護車両は下から突き上げるような爆発で体制を崩し、耳障りな金属音を立てながら路面を滑っていった。幸いなことに後続の車両と接触こそしなかったが、動揺で車列が乱れる。すかさずそこを狙い撃つように、敵の銃弾が降り注いだ。

 

「クソ、襲撃だ!戦闘開始、離脱することを最優先事項とする!とにかく前進しろ!」

 

インカムに怒鳴ると、警備車両で輸送車の楯になるように陣形を組み直し、反撃を最低限に離脱を試みる。しかし、10トントラック複数台で最短経路が塞がれている。不味い、なんとか迂回して目的地を目指さねば。

 

「迂回だ、迂回!」

 

全車両に指示を飛ばし、違和感に気づく。おかしい。最初の車両は下からの爆発で吹っ飛んだ。つまり、IEDか何かがルートに仕掛けられていたということだ。しかしこのルートは今朝作戦開始前に通達されたもの。こちらの行動を見てから仕掛けたにしては仕掛けが大掛かり過ぎる。その割にあっさりとこちらを逃がした……?不味い、誘い込まれている。どうする?本部に駆け込むか。いや、敵を本部にご案内するわけにはいかん。しかし、作戦内容が漏れていることから内通者の可能性も。どうする、どうしよう……まぁ、とりあえず突破だな。粘れば緒川さんとか他の部隊も救援に来るだろうし、俺の役目は聖遺物を奪われずに運ぶこと。とりあえず逃げ回りながら救援を待つか。

 

そう開き直ると、部下たちに無線でそのことを伝えた。さすがに部下たちもこの状況には動揺していたようで、どいつもこいつも普段と声色が全然違う。人のこと言えないだろうからスルーしたが。しかしその不安も緒川さんが救援に来るといえば、たちまち吹き飛んだ。俺の励ましでは実力が足りんかったか。まぁ、部下たちは当然あの忍者のヤバさを知っているし、その実力を信頼している。そうでなけれなあの歳で戦闘部門の長を務めれるか。おまけに戦闘よりも諜報面はもっとヤバいとかなんとか。まぁあの隠形を使えばさもありなん、といったところか。

 

敵に追撃されながらひたすらに車を走らせること1時間。オフィス街を抜け、大橋を渡り、倉庫街を一周してまた大橋に戻ってくる。現実は映画のようにど派手なカーチェイスなんて起きなかった。まぁ下手こいて貴重な聖遺物がお釈迦にでもなれば台無しだろうし、そもそも車はあんな動きを想定して設計されていない。その代りにたっぷりの銃弾の雨と爆発物の嵐が俺たち警護車両に襲い掛かった。幸い今日は風がえらく強い天気で、敵味方ともに移動する車の上での打ち合いは大した被害が出なかった。だが、運転手たちも疲労がたまり、徐々にパフォーマンスが落ちてくる。

 

時間はこちらの見方だ。こちらは被害が少ないところをひたすら逃げ回ればいいだけ。対して敵は早く捕まえないと敵がどんどん増えてしまう。なんだ、楽勝じゃないか。

 

部下たちに発破をかけるのもこれで何度目か。大橋を渡り切ろうとする俺たちの上空に、ヘリが現れた。援軍だ。

 

安堵のため息に車内が包まれる。あと少しだ、気を引き締めろと部下に声を掛けると耳のインカムが音を立てた。

 

『黒川、お待たせしました。ガングニールは無事ですか?』

 

「もちろん無事ですよ。俺たち部隊の心配はしないんで、緒川さん?」

 

『部下のバイタルチェックも上司の仕事ですよ』

 

「怖いわー、知らないとこで上司にバイタルチェックされてるとか怖いわー。そんなんだから新人に不審者扱いされるんですよ貴方は」

 

『そんなんだからとは何ですかそんなんだからとは。まあ、話は後です。マップを伝送しますので、そのまま聖遺物保管庫、深淵の竜宮に向かって下さい。追撃者はこちらで片づけます』

 

 

「了解です。まあ、今回は割と楽でした。掩護ありがとうございます。では。」

 

そんな会話で通信は終わり、それからは特に妨害もなく目的地に着く。結局今回の任務で最初に爆発物で撃破された車両の奴らは助からなかった。この仕事をやっていて思うのは、一定以上の力。それがなければ簡単に人は死んでしまう。うちの上司みたいな人種は死なずに他人を守ることが出来る。今回の任務も、俺たちが逃げ回っている間、大立ち回りを繰り広げていたのだろう。今回の襲撃は明らかにおかしかった。おそらくあの忍者は破壊工作で最大限敵勢力を削ってなるべくこちらが死なないように努力していたのだろう。だがそれでも死者は出た。英雄になりたいとは言わない。が、部下が死んだときにはどうしてもその思いが強くなる。いい年して情けない。

 

次の任務まで時間もある、明日は上司とスパーリングでもするか。

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