魔法使いと魔法少女   作:T&G

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プロローグ

「まったく、今回の敵は予想以上に手強かったな」

 

荒れ果てた大地で丁度いい大きさの岩に腰を掛けた俺は隣に居る相棒に声を掛けた。

 

相棒の鷹見ゲンジは辺りを見渡していた視線を俺に向ける。

 

「そうだね。でも、この程度は想定の範囲内だよ」

 

黒い短髪を偶に吹く風でなびかせながらゲンジは掛けている眼鏡をクイッと上に上げる。

 

「一応、確認してみたけどこの世界にはもう『歪み』はないから、次の世界へ行こうか」

 

どうやら辺りを見渡していたのは『歪み』があるかの確認だったらしい。

 

ちなみに『歪み』とはこの世界では本来、あり得ない現象によって現れるものを指し示す。

 

先ほどの俺たちの会話からわかるように世界は無数に存在する。

 

そして、その世界はそれぞれ異なる秩序を持ち、世界の中に存在するものはその世界固有の秩序から作られている。

 

「おっ、ようやくこの世界から出られるのか。 今度は人がいる世界に行きたいな」

 

ある世界から別の世界へと物体が移動し、異なる秩序にさらされると一種の反応を起こす。

 

それは違う秩序で作られた存在を異なる秩序に対応させる。

 

つまり、起こる反応とは周囲の秩序を歪ませるものであった。

 

「そうだね。 そろそろ非常食も尽きてきそうだし、僕としても人がいる世界がいいかな」

 

その『歪み』の大きさは物体の大きさや常識によって異なり、大きな物体や非常識であるほどその世界の『歪み』も大きくなる。

 

また『歪み』は時間の経過と共にその度合いを大きくし、最終的には世界の崩壊が予測されている。

 

それを防ぐために俺とゲンジが世界を渡り歩き、『歪み』を調整しているのだ。

 

「でも、行く世界は決められないんだろ?」

 

『歪み』は『特別な力』をもつゲンジしか感じ取ることができないのである。

 

ゲンジの生まれは少々特殊らしく、こういった能力がいくつかあるのだが、詳しいことは俺も知らない。

 

「そうだね。 ただ、次の世界にも確実に『歪み』はあるから油断はしないようにね」

 

「わかってるって。 いつもと同じように、だろ?」

 

俺が頷いたのを確認したゲンジは両手を前に突き出して集中し始めた。

 

すると空間がねじれるように歪み、ねじれの中心から闇がにじみ出てきた。

 

その闇は人間の身長程まで広がるとそれ以上は広がらなくなり、その場で静止している。

 

「相変わらず入る気が失せるような暗闇だな」

 

「それは仕方がない。 僕も使えるだけで詳しいことはわからないからね」

 

これはゲンジの『特別な力』の一つである異世界へ移動するための『ゲート』だ。

 

この『ゲート』は別世界の『歪み』があるところに繋がっていてこちらから世界を選ぶことはできない。

 

あと、閉じないと直接『歪み』になるから注意が必要ということしかわからないらしい。

 

「それじゃあ、新しい世界へ行きますか」

 

『ゲート』はゲンジが閉じないといけないので、いつも俺が先に通ることになっている。

 

俺が『ゲート』を潜ろうとしたところでゲンジが声を掛けてきた。

 

「そうだ、トシアキ。 前に頼まれていた物がようやく完成したんだ」

 

そう言いながらゲンジはポケットに手を入れ、そこから緑色の数珠を取り出した。

 

「数珠?」

 

「これは異世界に行っても『歪み』が起きなくなるものさ」

 

そう説明したゲンジは一つを自分の腕に付け、もう一つを俺に渡してくれた。

 

「『歪み』が!? すごいじゃないか!」

 

『歪み』が起きなくなるなら調整してまわる必要性も無くなってくる。

 

そんな便利なものを作るゲンジに俺は感心していた。

 

