古くから貴重な物品の集積地として知られる地、奈良。何度も災害に遭い、何度も賊の襲撃を受けてなお、宝物を守り通したのは古来より守護の任に付く一族の尽力によるものだという。
物理的な警護だけでなく、呪術的な守りも含めると国内最高クラスの守りだとか。
国内にはいくつか同じ規模の集積地が存在するが、一般に開放する余裕のある施設はここだけである。
その倉庫の一角、奥深くに秘蔵されている聖遺物、『イチイバル』の輸送を護衛するのが今回の任務だ。
問題は移動する距離が長いことだ。前回は都心周辺でドンパチしたが、今回はかなりの長距離を移動しなければならない。なので今回は隊をいくつかに分け、偽装を施すことになった。
鉄道、船、飛行機の3つに隊を分け、輸送する。各隊には運ぶ聖遺物の真偽は伝えず、皆が『自分こそが本物の聖遺物を運んでいる』――そう信じて輸送することになる。だが実際にはどれも偽物。本物は俺と部下数人が車で運ぶ。
と、いう命令を受けたがこの聖遺物も本物かどうか。実際には『隊を3つに分けるが、こっそりお前に本物を運んでもらう』という命令もダミーかもしれない。が、一兵卒にはわからんことだ。
結局風鳴機関内部に内通者が紛れ込んでいることは分かったものの、その尻尾はいまだ掴めてはいない。
というか、監査役が幾人か行方不明になったそうだ。そんな中、この任務が国から言い渡された。
本来ならば万全の体勢で事に及びたいだろう。
だが身内に潜む虫を見つけ出せなかったわけで、今回の任務で虫を誘き出すのだろう。
情報を分散させることで、漏れた個所を特定する。まぁ基本中の基本だが、それを国家の一大事において実行するか普通。おまけに、隊を分けるのはいいが人数が少なくなる以上、襲撃されればまあ死ぬだろう。いくら防戦が得意でも無理。俺は逸脱人じゃない。
胃が痛くなってきた―――
深く息を吐く。聖遺物受け渡しの場所として指定された場所だが、施設にほど近いホテルの駐車場。この時点で怪しさとハズレ感が満点である。指定された時刻まで一分を切ったが、周囲に接近する車両どころか人影すら無い。
やっぱりデコイだったか? まぁ、こんな少人数で東京まで聖遺物を守り抜いてね、何てことあるわけ――
「なに辛気臭い顔してるんですか」
――来やがった。
振り向くといつものようにスーツを着た上司――緒川が腕に銀色のアタッシュケースを抱えて立っていた。しかも厳重に呪符が貼られたものだ。
「貴方が直々に運んでくるとはね。で?『これが本物の聖遺物なんですか?』」
声は震えなかっただろうか。背中に冷や汗が滲んでいるのが見なくてもわかる。
いつ見てもこの人の隠形はおかしい。監視カメラをハッキングしてホテルの周囲は丸見えだし、そもそも遮蔽物の無い場所に陣取っていた。それをまぁ簡単に突破してきた。この技術で東京まで運んではくれないのだろうか。
「何を言っているんですか黒川。『説明した通り、これこそが本物の聖遺物ですよ』では、武運を」
渡すだけ渡して、あっさりと消える上司。任務中はいつも愛想がないが、今回は特にそれがヒドイ。
ま、大事な任務だ。気合入れて頑張りますかね
そう気合を入れて車に向き直る。見た目はよくある白のボックスワゴンだが、防弾使用で装甲ガチガチに固められた使用のモノ。これに一分隊七人が乗り込んで向かうわけだ。
「隊長、やっぱり戦闘になりますかね? 」
空いた車の窓から不安そうな声で軽機関銃を抱えた大男がぼやいた。
無視して助手席に乗り込むと、もっと情けない声で迫ってくる。
「無視しないでくださいよぉ、隊長」
「うるせえぞ莫迦。ガタガタ言ってもしょうがねぇだろうが」
了解ッス、とつぶやいてまた後部座席に縮こまったこの大男、名を山寺、という。割と入れ替わりが多いこの部署だが、こいつはなんだかんだで生き残ってる老兵だ。その割に臆病だが、だからこそ生き残れているのかもしれない。
「相変わらず山寺は臆病だな。戦闘回数と度胸は比例しないってことですかぁ? 」
「度胸については隊長も人のこと言えないよね。爆発とか起きるたびにビクビクしてるじゃん? 」
テメェなんだかんだで結構言うよな、なんて言いながら他の奴らの様子を見る。大山、大原、大川の小銃手トリオはいつものように三人で話し込んでるし、爆薬担当の綿貫は瞑想している。
「で?もう出るんですか、隊長?」
涼やかな声でそう問いかけてくるのはウチの副隊長。狙撃に運転、ハッキングとこの隊随一の器用な奴。ついでに我が分隊一番のイケメンでもある。そういうと本人は怒るけどね。
「なるべくこっそり行こうか。正直、発見されたら終わりな気がする」
不吉なコト言わないで下さい――そういうと副隊長はエンジンを掛ける。
「では諸君、出発だ」