歌う少女たちの裏側で。   作:さんらいん

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地下大空洞にて

重要なものほど奥深くに置き、その存在を隠すという行為は人類の歴史上珍しいものではない。人類は宝物や城塞、神殿などを古来より隠して来た。

そしてそれは風鳴機関も例外ではない。機関の大部分を地中に隠しその存在を秘してきた。

その風鳴機関の地下深く、最奥にその場所は存在した。

 

莫大な広さの天然洞穴。天井は見上げども見えず、奥まで見渡そうとしても、立ち込める香木の煙がそれを許さない。洞窟内部に規則的に並べられた蝋燭の炎が吹き抜ける風に身を揺らしながら、祭壇に祝詞を述べ続ける巫女を照らしていた。

 

祭壇には古びた銅鏡が掲げられており、洞窟内部の光を反射して怪しく光り輝いている。しかし不思議なことにその鏡面には香木の煙しか映っておらず、そのほかには何も映してはいない。

 

洞窟内に響き渡っていた祝詞が終わり、巫女が……いや、この風鳴機関の神社部門の長を務める女が大きく息を吐く。

流石に長期間の術の行使が身に堪えたのか、普段ならばやらないようなミスを犯す。

 

―――私も衰えたか。

 

この仕事は体力を使う。長と言えども、仕事は事務ばかりではない。日常的な神事こそ執り行わないものの、このような有事の際や大きな行事、節目の時には力を振るわなければならないのだ。

 

他の奴らみたいに長を譲るべきかしら、と小さくつぶやいたその時

 

 

 

 

「珍しいこともあるものよのう、梓」

 

見られた。

 

はっ、と振り向いた先に意地悪気な笑みを浮かべ立っているのは風鳴訃堂。いわゆる自分の上司だった。

 

 

顔に熱が昇るのを感じる。何時からいたのだろうか、気づきもしなかった。いや、それより―――

 

「どうしてここに?今あなたは全体の指揮を執っているはずでしょう」

 

そう、そのはずだ。何か用事があっても使いを寄越せば済むはずで、わざわざ会いに来る理由など……

 

「早速仕込みを使うことになってな。黒川の所を観てくれぬか」

 

ああ、そういうこと。まぁ良いですけど。

 

「なんだ、拗ねておるのか」

 

「いいえ。で?見物していくのかしら、司令官」

 

「車に付けていた発信機、奴らの服に縫い込まれている発信機。そして奴らの無線にも携帯にも通じぬときた」

 

「事態をその眼で確認したい訳ね」

 

彼らが単独で裏切っていたのならまだ話は楽だ。始末する人数が増えるだけのこと。だが彼らに発信機すべてを解除し、作戦地域一帯の電波を封鎖するといったコネも実力もない。

 

となると、彼らが謎の勢力に襲撃を受けたか、そもそも彼らが謎の勢力に寝返って聖遺物――イチイバル――を持ち逃げしているか、だ。

 

「私としては襲撃されたほうであってほしいのですけれど」

 

「慈悲か?優しいのう」

 

そんな訳無い。だって、

 

「私、もうおばあちゃんよ?なのに彼らが裏切ってたら、ずっと彼らの場所を観なければならないじゃない」

 

そんな重労働はごめんよ――と言い捨てて背を向ける。遠見の儀式はシンプルだがそれ故に術者の技量を問う。

まあ私ならば日ノ本の土地ならば地脈に術式を乗せれば見放題だ。若いころは訃堂に随分と羨ましがられたものだ。ナニに使うつもりだったのかは知らないが。いや、アイツのことだ、純粋に羨ましかったのかもしれない。

 

そんな益体もない思考も、いざ儀式になるとスッと頭の隅に溶けていく。そこから意識を地脈に乗せるのには数分と掛からなかった。

 

意識がぼんやりと薄れ、大地と空に身が溶けるような感覚を味わう。幼いころはこの感覚が恐ろしくてたまらず、術を遠くまで走らせることが難しかった。今は違うが。

 

そのまま東へ眼を滑らせていく。と、一際目立つ反応が随分と急いで東に向かっているのを見つけた。

意識を接近させると確かに阻まれるような感覚を覚える。随分と小規模な結界。だが、強度はなかなかのモノだ。

だが、内部に呪符があるおかげでその呪符との縁をたどって結界内部への侵入に成功する。ついでに呪符の制御を乗っ取って簡易の式神に変更。

 

で、車内の音声記録を訃堂に流してみる。

 

「……金髪金眼、老獪な雰囲気を放つ年若き美女、か」

 

「心当たりでも?」

 

「いや、すでに死んでおる。が、かつての大戦時ドイツにその特徴に当てはまる女がおった。眼は金ではなかったが、雰囲気などはまさに黒川が言っていた通りよ」

 

雰囲気が一緒?いや、それって……

 

「えらく詳しいじゃあないの。なに、合ったことでも?」

 

「一度だけだが、かつて同盟を組んでおったときにパーティ会場でな」

 

いやぁ年を感じさせぬ美貌と肢体であったわ、とにやける訃堂に白目を向けながら続きを促す。

 

「そのパーティの目的は、日本に聖遺物を寄贈するためのものでな」

 

その時に出会ったドイツで聖遺物を研究していた女博士がまさにそんな雰囲気だったという。しかしそんな雰囲気とは裏腹に子だくさんでも有名であり、曰く『自分の遺伝子を後世に残すため』だとか。事実彼女の子供たちは皆優秀な科学者に育ったという。

 

だがそんな彼女もつい何年か前に亡くなったそうで、死ぬ幾年か前には孤児院を設立するなど子供たちのために尽力したとか。

 

「葬式にも出席をしたし死体も確認しておる。まあ、奴ではあるまい」

 

ほう。それにしてもこの男、やけに詳しい。さては此奴、

 

「手を出したでしょう。そのパーティの時に」

 

昔のことで覚えておらんの、なんてとぼける爺。まあ、それはともかく。

 

「その女の他には何か心当たりはないの?ドイツもだけど、アメリカ関係で」

 

「無いのう」

 

困り顔の爺。そんな顔だけは昔と変わらないのね、この人は。

 

「ま、式神で見ておることだけ伝えておけ。儂は今から動かねばならん」

 

その言葉を最後に空洞に沈黙が戻る。そしてしばらくして、空洞内部にまた祝詞が響き渡っていく……

 

 

 

 

 

 




神社統括部長、風鳴梓。端的に言えば、風鳴訃堂の妹である。神職に務める以上、未婚でなくてはならず、独身。
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