「これは小さいから着けている者にしか効果がないけどね。 僕たちも異世界に行けばその世界の秩序が乱れるから、そうならない為のお守りさ」

 

感心したのは良いがやっぱり万能ではないらしい。

 

だけど、これがあれば気に入った世界に長い時間滞在出来るようになる。

 

「なるほど。 と言うことは、一つの世界に長時間滞在できるようになるんだな?」

 

「うん。 これでゆっくり寝られるようになる」

 

俺とゲンジは二人して微笑みあった。

 

やはり長時間滞在出来ないとなると、睡眠時間を削ることが多くなるからな。

 

「じゃあ、今度こそ行くか」

 

「そうだね」

 

俺たちが『ゲート』の中に入ろうとした瞬間、後ろで大きな爆発が起こった。

 

「「!?」」

 

振り返ってみるとそこには動物の牙や毛皮、骨や肉が複雑に絡み合って出来ている異物が存在していた。

 

「ゲンジ! 『歪み』は?」

 

「アレが中心になっている。 でもおかしい、さっきまでなにもなかったのに」

 

本当に不思議そうな表情をしているゲンジだが、今はそれどころではない。

 

アレの元となっている動物たちは先ほどまで俺たちが戦っていたモノなのだ。

 

「動物の実験体の次は未知の生物かよ。 いや、アレは生物か?」

 

この世界に住んでいる人はいなかった。

 

だが、異世界からやって来たであろう研究者たちはいたのだ。

 

「どうだろう? でも、どっちにしてもアレは『歪み』だから消さないといけない」

 

「それもそうだな」

 

彼らは様々な世界から動物を連れて来てこの世界で実験を繰り返していた。

 

それが『歪み』を発生させる原因になり、先ほどその『歪み』を調整したのだ。

 

そういうわけでもう一度ゲンジが調整するために俺は足止めを行うことにする。

 

「力を貸してくれな」

 

俺の周りを楽しそうに飛びまわっている『精霊』に話しかけ、俺の足は地面から離れていく。

 

ゲンジが『特別な力』があるように、俺には『魔法』と呼ばれるものがある。

 

もっとも、そう呼んでいるのは俺が元居た世界の住人だけかもしれないが。

 

「さて、まずは動きを止めないとな」

 

空中に浮かびあがった俺は辺りにいた『精霊』に頼んで大きな氷の結晶となってもらう。

 

そして他の『精霊』の力を借りて氷の結晶を高速で回転させる。

 

「いけ!」

 

その高速で回転した無数の氷の結晶は鋭く尖った大きな槍になり、異物に向かって凄まじいスピードで飛んでいった。

 

「$*¥!?%$#!!%&><*!?」

 

叫び声とは思えない音を発した異物は俺が放ったいくつもの氷の槍により、大地に磔にされている。

 

「よし、次は・・・・・・」

 

次の『魔法』を放とうと考えたが、ゲンジがアレに近づいている可能性があるため俺は攻撃を止める。

 

そして、俺はゲンジを探すために磔にされている異物のもとへ飛んで行った。

 

「・・・・・・どこにいったんだ? ゲンジのやつ」

 

「僕ならここにいるよ」

 

「うお!?」

 

俺の独り言に真下から返事がきたため、驚いて自分の足元を確認する。

 

そこにはゲンジがナイフを持ったまま、こちらを見上げている姿があった。

 

「相変わらずお前の『特別な力』ってのはよくわからん」

 

ゲンジのもう一つの能力、それは身体能力の強化だ。

 

これも原理が良くわからないが『歪み』が発生しているときだけ身体が強化されるらしい。

 

ちなみに『歪み』がない時は普通の人間と変わらないようだ。

 

「僕自身もよくわかってないんだ。 でも、特に不便だとは思っていないから」

 

「まぁ、本人がわからないんじゃ、どうしようもないな」

 

俺もゲンジが『特別な力』があるからと言って問題があるわけではない。

 

むしろ、そのおかげで様々な世界に行けるのだから感謝しているくらいだ。

 

