歌う少女たちの裏側で。   作:さんらいん

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疑念

最近建築ラッシュが起きている。聖遺物が歌を媒介に起動することが判明し、研究機関及びその周辺施設の建造が決定されたからだ。

しかし、有事の際に電波を統括制御する施設が老朽化したため、国内最大規模の電波塔を新たに建て、その代わりにするだの、地下鉄構内奥にあるシェルターを拡大するだの、果ては新たに私立学校を建設、その地下に大規模な研究施設を建造するといった色物はどうなのか。

 

私立学校云々の提案は聖遺物起動実験に成功した櫻井ナントカとかいう女科学者が言い出したことだそうだが、あの女、一体何を考えているのやら。実験に成功してからというもの、飄々とした態度に磨きがかかり、何か凄みとでもいうべき物が滲み出てくるようになった。流石に違和感を感じたのか、調査部の長直々に本人かどうか調査を行ったが、指紋に声紋、DNAに至るまで櫻井了子のデータと完全に一致。不可能と言われていた実験を成功させたことで、本人の心境に変化でもあったのだろうと結論づけられた。

 

 

だが、残念なことに聖遺物は所有者を選ぶことも判明した。

当初日本政府が想定していた石油、原子力に代わる新エネルギーとしての利用は難しい。

だからこそ、我々風鳴機関が聖遺物の研究を進めていかねばならない、と研究部の奴らは意気込んでいたが。

 

現存する聖遺物は原型をとどめるものが少なく、我々風鳴機関に研究を許されているものも、アメノハバキリ、イチイバル、ガングニールの三つである。今回起動に成功したアメノハバキリに適合できたのはわずか一人。現在適合者のDNAを解析、なぜ適合できたのかを研究開発部が調査しているところだ。

 

京都、東京に集中している国宝を守護する警邏隊も仕事が増えたと愚痴っていた。ボヤ騒ぎが頻発し、昼夜問わず侵入者が来るそうだ。

 

 

何かがおかしい。

 

 

情報が洩れている。

 

 

聖遺物の起動に成功してからというもの、他国からの襲撃が頻発している。

 

基本的に聖遺物にかかわる人間は風鳴機関の中でも上層であり、中心に近い者たちばかり。

当然調査部から家族、親戚友人そして恋人果ては本人の思想理念に至るまで調査され、

「問題ない」とされた者のみ今回の案件に関われるようになっている。

 

これは調査部の怠慢か?

 

だが、起動実験成功までは何の問題も起きなかった。

ならば、非常に優秀なスパイでも潜り込んでいたのか。成功するかもしれない実験のために何年もかけて機関内部に?

 

いや、実験の後、入れ替わったのかもしれない。そっちの方がまだ納得できる。何十年も成功するかもわからない実験のために組織に潜伏するなど狂気の沙汰、そこまで人を信じられるか?それとも……

 

益体もなくつらつらと思考を遊ばせる。

 

上司との模擬戦を終えてから1日後。我々にイチイバル護送任務の指令が通達された。前回の護送任務よりも人員を増やし、さらに警戒を強めた構成となっている。また、今回は重火器の使用も許可されたということで、上層部の本気が見て取れる。

 

前回の護送任務ではそれなりの被害と死傷者が出ている。恐らくそのことを官僚にでも突っ込まれたのだろう。実際、今回の任務失敗はかなり不味いことになる。

気合を入れてかからねば。

 

 

 

 

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