「でも、能力の使い過ぎは疲労の原因だろ? 俺に言えばバラバラにしてやったのに」

 

「そうだね、今はトシアキがいるから全部自分でしなくてもよかったんだね」

 

ゲンジに言われたとおり、今は俺、敷島トシアキという存在がいる。

 

少し前まで別の世界で王子をやっていたんだが、たまたま俺の世界に『歪み』を調整しに来ていたゲンジに付いて世界を渡り歩いている。

 

それまではゲンジが一人で旅をしながら『歪み』を調整していたのだ。

 

「そうそう、俺には『歪み』を感じることも視ることも出来ないけど、闘うことは出来るからな」

 

ゲンジは『歪み』を感じることも視ることも出来るらしい。

 

俺には出来ないが、それを言ったらゲンジも『精霊』を感じることも視ることも出来ない。

 

要するに生まれや才能で出来ることとで出来ないことがどうしてもあるってことだ。

 

「そう、だね。 じゃあ、今からコレを『デリート』するからその間は頼むよ?」

 

「おう! 任せとけ」

 

ゲンジが言った『デリート』とは『歪み』の原因となるモノをこの世界から消し去る能力だ。

 

しかし、そう考えるとゲンジは『歪み』を探し、見つけ、消し去ることを自分一人で出来るわけだ。

 

「・・・・・・誰かがゲンジにそんな能力を与えたのか?」

 

もしそうだとすればゲンジは知らないうちにソイツの手のひらの上で動いていることになる。

 

そんな奴がいるなら俺が消し去ってやりたいが、本当の所はわからない。

 

そんなことを考えている間にゲンジの『デリート』によって異物はどんどん姿を消していく。

 

「・・・・・・・・・はぁっ、はぁっ」

 

能力を長時間使っている為か、ゲンジの呼吸はだんだん荒くなっていく。

 

だが俺が手伝ってやることは出来ないので、こうして他からの攻撃がないか警戒することがせめてもの手伝いだ。

 

「ん? ・・・・・・なっ!?」

 

警戒していた俺は思わず声を上げてしまった。

 

なんと姿が半分以上消えており、さらに氷の槍で大地に磔にされているにも関わらず異物は突然動きだしたのだ。

 

「ゲンジが危ない!」

 

そう思ったときには体が動いていた。

 

『精霊』の力を借りて今まで出したことのないスピードでゲンジの傍まで飛ぶ。

 

下手に攻撃していると間に合わないかもしれないので、俺はただひたすらスピードを上げる。

 

「頼む、間に合ってくれ!」

 

願いが届いたのか、なんとかゲンジと異物の間に入ることが出来た。

 

「ぐわぁあぁあぁ!!!?」

 

異物からの攻撃が俺の背中に突き刺さり、そのまま切り下ろされた。

 

あまりの痛さに思わず、叫び声を上げてしまう。

 

「ト、トシアキ!?」

 

俺の叫び声に今まで『デリート』の為に集中していて目を閉じていたゲンジが目をあけて驚いていた。

 

「ゲ、ゲンジ。 こいつは危険だ。 早く、逃げろ・・・・・・」

 

背中からおびただしい量の血を流してしまった俺は情けなくもその場に倒れた。

 

「おい! しっかりしろ、トシアキ!」

 

今まで聴こえていたゲンジの声が遠くなっていく。

 

意識が持てば『精霊』の力で傷を塞ぐことも出来るのだが、どうやら無理らしい。

 

「トシアキ、君にはたくさん苦労をかけた。 これから行く世界で生きていけるかわからないが、ここより安全なはずだ」

 

俺の目を見ながら何か言っているみたいだが、俺にはもうほとんど聴こえない。

 

「ゲ、ゲンジ? 何を言って・・・・・・」

 

「きっと迎えに行く。 それまで生きていてくれ」

 

俺はそこで目を閉じて意識を失った。

 

ただ、目を閉じながらもどこかの底に落ちて行く浮遊感だけがあった。

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